金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その2

                                  ZAZA9013

前回までのあらすじ

帝国城の職員の陰謀で、東大陸視察旅行へといく羽目になったケフカと人造人間28号。
ややおまぬけな人造人間はなぜかケフカを敬愛しているのだった。

やたらと遠回りする銀の人魚号での船酔いに耐えられず、
東大陸が見えたら勝手に魔法で陸地に上がっていってしまったケフカ様と28号。

船から下りてもまだ揺れている感じがするなどとグチをこぼしつつ、
2人はモブリズへと向かった。

しかし、モブリズでは急なインフレが起きているのか、物価が異常に高く
町の人々も無愛想でケフカの逆鱗に触れちゃったのである。

町外れの祠に突入して、慰謝料がわりに何かもらおうとしたケフカは
そこの宝箱の中の物に触れてしまったとたん・・・・・



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薄暗い祠の中で、ケフカの姿が消えていた。
正確には服だけが残っていた。
黒い石は祠の壁際にころがっている。

「消えちゃったよぅー――っ!」
あわてふためく28号に向かってばあさんは一言――――
「自業自得じゃ」


「自業自得かもしれませんが、この町の人は意地悪すぎます!
一泊15万ギルとか、干し肉1万ギルとか・・・
モブリズって名前やめて『いじわる』って町にしてください!
そしたら、絶対来ませんから!!」

28号は、長い白髪にビーズを通した派手なばあさんに向かって一気にまくし立てた。
ばあさんは、耳の後ろを掻きながら怪訝な顔をした。

「あん?ここはモブリズではないぞ。ここは、サ・・・・名も無き村じゃ。
あんたらいったいどこからきたんじゃ?」
「ジドールのほうから来ました。東大陸の観光に・・・」
「おうおう・・・そりゃあ遠いところからわざわざ来なすったな。
じゃが、ここは東大陸ではないぞ。」
「え――――――――っ!?」

「東大陸の横にある大三角島じゃ。・・・・困ったことになったのう。旅の人。」
「それより、ケ・・・旦那様が・・・。」

「ここにいるぞ!!」
甲高い声が28号に聞こえた。
「どこです?どこにいるんですかっ!」

ケフカの服の中から一匹の白い生き物がもそもそと出てきた。
「小さくなった上に毛むくじゃらになったようだ・・・。」
「旦那様!?」

「どう見える?何の生き物だ?」
「かわいいですっ!!すっごくかわいいです。
背中に薄いグレーの縦線が入っているところなんか最高ですっ!」
「何の、と聞いているのだ。」

「ねずみみたいに見えますが・・・。かわいいです、旦那様。」
「ねずみみたいって・・・、ねずみなのか?」
「・・・・かなり、ねずみです。」
「・・・・・・・・。」

28号はすっかりねずみ?に変身してしまったケフカを手のひらに載せた。
全体的に丸い体つきで、ふわふわした短い白い毛が全体に生えている。
体の大きさに対して頭と目が大きくて、ぬいぐるみのようだ。
ケフカの丸い頭から一房伸びている長い毛は人間だった頃の名残らしい。
しかし、鼠の割にはあの長い尻尾がない。

「情けない。ひどいじゃないか。28号。
・・・もう、ここの連中ブッ殺して町ごと丸焼きだぁっ!!」

「鼠になってしまったようじゃの。お若いの。」
「このババアむかつくから殺してしまえ。28号。」
ケフカは28号の手の上で、二本足で直立して腕組みをしている。
「え・・・旦那様、ちょっと待ってください。元に戻る方法を聞いてからにします。」

「ほう、アンタは鼠の声がわかるのか?」
ばあさんは驚いたように言った。
「高くて細い声ですが・・・あ。」
28号は自分の可聴範囲が多少人間より広いことを思い出した。

「それより、おばあさん。元に戻る方法を教えてください。
でないと、僕、この町の人全員殺して、家を焼き払わなくてはいけません。」
28号の物騒な発言にばあさんは笑った。

「元気の良い若者じゃな。まあ、聞け。
・・・この村は昔からよそ者には冷たいんじゃ。
実はな、わしはどうも3日ほどまえからむな騒ぎがしていて、
何か悪いことが起こるのではないかとびくびくしておったのじゃ。」
「はぁ」
「とてつもない災厄が近づいているような感じがしてな・・・。
小さな村のことじゃ、わしがそんなことを口にしたのが
あっという間に広まってしまっての。
そこに、チョコボ騎兵のようなあんたらがやってきた。
もともと、何年もよそ者など来ない村だからのう・・・。
過剰反応してしまうのもしかたない。」

しまった、お年寄りの話は長いんだったと28号は思った。

「そこのところは、勘弁してもらいたいのじゃ。旅の人。
ここは人の沢山いる町とはちがうんじゃ。」
「はい・・・。」

ばあさんは一呼吸置いてからゆっくりと語りだした。
「その石には、さわると動物になるまじないがかけてある。
なんでも、大昔にいたずら好きな魔法使いが置いていったんだそうじゃ。
・・・・・・毎年、村の会議ではこの石を捨てるか、めずらしいから
とっておこうかと議論になる。
結局、貴重だからとっておくことになるんじゃが・・・
外の人がこんな呪いにかかってしまうようでは、やはり迷惑だから
重石をつけて海に沈めたほうがいいかもしれん。
なぜそんなものをすぐに捨てないのかと、よその人は疑問に思うじゃろう?
それは、呪いを解く方法があるからじゃ。」

「それが聞きたいんですが・・・。」

「20年ほど前のことじゃ。
おっちょこちょいの若者が、この石に触ってウサギになってしまった。
が、その男は人間に戻ることができた。今も生きている。
男は伝説にしたがって、
友人とともに東大陸の南端にある三日月山へと向かった。
その山の頂上には解呪の石という黒くて巨大な石があるのだそうだ。
それに触れると、もとの人間の姿にもどることができたと・・・
・・・・言っておった。」

「三日月山の頂上の解呪の黒い石にさわれば良いのですね。
わかりました。もしちがったら、もどってきて暴れますよ。」
「ここで嘘をついても、誰のためにも何のためにもならん。
今年は村の会議の議長は私じゃ。石は何とか処分するようにする。
・・・・・・・・・だから、お前さんたち、
この村のことは忘れて、もう2度と来ないでおくれでないかね。」

「ねずみにされて、あっさり忘れられると思ってんのかぁっ!くそババアっ!!」
ケフカは28号の手のひらの上から叫んだが、ばあさんには聞こえていないようだ。
「旦那様が人間に戻ったら、来ません。」
「28号っ!」
「だって・・・。町はいつでも焼けます。
でも人間に戻るほうが先・・・ですよね?」
「くぬぅうー――っ!ソレはそうだが・・っ」
ケフカは小さな足で地団駄を踏んだが、どうにもならない。

「東大陸へはこの島を谷沿いに西へむかうといい。
森を抜けると東大陸がみえるはずじゃ。
チョコボでも渡れる浅瀬があるそうじゃ。」
「はい。」

28号はケフカを肩に乗せ、服を持って祠を出た。
ふりむくと、ばあさんは2本の棒で器用に石をつまみ小箱の中へもどしていた。
ケフカは何事かつぶやいている。

「ぁアルテマっ!!」
「旦那様!」
「・・・・・・・・・・・・・最悪の二乗だ。魔法が使えない。」
「ええっ。」
「今の僕ちんは、どうやら喋るただのネズミらしい・・・。」
28号はケフカの服をリュックにしまった。
帽子もしまおうかと、ちょっと考えて自分で被った。

「声も人間には聞こえないようですし・・・。
でも、かわいいです。白くて、ふわふわしてて。」
「この場合、可愛いと言われてもちっともうれしくありませんよ。
おまえも、一回ねずみになってみろ、28号。」
「いえ、あの・・・、つぶらな瞳がとってもキュート。」
「・・・・・・。キュートって言われてもうれしくないぞ。」

「すぐに出発しましょう。旦那様。」
「そうだな。すっごく、悔しくて、むかついて、腹が立つしな。
こんな村、今度来たときは絶対丸焼きだぁ!」
2度と来なくてすみますように・・・と、願いつつ28号はチョコボに乗った。
あたりを見ると、村の人々が遠巻きにこちらを見ている。
やはり、感じが悪い・・・。

「チョコボから落ちるといけませんから、これにお入りください。」
28号は自分の首から下げているだいじ袋をケフカに向けてひらいた。
ケフカは28号の肩から胸元の袋へと移動した。
袋からちょこんと小さな頭を出している。

「やっぱり、可愛いです。」
「そうか?寝る前に鏡で自分の姿を確認してみようかな・・・。」
「びっくりしますよ。」
「もうびっくりして、うんざりしてるよ・・・。」

ケフカと28号は細い踏み分け道をたよりに、西へと進んだ。

一時間ほどすすんだが、森はまだ見えない。
草原が続いていた。

「28号、袋の中だと高さが低くて前がよく見えない。
帽子の上に上げてくれ。」
「落ちないでくださいね、ケフカ様。」
ケフカは28号の帽子の上に登った。

「グリップは人間の時より良いみたいだ。するする登れる。」
「僕が、ねずみになれば良かったのに・・・。」
「まあ、過ぎたことは仕方が無い。
もっともすごく根に持ってるし、一生忘れないし、復讐も絶対すると思うが。」
「僕、絶対ケフカ様を元に戻しますから。」

「うん、そうしてくれ。
・・・ここが東大陸の手前の島だなんてなぁ、全然気がつかなかったよなぁ。」
「そうですね。地図のとおりに海岸線に沿って進んだら町がありましたしねー。」
「詐欺にあった気分ですよ、まったく。」
詐欺の原因は、ケフカ自身にあるのだが・・・。


ケフカは帽子の上から周囲の地形を確認しようとした。
しかし、ねずみは視力が悪いのか、遠くのほうはぼやけて見えない。
空は晴れていて眩しかった。

遠くから鳶の鳴き声が聞こえた。
「鳶はどこにでもいるんだな。俺には見えないが。」
「5羽くらい飛んでいます。」
「どうせなら翼のあるものに変身したかったな。」
「翼ですか・・・」
ふと、28号は殺気を感じて帽子の上に手をかざした。
バサッと翼の音が聞こえた。

「うわーっ!!今なんか来たー!!鍵爪のついた足が見えたっ!!」
「鳶ですっ。ケフカ様っ大丈夫ですかっ!?」
28号はあわてて帽子を脱いでケフカの無事を確認した。
ケフカはいた。
ものすごい勢いで28号の首のだいじ袋にもどっていった。
「大丈夫だがっ・・・28号!あの鳥うち落とせ!!
僕ちんをおやつにするつもりだったのだ、絶対ゆるさん。」
28号は遠ざかる鳶に向かってファイアを唱えた。
鳶は、片羽根から炎を発してみるみるうちに失速していく。

「ケフカ様、鳶は落ちました。」
「そうか、よし。ちょっと止まってくれないか?
安心したらおしっこがしたくなった。」

28号はチョコフレイク号とチョコナッツ号を止めた。
ケフカを草むらに下ろした。
「僕もおしっこしておこうっと・・・」
と、28号はケフカを下ろした場所から3mほど離れた。

ケフカは小用をおわると、辺りをみまわした。
人間にとっては膝丈の草むらも、ねずみにとっては全く先の見えないジャングルだった。
黒いアリが一匹ケフカの前を横切っていく。
その大きさに寒気がした。

自分が小さくなったせいで、
アリの大きさが電話の受話器ぐらいのサイズになっているのだ。
ショックだった。

しかも、アリの胴体はよく見ると棘や毛がはえていて、
とてもグロテスクな代物だった。
口からはえている2本の巨大な顎もぎざぎざしてとげとげしている。
とても凶悪な武器に見えた。

人間だった頃はアリなど気にしたことはなかった。
しかし・・・・この状態でアリに噛まれたら、指なら食いちぎられて
腕でも骨まで達する重症になってしまうような気がした。

僕ちんは、どうやら致命的に弱い生き物になってしまったようだ・・・。

ケフカが頭をかきむしっていると、突然「ドスン」という音が近くでした。
ケフカはびくっと身をすくめた。

「ケフカ様、ケフカ様!大丈夫ですかっ!?」
頭の上のほうから28号の声が聞こえた。
「無事だ。今の音はなんだ?」
28号は地面から斧を抜いた。

「すいません。蛇がいました。」
28号の手に乗ったケフカが地面を見ると、さっきいたところから
1mほど離れた草むらの中に頭をつぶされた大きな蛇の死体があった。
「・・・・・・・・・。よくやった、28号。」
弱肉強食という文字がケフカの頭に浮かんだ。
それは太い文字で下線が付いて文字の色は赤と黒に交互に反転していた。

「ケフカ様、行きましょうか」
「28号、サラダの入っていた箱が俺のリュックにあるはずだ。
アレに草を詰めて俺のトイレを作ってくれ。
おしっこぐらいチョコボの上でできる。
・・・・・ねずみにとって地上は危険だ。」

「わかりました。そうします。」
28号はケフカのトイレを作った。

自分の体より大きな水筒のカップから水を飲みながらケフカが言った。

「あとなー・・・。俺サイズのカップとかどうにかならんかな?
これじゃ大きすぎるし・・・。
森へいったらどんぐりがあるだろ?あのふたを拾ってほしいんだ。」
「どんぐりですか。ああ、それなら丁度な大きさですね。
さすが、ケフカ様。
・・・そうですよね、これじゃ浴槽から水飲んでいるみたいですものねー。」
「うん、ちょっと大きいな。
あと、あせる気持ちはわかるが、チョコボを走らせすぎるな。
一時間に一回は軽く休ませろ。
爪や足におかしなところがあったら僕ちんに報告するのだ。
ま、チョコフレイクとチョコナッツにお前が交互に乗れば良いか。」
「はい、そうします。」

「レビテトは使えるよな?」
「はい。」
「お前と荷物にかけておけ。それで、チョコボの負担はかなり軽くなる。
思ったより長い距離を走ることになったからな。」
「あぁ!なるほど、そういう使い方もあるんだ。」
ポンと手を打つ28号。
「ま、応用編だ。そんなに感心するな。」

「あと、何か固いものはないかな?」
「?」
「齧りたいんだ。歯が伸びてくるような気がする。」
「胡桃があります。それで良いですか?」
「うむ。それを俺のいる袋に入れてくれ。さっきから急に眠い・・・。
何かあったら、僕ちんにすぐ報告するのだぞ。起こしても良いからな。」
そう言い終わるとケフカは28号のひざの上から胸を登って袋に入ってしまった。

「ケフカ様、胡桃です。一個で良いですか?」
「うん。とりあえず一個でいい。」

28号が胡桃を袋に入れると、しばらくガガガッという音が聞こえた。
5分ほど断続的にその音がして、すぐに静かになった。
チョコフレイク号に乗った28号がそっと袋の中をのぞくと、
ケフカは丸まって目を閉じていた。

「やっぱり、かわいい・・・・。」


28号はビスケットをかじりながら、西を目指した。



つづく