金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その9 塩

 

                               ZAZA9013

 

前回までのあらすじ

 

 

なんとなくついてきちゃったシルバリオのみみちゃんとはなちゃんを部下に

加えた28号とケフカは三日月山の頂上へ飛んでいった。

無謀な夜の登山で迷う事もなく、解呪の石を見つけた。

 

あとは、東大陸を北上し、川を越え、バレンの滝を見物してドマ国へ入って

しまえば、多分楽勝なはずだ。

しかし、その前に、夜の三日月山を下山しなくてはならないのだ。

星は輝いているけれど、ランタンの光は消えていないか?

大丈夫なのか2人とも。

 

 

 

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28号は背中にケフカを背負い、三日月山の頂上から滑空していた。
人間に戻ったケフカは、自分でレビテトをかけているので重さはほとんど無い。
背中にしがみついているケフカの顎が、自分の首の付け根に乗っているのでどきどきしていた。


「今度はまっすぐ飛んでいるな。姿勢も安定している。」
「はい。」
「なんで俺がふだんこうやって空を飛ばないかわかるか?」
「いえ、わかりません。便利なのに…」
「方向転換が難しいからだ。」
「なるほど〜。」

「鳥のように急に曲がれないからな。モンスターが飛んできても避けるのが難しい。
基本的に斜めに落ちているだけだから、弓矢でも狙いやすいだろうからやらないんだ。」
「風を操る魔法があればあれば便利なんですけれどね。」
「全くだ。姿勢は変えられても、進路は緩くしか変えられん。
おれに、俺にはお前のような瞬発力がないから、下から上なんて飛べない。
二階の窓が精一杯だ。」
「ははは……。四階くらいなら、行けるんじゃないんですか?ケフカ様。」

「それに俺様が空も飛べるとわかると、俺を殺しに来る奴らの仕掛けが大掛かりになる。
こっそりナイフをもった暗殺者が来た方が、建物ごと爆薬で吹き飛ばされるよりましですよ。」
「ああ、ケフカ様って本当に大変ですよね。」
「全くだ。俺を生かして利用したい奴と、俺を抹殺したい奴しかいないんだ。
皇帝の代理はもううんざりだ。書類のサインもやりあきた。
俺だって誰かに代理を頼みたい。無理にきまってるけどね。」

……ケフカ様の代理など、この世の誰にも務まらない。
28号はそう思った。
それよりも、ケフカ様が人間に戻ったお祝いをしなくちゃ。
やっぱり、おいしい料理においしい飲み物かな?
メニューを必死で考えはじめた。

ケフカが28号耳元でつぶやいた。
「星と大地の境がまっすぐだ。この山だけが高い所なのだな。」
「そういえば不自然なほど平らですね。獣ケ原って。ベクタからはどっちを向いても山が見えたのに。」
「こういう話がある。…1000年以上も前、魔大戦の前の時代の獣ケ原には、
一つの国と大きな都があったらしい。」
「へぇー。そうなんですか。」
「名前は、ラフロアリエルロクリスタリノエンシーマキャピタルデラディオーサとかいうような感じだそうだ。
こういう発音かどうかは保証しないが。」
「呪文みたいですね。」

「花と水晶が見守る女神の都という意味らしいが、本当にこの大陸にそれがあったかどうかは
確認する手段がない。あくまでその古文書の中の話だ。

…で、その国には女神がいて、都を治める総督がいたらしい。
その時代のここは三角島みたいなジャングルの中に都や町があって、
たいそう栄えていたんだそうだ。

戦争になって都は敵に攻撃された。この国の魔導士たちも戦ったけれど、数が足りない。
そこで、総督はでかいクリスタルで魔法を増幅して、世界中のモンスターにこの国に集まって
戦うよう召集をかけたんだそうだ。しかし、敵のほうが強くて都は消滅、
獣ケ原全体が100年ほど煮えたぎっていて誰も近づけなかったらしい。」

「煮えたぎる?地面が?」

「本当に100年もそうだったかどうかは疑問だが、大地が溶けて溶岩のようになっていたらしい。
木も土も山も溶けて、まっ平らになったのが、今の獣ケ原の始まりだそうだ。
本当かどうか検証しようにも、遺跡も記録も何もここら辺では見つかっていないそうだ。

ただ、今になってもモンスターがここへ集まってくるのは、総督が使ったクリスタルの破片がこの大地に
混ざっているからだと考えると納得がいきますね。
それに、本来なら赤道に近いここは熱帯であるはずなのに、なぜか気候がすずしい。
冷気魔法の増幅クリスタルでも散らばっているのかと僕ちんは思いましたよ。

その古文書にはその時使われた魔法についてもちょっと書いてあったな。
何百人も集まってファイアを唱えたらしいですよ。」

「ファイアで大陸が溶けるんですか?」
28号は少し驚いた。
今の所、一番良く使うファイアの用途は薪の着火なのだ。

「それがなぁ、信じられない話だがファイアだったそうだよ。
ただし、多数で発動したファイアを制御する高級呪文や魔法増幅クリスタル
なんかを使ったらしい。
高級呪文は破壊力を乗算する効果があったんだそうだ。乗算ってわかるか?28号」

「ええっと、3の2乗が3かける3で9、3の3乗が3かける3かける3で27っていうのですね?」

「おお、よく知っているな。えらいぞ、28号。
仮に、最低の魔力の人間のファイアの破壊力を4としたって、普通2回発動させても8にしかならん。
しかし、その高級呪文があれば、最低の魔力の人間を5人集めて発動せただけで
ファイガも軽く越えられる。多分、10人も集めれば帝国城だって1回で丸焼けだろう。」

「そんなにすごいんですか?想像もつきません。」

「だから、魔法はこの世から消さなくてはいけなかったんだよ。
その説なら、魔大戦後の魔導士虐殺や、今、簡単な魔法すら手に入りにくいわけも
多少納得ができる。
ま、その古文書の話も真実かどうかはかなり怪しいけれど。
……もう、灯りがすぐそばだな。僕ちんは先に降りて服を着ますよ。
お前はランタンを木の上から外してきなさい。」

「はい。あ、うわっ!?」

ケフカはくるりと28号の下に回り、28号のお腹を蹴って地面へ降りて行った。
蹴られた28号は、自分勝手なケフカの反動でランタンのかかっている木の直前でコースアウトしかけた。
必死で木の葉を掴み木にしがみつき、ランタンを外して、枝を使っておりた。
自重はかなり戻ってきている。


シルバリオたちの吠える声と、ケフカの叫び声が聞こえた。

ここで「ケフカ様復活記念皆殺しフェスタ第2部」が起こると困る。
28号はあわてて走り出した。

「こらっ!このバカ犬ども下がれっ!よるな阿呆!!」
みみちゃんがケフカの肩に足をかけて顔をベロベロなめている。
はなちゃんはケフカの背後から、はきかけている下着に頭を突っ込んでいる。
シルバリオたちは彼らなりの歓迎をしているようだけれど、
はなちゃんの頭がじゃまでケフカはパンツをはくことができない。

「僕ちんの邪魔するなっ!犬の分際で!身の程をわきま…、イッターイ!」
ケフカは後ろと前からシルバリオに押されて、地面にしりもちをついてしまった。
なにしろシルバリオたちのほうがケフカより体重も力もあるのだ。

「28号!こいつらをなんとかしろっ…」
ケフカはさっきの上機嫌が消し飛んだらしい。両手で自分の顔をガードしている。
まとわりつくシルバリオたちを、クリティカル突っ込みで吹き飛ばすのは時間の問題のようだ。

「はい、ケフカ様。」
28号ははなちゃんの頭を抱きかかえた。首の周りをなでると
はなちゃんは嬉しそうに28号の口の周りを舐めた。
シルバリオの頭の方が28号の頭より大きい。
ケフカはみみちゃんにまとわりつかれながら、服を着始めた。
みみちゃんの鼻の位置は立っているケフカの臍よりも上だ。
ケフカの予想よりシルバリオたちは大きかった。
「ああ、コイツの鼻先がなんか邪魔だ。」

ライトメイルの袖の所にみみちゃんが軽くかじりついてひっぱった。
「おまえは、僕ちんの部下なんだから、僕のじゃまをするな!
むしろ手伝うべきだろう…。」
ケフカはむりやり袖に腕を通した。みみちゃんは口を離した。
しかし、今度は座ってブーツを履こうとしているケフカの顔をなめはじめた。
「うわー!いやだいやだ。勘弁してくれ、俺の顔はうまくないんだ。」
ケフカがみみちゃんを押しやろうとしているが、あきらかにみみちゃんのほうが優勢だ。
みみちゃんの四肢のほうがケフカより太い。

「ケフカ様、みみちゃんはケフカ様が大好きだからなめているんです。
尻尾だって沢山振っていますし、声も楽しそうです。」
「そうかぁ?本当にそうなのかぁ?食べる前の味見じゃないのか?」
ケフカに犬の表情は読めない。ランタンにシルバリオの長い牙が光っている。
「大丈夫です、ケフカ様。もう少しなでてあげてください。
すぐにひっくり返ってお腹を見せて、もっとなでてって感じになりますよ。」
「更になでないといけないのか。嫌だな〜…。」
両手でシルバリオの頭を押さえたままケフカは固まっている。

「ケフカ様、もしかしてシルバリオ苦手なんですか?」
思わず28号は尋ねてしまった。
「別に苦手なわけじゃないぞ!フン!こんな弱いモンスター。
ただ、うっとうしいだけだ。」
ケフカはむっとしたように言い返した。

「そうですか…。ケフカ様、僕、テント建てて夕食も作ろうと思うんですけどよろしいですか?」
28号が作業に入るということははなちゃんが28号の手から離れる事を意味する。
シルバリオ一匹がそばにいるだけで、ケフカは実はかなりギリギリの精神状態だった。
ネズミだったころの感覚が全身の細胞にしみついてしまったようで、
肉食獣がそばにいると思っただけで恐怖に身がすくむのだ。
しかし、そんな弱みを28号ごときにさらけ出すわけにはいかない。
「ん…。テントは僕ちんが作る。だから、はなちゃんの面倒は料理しながらお前が見ろ。」
「はい、わかりました。」

ケフカと28号はチョコボたちのそばの荷物を開き始めた。
二人にシルバリオたちはぴったりとくっついている。
よほど以前の飼い主にかわいがられていたのだろう。
ケフカに対する警戒心がほとんどない。というより熱烈歓迎状態だ。

ケフカは荷物から10mほど離れた場所にテントを作ろうとしている。
支柱を横を歩くみみちゃんの背中に乗せて運んでいた。
重いものではないのだけれど、何が何でもみみちゃんを部下として使おうとしているようだ。

28号は、荷物から調理器具と、大きな木の葉に包んだいのししの燻製を取り出した。
火をおこすと肉を何枚か薄く切ってフライパンに乗せて軽く炙る。
その間に、あやしい粉をねって平べったいパンもどきをつくる。
それを肉から出た油で蓋をして焼いた。
その頃にはケフカがテントを作り終えていた。
みみちゃんにしきりに何かを言い聞かせながら、テントに荷物を運び入れている。

「ケフカ様、食事ができました。」28号は葉っぱを乗せた皿の上に肉とパンもどきを置いた。
「うん。」
ケフカは自分の横に寝そべっているみみちゃんを気にしながら皿を受け取った。

28号はワインの小瓶をだして、親指と人差し指で軽くひねってコルクを抜いた。
ポンという音に2匹がおどろく。
金属のカップに注がれたワインをケフカは受け取った。

「ケフカ様、人間復活おめでとうございます。」
「うむ…、乾杯するぞ。」
28号は自分のカップにもワインを注ぎケフカのカップに軽くぶつけた。
「乾杯、ケフカ様の復活に。」
「乾杯、こいつらに触って痒くならない事を祈って。」
シルバリオたちは2人のそばに寝そべっている。

ケフカは両膝の上に皿を置き、左手でガードしながらワインを飲んだ。
シルバリオに夕食を盗られるのが怖かったのだ。
口からたれた舌がひらひらしているのが気になって仕方が無いのだが、
がんばって無視した。
「うまいな…。沢山飲み食いできるのが人間の良さだ。
前ならこの量で風呂に入れましたからね。」
ケフカはネズミだった時より食べ物が数倍おいしく感じられた。

「ケフカ様、これからの御予定はどうお考えですか?
モブリズへ向かうんですか?」

「ん?とりあえず、このまま北上だ。川を渡ってドマ国領内に入ったら、
そこからドマ登山鉄道でバレンの滝国立公園へいこう。勅命だからな。

観光名所は見ておけって皇帝が言うんだからしかたがない。
ドマ国の首都を見て、そこから北上してミスリルマインへいく。
ナルシェって名前の市民国家だ。寒そうで何とも気がすすまいな。

ドマからサウスフィガロへ行って、そこから船でまっすぐツェンに上陸して
ベクタに帰るのが僕ちんの希望だけどそうはいかない。
行った事の無い北部の都市や国に僕が足を踏み入れるのが本当の任務だからね。

これは半年で行けるかどうか怪しいな。
戻ったら退職扱いになっているかもしれませんね。ははは。
ムカツクから、その時は退職金代わりにベクタも帝国城も丸焼きにしてさしあげましょう。」

「ケフカ様がいないと、困る人も沢山いるでしょうからそれは無いと思いますが…。」

ケフカは28号の言葉を全く聴いていないように話を続けた。
「ナルシェからフィガロへ行って砂漠を越えて、北のコーリンゲン地方を回って南下して
ジドールだな。ジドールからならベクタは…やや近いかな?しかし、あそこまで行ったら
オペラ座へも行かないとならないだろうな。世界は広い。
僕ちんの行った事がない所だらけだ。」

「本当に世界地図を端から端まで行くんですね。」
「うーん、結果的にはそういうことになる。そうか、お前はアワヅから
この旅の面倒なオプションについて説明を聞いてはいないのでしたね。」
「オプション?なんですか?」
「教えてやらん。おまえには、まだ知る必要の無い事ですよ。それにそのうちわかる」
「はい。」

「それより、こいつらがすっごく皿の上を見ているけれど、全部食べてもいいのか?」
「みみちゃんとはなちゃんの分は別にありますから大丈夫です。
人間が食べ終わってから犬にあげるのが正しいんですって。
軍の人がそういっていました。」
「ふーん。見られていると落ち着かないものですね。」
ケフカはシルバリオたちと目を合わせないようにして夕食を全部食べた。

28号はケフカと自分が食べるくらいの量をシルバリオたちにあげた。
「まて」なぜ目の前にごはんを置いてから待たせるのかはわからない。
ちょっとかわいそうな気がする。
こうしているのを見たことがあるからやっているだけだ。
みみちゃんもはなちゃんも、皿の上をじっと見ながら待っている。
「よし」2匹とも勢いよく食べ始めた。

食べ終わると2匹はそれぞれ28号に頭や首をなでてもらい、
満足したように地面に背中や頭をずりずり擦り付けていた。
どこか痒い所があるのとは、微妙に動きが違う感じがする。

そして28号が皿を片付けたころには、シルバリオたちはどこかへ行ってしまった。
きっとお散歩だろう。
朝になれば戻ってくるに違いない。

28号は、チョコフレイクとチョコナッツの爪や足に異常が無いかを見ながら全身にブラシをかけた。
「痛いところはない?ケフカ様が人間にもどったから
もう、どんなモンスターが出ても大丈夫。
明日からは安心して旅が続けられるよ。よかったねぇ〜。」
眠っていたチョコボは不機嫌そうにぐぇ〜と鳴いた。
頭と背中をなで、水の入ったバケツをそばに置いた。


それほど遠くない距離から、シルバリオの遠吠えが聞こえた。
28号はそれを聞くと、全身の細胞が沸き立つような感じがした。
高く、そして低くシルバリオの声が夜の草原に響く。

28号は、喉を膨らませシルバリオのいる方向に向かって自分も遠吠えを返した。
初めてだというのに、驚くほど大きな音がでた。
再び耳を澄ますと、2頭のシルバリオの遠吠えが合わさって聞こえてきた。
28号もそのコーラスに参加した。
すべての悲しみや苦しみが自分の中から消えていくような爽快感があった。
頭の中が空っぽになるまで、遠吠えを繰り返した。

28号は急に遠吠えをやめた。
いきなり不安な気持ちになったのだ。
やっぱり、自分は人間よりもモンスターに近いのか?
むりやり人間の真似をしているだけではないのか。
本当は、獣ケ原でモンスターとして暮らすのが本来の姿なのではないのだろうか?

……それと、こんなにテントのそばでうるさくしているとケフカ様が眠れないだろう。


28号はあたりを見回して、近くにモンスターの気配が無いか確認してからテントに入った。


ケフカはすでに眠っていた。
アヒルちゃんが頭の横においてある。

いつもどおりだ、多分。
やっといつもが戻ってきたんだ。
…もっとあちこち触っておけばよかったなぁ。
ねずみ姿もかわいかったなぁ。
でも、やっぱり、人間のケフカ様が一番綺麗だ……。

緊張の糸がぷつりときれたように28号は深い眠りに落ちていった。



しばらくして、ケフカは何かがテントを引っかくような音で目が覚めた。
日の出の直前くらいだろう。テントの中はほんのり明るかった。
何かがテントのそばに来ている。
「おい。」28号の寝袋をばしばし叩いた。

しかし、こういうときに限ってぐっすり眠っている。
…28号を起こす努力をするより、自分で確認した方が早いようだ。
そう判断したケフカは、テントの入り口を開けて頭を出した。

聞き覚えのある荒い呼吸音が2つ近づいてきた。
「なんだ、お前たちですか。何の用です?」
シルバリオの顔が現れたと思ったら、ケフカは大きな舌で口もとを舐められた。
「うわっ!」
ケフカは顔をテントの中にひっこめたが、シルバリオの鼻はテントの中までついてきた。

「こら!狭いんだから来るな!入ってくるんじゃありません!」
というケフカの言葉を無視して2匹ともテントの中に入ってしまった。

2人用のテントに体長2mを越す犬が2匹も入ってしまったのだから、文字通り
足の踏み場が無くなった。
ケフカの寝袋の上に赤い首輪をしている方が座っている。

「……ぬぅ、無礼者め……」
ケフカはクリティカル突込みで追い出してやろうかと、一瞬思った。
けれど、テント…特別製のこのテントが傷むことを考えるとできなかった。
何しろ雨は弾くけど、中に湿気はこもらないし、
ミスリルを蒸着した繊維だから、魔法にもある程度耐性がある。
これに代わるものなど世界中のどこへ行っても手に入らないのだ。
そのうえ、旅はまだ始まったばかり。

「じゃまだ、どけ……どかないのか?狭いのだからさっさと出ろ。
ここで小便したら絶対殺すからな。今回だけだ。
おまえらと毎回一緒には寝たくないぞ!」といいながらアヒルちゃんを懐にしまった。

こんな小物に手を煩わせていては大魔導士の恥である、ケフカは強引に寝ることにした。
役立たず!と思いながら28号のほうを見ると、シルバリオに顔を舐められながら眠っている。
おそらく夢でも見ているのだろう。
「ケフカ様〜」
どんな夢を見ているのかはわからないが、声は楽しそうだ。

ケフカは寝袋に無理矢理足を突っ込んだ。
シルバリオは避けてくれた。
顔を舐められるのが嫌だったので、ケフカは寝袋に深くもぐって、
顔の出るところを手で握り締めた。まるでみの虫だ。

シルバリオはしばらく匂いをかいだり、寝袋を引っかいたりしていたのだが
やはり彼らも一緒に眠るには狭いと思ったのだろう。外へ出て行った。
ケフカはもぐりながら、シルバリオがいなくなるまで待つつもりだったけれど、
寝袋に潜ってじっとしている間に眠ってしまった。


耳元で犬の吠え声がした。ケフカはびくっとして目を覚ました。
箒をかけるような音がする。
おそらく、シルバリオの尻尾がテントにこすれあわさっているのだ。
さっきより激しく寝袋を引っかきながら吠えている。
「うるさいですよ!」
28号のほうを見ると、寝袋がすでにたたまれている。

まごまごしていると、また顔を舐められる。
ケフカは急いでテントをでた。
シルバリオはケフカにぴったりとついてくる。
撫でたくないと思ったが、こいつは頭をなでないと
顔にせまってくるおそれがある。

ケフカは嫌々シルバリオの頭を撫でた。
霜が降り始めた頃の秋の野原を思わせる地味な毛皮は、ごわごわしていた。
猫のほうがよっぽど手触りが良い。
みみちゃんのほうなのか、はなちゃんなのかはケフカにはわからない。
ぼろぼろの赤い首輪をしている方だ。

28号はフライパンで焼いた怪しげなパンもどきを、葉っぱを敷いた皿の上に移しているところだ。
もう一匹のシルバリオがうろうろしている。
「ケフカ様、おはようございます。顔を洗うお湯はできています。」
「うん……。」折りたたみ式の布バケツから湯気が立っている。
「みみちゃん、よくできました。」
28号は小さなほし肉のかけらをケフカをつれてきたシルバリオにあげた。

びちゃびちゃと顔を洗いながらケフカは28号に尋ねた。
「こいつに一体何ができたのだ?」
「朝ごはんがもうできるから、ケフカ様を起こしてきてくださいって
お願いしたんです。」

「そうか。もう少し…、いや、いい。」
たかが犬型モンスターにお願いなどして恥ずかしくないのか!?命令と言え命令と。
ケフカは28号のプライドの持ち方が理解しがたいと思った。
「不都合がありましたか?」
「ああ、犬的にはベストな起こし方でしたよ。」
本当はもう少し静かに起こしてほしかったのだが、おそらく無理だろう。
犬だから……。


ケフカは何もいわずにシルバリオのボロボロの赤い首輪を外して遠くに捨てた。
深い意味は無かった。
首輪があっても無くても、名前など覚えてやる気は無い。

朝食はパンもどきと、いのししの微妙な燻製。
味は塩がきいていてまずくはない。けれど、赤身と脂身の割合が1対1なのだ。
コーヒーで何とか流し込んだが……。
「28号。油分は生きるものに必要だが、もう少し何とかならんか?考えて切ってくれ。」
「えー……、赤身を多めに?」
「そうだ。」

28号とケフカが地面に並んで座ってコーヒーのお代りをしている横に、
シルバリオ達が座っている。28号が与えた肉塊は一瞬で食べてしまった。
シルバリオのほうがケフカより座高が高い。

ソレが何だかケフカには気に入らない。
精神的に犬にまで見下ろされているようだ。
犬って地べたに這って人間を見上げるのが通常姿勢ではなかったのか?
ケフカはシルバリオたちを嫌いだと思う。
が、ただ体格のでかいだけの犬に対して本気でムカついている
自分の器の小ささも同じくらいイヤだと思った。

表面上はやさしくしつつも、実はできるだけ無視するようにして、
いろんな意味で舐められないようにしよう。
……と今日はそういう方針でシルバリオ達に接することに決めたのだった。



「ケフカ様、塩がそろそろ少なくなってきました。」
「ここから海はそう遠くはずですから、海水から塩をつくりましょうか。
北西に進めばすぐ海でしょう。」
「塩作るのは初めてです。おもしろそうだな〜。」
「うん。では、すぐ出発しよう。」

天気はうす曇り。
歯磨きを終えたケフカはマントを羽織ると寝袋を丸め、テントをチョコボに積んだ。
チョコフレイクもチョコナッツも特に異常は無い。
さっさとチョコボに乗らないと、シルバリオに顔を舐められてしまう。

28号はシルバリオの背中の毛を掻き分けている。
「ケフカ様!!発見しました。」
「寄生虫か?ノミか?ダニか?」
「いえ、みみちゃんたちの毛皮、二重構造です!」
「ふーん?」虫がついているという話でなければ別にどうでも良かった。

「見てください!表の茶色の毛皮の下は真っ白な毛が密に生えていますよ!
フェルトみたいです。すごーい!!」
「なんだそんなことか……。もともと寒い地方のモンスターだからそうなんだろ。
おまえは、遊んでいないでさっさとチョコボに乗るのだ。」
「はい。」



ケフカと28号は海を目指した。
ついてこいともなんとも言っていないのにシルバリオたちもついてくる。

大きい猫じゃらしが一面に生えている野原を駆けぬけると海が見えた。
ところどころに波が立っている。波の泡の色は白というより薄いエメラルドグリーンだ。
海の色は緑っぽい青。海面をカモメが旋回している。


浜辺は小石だらけだった。
チョコボの足に悪そうだったので、ケフカはチョコボを海岸から15mほど離れた
草地でおりた。
「このへんにいなさい。おまえたち。」
クエッとチョコフレイクが返事をした。

ケフカは荷物から一番大きな鍋を28号に渡した。
「ゴミが入らないように気をつけて海水を汲んでくるのだ。」
「はい。…あのう、波打ち際ですか?それとも沖まで行ったほうが?
深さはどれくらいのところですか?」
「ああ、もう適当でいいのだ。」

ケフカは地面にかまどを作っている。
鍋を載せる環に金属の足が付いた簡易かまどの周りに石を積み上げている。
28号よりも作業手順が早くて効率的だ。

28号はブーツを脱いで鍋を持って海に入った。
水は思ったよりぬるかった。シルバリオたちは28号の周りをうろうろしている。
海水を満たした鍋を28号がかまどにのせると、ケフカは一回り小さい鍋を28号に渡した。
「これにまた10回くらい汲んできなさい」
「はい。」

28号が、また水を持ってくるとケフカはファイアを唱えていた。
海水の量は鍋の半分以下になっている。
「つぎたしてもよろしいんですか?」
ケフカは人差し指で鍋を指差した。
呪文の途中か、ゆっくりファイアを発動させる為の何かをしているのだろう。
鍋のなかはボコボコと沸騰している。

28号は更に9回海水を運んだ。鍋の中が白く濁ってきている。
ケフカは別の鍋に粗い布を紐で固定し、煮詰まっているものを濾した。
「28号、弱火が必要なのだ。わたくしの作業を見物していないで、
流木とか燃えるものをあつめてくるのです。」

「その布に溜まっている白いものは?」
「……にがりとも言う。塩じゃない。不純物だ。」
「へぇー。」
「海には塩だけが含まれているわけではないのだ。僕ちんは鍋を洗っているから、
燃料を集めて火をつけたら僕ちんにおしえるのだぞ。」
ケフカは一番大きな鍋とたわしを持って海へ行った。

「みみちゃん、はなちゃん、おいで。」
28号は浜に打ち上げられている流木を拾い集めた。
裸足に小石が気持ちよかった。石は海よりずっと暖かい。
シルバリオたちは波打ち際とたわむれながら28号の後をついてきた。

ちいさめの流木をかまどの中に入れ、28号はファイアで火をつけた。
大きな流木を斧で小さくしてかまどの中に次々とほおリ込む。
「ケフカ様!火がつきました。」
「うむ、ご苦労。なんだおい、おもいっきり強火ではないか。
弱火か中火が良いのだ。」
「すいません…。」
ケフカは28号を押しのけ、木のへらで鍋をかき混ぜ始めた。

「あのー、ケフカ様。そのかき混ぜるの僕もやってみたいんですけれど…。」
「ハダカの奴には向かない作業だ。熱い塩が飛んでくるし。」
「じゃあ、服を着たらかき混ぜに参加したいんですが…。」
ケフカはちょっと考えた。

「人数が増えたからといって、はかどる仕事とそうでないものがある。
…おまえは僕ちんにできないことをすると良いと思うのだが。」
「というと、どんな?」
「そうだな。そのまま槍を持って魚とかエビとか糧食確保するのはどうだ?
せっかく海へ来たんだから、海のものを食べたいぞ。」
「あれ?ケフカさま、お魚はお嫌いなんじゃないですか?」
28号の発言にケフカは嫌そうに答えた。
「今の僕ちんは、いのししの脂身が全身の毛穴から
噴出してくるような感じがする。あっさりとしたものが食べたい。
…好き嫌いも状況によるのだ。」
「わかりました。」
「うん。塩ができたら好きなだけ舐めさせてやるから、
心置きなく海のものをとってくるのだぞ。」


28号は斧をしまい、槍を片手に海へと入っていった。
腰には細かい網でできた袋をくくりつけている。
「…好きなだけ舐めさせてやるって、やっぱり塩のことだろうなー。
ケフカ様だったらよかったのに…。」

みみちゃんとはなちゃんは波打ち際で遊んでいる。
28号が沖へ向かって泳ぐと、彼らは…ついてこなかった。
28号はケフカが塩を作っている浜辺から40mくらい沖にある
岩場へ向かって泳いでいった。

浅い海で見かける魚は小さかった。
深いところへ行けば大きな魚が住んでいそうだ。
岩場へついた28号は槍と網の袋を岩の上に置き、岩に捕まって一休みした。
波もうねりも思ったより無くてそれほど疲れていない。

遠くにケフカが鍋をかき混ぜている姿が見える。
距離を越え一心不乱な感じが伝わってくる。
足元を見ると海の底まで見えた。
深さは10mかもっと深いのか…。
底へいくほど色は失われて緑から青へと吸い込まれていくようだ。
海藻がはえていて、体にそれが触れるとぬるっとしてなんとも気持ち悪い。
底の方にはとげとげした真っ黒なウニが沢山いる。
まるで、地雷原のようだ。
その上をきらきらと大きな魚が何匹も通り過ぎていく。
30センチ以上はある。
ここは色々と沢山いそうな感じがする……。

28号は槍をもって頭から海へ潜っていった。
目に力を入れると、彼の眼球の表面に透明な膜が降りて、
水中のものがはっきりと見える。
10センチくらいの銀色の魚の群れが28号を避けて通り過ぎる。
海底はごつごつした岩だらけだった。
黒っぽい色の海藻が緑の光にゆらゆらと揺れている。

自分が魚だったらどんな所に居たいかな?28号はちょっと考えた。
花のようにひらひらしたウミウシ、岩にくっついている珊瑚。
ウニを槍でどけると、大きめの岩をひっくり返してみる。
ささっと逃げる何かを28号は見逃さなかった。

いた!
エビだ!
大きい!!

28号は騎士の鎧みたいにごつごつしたエビの背中を掴んで上昇した。
水中では地上の2割り増しで物が大きく見えるって言うけれど、
このエビは自分の肘から手先ぐらいまである。

すっごい!これ大きい!!

28号はこぼれる笑みを抑え切れなかった。

もしかして海での糧食確保って、釣りをするより潜って獲ったほうが10倍以上
楽しいのかも!?

ケフカに向かって大きなエビを振ってみたけれど、残念ながらケフカは
28号に背を向けて鍋を持って作業の真っ最中のようだ。
全然見てくれない。
「…この喜びを分かち合いたいのに〜」
28号は少しがっかりした。
けれども、潜って何かを獲りたい意欲は全く衰えない。

エビを網に入れると、呼吸を整え再び槍を持って潜った。

海の水はとても透き通っていて、海底の方でも周りの色は青緑だった。
28号は槍を石の下に入れて次から次へとひっくり返した。
また大きなエビがいた。触角が長い。
あわてて逃げようとする所を28号は槍でついた。
面白い。
銀の人魚号で食べたエビフライよりずーっと大きい。
今度は魚を獲ってみたい。

銀色の光がゆらゆらしている海面へ向かって28号は上がっていった。
海面から顔を出して空を見ると、雲が少なくなっている。
太陽の暖かさを顔に感じた。
すごくやる気が出てきた。
エビを袋にしまう。
呼吸を整えると深いところへ潜っていった。


「ケフカ様〜!!たくさんとれましたっ!!」
ケフカはまだ暖かい塩を防水袋に入れている最中だった。
28号の獲物を見ると、ぴかぴかの笑顔になった。
「おお!大漁ではないか28号!えらいぞ!すごいぞ!
…よくそんなに持って泳いでこられたものですね。」

28号の網一杯に大きなエビが入っていて、槍には更にエビと魚が刺さっている。
「みみちゃん、はなちゃん、おみやげだよ〜」
28号はとげとげのウニを網の袋から慎重にとり出した。
2匹のシルバリオは網の外から興味深そうに匂いをかいでいる。

「まてまてっ!ウニを犬にやるな!斧とスプーンもってくるから。」
ケフカは荷物の所へ走っていった。

「じゃあ、君たちはこれどう?」
28号は網から体長が40cmほどあるエビをシルバリオたちの前に置いた。
「きっとおいしいとおもうよ〜」

けれど、長い触角をもってぎざぎざしているこの生き物にシルバリオたちは
困り果てているようだ。

好奇心はあるのか、近づいて匂いをかぐ。
エビがちょっと触覚を動かしただけで、驚いて後退しながら吠える。
……を、エビを置いた瞬間から繰り返している。
エビには鼻も足も触れられないようだ。

ケフカは手袋をして、斧を叩きつけてウニの殻をわった。
ウニのオレンジ色の卵が見えるとそれを海水で洗って、28号のところへ持ってきた。
「コレを食べてみろ、28号」
「はい」
「ウニは図鑑でしか見たことがないだろう?」
「はい。」

28号はオレンジ色のぷよぷよした塊をスプーンで口に入れた。
海水を凝縮したような味がする。ちょっと甘くて生臭いような。
何かを足せばかなりおいしい味になりそうだ。
「思ったよりおいしいですね。」
「そうか、塩をかけてみよう。」
ケフカは28号からウニを奪い、作ったばかりの暖かい塩をひとつまみかけた。
「うーん。うまいな。新鮮だとこんなにうまいんだな。」
ケフカは目を閉じて味わっている。

「塩だけでも結構うまいぞ。舐めてみろ、28号」
28号はケフカの指ごと塩を舐めた。

「あ、おいしい!」
「軍で出す塩は日持ちを考えてるのか精製しすぎて味わいがない。
しょっぱい事は確かだが、コレより全然マズイ。」

「甘味?甘いっていうか色んな味がしますね。」
「まあ、雑貨屋で売っているレベルの塩だな。でも、うまい。」

ケフカはウニを28号に渡すとエビの背中を斧で割った。
「クックックッ…あいつらエビが苦手なのだな。」
ぶきぶきとむしったエビの足をシルバリオたちに向かって投げている。
みみちゃんとはなちゃんは目の前の大きなエビにまだ困惑中だ。

「ケフカ様、このエビはどうやって食べましょうか?
僕、こんな大きなエビは初めてなんです。」
28号は食べ終えたウニの殻を海に向かって投げた。
「まず、すぐ生で食べて、食べ切れなかった分はブリザドで冷凍して、夜に茹でましょう。」
「なるほど。」
「海のものは常温だとすぐに腐ってしまいますからね。」
「はい。わかりました。」
ケフカはエビの頭部から胴体を引っこ抜いて殻をむしりながら齧りついていた。
「おいしいな…。とろとろしてぷりぷりしてる…。冷凍エビフライとは大違いだ。
あぁ、コレにドレッシングをかけたら最高なんだろうな〜。」

28号は自分の分のえびの殻を割ると、シルバリオたちの前にあるエビも斧で縦に割ってあげた。
エビはまだ動いている。殻から肉を外してあげた。
しばらく匂いをかいで、足先で散々つついてからシルバリオたちはエビを食べ始めた。

28号はぷりぷりしたエビにちょっぴり塩をかけて味わった。
エビといえば、帝国軍の冷凍エビフライしか食べたことの無い28号にとって
大エビは深い感銘をあたえたのだった。
白くてとろとろした肉がほとんどで、血管らしき赤い筋はあるものの、
むしっても血は流れない。不思議な生き物だ。魚でも血はあるのに。
そして、すごくおいしい。
あっさりして、甘くて、弾力があって不思議な食感だ。
そして、この殻。機械の部品みたい。
よくみると、魚より虫に近いのかもしれない。

軍のサバイバルマニュアルでは、魚介類は生で食ってはいけない、
必ず火を通すようにとあったのだが……。
これなら後でお腹がいたくなるようなことがあっても、生で食べる人間が
頻出したので、マニュアルには”生で食うな”と記載することにしたのかもしれないと、
28号は思った。


ケフカと28号はしばらく無言でエビを食べていた。

食べ終わるとケフカは、エビと魚を残った火に炙り始めた。
「あれ?こおらせるんでは?」
「先に焼く事にした。解凍するより、焼いたのがさめた方がうまいはずだ。」
「なるほど。」
「魚とエビが焼けたら出発するのだ。」

28号は真水を染み込ませたタオルで全身を拭いてから、服を着た。
火をかき混ぜているケフカのまわりに、みみちゃんとはなちゃんが満足げに
寝転がっている。
白い雲が水平線のかなたから、風に流されてきている。

「28号、僕ちんは少しここで昼寝をしたい。
しかし、このシルバリオ二匹が目の前をうろうろすると、落ち着かん。
おまえ、どっかその辺でこいつらと遊んでやりなさい。」
「はい、わかりました。」

28号はシルバリオたちを引き連れて内陸の草原の方へ行った。
ケフカは荷物をまとめて草を食べているチョコボのそばにおいて、
海のほうを向いて寝転がった。

目障りな奴がいないので、ゆっくり横になることができる。
少し海を見ていると、波の動きで酔いそうになった。
やや食べ過ぎているのに、ここで具合を悪くするわけには行かない。

ケフカはまぶしい陽射しを手の甲で防ぎながら目を閉じた。
魚はもう少しで焼けるだろう。

空を飛ぶカモメの影が、ケフカの足先をかすめて小石だらけの浜辺に消えた。



28号は草原でみみちゃんとはなちゃんと追いかけっこを始めた。
28号が本気でジャンプするとシルバリオたちは動きについていけないので、
今回はひたすら走り回る。

28号が走りを緩めると、はなちゃんは前足で28号の体を捕らえ、右肩に噛み付いた。
はなちゃんと28号はもつれながら草原に転がった。
転がりながら左手ではなちゃんの首筋を掴む。
もつれあっているところに、みみちゃんが28号の足首を噛む。
2匹とも皮膚が破れるほど強くは噛んでいない。
彼ら流の遊びなのだ。

28号は足首を噛んでいるみみちゃんの首をもう片方の膝で絞めようとした。
シルバリオの顎の力は28号の予想より少しだけ強かった。
はなちゃんの前足を一本ずつ片手でつかんで、はなちゃんの顎から肩を離そうとする。
28号が両腕をまっすぐ伸ばしても、はなちゃんは前足を曲げて首を伸ばして28号の肩に食いついている。
思いっきり投げ飛ばしたら、離れるかもしれないけれど、それをするとはなちゃんが痛いだろう。
本気で噛んでいるのだろうか?それとも結構痛いけどコレもまだ遊びなんだろうか?
…どうしようか?

28号が力を緩めると、はなちゃんは28号の肩から顎を離し、28号の上唇を軽くかんだ。
そして、顔中をべろべろと舐め始めた。
くすぐったいのとおかしいので、28号は笑い声をあげた。
やっぱり遊びだ。

28号の膝の下からはなちゃんに割り込むように、みみちゃんの顔が迫ってきた。
みみちゃんも、28号の口元を軽く噛んだり舐めたりしている。
しかし、はなちゃんのほうが優先権を主張して、みみちゃんを前足でぽこぽこと後ろへ蹴っている。
みみちゃんは負けじと28号の体の上を顔に向かって前進しようとする。
みみちゃんの後ろ足が28号の股間をぐりぐりした。


「……ちょっと、待って!!」28号はみみちゃんとはなちゃんの下から転がって抜け出した。
はなちゃんはみみちゃんの毛を齧って引っ張っている。
みみちゃんははなちゃんを引きずるように走り出した。
28号は2匹がもつれあって走っていった方角と反対の方へ走り出した。
200mほど草原を走ってから伏せて風の匂いをかいだ。

2匹の匂いはしない。

「まずい…これはちょっとまずいかも…」といいながらズボンをおろした。
今出しておかないと……


数年に一度しかできない人の隣で毎晩オナニーをしていたら、やはり嫌われるだろう。
という28号なりの配慮であった。


ああ、できることなら、ケフカ様がいい。
あの細い指先で、自分の体に触れてほしい。
で、思いっきり見下した表情で、”気持ちよいのですか?”とか言われてみたい。

28号の妄想はすぐに止まった。
ぐったりしながら、自分の放出したものに靴のかかとで土をかけた。


シルバリオと激しく触れ合っているだけで、何かが起きそうになるというのは、
やはり自分がモンスターだからそうなるんだろうか?
…みみちゃんとはなちゃんを犯してみたいんだろうか?
そんなつもりは全然ないんだけれど……こまったなぁ。


28号はゆらゆらと歩き出した。

海岸のほうを見ると、ケフカは既にチョコフレイク号に乗っている。
みみちゃんとはなちゃんはチョコボの周りを遠巻きにうろうろしていた。

ケフカの声がする。

「チョコナッツにお前が乗れば出発なのだ!」
28号はあわてて走り出した。

「ケフカ様、すいません。」
「謝るほどのことではないのだ。」
ケフカは28号の荷物をチョコナッツに載せてくれていた。
夕食のエビも包んである。


ケフカ様って、こんなに親切な人だったっけ?
28号はちょっとだけ不思議だった。

もしかして、解呪の石に触れてからイイ人になっているのでは……?
あ、それじゃ、今までが悪い人みたいだ。
そもそも、良い人と悪い人の区別ってどのあたりでつけるものなのだろう?
28号はチョコナッツの上で真剣に考え込んだ。

しばらくチョコボを北に走らせるとケフカが口を開いた。
「おまえ、獣ケ原の王様になったらどうですか?」
「王様ですか?」
「うむ。王様でも皇帝でも殿さまでもかまわん。
とにかく獣ケ原で一番偉い人間と言い張るのだ。」
「えぇ〜?」

28号にケフカの意図は見当もつかない。
これは、もしかして、僕をここに置いていきたいということなのか!?
28号は全身がきゅうっと締め付けられたような感じがした。



つづく