金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その1



金紗のベールとノクターンのあらすじ

ガストラ帝国の魔導士、ケフカ様が26歳ぐらいの頃のお話である。
帝国城でわがままいっぱいに暮らしていたケフカ様は、城内の人事課長らの陰謀により
高速艇「銀の人魚号」に乗せられて、東大陸へ行かされる事になった。

表向きは、年休消費のため、視察を兼ねた休暇ということではあった。
しかし、ケフカ様本人の意向を無視した「長い船旅」のおかげで、
ケフカ様は心身ともに弱り気味であった。

そんなケフカ様のお供は、ガストラ帝国の魔導研究所で製造された人造人間28号であった。
服従機ー操りの輪が壊れているので、廃棄処分になりかけたのだが、
そんなことは全く気にせずにケフカ様は、秘書業務から耳掃除までとこき使うのである。

東大陸へ到着する日の朝、遠くに陸地が見えただけで、待ちきれないケフカ様は
魔法でぶっとんで上陸してしまったのだが・・・・・。



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「おい!28号。おきろ!」
「あ、すいません。ケフカ様の寝顔見てたらつい眠ってしまいました。」
テントの中だった。

「3年ぶりの波が来たのだ!!」
「3年ぶり!?あ、アレですか!ケフカ様、ついに使用可能ですかっ!」
「うん、今ならおまえの望みをかなえられるぞ。」
「いいんですかっ、嫌じゃないんですかっ!?うれしいです。」
28号は急いで服を脱いだ。ケフカはなぜかすでに裸だった。

「ベクタ海軍のコンドームはゼリーつきなんでいいなぁ。陸軍もこれにすればいいのになぁ。」
「ケフカ様、痛くてもかまいませんから・・・。」
「あのさぁ、こういうの一回やってみたたかったんだけど・・・いい?」
「い、いいですけど。あっ。いやっ。」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ほんとはイヤじゃないですけど。
あ・・・あ・・・いやっ。いや・・・。」
形ばかりのイヤイヤを28号は繰り返していた。テントの中は暖かいを通り越して、暑くなっていた。
28号は自分の胸に汗が流れるのを感じた。


「おい!?」ケフカの顔が28号の目の前にある。
「うなされていたぞ。大丈夫か?」
ケフカの声にあたりを見回すと・・・・・・・・・テントの中だった。

「え・・・?あ・・・、は、はいっ。」
「お前でも悪夢をみるのですね。」
ケフカの薄いブルーの瞳がこちらを見ている。
「?」
なにがなんだか、28号にはわからない。さっきまでの抱擁の余韻が体に残っている。
とりあえず28号はきょろきょろするのをやめた。

「僕ちんは寝付けなくて、とりあえず揺れない地面を楽しもうと目を閉じていたのだ。
そうしていたら、横にいたお前のほうが先に寝たようだ。
いびきが聞こえて、歯軋りのきりきりという音が聞こえて、あーとかうーとか唸りはじめたのだ。
そのうち、何かしらんが、嫌だ嫌だと連呼しはじめてな、それがなかなか終わらない。
不気味なのでつい起こしてしまいましたよ。」

うぅひゃあぁ―――――っ!!

28号は恥ずかしさのあまり、地面にもぐってしまいたくなった。
人前でオナニーするのとはまた別の恥ずかしさだ。
「悪夢ってほどではなかったんですけど・・・・」
28号は耳や顔の血流が急に良くなった感じがした。
けれど、すぐに・・・・やはり、夢だったんだ。どうせ僕はケフカ様にとって、手帳とか消しゴムとか
そんなレベルの物体に過ぎないんだ・・・。マイナスの思いに引き込まれた。

「そうか。私の記憶のせいで、おまえまで悪夢をみるようになっては気の毒と思って起こしたのだが。
・・・・余計なお世話だったな。」
ケフカは寝袋から出てきた。
「いえ。余計なお世話だなんて・・・。それじゃ、全然眠れなかったんじゃないんですか?」
28号が自分のフィガロ製高級腕時計を見てみると、2時を少し過ぎている。
銀の人魚号を降りてテントを建てて、すぐに眠ってしまったようだ。

「腹立たしいことに、まだぐらぐらゆれる感じがするのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平らな地面に寝ているはずなのに。
体から船の揺れが抜けん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっかく陸地にいるというのに。」
悔しそうに言うケフカに28号は思わず吹き出してしまった。
「笑ったな、28号。お前は揺れる感じはしないのか?」
「しません。」

「なんか、負けた感じがするな。悔しいぞ。・・・やっぱりあの船は腹が立つ。
爆弾でも仕掛けておけばよかった。」
「エスナをかけてみましょうか?」
「いや、いい。もう横になってから3回もかけましたよ。
・・・船といえば、あの特別船室の枕、最初は高すぎて硬すぎて合わなかった。
少したってちょうど良くなったと思ったら、急に低くなりやがった。
それに、ベッドのスプリングもちょっといいかなと思ったら、すぐにへこんでぼこぼこになって寝にくくて辛かった。
ひどいものだ。・・・値切って安い製品入れて、建造費を着服した奴がいたにちがいない。
見ていろ、僕ちんがベクタにもどったら犯人をあぶりだして、でこぼこした鉄のベッドに縛り付けて3週間放置してやるっ!
やっとあの部屋のあのどうしようもない寝具たちから解放されてぐっすり眠れると思ったのに!くやしいぞ!!」

28号は枕とベッドの件には思い当たることがあるので、胸が痛かった。
僕のせいで、ケフカ様にひどく迷惑をかけていたとは・・・。けれど、今謝ってもさらにケフカは怒るだけだろう。
今にも船に向かって魔法攻撃しろなどと言われそうな雲行きに、必死でナイスフォロー策を考えた。
「ケフカ様。お昼にしませんか?お腹いっぱいになったら眠れるかもしれませんよ。」
「うん。そうだな。」 

ケフカがシートをテントの外に敷いた。
28号は船から下りる直前にポルタルーピからもらったお弁当の包みを開いた。
「うわぁ・・・この木の入れ物、特注でしょうか?」

薄い木で作られたお弁当箱には、かわいらしくデコレーションされたサンドイッチが沢山入っていた。
どう見ても4人前くらいの量だ。
白いパンの間には、レタスの緑色やトマトの赤、卵の黄色など、自然界の原色が収束されて収まっている。
まるで色の見本帳のようだと28号は思った。
厳重に封をされた木でできた使い捨ての器には、ぬるくなったコーヒーとブイヤベース。
28号はカップの蝋でできた封を剥がして、ケフカに渡した。

もう一つのお弁当箱には、サラダとチョコレートムース。チョコレートムースの表面は、さわると溶けそうな柔らかさ。
しぼりだした生クリームで飾りがついていて、まるで小さな王冠のようになっている。
サラダは、ポテトサラダと普通のサラダが入っていた。
夜に光りそうな薄い黄緑色のキャベツの千切りが、ふんわりと盛られている。
アクセントに紫キャベツと赤いパフリカと濃い緑のピーマン。

・・・ピーマン?

不吉な予感に28号は思わずケフカの顔を見た。

「じゃ、たべようか、28号。」
2人はいただきますをして食べ始めた。
28号がかじったサンドイッチは、鶏肉のソテーが入っていた。
向かいに座ってサンドイッチを一口食べたケフカが妙な顔をしている。
「ぐっ・・・。何だこれは・・・。」
「玉ねぎですか?」
「むぅ・・・。ローストビーフの間に炒めたセロリが入っている。」
「ええっ!?・・・僕のととりかえましょうか?」
「いや、大丈夫だ。茹でて蒸してあく抜きしているのかな?セロリの味はしない・・・。ただぐにゃぐにゃするだけだ。」
「そうですか・・・よかった。」

28号の脳裏を「ま、楽しみにしといてや」とかなんとか言っていた調理主任ポルタルーピの笑顔がよぎった。
そういえば、ケフカ様に怒られて左遷されたコックさんばかりがなぜか銀の人魚号には乗り合わせていたし。
やっぱり、何かの陰謀があるのかもしれない。

「む・・・。」
ブイヤベースの具をフォークでつついていたケフカが小さくうなった。
28号も自分のスープの具を確認した。頭のついたエビ、貝、そして白くて丸い輪。・・・・・・・・・・・・イカだった。

「基本的に海のものは生臭くて好きじゃないのだが・・・。白ワインが多いのかな?
ローリエと・・・なんだ、ちょっと辛い何かが効いていて、イカも柔らかくておいしいですね。」
28号はそれをきいてほっとした。

ケフカがあまり海のものが好きではないのには、さまざまな理由がある。
とはいっても白身魚は比較的すきなのだが・・・。
ベクタが南大陸の中央に位置しているため、鉄道が発達するまでは新鮮な海産物を
食べる機会があまりなかったのも理由の一つだった。
大抵の人間は「一度あたったことのある食べ物」に関しては、慎重になるし警戒するものだ。
ケフカのイカ嫌いには、そんな理由もあった。

「ケフカ様。これ、イカスミで炒めた何かのサンドイッチありますよ?」
「ん?いやあえて食べたいとは思わん。それは28号が食べるといい。」
28号はサラダを食べた。
ポテトサラダの中には、人参とピーマンが入っていた。

・・・これは、何の意図があるのだろう?やっぱりただの嫌がらせなのだろうか?
嫌がらせなら、普通に青臭くて苦いまま入れるはず・・・。食べながら28号はちょっと悩んでいた。

ケフカといえば、何も言わずにサラダとサンドイッチを交互に食べている。
「おいしかった。ごちそうさま。ああ、28号はまだ食べていろ。コーヒーは自分で開けるから・・・。」
ケフカはコーヒーに向かって何か呪文を唱えている。
ぽこぽこと泡が立ち、ケフカの希望の温度にあたたまったようだ。

「ムカツク連中だな・・・。」
ごちそうさまをして、サラダの入っていた箱を海に洗いに行こうとしていた28号は、ケフカの呟きに振り向いた。

「まずくはありませんでしたが、ケフカ様の嫌いなものばかりでしたね。」
「船のコックども、ずいぶんと工夫したものです。」
「そうですね、渋かったり苦かったりするものはなかったですねー・・・。」
28号はちょっと緊張した。
「下ごしらえをきちんとしてくれれば、私でも食べられるのに・・・。」
「?」
「くそう、やっぱり腹が立つっ!!」
「えぇ――――どうしてですかぁ?」ケフカの怒りは唐突すぎて、28号には理解できなかった。

「どうしてって・・・。あいつら僕ちんに向かって『本当は下ごしらえするとこんなにおいしいけど、
わざと今までしなかったんだよ。そんなこと、未来永劫してやらんからね。へへーんっ!』
・・・・こう言ったのと同じだぞ。これは。さりげなく僕ちんに宣戦布告しやがったのだっ!!」
「そ・・・、そんな奥の深いことがこのお弁当には隠されていたんですか?」
「そうとしか思えん。他に解釈の仕様が無い。」
「僕は、嫌いなものも食べられるようになったお祝いなのかなぁと・・・。」
「食べてはいたが・・・、やっぱり嫌なものは嫌だ。
ちくしょう・・・船の奴らめ・・・。絶対に許さん。帝国城の連中もだ。」
「あああ・・・。」

「もう、謙虚なんかやめだ、やめっ!馬鹿馬鹿しい!くそーっ。とにかくやたら腹が立つっ!!」
「謙虚なケフカ様も良かったのにー・・・。」
「ふんっ。船酔いで弱気になっていただけだ。僕ちんに、猫をかぶった連中の真似など似合わん!
やっぱり、粛清の嵐で恐怖政治なキャラクターが帝国城には必要だ!!俺は俺様の道を行くのだっ!!」
「・・・・・・・それはそれで、素敵です。ケフカ様。」
言い切るケフカに28号は同意するしかなかった。

「俺様の道を行くからには好きなことをする。・・・・そのサラダのお弁当箱、僕ちんが洗ってくる。
なにかに使えそうだ。意外と良い箱だ。」
「かまいませんけれど・・・。じゃ、僕はテントたたんでいます。すぐ移動しますか?」
「いや、今日はここで泊まろう。よく休んで明日出発したい。」

ケフカの希望でその日はそこに泊まることになった。
28号はモンスターが出るかとドキドキしていたが、特に何も現れなかった。
夜になっても、ケフカはなんかまだ揺れているような気がするとこぼしていた。
次の日、朝食を終えて、2人は一番近いモブリズの町へと出発した。
「この地図を見た限りでは海岸線に沿って南下するだけだ。
たいした距離は無い。いくらか保存食を買ったら、川沿いに北上してバレンの滝国立公園へいこう。」
「それほど遠くはないですね。」

ケフカはチョコナッツ号に、28号はチョコフレイク号に乗りモブリズを目指した。

ケフカはアワヅから受け取った旅行用の服を着ていた。
革のような丈夫な素材でできていて、肩と胸と腕に取り外し可能な金属の装甲が付いている。
しかし、色はこげ茶色。
金属部分もつや消しのこげ茶色なので、地味なことこの上ない。
それほど暑くないのでマントは羽織らずに日よけの帽子を被っていた。
やはり、それもこげ茶色。
アクセサリーの類は何もつけていない。
首の後ろでまとめた髪に孔雀の羽を横に挿しているのが、唯一のケフカらしさだった。
長い船旅で日に焼かれたせいで、ベクタにいたころの白塗りの呪術人形の面影は無い。
けれど、薄いブルーの目は相変わらず鋭い。

28号はケフカと色違いで黒い服だった。
両肩と腰のハーネスで背中にはシンプルな斧を装備し、長剣を腰に帯びている。
荷物の入ったリュックの上には小さな盾と、弓矢がいつでも取り出せる場所にくくりつけてる。
槍はケフカのチョコボから飛び出していた。

チョコフレイク号もチョコナッツ号も、胸と頭部にチョコボ用の軽い鎧をつけていた。
今にもモンスターに向かって突撃しそうな雰囲気である。
2人はただの旅人にしてはやや重装備だった。戦いを生業とする人種にみえる。

「ケフカ様、煙が見えます。人が住んでいるところまで来ましたね。」
「人がいるところでは私のことをケフカ様と呼ぶなよ。」
「どうして?」
「万が一どこかの国のスパイや、帝国に敵意のある奴に聞かれてみろ。命を狙われて旅が面倒になる。
素性がばれるとまずいだろう。」
「わかりました。で・・・、なんとお呼びしましょう?」
「旦那様、もしくはフカ様だな。まちがえないだろ?これなら。」
「旦那様・・・。じゃあ、僕は・・・奥様?」
28号の無邪気な問いにケフカはこめかみを押さえた。
「それ、本気で言っているわけではないよな。むうぅ・・・愚か者め。お前は28号でいいのだ。
どこから来たときかれたら、ジドールと答えるのだ。
家業をきかれたら、旦那様は輸入雑貨商の4男で珍しいものを探してると言え。」
「あの――、それ以上詳しいことを聞かれたらどうすれば?」
「僕は阿呆だからわかりませんと、正直に言え。」
「あっはっはっ・・・。それ、いいですね。それ以上聞けませんもんね。」
28号はしばらく笑い続けた。
「とにかく帝国の人間だとばれないようにするのだぞ。」
「はい、わかりました。」

ケフカは28号の言動がやや不安だったが、町で離れなければ大丈夫だろうと思った。


半日ほど進み、二人はモブリズの町に入った。
帝国首都ベクタに比べると、すごく田舎で、人がいなくて、貧乏そうな感じの町だった。
平野に農家がぽつぽつと見え始めたと思ったら、すぐに30軒くらいの集落に入った。
町の人に声をかけようとしたら、見慣れないよそ者を警戒してか、そそくさと家へと入ってしまった。
町と名乗るのもおこがましい小ささだった。
「宿屋、道具屋、武器防具屋・・・一通りは揃っているが、狭くて小さい。」
「旦那様のお部屋に入ってしまいそうですね。」
「小さな町だ。店でギルは使えるのだろうな。物々交換だったりして。」ケフカは笑った。

「ギルが使えないところがあるんですか?」
「大丈夫だと思うがな、食糧なんかはべ・・、あの町よりは安いはずだ。」
「なるほど。」
「それにここは獣ヶ原に近いから、掘り出し物の武器なんかもあるかもしれん。
そうだ、1000ギルおまえにやろう、好きなものをかうといい。」
「うわー、いいんですか?ありがとうございます。」
28号はケフカから1000ギルうけとった。
「うん。」
2人はチョコボを降りて、雑貨屋へと入った。

「・・・・・・」
道具屋のおばさんは、二人を見ても挨拶をする風でもなく、カウンターの中からじろじろと見ているだけだった。
「この干し肉はいくらかな?」ケフカが尋ねた。
「1万ギル。」
「一万!?本気でか?高すぎるぞ。」
「だ、旦那様・・・。高いですよ。」
「本当に1万ギルなのか?」
「嫌なら買わなくていいんだよ。さ、帰った帰った。」
無愛想なおばさんの勢いに二人は店を出てしまった。
「ケフ・・・、旦那様、ずいぶんここは物が高いですよぅ。」
「何故だ?あんなもの1ギルだろう・・・。」ケフカはしきりに首をひねっている。

「宿屋へ行ってみよう。宿の相場を聞いてみるのだ。」
二人は徒歩で宿屋へ向かった。道具屋から見える距離にある。

「宿泊したいのだが、一人何ギルだ?」
「15万ギル。」宿屋の親父は二人の顔をろくに見ずに答えた。
「15万だとー!?家が買えるじゃないか!この町はいったいどうなっているのだ!?」
ケフカの言葉に宿屋のおやじは冷たかった。
「ま、金の無い奴には用が無いってことだ。わかったら、さっさと出て行け。」
「こんな町、言われんでも出て行くわ!けっ、胸クソ悪い。」
ケフカは宿屋のカウンターを蹴り飛ばして出て行った。
おろおろしながらケフカのあとを28号が追いかけていく。
「人があまり来ないから暴利で荒稼ぎしてるんでしょうか?」
「むっかー・・・。」
気がつくと、さっきまであいていた道具屋も、剣・防具屋もシャッターを閉めて「閉店」の札が下がっている。
「フンっ!この町の連中は、よっぽど商売したくないらしいな。」

28号が、家を見ると、どの家の窓もカーテンが下ろされている。
が、町の人々がそのカーテンの陰から二人の一挙一動を見張っているような、敵意に満ちた気配を感じる。
「旦那様、なんかこの町イヤな感じですね。」
ケフカもそれを感じたのだろう。
「全くだ。さっさと出よう。」
二人はチョコボに乗ると、怒りと困惑を抑えきれないまま町を出た。


「あれが、モブリズなのか!?町というより寒村じゃないか。」
ケフカはまだかなり怒っている。少し離れたら、大きな魔法で村を焼き討ちにする予定なのかもしれない。
「吹けば飛ぶような町でしたね。」
28号はあからさまな不親切というのを受けたのが初めてだったので、あの町の人々がなぜそういうことをしたのだろう
かと理由を必死で考えていた。
普通、お店というのはお客に親切にするものだから、何か自分にはわからない原因があって意地悪なんだろう。
うーん・・・その原因は何だろう?まず・・・今の僕には思いも及ばないような事・・・かな。
ううう・・・・わからない。ん?いや、僕でも思いつくような事かもしれないぞ・・・。
僕にもわからないことだろうと定義してしまうと、それ以上考えが進まない。ここは一つ、(仮)僕にもわかる原因と
仮定してみる。そしたらわかるかな?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だめだ、思いつかない。なんだろうなぁ・・・。

町を出て5分ほどのところに小さな林があった。
「・・・・林の中になにかあるぞ、28号。」
「小さい家ですね。物置でしょうか?」
みだりに立ち入るべからずという看板がある。
「あれは、祠だ。この辺の連中の大事なものが入ってるんだろう。」
ケフカはチョコボを降りた。

「ケフカ様、どうするんですか?」
「旦那様とよべ。」
「すいません、つい・・・。」
「意地悪な東大陸のカス共が何を祭ってるのか、覗いてみるのだ。」
祠の入り口には鎖と南京錠がかかっている。
「旦那様、もしかして不法侵入?」
「斧の背で叩いて鍵を壊すのだ、28号。」
28号はあまり気が進まなかったがケフカに言われたとおりにした。破壊音と共に鎖ごと祠の扉が取れた。
「ナイス!28号。ふーん、ここは案外古いな。」
ケフカは祠の中へずかずかと入っていく。
「あのー、勝手に入って怒られませんか?」
28号もあとに続く。

「怒られるかもな。しかし、こういうところにはこの町にとって大切なものが納められている事が多いものなのですよ。」
「はあ。」
「壊すか捨てるか、何かしてやらんと気が収まりません!!」
「壊しちゃうんですか!?それ、悪いことじゃないですか?」
心配そうに28号はケフカに聞いた。

「この町の奴らの理不尽な仕打ちをお前も見ただろ28号!僕ちんには報復権がある!!」
「確かに変でしたけど・・・。何か理由があったのでは?」
「もう、うるさいぞ。追い剥ぎだって泥棒だって、なんにでも理由はあるのだ。
他人の理由などにいちいち左右されていたら、身包みはがられて殺されて、しまいには御遺体をモンスターに食われてしまうのですよ。
28号。世間とはそういうものなのです。普段僕ちんにあーゆー事をやったら、大体の奴は死んでるんだぞ。
・・・・・・それに比べればこれくらいどうってことは無い。」
「でも・・・。」

「ここで言い争う気はない。お宝があったら、僕ちんが慰謝料にもらってやる。
そうじゃなかったら、どっかに捨てるか、地べたに落として踏みつけて泥まみれにしてやる。」
ケフカは祠の中にある石造りの祭壇の上を探し始めた。
「えー・・・・。それで旦那様がすっきりされて幸せになるなら、僕もお手伝いします。」
「最初からハイといえばいいものを・・・。お、箱発見。」
古びた小箱には鍵がかかっている。手のひらに載るサイズだ。
ケフカが箱を振るとからからと乾いた音がした。入っていても指輪とか、そんな大きさのものだろう。

「古代文字っぽいものが彫ってある。『・・・・あけるべからず、ふかふか。』なんでしょうね?
これはぜひ開けてみなくてはいけません。」
箱は非常に古く、錆が厚く覆っていて古代文字は一部しか見えない。
「トラップとか大丈夫ですか?」
「平気平気。わくわくするなー」

ケフカは村での怒りを発散させるような感じで、箱を祭壇に叩きつけると、力任せに小さな箱のふたを開けた。
「んー・・・。何だ。石か」
どこにでも落ちていそうな黒い小石が一個入っているだけだった。ケフカはがっかりした様子だ。
「宝石には見えんが・・・」
ケフカはその石をつまんで、壊した扉から差し込む光にかざそうとした。

そのとき、「それに触っちゃいかー―ん!!」と、老婆の声が祠の中に響いた。
腰まである白髪にビーズを編みこんだ派手なばあさんが祠に飛び込んできた。

「ごめんなさい。」28号は反射的に謝ってしまった。
「ああっもう手遅れじゃ・・・。大変な事に・・・。」
「え?」

ゴトッと小箱が床に落ちる音がした。ケフカの姿が無い。
「ええええっ!?旦那様っ!?」
28号の声が祠の中にむなしく響いた。


金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録 獣ヶ原で遠吠えを その2へとつづく


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