金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その4
ZAZA9013
前回までのあらすじ
魔法もつかえず、「喋るジャンガリアン・ハムスター」になってしまったケフカ。
そんなケフカをかばいつつ28号とチョコフレイク号とチョコナッツ号は
大三角島を横断する旅を開始した。
モンスターと一対一での戦闘経験がなくてビビリ気味の28号に、
先制攻撃して息の根を止めろとケフカは命令した。
そして、28号はモンスターとのエンカウント率が高そうな森の中へと
進んでいくのである。
目指すは解呪の石がある、東大陸獣ヶ原南端の三日月山の頂上!!
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28号はチョコフレイク号に乗り大三角島の森の中へと入っていった。
モンスターが出ることを予想して、荷物だけにレビテトをかけた。
ケフカはチョコナッツ号に積んだリュックの中に入っている。
大事袋の中で眠っているのか、声が聞こえない。
森の中は草原より2度ほど温度が低いようだった。
けれども蒸し暑い。
日の光を求めて伸びた木は、高さが10m以上ある。
大木の葉を通して得られる光を貪欲に求める草は、
葉を四方八方に広げ、またあるものは蔓をのばして太陽へと向かっている。
湿度は高く、空気は濃密な森のにおいがした。
草たちはチョコボの足の長さくらいあった。
28号は後続のチョコナッツの様子を気にしながら、
草を分けて進んだ。
森の中は、薄暗くて、怖くて、嫌だった。
耳を澄ます。
聞きなれたチョコボの足音、チョコナッツ号が草を分ける音、
ピュー―という鳥の声、ゲッゲッという何かの声、虫の羽音。
まだ平地なので30m先くらいは何とか見えるのだが、
それ以上遠くとなると大木の幹に視界を遮られる。
草も絡まるように生えているので、草の陰に何かが身を潜めていても
たぶんわからないだろう。
しかも、ほとんど全部28号には初めてみる植物ばかりだった。
緑の葉に迷彩模様のように黄色のぶちがある小さな木は、
遠目にはトラ柄のモンスターに見えたりする。
近づいて木と確認するまで28号は槍を握り締めていた。
もう、ドキドキしっぱなしなのだ。
後ろからさっきのタコ・・・デバウアーが
飛びついてきたらどうしよう・・・後ろばかりが気になる。
しかし、前も十分注意しなくてはいけない。
周囲の様子に気をつけているけれど、何を見て良いのかがわからない。
・・・変わったところ・・・だよな。
ケフカはチョコフレイク号のリュックの中から3分ほど頭を出していた。
しかし、お昼を食べたせいなのか、袋が心地よいせいか、
眠たくてしかたがない。
人間の頃より平衡感覚や嗅覚や聴覚は鋭くなったような気がするが、
いかんせん視力ががっくりと落ちた。
近くのものは以前より拡大して見える。
暗いところではすごく見える。
しかし、昼間で遠くとなるとがっかりするぐらいぼやけて見えない。
それに、排泄の間隔がものすごく近くなったようだ。
我慢ができない。水を飲むとすぐおしっこがしたくなるし、
何か食べるとうんこががまんできない。
動物は体の要求に対して我慢することがあまりできないのかもしれない。
袋の中には、どんぐりの器に水が入っている。
水は器の中にくっついていて、傾けてもこぼれないのだ。
のどもすぐ乾くし・・・。眠気にたえらえない。
ケフカは隣に入っている、もとお弁当箱のトイレで用を足すと、袋に入って
寝てしまった。
4mほど先にある藪の中から、蛇が顔を出しているのを28号は見つけた。
28号の腕の太さぐらいの蛇だ。
白い花が咲いている高さ2mほどの植物から、
70センチぐらい真横に頭を伸ばしている。
花は朝顔に似ていて、沢山付いていた。
蛇がちろちろと細い舌を動かしているのがみえた。・・・噛まれては困る。
チョコフレイクに乗った28号は遠回りしようとした。
しかし、何かが引っかかる。
あの太さの蛇は何に巻きついているのだろう?
重みがかかっているような枝が見当たらない。
ザン!という音がして、キマイラが花を散らして向かってきた。
「出たー――――っ!!」
28号は握り締めていた槍をキマイラに向かって投げた。
槍は左の後ろ足の付け根に深く刺さった。
木々を揺るがすような咆哮が5つの頭からとどろいた。
尻尾の蛇の頭も入れると12個の目が28号を睨んでいた。
少し遅いお昼を28号で間に合わせるつもりでいるようだった。
キマイラは28号の真正面の位置にいる。
チョコボよりも高い位置に首の長いドラゴンの頭がある。
その下にはヤギと獅子の頭、一番下は鷲と犀の頭・・・。
体の幅は2mくらい、頭の高さは2m20cmくらい。
顔でできた壁だ。
その迫力に28号は思わず逃げたくなった。
28号は剣を抜くとチョコフレイク号から、キマイラの一番上の頭に向かってジャンプした。
「逃げろ!チョコフレイク」
キマイラは太い前足でチョコフレイクをなぎ払った。
しかし、チョコフレイクのほうが一瞬早くキマイラの横へと飛び退った。
28号はキマイラのドラゴンの頭の付け根に向かって剣を刺した。
剣はあまり抵抗なく鍔のところまで刺さった。
キマイラは赤い翼をばたばたさせた。
重い咆哮が響いた。
28号はキマイラから転がり落ちるように離れた。
チョコフレイクとチョコナッツが10mほど離れたところにいるのを確認して、
背中から斧を抜くと、巨体へ向かって行った。
犀のような角の生えている頭に向かって斧を振り下ろした。
鈍い音がして頭が割れた。
鋭い爪の付いた前足が28号の体をかすめた。
俊敏な動きではない。
28号がこれなら避けられると思ったとき、首筋に妙な寒気を感じた。
振り返ると雪合戦で投げるような雪玉が、頭上後方から飛んでくる。
スノーボール!
28号は斧を構えてしゃがみこんだ。
あたり一面に雪玉が落ちた。
28号の左肩にも1個当たった。
しかし、ケフカのクリティカルつっこみほどのダメージはない。
後ろ足を引きずりながら、キマイラがこちらへ向かってくる。
28号はキマイラの鷲の頭に向かって斧を振り下ろした。
鷲の頭は地面に落ちた。
前足が再び28号を捉えようとするが、横に避けることができた。
そのまま右の前足の付け根に向かって斧を振るった。
キマイラの血が飛び散った。
そのまま走ってキマイラの後ろへと回った。
尻尾の部分から生えている蛇が、威嚇音をだす。
28号は慎重に間合いをとって、蛇の胴体に向かって斧を振るった。
何の抵抗もなく蛇の体は切れた。
キマイラがこちらを向こうとしている。
28号は斧でキマイラの背骨を断ち切った。
骨を絶つ手ごたえがあった。
キマイラの一番上にあるドラゴンの頭はぐったりとしていた。
しかし、まだ山羊の頭と、獅子の頭は動いている。
血を吐きながら、獅子の頭は咆哮を続けている。
28号は斧を獅子の頭に向かって力いっぱい投げた。
避けようとしたのか、獅子の右目から頭蓋にかけて斧が刺さった。
血が更に流れ、キマイラは足をがくりと折った。
28号はキマイラの体から、一番最初に投げた槍を抜いた。
そして、それを最後に残った山羊の頭に突き刺してえぐるように動かした。
血が飛び散ったが、始めのような勢いはなかった。
28号は槍を置き、斧を獅子の頭から抜いた。
ドラゴンの頭と獅子の頭を落とした。
「大丈夫・・・もう、大丈夫・・・。」
そうつぶやいた時、口の中がからからに乾いていることに気がついた。
眠っていたケフカは28号に起こされた。
「ケフカ様、キマイラを倒しました。」
ケフカはリュックから顔を出した。
「そうか、よくやったな。血まみれだぞ。
怪我はしていないのか?」
「どこも怪我はしてません。あれ、見てください。」
と、28号が指差した方向をケフカは見た。
キマイラの6つの首が、大きさ順に草の上に並べておいてあった。
コメントに困る光景だった。
「首を落としたのですね、わかりました。
なにはともあれ、お前が無傷なのが、偉いですよ。立派です。」
あまり褒めると、次も並べそうだ。
ケフカはさらっと流したのだ。
「はい、次も油断しないようにします。」
「血は葉っぱかなんかでふいておけ。
少しはなれたところで水でゆすいだほうがよい。
川があると良いんだが・・・。」
ウラにやわらかい毛の付いた葉っぱを、木からむしると28号はそれで、
剣や自分の体に付いた血を拭い落とした。
28号は今度はチョコナッツ号に乗り、西へ向かって森の中を進んだ。
ケフカは28号がさっきの戦いについて、喋るのを聞いていた。
リュックの中から小さな頭を出している。
うなづく姿もまたかわいらしい。
28号は興奮がまだ冷めないのかいつもより饒舌だった。
「・・・そうだな、28号。キマイラは初心者向きの敵ではないな。」
「やっぱりそう思いますか?」
「うん、普通の敵なら・・・首を落とせば一撃で死ぬのだけど、
頭ひとつ落としても他の頭が呪文を唱えてくるのではなぁ。」
「スノーボールが、一個僕に当たっちゃったんですけど・・・
ケフカ様のクリティカルつっこみほどじゃなかったです。」
「まぁ、あれはたまに即死する奴が出る技だからな。
それより、もう少し楽に倒せる方法を見つけたいものですね。
心臓をやりで一突きってのは血まみれにならなくて、
倒し方としては良いけどキマイラはでかいから難しいだろうし・・・。」
「次に出た時に試してみます。」
「そうだな、しかし・・・あまり無理はするな。
お前が死んでしまったら、僕ちんも死ぬ運命だろうから。」
ケフカの言葉に28号は動揺した様子だった。
「ど・・・、どうしてケフカ様も死んでしまうんですか?」
「お前には想像力が足りませんね。
パンがあっても、森の中は天敵がいっぱい。
チョコボから落ちただけで、私は骨折して動けなくなってしまいますよ。」
「あ・・・っ」
「残念ながら、僕ちんがねずみの状態で、何か食べ物見つけて
生き延びられるとは思えませんねぇ。」
「・・・・・・・。
僕、絶対、絶対に三日月山までケフカ様を連れてゆきますから。」
「そうしてくれ。28号。眠くなったから寝る。」
28号は、大事な人をまもるために、強くなろうと誓った。
そのためなら、毎回血まみれになっても良いと思った。
目を覚ましたケフカがリュックの中から、頭を出すとテントの中だった。
日はとうに落ちているようだったが、ねずみの視覚には暗いほうが楽だ。
ケフカはテントの入り口まで歩いていき28号を呼んだ。
「ケフカ様、夕食ができました。」
「香ばしいにおいがするな。」
28号は水を浴びたらしくさっぱりした様子だった。
さっきの強い血のにおいが消えていた。
夕食はパンとチーズと、ハコベのスープと焼いた肉だった。
焚き火の上に鍋がかけてある。
肉は金串に刺してその周りに刺してある。
「今日の夕食はちょっとゴージャスですよ。」
28号はケフカのどんぐりの器にスープをついで渡した。
ケフカは28号のひざの上でそれを受け取る。
「ふーん・・・帝国海軍のスープの素は陸軍と味が違うのですね。」
「おいしいですか?」
「いまひとつだな。」
と、ケフカは木の葉の上においてある肉を両手でつかんで食べ始めた。
「硬くてぼそぼそしてるな。干し肉をさらに焼いたのか?」
「いえ、サーロインです。わき腹はサーロインですよね?」
「サーロインは腰の上だ。背骨に沿って上から、ネック、肩ロース、
リブロース、サーロイン、ランプ、そとももだ。
サーロインとランプの間にヒレがある。肋骨の周りならバラ肉だ。」
「じゃ、ばら肉です。」
ケフカはいやーな予感がしたが、聞かずにはいられなかった。
「これ、キマイラの肉か?」
「そうですけど。」
「やっぱり。・・・・・・・・食ってしまったじゃないか。」
ケフカは嘆息した。眉間にしわがより、丸い目が吊り上って細くなっている。
「あんまり、モンスターを食うな。
毒のある奴とか、臭くてまずくて食えない奴が多いのだから。
おいしかったら、帝国城のメニューにでてくるだろう。」
「はい。キマイラには毒はあるのでしょうか?」
「・・・多分、動物ベースだから無いとは思うが・・・。
気持ち悪いから普通は食べない・・・と、思うぞ。」
普段こんなものを食わされたら、激怒するケフカだったが、
鼠の体では、怒る気力も湧いてこない。
「あははは・・・・そうですね。
でも、肉だけ見たらわからないかなぁと思ったんです。」
「むぅ、それは無理だぞ、28号。一日の経過は把握してるから絶対わかりますよ。」
「それに、肉と野菜を一日一回は食べるようにって、ケフカ様が言っていたから・・。」
余計なことを言ってしまった、とケフカはちょっと後悔した。
妙なところで生真面目な奴だ。
無性に毛づくろいがしたくなった。
「まぁ・・・言うには言ったが・・・。」
ケフカはハコベが浮いているスープを飲んだ。
「もしかして、スープのだしもキマイラか?」
「そうです。」
ケフカは急に消化が悪くなるような感じがした。
「普段ならクリティカルで突っ込むところだが、今日は、あまりまずくないので怒りませんよ。」
「今度から、材料は先に言いますね。」
「まあいい、鹿が獲れたら鹿を食べるはめになるのだしな。
お前、鹿はわかりますよね?」
「はい。」
「それは良かった。
・・・そういえば、肉はな、部位によって調理法が違うのだ。
全部適当に焼けば良いというわけではない。
まぁ、キマイラと牛が対応しているかどうかはわからんが・・・。
焼くなら、サーロインとかヒレとかロースで、煮物にするならバラ、
スープ取るならかたとかすねだな。」
「今のちょっとメモしておきます。」
「うん、今後の料理の向上に役立てるように。」
ケフカはテントに戻ると激しくグルーミングを開始した。
あとかたづけを終えた28号が、テントへ入るとケフカが丸くなって寝ていた。
目はグレーの線になっている。
起こさないよう静かに寝袋を二つ出して広げた。
そーっとつまんで、寝袋に入れようとしたらケフカが目を開けた。
「28号。退屈だ、遊ぼう。」
「ええっ、遊んでくださるんですか!?」
「といっても、カードはできんし
・・・なぞなぞとかしりとりでは僕ちんが圧勝するだろうから、走る。」
「走る!?」
「僕ちんが走りたいのです。」
ケフカは28号の手の甲の上を走った。
右手を横断すると左手を横断、
28号はケフカが落ちないように進行方向に次の手を出す。
ただそれを何度も繰り返すだけなのだが・・・。
「ふふふ・・・。面白いですー―――。」
28号にとってはかなり楽しい遊びのようだった。
「俺様も面白い。四足歩行がこんなに便利だとは思わなかった。」
「ケフカ様、あのー・・・・触っても良いですか?
その、毛皮があまりにも綺麗で上品で高級そうなんで・・・」
「うん、いいぞ。」
「わぁー・・・・。ふかふかだー。」
28号は左手の上で丸くなっているケフカの背中を何度もやさしくなでた。
「あまりなでられると、毛づくろいがしたくなる。」
「嫌でしたか?」
「それほど嫌じゃないが・・・。」
ケフカは大の字に寝転んだ。広がっても28号の掌の上からはみ出すことはない。
28号は指先でケフカの小さなあごをなでた。
気持ちがいいのかケフカは目を閉じている。
綺麗で可愛らしくてふかふか、妖精ってこんな感じじゃないのか・・・。
そう28号は思った。
お腹のほうの毛もふわふわしている。
毛の隙間から見える体は、うっすらとピンク色であたたかい。
小さな尻尾を確認する。
上には毛に覆われた白くて丸いものが2つ。
思わず指先でさわってみる。
「いたたたた・・・・・・。」
28号の指先からケフカがぷらーんと下がっている。
噛み付いたのだ。
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!!ケフカ様っ!!
痛いですぅー――・・・・。離してください。」
「フンっ!突付くな!馬鹿者が」
ケフカは28号の左の手のひらに着地した。
そして2本足で立ち上がった。
「大馬鹿者。みだりにつつくな!本気で噛み付くぞ!
知らないのか?ハムスターの渾身の一噛みってのはな、
激痛に三日三晩苦しんだあげく、
内臓が全部口から飛び出て死んでしまうのだぞ。」
「そんな生き物だったんですか!?ジャンガリアン・ハムスターって!
今のは渾身のひとかみだったんですかっ!
そんなぁー―――・・・・。ケフカ様―――――・・・・。」
ああ、さっきまでかなり幸せだったのに・・・と、28号は思った。
「フフン。手加減はしてあげましたよ。」
「じゃ・・・。そのうち、内臓が口からちょっとだけでてくるんですか!?」
「かもな。」
「うう・・・。」
本気で心配している28号の姿に、ケフカは笑いを抑えられなかった。
しかし、28号はそんなケフカの様子に気がついていない様子だった。
必死で口を押さえている。
「・・・・・つついて良いところと、悪いところがあるだろう28号。」
「さっきのあれ、なんですか?」
「タマだ、タマ!!お前なっ、自分の体より大きな手で、タマつつかれてみろ!!
腹立つぞ!!」
「すいません・・・。」
「わかればよいのだ。」ケフカは28号の手の上でグルーミングを始めた。
つづく
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