金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その5

                                  ZAZA9013

前回までのあらすじ


魔法もつかえず、「喋るジャンガリアン・ハムスター」になってしまったケフカ。
そんなケフカをかばいつつ28号とチョコフレイク号とチョコナッツ号は
大三角島を横断する旅を開始した。


モンスターと一対一での戦闘経験がなくてビビリ気味の28号に、
先制攻撃して息の根を止めろとケフカは命令した。
森へ入った28号は、キマイラを一人で倒すことが出来た。

目指すは解呪の石がある、東大陸獣ヶ原南端の三日月山の頂上!!



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次の朝、薄暗い森の中をケフカと28号は、西へと進んだ。
夜の間にモンスターが現れることはなく、チョコボたちもいたって元気。

土地の質が少し変わったのか、掻き分ける草の種類が昨日と違う。
コスモスに良く似た黄色い花ばかりが目立って咲いている。
28号はチョコフレイク号に乗っている。
ケフカは28号の首に下げている大事袋に収まっていた。
頭だけ出して空気のにおいを嗅いでいる。

「28号、空気が生暖かくなって湿ってきたな。」
「空の様子はわかりませんが、
さっきから明るくなったり暗くなったりしていますね。」
ただでさえ薄暗い森の中は、ちょっと空が曇っただけでもとても暗くなるのだ。
「大雨が降りそうだな・・・。」
ケフカが言った直後、雷の音がした。

「28号、お前は雷は怖くは無いのですか?」
「あまり怖くありません。・・・雷が鳴っているときは、
雲の上で綺麗なおねえさんが服を脱いでいると聞きましたから。」
「はははは・・・・それは愉快な説だ。」
「おねえさんが、シャワーを浴びると雨が降るんだそうです。」
「誰に教わりました?」
「ウィームス少佐です。」
「ふーん。傘の用意をしておいたほうが良いな。もうそろそろ小休止だ。」

木の葉に雨が当たる音がした。
すぐに大粒の雨があたりにふりそそいだ。
大木の根元に28号はチョコボたちを休ませた。
ケフカを大事袋ごとチョコナッツ号に移し、
自分は傘と槍を片手にチョコボの周りを警戒する。

「28号、何か来るぞ・・・」
「はい?」
28号には雨音しか聞こえないのだが、ケフカのヒゲは
敵の存在を捕らえたようだった。

20mくらい離れたところにデバウアーが3匹、キマイラが1匹、
黄色い花の中をこちらに向かってゆっくりと進んでくる。

28号はデバウアー3匹に向かって、ファイラを唱えた。
デバウアーは動かなくなった。
キマイラが28号のほうへ突進しかけたが、急に上体が不自然に持ち上がった。
28号がレビテトを唱えたのだ。

羽と足で体勢を整えようともがくキマイラの体に28号の槍が飛んでいく。
胸の真ん中から入った槍は、羽の付け根から先が飛び出している。
雨音のなかに、キマイラの咆哮が低く響く。

28号は、前足に気をつけながらキマイラの犀の頭を落とした。
キマイラは抵抗しない。
他の頭を落とそうとしたが、尻尾の蛇もだらんとして、ほとんど
死にかけている。

28号は駆け足でケフカのところにもどった。
「ケフカ様!もう、動かないんですけど頭落としましょうか?」
「死んだか?ファイアボールとか大旋風とか起こされると面倒だぞ。」
「もう、動いていません。槍が上手い具合に刺さったみたいです。」
「ならいいが・・・。」
「キマイラとデバウアーって友達なんでしょうか?」
「なんだと?」

「ちっちゃいデバウアーをキマイラは襲いませんでしたから・・・。
一緒に歩いていました。」
「食べてもまずいんじゃないか?もしくは共生関係にあるとか。
・・・キマイラに付いた虫をデバウアーが取ってやってるとか。」
「じゃ、ちょっと待っていてください。」

10分ほどして雨の中をずぶぬれになった28号がもどってきた。
「それ、かぶるのか?」
「荷物の上に乗せたらどうでしょうか・・・・。」

28号が手にしているのは、デバウアーの殻3つ。
中身は抜いてある。色は毒々しくて派手だ。

「ああ、それでキマイラが”こんなところに友達がいる”と
思い込んで、襲ってこなくなると・・・・?」
「ええ・・・。」
と、28号はチョコボの背中に殻を乗せ、自分も頭にかぶった。

「僕ちんには、殻を乗せたチョコボと、
殻をかぶった阿呆な人造人間にしか見えませんが・・・・。」
「うう―ん・・・。いい考えだと思ったんですけど・・・。」
「ふーん・・・戦力はおまえしかいないからな・・・。
戦闘を回避する手段を模索するのは良いと思うがな・・・。」
「そう思いますか!?」
28号の表情がパッと明るくなった。
「うん。ま、これでキマイラと戦わずに済むならそれに越したことは無い。」
ケフカはグルーミングをしながら、袋の奥へと引っ込んでしまった。

ただ共食いをしている現場を見ていないだけじゃないのか・・・?
そう、ケフカは思った。
しかし、考える力があまりない28号のアイディアだ。
せっかくの思いつきを無碍に踏みにじるよりは、ここは一つやらせてみようか。
ま、失敗しても、普通にキマイラに襲われるだけだし・・・。
どうせ戦うのは28号だし・・・。
ケフカは丸くなって目を閉じた。

雨の中28号は、その辺にあった木のつるを斧で切ると、キマイラに結びつけた。
槍を抜いて、雨水にさらす。
雨が小降りになってきた。

「ケフカ様、出発します。」
一声かけると、チョコナッツ号に乗り28号は出発した。
雨がおさまってきた。
すぐにまた森は蒸し暑くなり、虫たちが飛び始めた。
高い木から差し込む光が、草に付いた雨粒をきらきらと光らせる。
鳥の鳴き声が遠くから聞こえた。

「ケフカ様、お昼にしましょう。」
28号はチョコナッツ号からケフカの入っている袋とトイレをだした。

ケフカは28号の肩越しに妙なものを見つけた。
「うわ。」

「はい?」パンと水筒を出しながら28号が返事をする。

「あれはさっきの奴か?」
「そうです、キマイラ1匹とデバウアー3匹に見えますよね。」
チョコフレイク号の後ろには、キマイラの死体が蔓に縛られて浮いていた。
切り取られた首以外は全部だらんと下がって、足も力が無い。
血はまだ流れていたが、雨に洗われて全身は綺麗だ。

「たしかに、モンスターの一群には見えるが・・・。」
「友達です。友達どうし、森を進んでいるんです。」
「ああ、そういう設定なのだな。戦慄パレード御一行様には見える。
少なくとも、人間はこの状態を遠くから見たら近づいては来ないだろう。」
「そうですかっ」
ちょっと嬉しそうな28号。

キマイラじゃなくて、人間と言ったのですがねぇ・・・。
ケフカは28号の膝の上でグルーミングを開始した。

質素な昼食を終えた後、ケフカは思った。

仲間の死のにおいを嗅ぎつけて、大量にキマイラが出たら嫌ですよ・・・。
しかし、死体を捨てるのは簡単だが・・・。
28号には、自分で考えて何かして成功するという
経験が必要なのかもしれない・・・。

その日の午後、日が落ちるまでキマイラともデバウアーとも
出会うことはなかった。

夜はケフカの希望でキマイラの死骸はキャンプ場所から30mほど
離れた場所に放置された。


ケフカは寝る時間になると、テントの中をあちこち走り回った。

自分の寝袋の中をがさがさと走るのが、面白かった。
全身の毛の流れも、体の動きも、狭いところを走りやすいようにできているのだ。
寝袋の中のほうが平らなところを走るよりも早くスムーズに移動できる。
まるで、魚が海の中を自在に泳げるかのように・・・・。

走るのに飽きると、胡桃の殻や小枝を齧った。
おきているときはじっとしていられなかった。
自分でも何とかしたいのだが、少しの距離を移動しても立ち止まって
きょろきょろしたり、あちこちにおいをかいだりせずにはいられない。

28号には言っていないが、もらったおやつ・・・主に胡桃なのだが
・・・それをどうしても、大事袋に貯めておきたいのだ。
胡桃は山ほどあるし、いらないといっても28号は10時と3時に
くれようとするだろう。それでも、少しでも多くもらって保存したいのだ。
袋の中にはかなりの量の胡桃がたまりつつあった。

貯蔵癖とでもいうのだろうか・・・。
我が身にねずみの習性がしみこんできているようで、ケフカはとても嫌だった。
しかし、止められない・・・。

28号は、ケフカの走る音を聞きながら眠りについた。


28号は、それから3日の間キマイラの死体をレビテトで浮かせて
持ち歩いた。腐敗臭が漂うパーティーに恐れをなしたのか、
気色が悪すぎたのか、モンスターとは出会わなかった。

戦いがないため、28号はケフカの入った大事袋を首にかけていた。
ケフカが眠ってしまうと寂しくてつまらない。
そんな時、袋からわずかに伝わる温もりが28号の心の支えだった。


4日目の午後、ついにケフカは28号に言った。

「28号。もうあれ、捨てないか?」
「・・・そうですね、効果はあるみたいなんですけど・・・。」
「捨てろ。腐ってるし、最近ピカピカしたハエがすごく飛んでくる。
それに、お昼まえにちらっとみたとき、キマイラの毛皮がもこもこと動いていたぞ。」
「え?生き返りそうなんですか?」

それはいけない、という顔をした28号に向かって
袋の中から顔を出したケフカが諭すように言う。
「別の命が育まれてるんですよ。」
「子供・・・ですか?キマイラの・・・・。」

「むぅぅぅっ!!あの中に、死骸を食う虫かなんかが大繁殖中だと
言っておるのだ!そんなものの傍で飯を食い続けるのは不愉快だ!」
「あぁ!そうですね。夜は地面の上に置きっぱなしですからね。」
28号はあっさりと、キマイラの死骸を結んでいる蔦を手から離した。

「うむ、それでよい。あとは、デバウアーの殻効果で
敵との遭遇率が下がってるのを確認すると良いのだ。」
「ケフカ様、ごめんなさい。」
「ん?」

「実は僕も、もうそろそろあれを持ち歩くのが嫌だったんです。
あの死体を何日持ち歩けばいいのか・・・ケフカ様に聞いたら
怒られそうで・・・怖くて聞けなかったんです。」
「聞かないで怒られるよりは、聞いて怒られろ、28号。
・・・でも、お前のアイディア、一応成功したみたいではありませんか。
あれから、何も出てきませんしね。」
「はい。」
28号はにっこりと笑った。


薄暗い森の中を弱い風が吹いた。
ケフカはヒゲをひくひくさせている。
ものを食べるときもうごくのだが。
「風のにおいが変わったな。」
「そうですね。」

「デバウアーのことなんだが・・・」
28号は殻をかぶとのように被っている。
ケフカは話し続けた。
「おまえは知らないかもしれないが、タコが夜中に
畑へ行って大根を抜くという話があるんだ。」
「海から上がってくるんですか?」

「そうそう、僕ちんはそんな話はただのホラだと思っていたのだ。
・・・しかし、デバウアーを見てしまうと案外本当の事なのかと考えざるをえないな。
そんなに賢いモンスターには見えないが・・・。
もしくは、あれを見たやつの話がベクタまで伝わって
そうなったとかなーとか・・。世の中広いな。みてみないとわからない事だらけだ。」

「ええ、本当に・・・。」28号はうなづいた。


前方が急に明るくなった。
森が終わったのだ。
「ケフカ様。海が見えます。」
「そうか。」
ケフカは目を細めた。
2人は緩やかな丘の上に出たのだ。

28号はチョコボを休ませるのも忘れて、海へ向かった。
エメラルドグリーンの海は夕日に輝いていた。

浜辺は南北に長く続いていた。鳥が沢山波打ち際にいる。
砂浜を一行は進んだ。
そう遠くはないところに東大陸が見える。

「さて、どうやってわたろうか、28号。」
「チョコボでも渡れる浅いところがあるって、おばあさんが言っていました。」
「潮の満ち引きっていうのは、わかるよな?」
「はい。満月や新月の時が大きな満ち引きで、半月のときが小さな満ち引きです。」

「よく知っているな、でもなぁ・・・、レビテト使って誰かに引っ張ってもらうのが
一番楽だよな。泳ぐのも歩くのも水中は抵抗が大きすぎますし・・・。」
「途中で潮が満ちてきたら、泳がなくてはいけませんものね。」
「僕ちんはそれが嫌だ。」
「チョコボはどれくらい泳げるんでしょうか?」
「うーん・・・。個体差はあると思うが・・・、何キロとなると無理じゃないか?」

「向こうまで・・・20kmぐらいはありそうです。」
「コースの選定が重要だな、もう少し高いところからみたほうがいいかもしれん。
風も向かい風だし・・・。」

波打ち際から15mほど内陸にもどると砂浜が土の地面になる。
3mは高くなった。海鳥が沢山飛んでいる。

「あれ?岩のところに何かいます・・・なんでしょう?ゴミかな。大きいですね。」
「僕ちんには、見えないぞ。」
「モンスターかもしれません、ケフカ様はここで待っていてください。」
28号はケフカを袋ごとリュックにもどすと、チョコナッツ号からおりた。

槍を片手に岩陰のところへ歩いていく。

「うわ〜・・・・・おっきなタコ・・・。」
28号は思わず大声で呟いてしまった。
直径2m以上はある頭に牙のある口。
それは大きな目でギロリとこちらを見た。
「なんじゃいお前は!人のことタコよばわりしおってからに・・・。
オルトロス様と呼ばんかい!!」
「うひゃー!喋れるんですか!?」
オルトロスと名乗ったのはピンクの巨大な・・・・どうみてもタコだった。
足が8本あって袋を持っている。
28号が近寄ると、オルトロスはささっと袋をどこかに隠した。

「ワシが口きいちゃいけんのんか?そんなお前は何様だ!」
「28号といいます。オルトロス様、泳ぎ上手ですか?」
「上手いに決まってるだろ!地上も水中も思うがまま、空は飛べんが滝だって登る。」
「ははぁーそれは良かった。お金に興味はありますか?」
「あるけど・・・・それがどうかしたのか?」
オルトロスは疑い深そうな目で28号を見た。

「オルトロス様、お願いがあるんですけど・・・。
僕と僕の旦那様を向かいの東大陸までひっぱっていってくれませんか?」
「やーだよっ。なんでワシがそんなことせんといかんのじゃ?」
「ギルでお礼をします。1000ギルでは安いですか?」
「1000ギル?」
オルトロスの大きな目が一瞬更に大きくなった。

実はオルトロスは最近ビジネスを始めていた。
・・・といっても、海底の珊瑚をぱきぱきと折って人間に売りつけるという商売だ。
海沿いの田舎の町に売りに行くより、かなり離れたジドールで売ると倍以上の値段になる。
しかし、それだけを専業にはしていなかった。
人間の仕事を手伝ったり、時にはだましたりして強引に現金を奪う時もある。
そうして、貯めたお金を勘定しているところに28号がやってきたのだ。
1000ギルはなかなか良い値段だ。
珊瑚を抱えて、折らないように長距離を泳ぐのに比べればはるかに楽だった。

オルトロスは超高速で28号の値踏みを開始した。

目の前の人間は槍を持っている。しかし、一人。
腕には高級腕時計。
そいつの連れているチョコボは2匹。チョコボにも鎧をきせている。
身なりからすると、無一文の放浪者ではない。
旦那様とやらは見えないが、荷物は多め。
被っている貝の殻は、自称海底の覇者オルトロス様ですらあまり見たことがない種類。
軽く2000ギルで売れそうな感じ・・・。


「それ以上は出せませんが、どうかそれでお願いしたいんですけど・・・。
わけあって急いでいるのです。」

「ふーん・・・・たこすみっ!!」

オルトロスは28号に向かって墨を吹きつけた。


つづく
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