金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その8

 

                                  ZAZA9013

 

前回までのあらすじ

 

 

魔法もつかえず、「喋るジャンガリアン・ハムスター」になってしまったケフカ。

当座の目的地は解呪の石がある、東大陸獣ヶ原南端の三日月山の頂上!!

 

オルトロスをしばきたおして大三角島から、東大陸の獣ヶ原へと渡ることが

できた28号。さらに東大陸中央部に流れる川を渡るために

オルトロスと待ち合わせの約束を強引に交わしたのだった。

 

かわっぷちで砂金とりをしているロメロというおやじにドマでの武術大会に参加しないかと

さそわれるも、期日は未定なので保留。

ケフカは28号に何か褒美をやろうと言ったのだが、それも保留。

変身したケフカの可愛らしさにでれでれになりながら28号は旅をつづけるのだった。

 

 

 

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「うわっ!?まってまって今はだめだあ!」

伸ばした28号の手にモンスターの熱い息がかかった。

同時に背後からも、荒い息が聞こえた。

引っ込められるものなら引っ込めたかったが、もうちょっとで終るところだ。

重力に逆らってもどせるほど彼の肛門は芸達者ではなかった。

 

「たのむから待ってください。うわー―っ。」

28号が手を伸ばしている相手はシルバリオだった。

28号の手のにおいをかいで、ぺろりと舐めた。

後ろを向くとやはりシルバリオがもう一頭いる。

灰色の背中と長めの尻尾が見えた。

 

・・・・・・・・出た。

 

おしりのあたりにシルバリオの息がかかる。

お尻を拭こうと葉っぱをにぎった手に、シルバリオの湿った鼻が当たった。

うひゃー!こんな位置に頭が来ているのかっ!?

28号はとても困ったけれど、お尻を拭いて立ち上がった。

背後にいたシルバリオがうんこのにおいを嗅いでいる。

今にも口にしそうな勢いだ。

 

「埋めるんだから、どいてどいてっ!」28号はあわててスコップで土をかけた。

何故かはわからないのだけど、ものすごく恥ずかしくてものすごくピンチだと思った。

シルバリオの顔に土がかかったけど、気にせずがんがん埋めた。

しかし、後ろにいたシルバリオは前足で埋めたところを掘ろうとしている。

「あああっ!掘り返さないでくださいっ!折角埋めたのに〜!」

28号は埋めたところを踏みならした。

 

「君たち一体・・・何がしたいんですか?」

たった数分の事なのに、とっても疲れた感じがした28号だった。

こういうのがいわゆる「精神攻撃」なのだろうか?

 

時々吠えながらシルバリオは尻尾を振って28号につきまとっている。

手を伸ばすと、頭をぐりぐりと押し付けてくる。

敵意が無いのはわかった・・・。

「どうしたらいいのかなー・・・。」

途方にくれる28号の手をシルバリオがべろべろなめる。

「んー・・・・。」

28号は体をかがめてシルバリオの鼻と口を舐め返した。シルバリオの味がした。

・・・あまりおいしくない。

 

 

ケフカは居心地の良い袋の中で、うとうととしていた。

暗くて暖かい中で丸まっていると、どうしようもなく眠くなってしまう。

 

・・・・これが幸せというものなのかもしれん。

下々の者には到底理解できないだろうが、ねずみになったものだけが

味わえる特権だな。ふふん。それにねずみは顔を毎日洗わなくて良いから楽だ。

毛づくろいはしたくなるけど、これは全然苦にならないし。

爪で、頭や背中の毛並みを整える快感など人間の時にはまったく縁がなかった。

とてもリラックスする。

なでられても気持ちが良い。

自前の毛皮がこんなに良いものだとは思いもしなかった。

 

ケフカは寝返りをうった。齧りたくなったら胡桃も小枝もすぐ傍にある。

聞き覚えのある28号の足音が近づいてきた。

もうお昼なのだな。ケフカは眼を開けた。

 

28号の声が聞こえた。

「ケフカ様、出てきてください。」

ケフカは袋を出てリュックから顔を出した。

急に明るい中へ出たので、まぶしすぎてよく見えない。

目を細めて28号の手のひらの上に移った。

「ケフカ様っ!新しい部下を紹介します。みみちゃんとはなちゃんです。」

「んーなんだ?新しい部下って。」

ケフカは細めた目を苦労して開けた。

 

ケフカのヒゲの先に大きな黒い鼻と牙の並んだ口があった。

鼻だけで自分の頭よりも大きいのだ。

赤黒い巨大な舌がひらひら動いている。

上と下から切歯が6本犬歯が2本、奥にはもっと沢山の牙が生えている。

それの鼻と口から出てくる熱い息の音に聴覚は圧倒された。

あまりの恐怖にケフカは動けなくなった。

 

「みみちゃん、はなちゃん、これが僕たちのご主人様のケフカ様ですよ。

おぼえてくださいね。」

大きな熱い舌が、ケフカの顔をべろりと舐めた。

「ぐぎゃ―――っ!!」

ケフカは叫んだつもりだったが、喉がひきつって28号には届かなかったようだ。

28号はケフカを両手で包み込むともう一つの口の方へと向ける。

「はなちゃんも覚えてくださいね。ケフカ様が一番偉いんですから、

文句を言ったり逆らったりしてはいけませんよ。」

 

ケフカはされるがままだった。

散々匂いをかがれてから、大きな舌がケフカの顔と上半身を舐めていった。

「では、ケフカ様、お昼作りますから少し待っていてください。」

放心状態のケフカは、文句を言うのも忘れて28号が開いた大事袋の中に入っていった。

28号は大事袋を首にかけると昼食の準備を始めた。

 

みみちゃんとはなちゃんは、チョコフレイクとチョコナッツの側へ行き

しきりににおいを嗅いでいる。

周りをちょろちょろされるのがうっとうしかったのか、チョコナッツが

突然翼を広げて大声で「クエッ!」と鳴いた。

みみちゃんは反射的に伏せてしまった。

はなちゃんもだ。尻尾は足の間に入っている。

一瞬で序列がきまってしまった。

 

 

安全地帯に戻っても、ケフカは数分間思考能力が戻らなかった。

しばらくして、やっと頭が動いた。

すると津波のように怒りが押し寄せてきた。

 

28号・・・貴様という奴は・・・絶対ブチ殺す!

俺様が食われたらどうするんだ!?考えなしの脳足りんのバカ人形!

100回ぐらい殺されろ!この阿呆!ちんかす!アメーバ!ナスのヘタ!

役立たずのゴミめ!モルボルにやられてしまえ!発情バカ!

その他、ありとあらゆる罵倒の言葉がケフカの脳内からあふれ出した。

 

しかし・・・。

ふと、ケフカは冷静になった。

ここで28号を言葉でぶちのめすのは簡単だ。

が、それをすると、さっき見た鼻と牙の獣型モンスターに

びびったのがばれてしまう。

俺様が―・・・たかが28号に何とかできるようなモンスターに、

おびえてしまったなど推測させるような言動や態度を見せるわけにはいかん。

絶対にそれだけは避けたい。

 

この屈辱は忘れないようにして、人間に戻ってからあとでがっつりいじめてやれば

良いのである。

そう思うと、さっき脱力した四肢に力がみなぎってくるような気がした。

 

くっくっくっ・・・おぼえていろよ、28号。

つまらないことで僕ちんを恐怖のどん底に落としやがって・・・。

ケフカの気力がよみがえった。

 

 

「お昼が出来ました、ケフカ様。」

28号は大事袋からケフカを両手で自分の足の上においた。

すぐそばでシルバリオのみみちゃんとはなちゃんが舌を出して座っている。

相変わらず息が荒い。

それを聞くとケフカはどうしても体がびくびくしてしまう。

怖くない、怖がっている所など見せるわけにはいかない。

ケフカは極力平静を装いつつ、葉っぱの上のいのしし肉とハコベを食べた。

 

「28号、あの新しい部下だが、仕事は何だ?」

「大きな群れを作る事です。あと、斥候兼見張りです。」

「ふーん・・・。モンスターの襲撃防止だな?

で、あいつらは咬まないのか?」

ケフカは犬にはあまり良い思い出が無い。

「古くなっていますが、みみちゃんは赤い首輪をつけています。

きっと人間に飼われていたんだと思います。それでスカウトしました。

噛むのはベクタハウンドと同じくらいじゃないでしょうか?」

「あぁー噛む力じゃなく咬みつきの頻度だ。怪我するほど咬まれたら困る。」

「多分大丈夫だと思います。」

 

「多分か?」

「ええ、今も人間が食べ終わったら、自分たちも食べられると思って

きちんと待っていますし・・・」

ケフカは新しい部下たちを見た。

半開きの口からはよだれを流し、28号の食事風景を穴が開くほどの

強い視線で見ている。

 

ケフカの感覚では、いつ襲われても文句の言えない状況に思えた。

「うーむ・・・こんな雑魚の力を借りなくてはならないとは・・・・

俺様も落ちぶれたものだ。」

「でも、帝国軍でもベクタハウンドはよく使っていました。」

「あれは、軍用犬として訓練したものを使っていたのだ。

野良犬をいきなりスカウトしても、お前の期待通りに働けるとは思えん。」

「大丈夫です!僕も実はあまり期待はしていませんから。」

「なんだ、28号、それは威勢良く発言することではありませんよ。」

 

ケフカにしては穏やかな発言だったが、それは後でいじめてやろうなどと

思っているからである。普段なら、28号がそんなことを言ったら

激怒するところだ。

「いえ、あのー、ほんとは

・・・残飯あげたら何となくついてきちゃいまして・・・」

肉をもぐもぐしながら、話す28号。

「ぬぅうぅぅ・・・。それではこいつらは只の無駄飯喰らいなのかぁ?」

「いえ、まだこれと言った働きはしてませんけど、そこまでひどくは無いと思います。」

「くぅ―っ。凄く色々言いたいが、今日はやめときますよ。」

「あの・・・。僕の独断で部下にしてすいません。」

「ふん!僕ちんは昼寝する。部下たちには実績を上げさせるのだぞ。」

「はい。」ケフカは大事袋に入っていった。

28号はそれをリュックにしまった。

そして、自分の食べ残した肉をシルバリオたちにあげた。

 

 

28号はケフカがシルバリオたちを追い払えとか、始末しろと言い出す

のではないのかと、実はどきどきしていた。

普通に説明していたら、ケフカの「何でだ」とか「どうしてだ?」には

絶対勝てない。

それでさっきはやや強引に、ケフカとシルバリオたちを引き合わせたのだった。

ケフカはそれほど激怒していない様子なので安心した。

 

肉を食べ終わったシルバリオたちが、28号の側へ座った。

「君たちと一緒にいていいって。」ふんふん言いながらシルバリオたちが

28号の顔と手をべろべろ舐めた。シルバリオたちは前足を28号の腿の

上におき「遊ぼうよ」と誘っているようだ。

「よかったね、みみちゃん、はなちゃん!大好きだよ!」

28号はみみちゃんとはなちゃんを両腕で抱きしめた。

 

 

「チョコフレイク!チョコナッツ!荷物見ててね。

ちょっと遊んでくるから!」

28号は荷物から10mぐらい離れた所でシルバリオと遊びはじめた。

早く三日月山へ行かなくてはならないのはわかっているのだけれど、

遊びの誘惑には勝てなかったのだ。

 

「おいでおいで!みみちゃん」みみちゃんが28号に駆け寄ると

28号はさっと飛びのいて移動する。ただの追いかけっこなのだが、

28号は人造人間なので一回のジャンプで8mほど横に移動する。

遊びと言ってもかなり激しいものだった。

事情を知らないものがこの風景を見たら、

モンスター同士が戦っているように見えるだろう。

28号は気がついていなかったが、戦いのときよりよっぽど動きが良い。

 

チョコフレイクとチョコナッツのことも28号は大好きだった。

しかし、彼らは28号よりもある意味大人であった。

懐いてはいるが、28号と遊んだりはしない。

 

みみちゃんとはなちゃんのほうが、28号にとって解りやすい生き物だ。

常に28号の視線を追っている。

28号がどこを見ているのか、同じ方を見ようとし、

また、28号の様子を常に気にしている。

言葉にすると「好き好き!」な感じなのだ。

なぜなら、ケフカ様といるときの自分がそうだからだ。

 

 

28号は飛び掛ってきたみみちゃんの首に噛み付いた。

傷になるほど強くは噛んでいない。

28号の上にみみちゃんが乗っている。

みみちゃんも噛み付き返そうとするが、28号は鼻を押さえてそうはさせない。

両足でみみちゃんの胴体を締め上げ、ひじを使って前足を押さえる。

シルバリオたちは、28号がかなり楽しく遊べる相手だった。

みみちゃんが「きゅうぅー」と高い声を上げた。

28号はみみちゃんを放してやった。

はなちゃんはその周りで尻尾を振って吠えている。

 

 

ひとしきり遊んでから28号はチョコフレイクに乗った。

チョコナッツの後をみみちゃんとはなちゃんがついてくる。

三日月山はぐんぐん近づいてきた。

28号は、チョコボの歩みを止めた。

リュックから、大事袋ごとケフカを出した。

「ケフカ様、見えますか?見てください、三日月山がすぐそこにあります。」

ケフカは目を細めて28号の指す方向を見た。

「よく見えんが、あの暗い塊がそうか?」

ハムスターは視力が悪い。近くにあるものは良く見えても遠くはさっぱり。

 

「そうです。塔みたいに急な山です。明日には確実にふもとに着きます。」

「・・・近いのだな?」

「はい。」

「では、このまま進め。僕ちんはさっさと人間にもどりたい。」

「はい。」

「夜に登山する事になってもかまわん。」

「道に迷いませんか?」

「魔法を使え。それに、解呪の石ってのがあるなら、何か魔力を感じるはずだ。

あまりあてにはならんが、お前の勘に従って高いほうへ進めば石のそばに行けるだろう。」

「わかりました、ケフカ様。」

 

いつもなら日が傾きかけた頃にはキャンプの支度をするのだけど、

28号は荷物と自分に再度レピテトをかけ、原野を駆け抜けた。

みみちゃんとはなちゃんも必死でついてくる。

28号はチョコボの上で肉を齧った。

緩い上り坂が終り、岩だらけの急斜面に出たころは、太陽はすっかり沈んで、

夕焼けも青い闇の中へと溶けかけていた。

 

「野原が終ってしまって、ここから岩場が始まっています。

ケフカ様、どうしたら良いでしょう?」

「チョコボと犬どもに水と餌をやったら、荷物を見張らせよう。

ランタンをつけて木の上のほうにかけておけ、

そしたら、山の上から降りてくるときの目印になる。」

「はい、わかりました。」

 

28号は水とご飯を部下たちに用意した。

「帰ってくるからここで待っているんだよ、わかった?」と、

何度もみみちゃんとはなちゃんに言い聞かせる。

返事代わりに二匹が吠えるのだけど、どうも28号にはそれが、

「行かないで、もっと遊んで。」と言っているように感じるのだ。

訓練を受けているチョコボたちは「まて」の一言で理解するのだけど。

 

首にかけた大事袋からケフカが鼻先を出す。

「おまえ、魔力は沢山残っていますか?」

「ええ、大丈夫です。」

「それじゃぁ、助走をつけてジャンプする最中にレビテトをかけてみろ。

地面を踏み切ってから発動するのだ、凄く飛ぶから。」

「なるほど!名案です、ケフカ様。」

「うむ、僕ちんは早く人間に戻りたい。」

ケフカは自分がハムスターのねずみ状態で、このあとまる一日も

シルバリオたちと一緒にすごすのは激しくイヤだったのだ。

 

28号は上り坂を15mほど助走をつけると、跳んだ。

直後にレビテトを発動し、急斜面と平行に弾丸のように飛んでいった。

ただし、ぐるぐると前転しながら・・・。

 

「うわぁあぁぁぁあ―――っ!?」

「まっすぐ飛べんのか―――っ!馬鹿者がぁぁー――っ!」

星空と真っ暗な山が、28号の視界の中で何度も入れ替わった。

28号はケフカの入った大事袋が体から離れないように両手で押さえた。

「まっすぐは飛んでいますぅ――――!」

「いいわけするなー―――!バランスをとれっ!」

「とれませーん!」

「やくたたずー!」

回りながら28号は自分がさっき木にかけたランタンの灯りを確認した。

遠くの方で、赤くゆらゆらとゆれている。とても小さい。

けっこう高く飛んだかも・・・そう思った瞬間、目の前に大量の星が。

 

「おい、大丈夫ですか?」胸の前でケフカの声がする。

「・・・・・木の枝に引っかかりました。」28号はすぐに返事ができなかった。

正しくは28号は頭から木に突っ込んで行ってしまったのだ。

目は閉じたけど、頭と膝と向こう脛を木の枝に激しくぶつけてしまった。

 

「むぅ、魔法でも万能ではないからな。

飛んでいる間に高度が落ちるのはやむをえんことだ。

高度が落ちないのなら、俺様は東大陸に向かって

大砲で撃ちだされていたかもしれん。」

「ケフカ様、お怪我はありませんか?」

「お前の手の中にいたからな。動けますか?28号。」

「今度は回らないように飛びます。」

「そうしてくれ、そのほうが安全だ。」

 

28号は苦労して枝から抜け出した。

自重が限りなく軽い状態なので、網にかかった魚の気持ちが良くわかった。

わしわしと枝をつかみ木のてっぺんに登ると、狙いを定めた。

「ケフカ様、飛びますよ。」

「うむっ!」

28号は30mくらい上にある、崖から飛び出すように出ている

木の枝に向かって跳んだ。

 

今度はさっきと違ってゆっくりと一回転して、つま先に枝を引っ掛けて

止まる事ができた。左手は枝をつかんだ。

しかし、右手は何かぐにゃっとしたものをつかんだ感じがした。

「さっきより上等な着地だぞ、28号。」

「はい、うわぁぁっ!?」

 

28号の視界が真っ暗になった。

ピュガー――――!目の前で鳴き声がして、

バサバサと翼が顔を叩く、足が28号のひじをがりがりとひっかく。

「どうした?28号。」

「ケフカ様ー!鳥つかんじゃいましたっ!」

「そんなものとっとと離せ。」

足元ではもう一羽の鳥が、28号のブーツを激しく突付いている。

「はい、わかりましたっ!」

28号は鳥を投げ捨てると、斜め上に向かって急いで飛んだ。

 

「今度は回っていないようだな?28号。」

「ええ、シャクナゲの葉っぱが沢山下に見えます。ただ・・・」

「何だ?」

「飛んでいく先に星しか見えません。」

「ぐぬぅぅうぅ――――っ!愚か者め。

では、一番高い所は通り越してしまったのか?」

「全部かなり下です。星に吸い込まれていくみたいで不思議ですね。

・・・・とても、綺麗です。」

「落ち着いているな。」

 

「上昇スピードが落ちているんです。前進のスピードはそれほど

落ちていませんけど。ゆっくり落ちていくんですよね?」

「まぁ、魔法が切れるまではな。」

「進行方向の斜め下に、紫色に光ってる何かがあります。」

「そうか、きっと多分それが解呪の石だろう。」

「ケフカ様、頭を出してみて下さい。」

 

ケフカは大事袋から頭を出した。

28号の親指に前足をかけ、前を見た。闇の中を星に向かって進んでいる。

「おお、これはかっこいいぞ、28号。」

「高度が下がってきました。」

「そのようだな。」

 

山の斜面を這うように生えている木々が、ゆっくりと近づいてくる。

「あの妙な光が解呪の石だろうな。俺にも見えるぞ。」

「あそこまでたどりつけるでしょうか?」

「流れを意識しろ、自分が飛んでると思うな。

風景が勝手に後ろへ移動していくのだと思え。

石のもとへ引き寄せられるのをイメージするのだ。

人間より魔力が高いのだからそれくらいやってみろ。」

そう言われても、なかなかできない。

 

結局、28号はしゃくなげの茂みの中へ、両手で大事袋を守りながらお尻からゆっくり落ちていった。

闇の中に紫色の微光を漂わせている大きな石が見える。

「着地しました。ケフカ様。」

「モンスターに気をつけるのですよ。だいたい、こういうイベントの前には

邪魔をするいやな奴がどこからともなく現れるのが相場ですから。」

「気をつけます。」

袋の中のケフカに返事をした28号は、背中から斧を抜いた。

細くて曲がった枝は28号の腰ぐらいの高さしかない。

掻き分けながら進む。

 

右の足首に違和感を感じた。

地面を這う枝か何かにひっかかってしまったのか、足が動かない。

斧で足の周りを適当にざくざくと打ち下ろしてみた。

手にぶつっという感触があった。

そして、何歩か進むと、今度は左足が何かにひっかかって動かない。

よく見ると枝ではなかった。

むしろ、何かのツルというか、軟体動物の足みたいなものが

自分の左足首を締め付けている。

 

「出たあー――!」

「戦え!28号」

28号は左足に絡まっているものを斬ろうとした。

しかし、それは異常に強い力で28号を後ろに引き倒した。

「うわぁっ!」

「どうした!?28号」

「ひっぱられてますぅー」

「何とかしろ」

28号はものすごい勢いでしゃくなげの枝の中を引きずられた。

左足に絡まっている物を斧で切ろうとするが、なかなか切れない。

じたばたしていると不意に体が持ち上げられて、しげみに叩きつけられた。

 

「ケフカ様大丈夫ですかっ!?」

「俺はいいから、モンスターを倒せ。」

目の前にいたのは28号が初めて見るモンスターだった。

太い木のような体に、枝の変わりにうねうねとした触手がついていて、

ひどいにおいが漂ってくる。

細かい所は良く見えないのだが、反射的に「焼却処分」という言葉が頭に浮かんだ。

28号はファイラを唱え始めた。

モンスターは巨体をゆらゆらさせながら近寄ってくる。

体の真ん中に大きな口がついているようだ。怖くて仕方が無い。

 

28号はファイラを発動させた。

炎がモンスターの体の部分を覆った。

・・・炎に照らされたその姿は、見たのを後悔するほど怖かった。

体の真ん中に大きな口がついていて、全体的にはたんぽぽのような

形なのだが、綿毛があるところに無数の小さな触手がついている。

しかも、その触手の先が目玉のようになっているのだ。

足はたこの足みたいのが根元でうねっている。

まるで木のお化けだ。夢に出そう。

 

28号はもう一度ファイラを唱えながら、斧を片手に必死で茂みの中を走った。

こんなの無理!絶対無理!怖すぎます!。

ファイラをモンスターに当てると、光る石のほうへ向かって一直線に走った。

 

・・・・・・・・逃げる、ともいう。

 

 

「ケフカ様。石です。」

息を切らした28号はケフカを大事袋から取り出して、

自分の手のひらに乗せた。

さっきのモンスターのにおいにやられたのか、急に出た咳が止まらない。

「うむ。これが解呪の石か・・・。」ケフカは目を細めた。

石は3mほどの高さで、細長い魚のような形をしていた。

表面には細かい模様が刻まれている。

おそらく人間の手が加えられているのだろう。

 

ケフカは小さな両手をぼんやりと光る石に当てた。

28号の指先も石の表面に触れた。28号の咳が止まった。

 

「エスナみたいな感じがしますね。」

「そうだな・・・しかしもっと強力な・・・ん!?」

ケフカの背中を強烈な紫の光が覆った。

黒い石に吸い込まれるように、

ケフカの小さな体は28号の手のひらから消えていった。

 

「ああーっ!!ケフカ様っ!どこ行っちゃったんですかっ!

消えちゃったっ!消えちゃったよう!!

まさか、あの三角島の変な村に行っちゃったんですかっ!?

もしかして、もっとちっちゃいものに変身しちゃったんですかっ!

僕はいったいどうしたらいいんですかっ!

ケフカ様ー!戻ってきてください!ケフカ様ー!」

石の前であわてふためく28号。

必死で足元をさがしてみるけれど、虫の一匹もみあたらない。

 

石の前に座り込み、泣きモードに入りかけた。

ケフカがいなければ、自分がこの先どこへ行ったら良いのかすらわからない。

それよりも何よりも、28号にとってケフカは唯一無二の存在なのだ。

たとえケフカが聞いてくれなくても、言いたい事は沢山あったのだ。

ケフカの側にいることが、自分の存在証明のようなものだ。

 

ぶわっと涙が溢れ出した28号の肩をとんとんつつくものがあった。

 

「ケフカ様!」

「28号アレを見ろ。」

 

ケフカの肩越しの空に流れ星がいくつも光っては消えていった。

28号はすぐに言葉を喋る事ができなかった。

「・・・・・きれいです。幾つも光の糸が伸びて。」

「はっはっはーっ!!僕ちん復活のお祝いなのだ。」

「ああ、良かった、ケフカ様・・・。

消えてしまったのかと思いました。」

「石の反対側から出てきたのだ。あの光はメテオラという魔法だ。

隕石が幾つも落ちてくるのだ。当たると死ぬから高さを調整してある。

ついでにベクタに向かっても発動してみた。」

 

「ベクタですか・・・。じゃぁ、皆もコレが見られ・・あ、ケフカ様、

時差があるから、ベクタは今お昼ころですよ。」

28号は腕時計を見た。夜の11時を少しすぎている。

「何?それじゃ見えないな・・・少し低めにもう一回発動してみるか。」

ケフカは目を閉じて超高速で呪文を唱え始めた。

 

28号は、ケフカに抱きつきたかったけどガマンした。

人間に戻ったケフカはやっぱり美しかった。

 

骨格も肌も特別製だと思う。

氷のような目に、光り輝く髪。

細くて軽いからだ。

圧倒的な魔力。

 

人間という種族のほかにケフカがいる・・・そんな感じがするのだ。

 

呪文が終ったケフカは28号に向かって右手を出した。

28号はその手のひらに口付けした。

 

「俺が求めているのはそれじゃない。」

「えーっと・・・。」

28号は立ち上がるとケフカを抱きしめた。

「ケフカ様、人間復活おめでとうございます。」

「ありがとう。で、俺の服は?」

 

「あっ!」28号は青くなった。

「私に裸で山を降りろというのだな。ふん!役立たずっ!」

「すいません、忘れました。」

「寒いぞ。」

 

28号はあわてて自分の服を脱ごうとした。

 

「それに、とどめをさしていない・・・。」

ケフカの指差す先には、さっきのとっても気持ち悪い感じのモンスターが

炎をあげながらこちらへと向かってきている。

 

「ま、勘弁してやる。俺様は上機嫌だからな。」

「はい。あの、倒しましょうか?あのモンスター。」

「お前は俺をおんぶして荷物の所まで飛べ。」

「はい。」

28号はケフカを背負った。

 

「ケフカ様復活記念皆殺しフェスタ!」ケフカが叫んだ直後、

空から大きな火の玉が幾つも降ってきて、モンスターはバラバラに

飛び散った。ケフカの魔法だ。

 

フェスタが何回も続かない方が世界の平和が保たれる事は確実だ。

 

しゃくなげを掻き分けて28号が下を見ると、遠くに小さくランタンの

明かりが見えた。

「ケフカ様、飛びますよ。つかまっていてください。」

「うん、寒いから早くしろ。」

28号は岩の上から闇のなかへ力強く踏み切った。

レビテトはタイミングよくかかった。

 

灯りへ向かって2人は滑空した。

 

 

そのころ、ベクタの南区では大変な事が起こっていた。

 

お昼前に、突然雨のように降ってきた隕石のおかげで、街のいたるところに

大穴が開き、建物も数十件屋根や軒がぶち壊されたのだ。

直撃して死亡したものはいなかったが、負傷者が何十人と出る事態となった。

 

隕石被害の調査に駆り出された、帝国城の人事課に勤めるクリマーは、

下宿に帰ってからさらにひどい目にあった。

 

 

クリマーの住んでいる下宿にも隕石は落ち、

疲れきった彼のベッドのど真ん中を直撃していたのである。

仕方が無いので、床と天井を補強して彼は眠りにおちた。

夜中をすぎた頃、みしみしと音がして古い下宿の腐った屋根が

クリマーの寝ている所に落ちてきた。

 

奇跡的に彼は無傷だったが、次の日から住む場所を探してベクタ中を

駆けずり回るはめになったのだ。

もちろん、家捜しに出遅れた彼にいい物件など見つからない。

とりあえず人事課長のチョコボ小屋に間借りすることになった。

実は人事課長の家には空き部屋があったのだが、クリマーの普段の態度や

言動がよろしくないので決して家に入れようとはしなかったのだ。

 

 

 

 

つづく

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