金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その3

                                  ZAZA9013

前回までのあらすじ

・・・・ケフカ様は謎の村の宝箱の中の石に触って、何とねずみに変身してしまった。
そんなケフカにふりかかるのは、自然界の弱肉強食の掟だった。

魔法もつかえず、「喋るねずみ」になってしまったケフカ。
そんなケフカをかばいつつ28号とチョコフレイク号とチョコナッツ号は
大三角島を横断する旅を開始した。

目指すは解呪の石がある、東大陸獣ヶ原南端の三日月山の頂上!!




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森を遠くに望む草原で28号はテントを張った。

荷物をテントの中にしまい夕食の準備を始めた。
防水布でできた折りたみのバケツの中に小麦粉とイーストを入れて発酵させる。

「ずいぶん大量に作るのだな。」
「3日分です。森の中にはモンスターが多そうですから。」
「僕ちんの分は気にしなくていいぞ。」
「え!?」
「・・・・あのな、この体なんだぞ。そんなに食べられるわけないだろう。」
首にさげた袋からケフカがあきれたように28号を見ている。

「それより、胡桃に穴が開いた。28号割ってくれ。」
「はい。」
胡桃は簡単に割れた。中身をケフカに渡す。
ケフカはそれをかじりながら言った。
「あ、あそこにはこべがある。とってくれ、あれ食べる。」
「食べられるんですか?」
「人間はあまりたべないがな。そのハート型の葉っぱの小さい花が咲いているやつだ。」

28号は、はこべをケフカに渡した。
ケフカはそれをかわいい両手に持つと食べ始めた。
「おいしいですか?」
「うまい、ねずみになればわかる。
28号も一日一回は野菜や肉を食べなくてはいけませんよ。
あと、水はブリザドで作れるから心配はないが、あまり塩分を摂らないのもいかん。」
「はい。・・・あの、ケフカ様。顔膨れていますが・・・。」

「ああ、これは頬袋だ。食べ物を貯めておけるのだ。
それより俺は自分の姿を鏡で見てみたい。テントの中なら安全だろう。」
「はい、僕はちょっと燃料になるものを探してきます。」



ケフカは鏡を見て愕然とした。

・・・・・・・・なんだこの生き物は!?

正面から見た自分の姿は2頭身だった。
立ち上がり、伸び上がっても4頭身になるかならないか・・・。
体に対して頭の割合が大きいのだ。
普通に4つ足でいると丸い。
ついでに尻尾がとても短い・・・というか、むしろ無いほうがましの長さ。

それに、ひげ・・・・。

人間の時の自分にはひげなど生えなかった。

ねずみというか・・・ねずみ以下な感じがした。
普通のねずみならもう少し体が大きい。
その上・・・2本足でたつより、4本足で歩くほうが歩きやすい。
それはかなりの屈辱だった。

顔の大きさに対して目が大きいから、28号は「かわいい」を連発していたのだな。
ケフカは自分の手をじっと見た。
毛がはえて、小さな肉球と小さな爪がある。
上を見ると以前は頭がつっかえそうだったテントの天井は、
今は遥かに高いところにある。

ケフカは深いため息をもらした。

そして、頬袋にためていた胡桃を再び口に戻して噛み始めた。
「くっそう人間に戻ったら、あの村・・・絶対、壊滅してやる・・・。」
そして、自分のリュックにするすると登ると服の間で寝てしまった。

「ケフカ様、どこです?パンが焼けました。」
28号の声にケフカはリュックから顔を出した。
「そうか、ひとかけらでいいぞ。」
「おいしそうにできました。」
28号は、深鍋でパンを焼いたのだ。
香ばしい匂いがテントの入り口から漂ってくる。

日は傾いていた。

パンとチーズと干し肉の旅人らしい夕食をおえると、
ケフカと28号はテントにもどった。

「チョコフレイクとチョコナッツは元気です。
特に怪我したり爪を傷めている様子はありません。」
「そうか・・・。」

28号は世界の動物・モンスター辞典を見ている。
「ケフカ様!ありました。これ、ケフカ様です。」
「・・・・・なんだ?」

ケフカが28号の開いたページを見てみると、
「ジャンガリアン・ハムスター」とかいてあり、
尻尾の無くて丸っこい小さなねずみの絵があった。

「僕ちんの種族が確定しても・・・・あんまり、うれしくないぞ。28号。」
「ははは・・・。そうですねー。」
28号は本をすぐにしまうと、寝袋を2つ出した。

「ケフカ様は僕の横で、アヒルちゃんと寝てください。」
「わざわざ寝袋出さなくてもいいのに。」
「いえ、そういうわけには行きません。何かあったら、寝袋の奥に隠れてください。」
「何も無いことをいのるよ。おやすみ。」

とはいっても、ケフカはすぐには眠ることができなかった。
なにしろ、昼からやたらと眠かったのだ。
夕方も一回眠ってしまったし。
もしかして、ハムスターっていうのは、夜行性なのか?
ひととおり全身の毛並みをととのえてから、ケフカは寝袋を出た。

ちょっと走り回りたくなったのだ。
人間から見えるとどうかわからないが、自分ではものすごい速さで走っている感じがした。

28号の周りを一周して、
かさかさと寝袋を登って顔のそばに近づいていてみた。
眠っている。
今寝返りを打たれるとつぶされてしまうと思いすぐに離れた。

その夜、ケフカは少し眠っては、走るを繰り返した。


次の日、28号は自分と荷物にレビテトをかけ、
早朝から旅を開始した。
自分とチョコボの消耗を避けるため、日差しの強い時間帯は
木陰で休む作戦だった。
発案者はケフカだ。

昼頃に森に着いた。
28号は、チョコボを休ませた。
そこらにはえている木の枝を小さく切るとケフカに渡した。
「木の枝か、ありがとう。」
バケツにはさっきブリザドで出した氷が入っている。
きつい日差しにゆっくりと溶けはじめている。
チョコフレイク号がバケツに頭を突っ込んで水を飲んでいる。

ケフカは28号のひざの上で木の枝を齧りだした。
「この木、甘いぞ。おやつ代わりになるな。」
「覚えておきます。」
28号はケフカの一挙一動を見守っている。

ケフカがグルーミングを始めた。
毛づくろいなのだが、人間が髪をとかすのとは少し意味合いが違う。

「あの、ケフカ様。・・・どこか痒いんですか?」
「ん?」
「その・・・頻繁にやってらっしゃるようなので・・・、
お風呂に入りたいならお湯を沸かしますが・・・。」
「いや、別に痒くは無いんだが・・・。
これしてると、なんか落ち着くんですよ。
・・・・・・そんなにしているのか?」

「ええ、見ていると5分に1回くらいはやっているような・・・。」
「ふーん・・・。僕ちんはそんなにやっている意識は無いのですがね。
きっと、ねずみの習性なのでしょう。今日も夜より昼のほうが良く眠れますし。」
「そうですか。」

ケフカのグルーミングは見ていてあきない。
28号は見とれていた。

片手が2本に見えるくらいの勢いで、背中のほうから整えていく。
お腹、背中、頭、顔。最後がひげ。
右の後ろ足で右の耳の後ろの毛をなでつけたりしている。
なかなか人間にはできないポーズだ。

今のケフカの姿は、とてもとても可愛らしいと28号は思っていた。
かわいいという言葉は、
変身したケフカのためにあるのではないかと考えてしまうくらいだ。

すいかの種のようなつぶらな瞳。
太陽の光を集めたような、細くて繊細な輝くひげ。
根元がうっすらと桜色の小さくて上品な丸い耳。
それに、白くてふわふわの毛。

背中にすっと通った、シルバーに光る毛。

こんなに手触りの良いものに触れたのは、初めてだった。

さ・・・さわりたい。
撫でさせてください、何でもしますからお願いします・・・と
言いたいのを28号は我慢していたのだ。

一方、ケフカはグルーミングの頻度を28号に指摘されて、
軽い自己嫌悪に陥っていた。

いかん・・・ねずみになりきっている。
木の枝かじって満足しているなんて情けない。

・・・・・・・・・・・それにしても、ねずみにとって袋って
あんなに心地よいものだとは思わなかったな。
袋のねずみというと、退路が無いという意味だが、ねずみになってしまうと
また意味合いが全然違うものだったのですね。

あの狭くて暗い大事袋が、気持ちが良くて安心できる。

あそこで丸まっていると、居心地が良すぎてつい眠ってしまう。
あんなものが、心安らぐパラダイスだったとは・・・
人間の時は思いも及びませんでしたねぇ・・・。
広いところへ出ると、何かに食われてしまいそうでえらく不安になってしまう。
これも、ねずみの感覚なのだろう。

いかんいかん、姿はねずみでも心までねずみになるわけにはいかん。
人間になってから、寝袋じゃないと眠れなくなったらイヤだからな。

ケフカは自分のひげを整えた。
ぼーっと見ている28号と目が合った。

――――こいつは・・・僕ちんの命を握っているという自覚はあるのか?

28号はふにゃふにゃとした笑みを浮かべた。
グルーミングしているケフカにすっかり心奪われていたのだ。

―――ないな、多分。

しっかりしてもらわねば・・・。


ケフカは28号の胸をかけあがり、大事袋へともどった。

「28号、そろそろお昼にしたらどうだ?」
「そうですね。」
28号は傍らに置いたリュックから昨日焼いたパンを取り出した。
小さくちぎると、ひとかけらをケフカに渡した。
水筒からそそいだコーヒーを自分とケフカの分にわけた。

ケフカの器はどんぐりの蓋。それでも多すぎるくらいだった。
ケフカは表面張力で盛り上がったコーヒーに小さな舌をつけた。
「うん。おいしいな。」
「よかった。」
「2時前くらいに出発しよう。森でモンスターが出たら、戦わずに逃げるのだぞ。」
「はい。」
「チョコフレイクとチョコナッツの足は早いから、よほどじゃなきゃ逃げられる。」
「はい。」
「やる気満々の大型モンスターが出た場合は、とりあえず槍でぶっ刺すのですよ。」
「はい。」
「じゃ、僕ちんはちょっと寝るから何かあったら起こすのですよ。」
「はい。おやすみなさい。」

ケフカは袋の中で丸まってとろとろと眠った。

「うわぁー――!出たー―――っ!」
28号の叫びにケフカはあわてて顔を出した。
「モンスターか?俺には見えん、どんなやつだ?」
「イカとタコと貝をたして3で割ったようなのがぁー――っ!」
「とりあえず槍だ。槍で刺して、投げられるようだったら遠くへほおリ投げなさい。」
「はいっ!!」

ケフカは袋から頭だ出している。どんなモンスターが出たのか確認したかったのだ。
28号が首にかけているからものすごく揺れる。
しかし、なぜか酔わない。

28号はケフカに言われたとおり槍を持って突進した。
森のほうから、貝殻を頭に載せたタコみたいなモンスターが現れたのだ。
見方をかえると、巨大なかたつむりの体の部分をタコにとりかえたような
形をしている。ぐるぐる巻いた貝の高さは40cmほど。

モンスターはタコの足で草むらの中をのてーのてーと移動してくる。
お世辞にも速いスピードとはいえないが、28号の経験上では
タコは海のものなのだから、森からやってくるだけで十分怖い。

28号は槍の先をそいつの貝殻と体の間にねじ込ませると、
思いっきり遠くへ放り投げた。

「投げました!ケフカ様。」
「そうか、ちょっとしか見られなかったが、なかなか気持ちの悪い奴でしたね。
ゆでてないのに、ゆでだこのように真っ赤でした。
モンスター辞典にのっているかな?調べてみよう。」
「はー――っ・・・怖かった・・・。」
「怖いだと、あんな奴がか?」
「ええ、もうドキドキして・・・、殺されるかと思った。」

そんなことはない、とケフカは思った。
28号が先にモンスターを見つけて、一方的に勝利していたじゃないか。

「あのなー・・・。お前のほうが絶対強いと思うぞ。」
「そうですか?」
「あたりまえだ。見かけが不気味だからってだまされるな。」
「はい。」
「まぁ、よくやった。
相手を倒すより、自分が消耗しないことを優先したのは偉いぞ、28号。」
「はい、ありがとうございます。」

「・・・僕ちんが戦闘すると、その場の敵皆殺し優先なので、
体力や魔力をムダに使ってしまうんだ。お前は理性的に戦える。自信を持つのだ。」
「はい。」

ケフカと28号は荷物を置いてある木陰に戻ると、生き物・モンスター辞典を開いた。
28号が開いたページの上にケフカはもそもそと移った。

「デバウアー・・・レベルにして21くらい 属性 なし 弱点 雷
たまに たこあしで全体攻撃をしてくる・・・タコなんだ。」

「レベル21ってどれくらいなんでしょう?強いんですかね?」
「デバウアーはいいが、この下に書いてあるキマイラってのが強そうだな。
レベルにして22くらい、ファイヤーボール・ブリザード・大旋風だって。」
「うわー――。こんなの出るんですか。こわいなぁ・・・。」

挿絵が小さくてわかりにくいが、蛇の尻尾に赤いドラゴンの翼、
毛深くてごっつい胴体に、破壊力満点の爪の付いたたくましい4本の足、
ヤギとライオンとワシとドラゴンと犀の頭が付いている。
見た感じがおどろおどろしい。

「頭5つに体がひとつ。蛇の頭を入れると6つ。
・・・喧嘩にならないんでしょうかねー。」
「フン、大昔の魔導士が適当に合成して作ったんだろ。
それが逃げ出して繁殖したんだ。
・・・多分コイツは、凶暴なだけでバカだ。怖がる必要もない。」

「そうですか?5人分ぐらいの賢さがあるんじゃないですか?」
「賢くて翼があるなら、こいつらきっと全世界にいるはずだ。
この島にしかいられないってことは、強くないんだよ。
バカな頭は5つあろうが6つあろうが、バカなのだ。
28号、お前が仮に5人いたとしても、僕ちんに頭脳で勝てるか?」
「かなりの確率で勝てないと思いますが・・・。」

「そういうことだ。コイツは絶対にお前以下だ。保証する。」
「はい・・・。」

おかしいな・・・。とケフカは思った。
怖いだと?28号は少なくとも1回は前線に出ているのに。
砦を魔法で破壊して、人間も何人か殺したはずだ。

チョコボにリュックを載せて出発の準備をしている28号に、
袋からケフカが話しかけた。

「28号・・・。おまえ、もしかして・・・
一対一でモンスターと戦ったことは今まで無かったのですか?」
「ないですよぅー。ケフカ様の魔力をアテにしていたから安心していたのにー。」
「・・・・そうか・・・。」
「もう心細くて心細くて・・・。森もおっかないんです。
何が出るかわからないし。
ケフカ様の指示がないと何していいかわからないし・・・。」
「・・・・・・・・・・。」

28号の目がちょっとうるうるしている。
急に一人旅をするはめになった子供と同じようなものなのだろう。
ケフカは小さくため息をついた。
姿は無力なねずみの上に、魔法も使えん、その上従者は人が良いだけの
阿呆ときている。
泣きたいのは僕ちんのほうだとケフカは思った。

「なるべく戦うな。お前は人間よりも基本的な感覚能力は優れているはず。
注意していれば、モンスターの接近がわかるはずだ。」
「どんなところに注意するんですか?それがわからないんです。」
「足音、鳴き声、におい、草を踏んだあと、木についている傷とか。」
「ああ・・・。はい。」

「チョコフレイクとチョコナッツの様子もよく見ていろ、
鳴いたりこっち見たりそわそわしたり
・・・何か感じていればいつもと違うはずだ。ま、経験を積むんだな。
しかし、ここに出てくるモンスターはバカだから、
先に攻撃して息の根を止めたほうが良いかもしれん。」

「あれ?なるべく戦わないほうがいいって、いま言っていませんでしたか?」
「方針変更!私を袋ごとリュックの中に入れてくれ。
モンスターがあらわれたら、先制攻撃して息の根をとめなさい。」
「はい、わかりました。」

「首を落とせ、背骨を叩き切れ!そうすればキマイラなんか一撃だ。」
いいながらケフカはチョコナッツ号のリュックにしまわれてしまった。



28号は未知の森の中へと入っていった。



つづく

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