金紗のベールとノクターンU 東大陸見聞録−獣ヶ原で遠吠えを その10 獣ケ原観光ホテル ZAZA9013 前回までのあらすじ 魔法もつかえず、「喋るジャンガリアン・ハムスター」になってしまったケフカ。 東大陸獣ヶ原南端の三日月山の頂上で呪いを解いて人間に戻ったけれど、 案外と落ち着いています。 ケフカ様人間復活記念皆殺しフェスタなどちょっとしか起きていないし! シルバリオのみみちゃんとはなちゃんを部下に加え、海で塩を作り、 エビを食べて北へと進みます。川を渡ってドマ領内に入ったら登山鉄道にのって 「バレンの滝国立公園」へ行くんだそうです。 ナルシェからフィガロへ行き砂漠を越えてコーリンゲン行ってジドールへ 行ってオペラ座にも行くなどと言っています。本当に行くんですか!? いくらなんでも半年じゃ無理でしょう? それに、まだ獣ケ原抜けてませんからあっ!(絶叫! 現在位置は獣ケ原南端に近い東海岸を北上中。 ケフカは28号に「獣ケ原の王様になったらどうです?」と、謎の提案をしたのだった。
========================================= 「そう、おまえが獣ケ原の王様になるのだ。」 ケフカがつぶやくように言った。 28号は自分の斜め前方を走るチョコフレイク号に、チョコナッツ号を近づけた。 「良いアイディアだと思わないか?28号。」 ケフカは美しい顔で28号に微笑みかけた。 「お言葉ですがケフカ様!どこが良いのか僕にはさっぱりわかりません・・・。」 獣ケ原の王様、つまり・・・ここに住まなきゃならない!? ケフカ様はやっぱり僕が邪魔なんだろうか・・・。 28号は胃も肺も肋骨も同時に雑巾みたいに絞られた感じがした。 この場合、絞られて出るのは汚水じゃなく涙だ。 「ふーん。これは話が唐突すぎたましたかね? ・・・この調子でモンスターの仲間を増やして、獣ケ原で一番強い群れを作る。 で、”獣ケ原自治区”などとモブリズ寄りの場所に看板を上げて 建物でも建てて、通行料を取るのだ。良くないか?」 「通行料?モンスターから?」 「主に人間だな。払えそうな何かをもってるモンスターには払わせれば良い。 ギルやアイテムなんか・・・。勤労奉仕でもいいかもな。」 「それ・・・皆払ってくれるでしょうか? 獣ケ原へ来る人は基本的にお金がなくて、命がけでお金を作りに来ているような 感じがするんですけれど・・・」 28号は川で金さらいをしていたおじさんの事を思い出した。 「んー、コストが安くて一見役に立ちそうなものを渡せば良いのだ。 たとえば、モンスター生息分布マップとか適当につくるんだ。 どうせモンスターなんか常に移動しているから絶対正確にはならない。 しかし、貰った時は“へー、なるほど、ありがたいな”と大感謝してもらえるぞ。」 「ケフカ様、それでは貰っても役に立たないんじゃないんですか?」 「うん、そうだ。金は取る、苦情は聞かん!この姿勢が大事だ。」 「えー・・・。なんだか恨まれそうですね。 その通行人から集めたお金をどうするんです?」 「そうだな、半分くらい帝国に納めて ・・・ホントはそれっぽちのギルも別にいらないんだが。 ”ガストラ帝国領 獣ケ原王国”と名乗る。つまり看板を書き換える。」 「残ったお金はどうするんですか?」 「そうだな、旅人用の避難所をたてるなり、レストランをつくるなり、 私腹を肥やすのもいいだろう。おまえが好きに使えばよい。 モンスターよけの塀を作るとかな?多少の設備投資は必要だ。」 「本当にいいんですか?その話。突然こんなところに帝国領が出現したら、 ドマやモブリズの人たちが怒りませんか?」 「そうかな?むしろ、ここに安全地帯ができて感謝されるんじゃないのか。 役所兼ホテルはどうかな?井戸掘って、水と食べ物がそこで確実に 手に入るようにするんだ。もちろん有料で。」 「そういう所があれば確かに便利ですね。」 「最初はホテルか避難所として始めるのだ。 そうだな、一人5000ギルくらいは取ってやると良い。 泊まらざるを得ない連中が来るのだから、それくらいでもバチは 当たらない。 うん、文句を言うような奴はモンスターの餌にしたって、どうせばれない。 多少の犯罪行為で小金を稼いでも、かまわんぞ。俺が許可する。 出だしは追い剥ぎや強盗でもいいんじゃないのか?」 ケフカは楽しそうだ。 「えーっ!、そんなの絶対無理ですよ。ケフカ様。」 知らない人をお金のために自主的に殺すなんて、28号はできないと思った。 以前の自分なら、できたのかもしれない。 今は、ケフカ様がそう願うならばできるだろうけれど……。 「良くないか?帝国は領土が増えるし、おまえは国王になれる。 それに、そこそこ金もうけもできますし・・・。 おまえならここでモンスターと共存共栄できそうだし、人間と話もできるし。 支配者として、お人よしで頭が良くないことを除けば適任ですよ。」 「王様なんて難しい事は僕には向いていません。 ケフカ様が王様になったほうが良いと思うんですけど。 僕なんかよりずっと頭も良いし、政治ができますし、知識も経験も沢山あります。」 28号は必死で断った。 「私はこんな田舎は嫌です。食べ物がおいしくっても絶対嫌。」 「ケフカ様・・・。」 自分が嫌なものを僕に勧めるんですか!? それを言う元気は急激に無くなっている28号。 「その点・・・ベクタはよかったなー。蛇口をひねるとお湯が出て。 食べたいものは何でも食べられて、トイレも水洗だし、音楽もあったし・・・。」 「ケフカ様が嫌な所は僕もいたくはありません。」 「ん・・・、そうですか。」 「はい。」 「けれど、ベクタもな・・・。僕ちんには息がつまる。 そのうち戻ると思うと嫌になるな。 ・・・・ただ、おまえにはそういう王様への道もあると思っただけだ。」 「その道は遠慮します。ケフカ様。僕には無理だと思うので・・・。」 「今は無理でも、この先はわかりませんよ。」 「僕はケフカ様と一緒にいたいんです。」 28号はもう一押しで泣き出しそうだった。 ケフカと離れるのは嫌なのだ。 「わかったわかった。あまり深い意味はないから、そう悩むな。 ただの思いつきですよ。おまえをここで解雇するという話では無いのだ。」 「はい。」 つまりこれはどういう事だろう? ガストラ帝国を離れて獣ケ原で独立生活をしろということなのだろうか? それができる可能性が僕にはあるという事なのか。 でも、どうしてそんなことを言うんだろう・・・。 やっぱり、僕は邪魔なのだろうか? 人間に戻ったケフカ様にはもう部下はいらないのだろうか? シルバリオのみみちゃんとはなちゃんと楽しく遊びすぎたのがまずかったのか。 そのあとでやったことがいけなかったのか。 それとも、モンスターを利用する発想がケフカ様の気に入らなかったのだろうか? 28号は暗あい考えばかりをぐるぐる繰り返していた。 しばらく草原を走っているとケフカが突然笑い出した。 「ふふん、俺様に刃向かう愚か者め。来るなら来い!ヒョヒョヒョヒョ・・・・」 それはセレイドホッパーの群れだった。 一直線にこちらへ向かって飛んでくる。 30匹くらいいる。 28号はDr.オーキッド著の動物・モンスター図鑑を結構見ているので、 モンスターの名前と弱点はそこそこ頭に入っていた。 セレイドホッパーは黄緑色の体の大きなカナブンで、 前足は蟷螂のような刃がついている。 口はクワガタのメスのように小さなはさみだ。 挿絵どおりのすがたをしている。 虫ーといえば防虫ネットを被ればどうにかなりそうなものだが、これは大きい。 羽根を広げた幅は1m半ほどあるように見える。 しかも、虫だからチョコボ2匹とシルバリオ2匹がいても 全く気にせずこちらへ向かって突っ込んでくる。 外骨格の体表面は黄緑色の金属光沢でぴかぴかしている。 28号はきらきら光る体に見とれてとっさに呪文を唱える事ができなかった。 ケフカの呪文で7匹のセレイドホッパーが火を噴いた。 28号ははっと我に返り、盾と斧を持ち呪文を唱え始めた。 ファイラで落ちてくれるだろうか!? 28号とケフカの呪文が発動した。 群れの大半が火を噴きながら地面に突き刺さった。 ぶーんと嫌な羽音が頭の上を通り過ぎた。 ケフカはチョコボを操り右へと進路を変えた。 群れは最初の三分の一ほどになっていたが、大きく旋回してこっちに向かってくる。 「上等、上等!」ケフカは再び呪文を唱え始め、チョコフレイク号をセレイドホッパーに向けた。 28号もファイラを唱えた。 二人の10mほど手前で群れの残りが火を噴いた。 1匹が炎を背負ったまま、ケフカに向かって飛んできた。 「!」 28号はチョコナッツ号からジャンプして、盾でセレイドホッパーを叩き落した。 火の粉と虫の体が飛び散った。 「ありがとう、28号。盾を出すのを忘れていたよ。」 ケフカは満面の笑顔だった。 「はい。」 「この死骸目当てに他のモンスターが集まる前にさっさと移動するのだ。」 「はい。」 ケフカ様を守れて良かった・・・28号は胸がドキドキしていた。 役に立った。やっぱり僕はケフカ様の側にいたほうが良いのだ。 コンパスで北を確かめてから2人は進み始めた。 ケフカはシルバリオを指差して 「い〜ぬ〜ぅ!役立たずの犬!おまえたち、吠えているだけだったな! 無駄飯喰らい!よわむし!魔法無し!犬!」と非難を始めた。 言い返すことも無くシルバリオたちは黙ってついてきている。 28号はシルバリオの弁護をしたかったけれど、うまい言葉が見つからないので 黙っていた。 1時間ほどケフカはシルバリオを罵倒しつづけた。 しかし、その内容は…犬に向かって犬と言っているだけだった。 その間に風景は草原から花畑へと変わった。 黄色いコスモスのような花が咲いている。 花びらは濃い黄色で、花の中心部がこげ茶色で少し盛り上がっている。 花びらの少ないひまわりとコスモスを足して2で割ったような花。 海辺のさわやかさは無くなり、夕方なのにちょっと蒸し暑い感じだ。 灰色の雲が速く流れ始めた。 「ケフカ様、この花はなんて言うんですか?」 「イエローコーンフラワーだ。」 「きれいですね。」 「まっすぐ北へ進んでいるからな、自動的に獣ケ原の内陸部へ入ってしまう。 多少は植物相にも変化はあるさ。」 ケフカはチョコボの上から背伸びをして回りを見ている。 「28号、10時の方角に林発見だ。少し早いが今日はあそこでキャンプしよう。」 「はい。」 「しかし、随分とでかい林だな。」 林に向かって20分ほどチョコボで進んだ。 「ケフカ様・・・、目標ですけど、林というか、あれは大きな木のようです。 なんか、黄色い実がなっているようですよ。 食べられるものだったら嬉しいですね。」 目の良い28号にははっきり見えるようだ。 「むぅ、どれどれ?」 ケフカは高級双眼鏡を取り出した。 「ほんとうだ、高さは30m近いな。幹はべらぼうに太い。バオバブの木みたいだ。 傘みたいに広がっているから一本の木が林に見えたのか。 しかし、あの木の下はいごこちが良さそうなんだが・・・う?」 ブゥーンという低いいやーな羽音が頭の周りにした。 さっきのセレイドホッパーとはまた違う種類の虫型モンスターだ。 ケフカの周りをぐるぐると飛んでいる。 ケフカは双眼鏡を目に当てたまま固まっている。 「ケフカ様、大きな蜂が飛んできました。」 「わかっている。あれはバグだ。体長45〜50cm、尻に毒針を持っている、 毒針には逆棘がついて抜けにくくなっていて、バグの体から抜けても毒の入っている 液嚢がポンプみたいになって毒を送り込む。 そのうえ、こいつらは蜜蜂と違って刺しても針が抜けても死なない。 針はしばらくするとまた生えてくるので何度でも刺せる。落ち着くのだぞ、28号。」 「は、はい。・・・あのう・・。」 「ちなみに毒は神経毒で刺されると凄く痛いが、エスナで対処可能だ。 その体液には誘引物質が含まれていて、うかつに一匹を傷つけると体液の匂いに 仲間がどんどんやってきて丸一日追い回されることになるのだ。 だから、斧で攻撃したりするなよ。あの木にはバグの巣が沢山ついている。 何百匹と出てきて追いまわされる羽目になるぞ。 奴らの縄張りに入らなければ大丈夫だ。 ここから離れるぞ。28・・・・・・号のバカーっ!!」 ケフカが双眼鏡から目を離すと、チョコボの足元に真っ二つになったバグの 死体があった。 「ご、ごめんなさい。」 「落ち着けといったろうがー!!でかい巣が鈴なりだったんだぞ!!」 「すいません、ケフカ様の解説が始まる直前に叩き落してしまいました。」 「冗談じゃない!!走って逃げるぞ。 斧にファイアをかけろ、多少は匂いが消えるかもしれん。」 「いつまで追いかけられるんですか?」 「あいつらは夜は飛べない、夕方まで逃げ切るか、水の中にでも入って ストローで息をするか・・・。」ケフカはチョコフレイクを西の方へ向け全速力で駆け出した。 28号はケフカに続いた。斧にファイアをかけたが気休めにしかならないようだ。 低い羽音が四方八方から聞こえてくる。 ケフカと28号とシルバリオたちを中心にバグが集まってきた。 数は100匹以上。羽音で耳がおかしくなりそうだ。 「くーっ雑魚どもめ、もう少し数がまとまったらファイガを全体にかけてやる。」 「ごめんなさい、ケフカ様。」 「お前は左側、僕ちんは右側のをやるぞ。 とりあえずファイアでかまわん。羽根がちょっと焦げればこいつらは飛べなくなる。」 ケフカは盾を構えて呪文を唱え始めた。 28号はシルバリオを振り返った。 みみちゃんとはなちゃんは必死で体を低くして走っていた。 一対一ならシルバリオのほうが強いだろうが、どうにもこうにも数で負けている。 バグは、一匹が急にちかづいて攻撃をすると見せかけてすぐに離れ、 それの反対側にいるものが本当に針を向けて攻撃を仕掛けてきた。 虫とは思えないほどのチームプレーを見せてくる。 ただ、セレイドホッパーのように突っ込んでは来ない。 突っ込んでこられたらケフカはとうにチョコボの背から落とされている。 ケフカがファイアを発動した。 つづいて28号もファイアを発動した。 範囲をものすごく広く取ったのでバグの羽根がほんの少し焦げただけだ。 しかし、何匹かは落ちた。思ったよりバグの羽根は炎に強かった。 「まだ沢山居る。これでは埒があかん、28号、全体にファイガをかけるのだ。」 「はい。」 「俺が前半分、お前が後ろ半分だ。」 ケフカのほうがファイガを唱えるのが早かった。 前半分を飛んでいる、見えるかぎりのバグに火の玉が当たった。 ケフカはバグの死体を避けてチョコボを走らせた。 28号の呪文でもバグが20匹以上落ちた。 しかし、炎のあとからまたバグがぶわっと湧いて出た。 チョコフレイクの速度が少し落ちてきた。 前後左右をバグが至近距離で取り囲んでいる。 ファイガでは間に合わない。 盾でバグを叩き落しながら、ケフカはファイラを発動させた。 また新たなバグの一団がケフカの周りに現れた。 「ああ!チックショウ!まだいるのか!?」 28号のほうがケフカより防御力が上だった。 槍を振り回しながらバグの攻撃に耐え、ファイガを発動させた。 バグは最初の半分以下の数に減ったけれど、あともう一回ファイガをつかったら MPが無くなりそうな気がする。 ケフカはとりあえずもう一度ファイラを唱える事にした。 冷たいものがケフカの額にあたった。 雨だ。 「28号、このファイラを唱えたら、あとはひたすら走りますよ。」 ケフカは盾で身を守りながらファイラを唱えた。 バグはかなりの数が落ちた。それでもまだ沢山飛んでいる。 「チョコフレイク!もう少しだ。がんばれ。」 「ケフカ様〜!僕、MPはまだあります。」28号は叫んだ。 ケフカ様は多分、塩作りに沢山MPを使ってしまったのだろうと28号は思った。 「いや、もう少し攻撃に耐えれば事態の根本的な解決を見る事ができるはずだ!」 「どうやってですか〜!?」 二人の周りをバグが高くなり低くなりしつつ囲んでいる。 魔法で仲間が散々落とされているので、近づいてはこなくなったが それでも4〜5mの間合いしかない。バグのスピードなら一瞬で攻撃が可能だ。 ざーっと音がして、大粒の雨が降ってきた。 バグは次々と地上に降りた。 雨はあたり一帯を洗い流すかのような勢いになった。 ケフカはチョコフレイクを並足にもどした。 振り返るとバグたちが地上で羽根を休めているのがまだ見える。 「斧を雨でよくあらうんだな、6時間ほどで誘引物質は消えるらしいと、 魔導研究所で聞いたことがある。」 「ケフカ様、すいませんでした。今度から話は落ち着いて聞きます。」 28号はひどく落ち込んでいた。 間違いなく自分のうかつな行動でケフカ様を危険にさらしてしまったのだから。 「うむ、そうしろ。しかし、遠くで気がついて良かった。 僕ちんはあの木の根元へ行くつもりだったのだから、 あいつらの縄張りに深く入り込んでから攻撃されていたかもしれんのだ。 ・・・まぁ、その場合はもっと数がやってきただろうし・・・。」 「はい。」 「以後、蜂系は魔法で落とせ。巣が近くにあったらヒドイ目にあうからな。 たしか、あいつらの縄張りは半径10km以内だ。 あと少し離れれば、おそらくついては来ないさ。」 「はい。」 「感心だな。犬どもはついてきているぞ。群れという自覚があるのかな?」 28号はチョコナッツから急いで降りた。 みみちゃんとはなちゃんの体を確かめる。 どこもバグに刺されていない。 「よかった〜。」 28号はゆっくり進んでいるケフカに追いついた。 なまぬるい雨の中、バグも大木もすっかり見えなくなった。 「向こうの隅に何か見えないか?」ケフカが北東の方を指差した。 雨で輪郭ははっきりしないが四角い岩のような何かが見える。 「木ではないようですね。何でしょう?大きなモンスターかも・・・」 「む、その可能性もあるが、向こうのほうが少し高くなっている。 これだけ平らだと雨が降ると洪水に飲まれそうで嫌だな。 今日はあの辺りにテントを張るのはどうだろう。」 「そうですね。風が強くなるかもしれませんし、何かの陰のほうが安眠できます。」 「何だか今日は疲れてしまった。早く休みたいぞ。 それにエビもとけてきているだろうし・・・」 28号はチョコナッツの上で耳を澄ました。 ベクタのような都市では、雨粒があたる音が色々ある。 薄い金属に当たってはじけるように響く音、石で作ったものにあたる時のつぶれるような音。 木の葉にあたって、大きな粒になって芝生へ吸い込まれるように落ちる音。 ここのように同じ植物ばかり生えているところでは、均一っぽい音に囲まれる。 チョコフレイクとチョコナッツとシルバリオたちの足音や、荷物ががちゃがちゃいう 音は聞かないようにした。 目を閉じて一生懸命に耳を澄まして、四角い岩のようなものがモンスターなのか それともただの岩なのかを感知しようとした。 特徴的な音が近づいてくる。 柔らかい響きのあるつぶれたような音、…その幅は7〜8m。近くに響く音の面と 遠くへ響く面がある。大きな雨粒になって落ちる音、その大きな 雨の粒が土にあたる音がした。それも近くと遠くへ響いている。 金属に当たるような音もする。 つまり屋根みたいになっている? そして、その周りに硬質なはじけるような響かない雨音が点々とある。 これは柵かなんかだろうか? 草に響く雨の音が自分の周りとちょっと違う。葉にあまり当たっていない。 地面に落ちる雨の音が多い。…草は短い。もしかして、草を刈っている? 28号は目を閉じたままケフカに分析結果を伝えた。 「ケフカ様、おそらくモンスターではなく、 人間が作った木でできた建物ではないかと思います。」 「ああ、僕ちんもそう思う。看板が出ているぞ。」 ケフカのチョコフレイク号が足をとめた。 28号は目を開いた。 木に針金を巻きつけた柵で囲ってある4軒の丸太小屋が目の前にあった。 高さが1m50センチほどの柵は有刺鉄線が三段の高さに張られている。 出没するモンスターの強さを考えると、とげとげの針金三本に囲まれているくらいでは とても有効とは思えない。 正面にある大きめの小屋には「獣ケ原観光ホテル」と下手糞な茶色い文字で書かれた看板 があった。 「人が住んでいるんでしょうか?」 「さぁな…。 こんな所に住んでいる奴なんて根性は立派だが、油断ならない感じがしますね。 面白そうだから泊まってみましょうか。 28号その有刺鉄線には触るなよ。」 「はい。」 ケフカは柵についている鐘を剣で叩いた。 28号はどんな特殊な有刺鉄線なのだろうと近づいて見た。 特に変わった所はない。 とげとげに毒が塗ってあるとか、側へ行くといきなり動き出すというわけでもない。 普通の針金だ。 手袋を脱いでそっと触ってみた。 「わっ!」「クエッ!」28号とチョコナッツが同時に悲鳴をあげた。 手がビリッと痺れたのだ。 「だから触るなといったろう…バカ者め。」ケフカがあきれたように言った。 「ケフカ様!これサンダーがかかっています!」 「旦那様と呼べ。ソレは多分サンダーじゃなくて普通に電気を流してるのだろう。」 「電気ですか?」 「そうでもなければ、こんな所にはとても住めん。お城のように分厚い石垣の塀が必要だろう。 少なくとも普通の人間ならそうするはずだ。 あの中にはちょっとは知恵の回るある者がいるようですね。」 4軒あるうちの一番大きな小屋から男が出てきた。 背はケフカより5センチほど高い。 全体的に筋肉質で胸板が厚く、目は柔らな水色で目と口の周りに皺がある。 生え際はやや後退しているが、緩いウエーブのあるこげ茶の髪の毛がふさふさしていた。 「ようこそ、“獣ケ原観光ホテル”へ。」男はもみ手をしながら挨拶をした。 「私は支配人のラッセルと申します。 お一人様一泊8000ギルで前払いとなっておりますが、よろしいでしょうか?」 「はっせんだと!?随分と足元をみられたものだな。この欲張りめ!」 ケフカは顔をしかめた。 「ここでの安全にはそれだけの価値がございます。」 「ふーん、そうかな?。 外側の柵に電気を流したぐらいでは、でかいモンスターの体当たりには耐えられんだろう。」 「いえ、他にも安全策として、お客様がたの通ってきた道以外の ところには満遍なく地雷が埋めてございます。」 「地雷?危ないな〜。どこでそんなもん作ってるんだ。 教えてくれたら泊まってもいいかな。」 「詳しい事は企業秘密ですが、爆薬はガストラ帝国、機械部分はサウスフィガロ製 です。」 「へぇー。なるほどね、いかにもな組み合わせだな。 しょうがない、ぼったくりだが泊まってやるよ。」 「注意事項はただ一つです。地雷の威力を試そうとなさらないで下さい。 黄色い杭がところどころ打ってあります、そこのそばが地雷の埋まっている所ですから 絶対に近寄らないで下さい。」 「わかった。」 ケフカは荷物からお金を取り出してラッセルに支払った。 「ありがとうございます。当ホテルは4棟で営業しております。 一番良いコテージへ御案内いたしましょう。 他にも独自のモンスター対策をしておりますから、御安心下さい。」 「ふーん。朝食とかフロとかはあるのか?」 「お風呂と台所は全室完備です。トイレは外にありますが。」 ラッセルはケフカのチョコボを引き一番はなれた所にある小屋へ向かった。 「チョコボと同じ部屋に寝るのか?」ケフカは尋ねた。 「チョコボは上の部屋で休む事になります。」 28号は嫌な予感がした。 小屋の高さはどう見ても一階建てだ。 屋根からチョコボの高さを引くと1m無いような感じがする。 とてつもなく狭いロフトなのだろうか? ラッセルが小屋の扉を開けた。ケフカはチョコフレイクからおりた。 みみちゃんとはなちゃんはおとなしくついてきている。 中は小さな台所と、木でできた椅子と机、チョコボの入る囲いと、バスタブがあった。 それと梯子が地下へと続いている。 「安全のため人間は地下で寝ることになっております。」 「ふーん。ま、小屋は倒れても死ぬ事はないかもしれんが…。 獣ケ原でチョコボを失うのは死に等しいことではないのか?」 ラッセルがチョコフレイクとチョコナッツを囲いに入れた。 「現在、他の小屋も地下室の拡張工事中でございます。 チョコボも一緒に地下へ行くとなると、 全体的に深く広くしなければなりませんもので。」 「ま、そうだろうな。チェックアウトは何時だ?」 「明日、日が暮れるまでに出ていただければ結構でございます。 延泊するならお一人様4000ギルになっております。」 「親切だな。」 「他にサービスのやりようが無いありさまですので。 何か御用がございましたら私の小屋に石でも投げてください。 すぐに参りますから。 そうそう、これは獣ケ原の川の流れの地図です。よろしければ、お持ち下さい。」 ラッセルはポケットから地図をケフカに渡した。 「それでは、ごゆっくりどうぞ。」 梯子のところから覗くと、地下室はむきだし土の壁だった。 少しひんやりとして静かなのだが、なんといっても窓が無い。 暖炉もあって煙突もあるから酸欠の恐れはないようだが…。 テントよりはましといっても…息が詰まる感じがするのは否めない。 「ちょっとまて、そいつらを下におろすのか?」 シルバリオを肩に担いで地下へ降りようとした28号をケフカは咎めた。 「だめですか?」 「うーん…。ちょっとまて、そいつらを洗ってからなら地下に行っても良い。 足が泥まみれだ。汚いぞ。僕ちんがお風呂に入ってからそいつらを洗え。」 「はい。」 ケフカはバスタブの蛇口をひねった。 砂と虫の死骸と一緒に水が出てきた。 「…これは…雨水か。虫と一緒に体を洗えというのか。」 ケフカはかなり嫌そうだった。 ぼうふらがふわふわとぬるっとした水の中を漂っている。 しかし、この水をすてて、更にブリザドで氷を出してそれを溶かすのは 時間がかかって面倒くさい。 結局、半分ほど水をためファイアでぬるくした。 水が怪しいのは我慢ならないのだが、早くお湯であたたまりたかった。 ケフカは服を脱いでバスタブに入ろうとした。 「うきゃーっ!?」ケフカは片足を突っ込んだまま叫んだ。 「どうしました!」28号が駆け寄った。 「フロの下に虫が沢山いる!!」 「ええっ!」 ケフカはいやーな顔をしながらぬるぬるするお湯に身を沈めた。 「僕ちんはこれ以上見たくないから見ない。」 28号がバスタブの下を覗き込んだ。 陶器でできたバスタブには短い足がついていた。 足の間に黒っぽい虫がうじゃうじゃいた。 バスタブの排水溝は床に埋めてある木の樋だ。 木の樋はそのまま小屋の壁を貫いて外へと繋がっている。 虫だけじゃなく蛇も入ってこられそうな構造だ。 「うわー…見なくて正解ですよ、ケフカ様。何百匹もいるみたいですね。 虫の足は片側に13本生えていて、全体の形は楕円形で 小指の爪くらいの大きさです。これは気持ちが悪いです。 僕が退治しますか?」 「むぅ、今サンダーを自分でかける。 そこから虫がわらわらと出てこられると 落ち着いて飯も喰えんし寝られなくなる。」 「そうですか?毒を持っているかもしれませんよ。」 「毒は無いだろうから、大丈夫だ。 お前の説明で何となく虫の名前がわかったよ。ありがとう。」 ケフカは高級化粧石鹸を手に取り体を洗い始めた。 サンダーをバスタブの足元にかけ、近距離すぎて自分も感電して激怒していたが、 虫の全滅を確認すると激怒はすぐに収まった。 ケフカの「ありがとう」を胸の中で何度もリピートさせながら、 28号は鍋にエビをいれ、かまどに火をつけた。 氷はほとんど溶けていた。 エビはすぐにゆであがった。 風呂上りのケフカは「うまい」を連発しながらエビを食べた。 28号とシルバリオたちもエビを食べた。 シルバリオたちは甲殻類を食べてもなんともないようだ。 28号があと片付けをしているとノックの音がした。 ラッセルだった。 「失礼いたします。こんばんは。これ、よかったらどうぞ。」 ラッセルが28号に差し出したのは、ワイン一本とギザールの野菜が二個。 「ありがとうございます。ラッセルさん。」 「いえ、お客様もチョコボもお疲れでしょうから、ほんのサービスです。 追加料金を取るような事はありませんので、御安心下さい。」 ラッセルは、雨の中自分の小屋へと戻っていった。 「ケフカ様、いただいちゃいました。」28号がワインとギザールの野菜をケフカに見せた。 椅子の上で体育すわりをしていたケフカはつまらなさそうにそれらをちらっと目をやった。 「ふーん。8000ギルだからな、それくらい当然だ。」 「ワイン開けましょうか?」 「いや、いらん。ギザールの野菜はチョコボにくれてやれ。疲れているだろうから。」 「はい、わかりました。」 チョコボは藁の寝床で丸くなっていた。 28号がギザールの野菜を置くとすぐにつつきだした。 「全く、人の弱みに付け込みやがって嫌な商売する奴だ!」 ケフカは地下へ続く梯子を見ながら文句を言い始める。 「ラッセルさんは親切なのではないでしょうか?」 「そうじゃない。8000ギルで地下の穴に寝るバカがどこにいますか!」 「ここに二人ほど・・・・」 「ぬぅ、うるさいぞ、28号。 おもしろそうだから泊まってみようなどと思うのではなかった。」 「ケフカ様は、モンスターが沢山いる中での身を守る方法を見たかったのでは?」 「それはそうだが。 けれども8000ギルだぞ。 おまえ、自分の日給が12000ギルだからといって 8000ギルを舐めているだろう?」 「たしかに、高いかもしれませんね。」 「高いかもだと?かもではない!暴利にもほどがある。 いいか、ベクタで一泊8000ギルのホテルといったら、 帝国城の私の部屋の4倍以上広いのだぞ! 眺めは良いし、家具もゴージャスで、クッションもふかふかで、お風呂は広くて、8000ギル。 天井はすんごく高くてシャンデリアがきらきらしていて、8000ギル。花瓶には綺麗な花がどっさり 入っていて、室内プールだってついていて8000ギルだ。」 ケフカは喋っている間に興奮してきたようだ。 「あの、ベクタとここを比べるのは、腹が立つだけになりそうですから やめた方がよろしいのでは・・・。」28号はケフカの怒りの原因を考えた。 もしかして、自分がさっき言っていた獣ケ原王国の宿泊料金よりも、ここが高かったのが 気に入らないのだろうか?8000ギルと繰り返しているし。 「そのとおりだな、28号。はっ、つまらん。 お前もさっさとフロに入れ。 そして、この犬どもを、ついでに洗ってやるのだ。」 「はい。泥だらけですものね。」 「それもあるが、一度もフロに入った事のないような獣に毎日僕ちんは 飛びつかれているのだぞ。こいつらに触られた後は虫でも移るんじゃないかと いつも嫌なのだ。チョコボだって水場へ行けば勝手に水浴びするのに。」 「わかりました、石鹸で綺麗にあらいます。」 28号が自分の体を洗い終わった。 ケフカはシルバリオ2匹をバスタブの側に呼ぶとスリプルをかけた。 普段のケフカからは想像もつかないのだけれど、 本当に“一度もフロに入った事のないような獣”に飛びつかれるのが 苦痛だったらしく、積極的に洗うのを手伝っていた。 「あとはタオルで拭いておけ。僕ちんは先に寝る。今日は疲れた。」 すすぎ終わったシルバリオたちを28号がバスタブの外に出すとケフカは梯子で 地下室へと下りていった。 28号は自分の体を拭いたバスタオルでシルバリオを拭いた。 そのあと蝋燭の灯りで再度チョコボたちの体をチェックした。 爪や足に異常がないことを確認すると優しくブラシをかけた。 一方、先にベッドに入ったケフカは、シーツと毛布がかび臭くてなかなか眠れない。 地下室の四方の壁は掘った土がむき出しで、今にもミミズが飛び出してきそうだった。 石で組んだ小さな暖炉と煙突らしきものはあるけれど、湿った匂いがこもっている。 地下室の天井の高さは2mあるかないか。 一階部分を支える丸太の柱が四隅にある。 床はベッドの周りだけ木の板が敷いてあったが、それ以外は土。 広さは3m×3m位の所に、小さなベッドが2つ入っているので狭苦しい。 梯子が真ん中の位置にあるので、更に狭い感じがする。 天井は一階部分の床になっていて、板の隙間から28号の持つ蝋燭の灯りが漏れてくる。 一階のゴミがすべて地下に落ちてくる仕組みが腹立たしかった。 これではモンスター対策の地下室とはとても言えん。 ケフカは目を閉じて無理矢理寝ようと試みた。 アヒルちゃんは枕の壁側に置いてある。 「・・・眠れん。」 28号が蝋燭を片手に下りてきた。 蝋燭を床に置くとベッドにどすんと音を立てて横になった。 「わあー。やっぱりベッドっていいですね。」 「カビ臭くてたまらん。これで8000ギルとは、喧嘩を売るも同然だ。」 28号は毛布の匂いをかいだ。 「あっ!本当だ。なんか嫌なニオイがしますぅ〜」 「そうだろ。折角フロに入ったのに、これじゃ台無しだ。 明日の朝この匂いが全身についているのかと思うと、今から嫌で嫌で仕方がない。 許さんぞ、ラッセルめ。」 28号は必死に対策を考えた。確かにこの匂いはかなりつらい。 その上、体につきそうだ。 「ケフカ様、朝になったらもう一回オフロに入ってはいかがですか?」 「ん?その手があったな。・・・・・・・そうしよう。 お前も時々良い事を思いつきますね。旅で賢くなったな。」 「ありがとうございます。ケフカ様。おやすみなさい。」 「うん、おやすみ。」 ケフカは蝋燭を吹き消した。 しかし、今度は頭の上からきゅーんきゅーんとシルバリオたちの鼻声が聞こえてきた。 「28号!あいつ等がうるさい。スリプルかけて寝せろ。」 「はい。」 28号は梯子をのぼった。 「みみちゃん、はなちゃん…どうしたの〜?眠れないんならスリプルをかけちゃうよ〜」 駆け寄ってきたシルバリオは、28号を踏んづけて地下室へと飛び込んできた。 「うわ〜!」ケフカの悲鳴が上がった。 「ケフカ様!?」はしごを一段下がってケフカの方を見た28号の肩にシルバリオの足が。 「あ、だめだよぅっ!」 28号の制止にもかかわらずシルバリオは2匹とも地下室へ降りてきてしまった。 「邪魔だ!こいつらっ!」ケフカは怒っている。 正しくは二人のベッドの上に降りてきたのだ。 「28号こいつらはベッドの足元の土の所に寝てもらうぞ! 俺は絶対こいつらと一緒には寝ないからな!」 「つ、土の上ですか?洗ったばっかりですよ。 ここはベッドを半分づつわけて寝てはどうでしょうか?」 「半分だと?」 「えーと、こちら側に人間。もう一個のベッドはみみちゃんとはなちゃん。」 「却下!」 若干下心のある提案だったけれど、ケフカにきっぱりと断られた。 28号は2匹のシルバリオにスリプルをかけるとベッドの足元に置いた。 シルバリオは石鹸の匂いを漂わせながら、すーすーと眠っている。 ちょっとの間に、たくさん顔をベロベロ舐められたケフカは、かび臭いシーツに 顔をごしごしとこすりつけた。 さっき風呂に入ったのが、余計に無駄になった!きーっ!!などと しばらく心の中でシルバリオを罵倒し続けた そして、眠りに落ちた。 けれど、眠りに落ちたケフカは、耳元でギーンという不快な音で目が覚めた。 魔導エンジンの唸りにも似た音だ。 …な、なんですか!?この上モンスターの襲撃かなんかではないでしょうね。 いくら、僕ちんの心が広いといっても、許せない限界というものがありますよっ! ケフカはあたりを見回した。 いや、見回したような気がしただけだったかもしれない。 身体が全く動かないのだ。 瞼はたしかに閉じている。 閉じているのにもかかわらず、暗い土壁や寝ている28号の姿がはっきりと見えるのだ。 ベッドの足元の方から、白っぽい半透明な手が幾つも伸びてきた。 ケフカの頭の中にいくつもの声がした。 「……く、くやしい……」 「…の…む……な……」 「苦しい……苦しい……」 「……げろ……に………げ……」 「……こんなところで………」 「…ど……ク………」 手はみるみるうちに人型になった。 ゴーストだ。 ケフカの胸や足の上にのしかかってくる。 重い。息ができない。 なんだこいつら!!そうまでして僕ちんの眠りを妨げるのかっ! それとも夢なのか!?消えちまえ邪魔ものども! ケフカはファイアを唱えた。 骸骨面のゴーストたちは一瞬に消えた。 目を開けたケフカは冷や汗でぐっしょりだった。 そのうえ、全力疾走の直後のように肩で息をしている。 骸骨に囲まれたくらいで怖がっていたのか…俺は。 なぜかわからないが、とにかくいらいらしてむしゃくしゃした。 一応はホテルのくせに、僕ちんの安眠を許さないつもりのようだ。 隣のベッドの28号が、がーがーいびきをかいて寝ている。 それも腹立たしい。 屋根を打つ雨の音が上の方から聞こえてくる。 「おい!28号!起きろ!」 ケフカは28号の胸の辺りにかかと落としを食らわせた。 けれど、実はクリティカルつっこみより破壊力は全然低いのだ。 「……はぃ〜?」 「斧をもて!」 ケフカの命令に28号は一瞬で目が覚めたようだ。 「えっ!?ど、どうなさるんですか!?」 「うるさい。俺は剣を持つのだ。ついて来い!」 ケフカは裸で梯子を上っていった。 28号もそれに続く。 真夜中の2時半すぎ、不穏な気配に目が覚めた獣ケ原観光ホテルの主ラッセルは そっと自分の小屋を出て、今日の客が泊まるコテージを見に行った。 そぼふる雨の中、コテージの前で、全裸の客二人が奇声をあげながら、剣と斧で打ち合っていた。 正しくは斧を持った召使は防御ばかりで、ありとあらゆる悪口を叫び続ける 主人の打ち込みにつきあっていただけなのだが…。 そんなところまでラッセルには見えなかった。 「……客層をまちがえたな……」 頭を振りながら、ラッセルは自分の小屋へと戻っていった。 20分ほど剣を振り回したケフカは、コレで疲れたからぐっすり眠れるはずと 地下室へと戻った。 28号は、斧と剣でこのホテルを破壊しろという命令ではなかったので、ほっとしていた。 つづく |