金紗のベールとノクターンその15 ZAZA9013
前回までのあらすじ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ガストラ帝国城でわがままいっぱいに、人事課長を困らせていたケフカ様は、
帝国城の職員の陰謀によって、銀の人魚号に乗せられてしまった。
任務は東大陸を観光すること、期間は半年。
船は苦手なケフカ様、部下は魔導研究所からパチってきた、人造人間28号。
みかけは大人でも中身は子供なので、はなはだ頼りない。
潜水航行実験で巨大イカに船が襲われたが、ケフカ様の魔法で脱出できた。
国内にとどろきわたっていたケフカの悪評は、船内のみやや払拭したのだ・・・。
しかし、自分の人脈の無さに気がついたケフカは、謙虚な人になってみることにした。
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ついにその日が来た。
天候快晴、無風、気温は27度。湿度は65パーセント。
それは、東大陸観光旅行をガストラ皇帝に命じられた、魔導士・・・
ケフカ・パラッツォが銀の人魚号から降りる日。
銀の人魚号が、ベクタのある南大陸へと帰路を目指す日でもあった。
浸水箇所は隔壁を下ろして「なかった事」にしながらも、
銀の人魚号は快調に進んでいた。
甲板の上には、旅装を調えたケフカと28号とチョコボ2匹が鎮座している。
ケフカはじっと前方の水平線を見据えている。
そのまわりで28号がおろおろしている。
「ケフカ様ー・・・。」
「なんだ?」
「あのー・・・。まだ8時ですよ。
・・・その、モブリズのほうへ到着する予定は15時ですから、お部屋でお休みになっていては?」
「船長もそういっていたな。でも、いやだ。早く陸に上がりたいのだ。」
「それはそうですけど・・・。」
「28号、アレを見ろ!」ケフカが左前方を指差した。
線のように陸地が見えた。
「ケフカ様!!あれが東大陸ですね!?」
「そうだよなっ!絶対そうだよな!!」
ケフカは呪文を唱え始めた。
ケフカにはいつもより船をおりたい動機があった・・・・・昨日のことである。
28号はケフカの代わりに船長のところへ、朝の挨拶に行った。
「船長、おはようございます。いやぁ、今日もいい天気で、海が荒れてなくてよかったです。」
セブロン船長はパイプを片手に、船長室の椅子に座っていた。
「おはようございます。28号さん。船は予定通りに進んでいます。少し早いくらいです。」
「そうですか、それは良かった。」
「ケフカ様の様子はどうですか?体調が悪そうだと聞いていますが・・・。」
「本当は少し悪いんですが、皆には言うなといわれています。
やっぱり、船には慣れないままで東大陸へ着いてしまいそうです。」
「ああ、やはりそういう人もいるんですね。」
「でも、船にのってからは嫌いなものも食べられるようになりましたし、謙虚宣言してからは・・・
自分でできることは自分でするとおっしゃって、何だかほんとにすごく立派な人に
なってしまって・・・・・僕の仕事がへってしまいましたが・・・これも銀の人魚号のおかげです。」
それは本当のことだった。嫌いなものが食事に出ても、文句を言わずに食べている。
ただし、嫌いなものを無理して食べているだけなので、食事の後トイレで吐いていることも
往々にしてあった。しかし、そのことで28号に対して当り散らしたりはしなかった。
着替えもお風呂も一人で行い、自分のベッドのリネンすら交換した。
船のクルーにも、無視することなく笑顔で語りかけ、礼儀正しかった。
・・・普通の人ならあたりまえだが、ケフカがそれをするということは奇跡に近い。
不穏な前評判に警戒ぎみだった船員たちも、かなりうちとけた感じで、ケフカと接している。
今では近くにケフカがいても不自然な緊張が走ることは・・・・あまり、ない。
「そのぶん28号さんが船の仕事を手伝ってくださるので、皆喜んでいますよ。」
「いやー・・・そんな・・・。
僕、船に乗るのはこれが初めてですから、いろいろ知りたいだけなんです。」
28号は壁の写真に目をやった。
「船長、前からききたかったんですが、これは船長のご家族ですか?」
「ジドールに妻と息子2人がいるんですよ。」
船長はパイプをくゆらせた。
「変なこと聞くようですけど・・・家族って良いですよね。
僕は家族がいる人って、いっつもうらやましーなーって思うんですけど・・・。」
「家族は宝ですよ。・・・28号さんも結婚してみればわかるでしょう。
まあ、いい事ばかりではないですが、悪いこともそうありません。
もっとも私は、いつも家にいませんから、・・・たまに帰ると喜んで迎えてくれるのが良いですねー。
ずっと家にいたら、喧嘩もあるでしょうけど、たまにしかいないから妻も我慢してるんでしょうね。」
と、船長は笑った。
「28号さんは、結婚のご予定は?」
「え!?いや、まだ、僕は早いですよ。」
船長の問いにうろたえる28号。
「そんなことはありませんよ。いつまでも一人というのも良くありません。」
「好きな人はいるんですが・・・・ダメっぽいんです。結婚の手前にも到達しません。」
「そうなんですか?それは相手に見る目がないですな・・・。28号さんはまじめだし、気が利くし・・」
「あんまり、褒めないで下さい、船長。照れます。」
ほめられるのに28号は慣れていない。
「そうだ。売店のバーブラが、こずかいかせぎに占いをやってるんですよ。
私は見てもらったことは無いですが、なかなかあたるという話ですから、
退屈しのぎに一度見てもらってはどうですか?」
「占いですかぁ・・・。僕、まだ占いってやったことがないんで・・・やってもらおうかなー。」
「売店が終わってからなら、いくらでも見てくれると思いますよ。
バーブラには私から言っておきましょうか?」
「いやーそんな、わざわざ船長さんが言いに行かなくてもいいですよー。
・・・自分で頼めますから。それでは、失礼しました。」
船長の申し出に恐縮した28号はそのまままっすぐ売店へと向かった。
バーブラは売店のシャッターを開けたところだった。
「バーブラさん。おはようございます。」
「おはようさん・・・いっやー、28号さん今日の一番客ですなぁ。
ちょうど今開けたところですわ。いらっしゃいませ。」
満面の愛想笑いをうかべつつ、バーブラはレジのほうへ回った。
「バーブラさん。仕事が終わってからで結構ですから、占いやってくれませんか?」
「東大陸へ行く前に運勢が見たいんですね?じゃ、今、やりましょう。一回10ギル。」
「今やって、売店が困りませんか?」
「占いは、本当は朝やるのがいいんですよ。」
「そうなんですか。では、お願いします。」
「5分お待ちを、店番を調達してきますので。」
「はい。」
バーブラは店を出ると船内のどこかへ行ってしまった。
28号は売店の前でぼーっと待っていた。
「28号。」
声にふりむくとケフカがいた。
「ケフカ様、大丈夫なんですか?」
「朝食を少しもどしてしまったが、落ち着きましたよ。
大丈夫です。少し歩いて足を鍛えておかないと・・・」
ケフカの顔色はだいぶ悪い。長旅に出ていいのかどうか、危ぶまれるほどだ。
船に乗る前に比べると、いっそう痩せてしまった感じがする。
ケフカの手の甲の静脈のすけ具合が、28号には気になった。
「バーブラさんが、占いをしてくれるんですよ。ケフカ様も見てもらったらどうでしょう?」
「占い・・・?ふーん・・・。
そういうのは私は信じないんですけど、退屈だから見てもらいましょうか・・・。」
「一回10ギルだそうです。」
「安いな。」
非番でごろごろしていたソレルをたたき起こして店番につれてきたバーブラは驚いた。
ケフカがいるのだ。
「バーブラさん。お客が増えたけどいいですか?」
「!?、ケフカ様も占うんですか?」
「そうだ。」ケフカはうなずいた。
「つたない占いですが、どうかおひとつよろしくお願いします。」
バーブラの言葉にケフカは笑った。
「お願いしているのはこっちなんだがな・・・。」
下っ端船員ソレルに店を頼むと、バーブラと28号とケフカはカウンターの奥の倉庫へと入った。
木箱や紙箱が天井まで積まれている。
その箱の間から縦横にロープが伸びていて、まるで洗濯物のように青いバナナが沢山かけてある。
そういえば、バナナは置いておくよりかけて保存するほうが長持ちするという話を28号は思い出した。
見るのは初めてだ。
バナナは、かろやかな緑色から濃い黄色にグラデーションがかかっている。
おいしそうかつ奇麗な色に28号は目を奪われていた。
「狭くてすいません。床に座ってください。」
バーブラは毛布を出してケフカと28号を座らせた。
「腰の調子が悪いというのに、手数をかけて悪いね。
・・・・・そういえば写真も撮ってくれましたね。
退屈な船旅の中での君の心遣い、非常に感謝しておりますよ。」
と、ケフカはバーブラに言った。
「いえいえ、それほど大した事はしておりません。」
謙虚モードのケフカに頭をさげつつバーブラは
占いのカードが入っている箱を出した。
箱から黒いビロードの布を出すと、毛布の上にひいた。
実は、バーブラは激しく動揺していた。
もとでいらずで10ギル丸儲けなので、店をやるより占いのほうが
懐の潤う効率は良い。
しかし、占う相手がケフカ様となると話は別である。
魔導士だし、皇帝の次くらいに偉い人だし、ある意味帝国の命運を占うに等しい。
いくら、最近丸くなったとか、実はいい人だったなどという皆の評判とはいえ・・・・
人間そんなに急に変わるものではない。
ケフカ様に逆らって即死した人間の数知れずという、ベクタの噂のほうが
よほど信憑性が高い。航海の出だしの時もあんなんだったし・・・・。
なぜなら、正面きって対峙すると、激しくいごこちが悪い。
別に顔の作りが悪いわけでも、こちらを睨んでいるわけでもないのに・・・・。
むしろ整った顔は穏やかに微笑んでいる。
なのに、かみそりの刃が自分の首に突きつけられているような感じだ。
ケフカは目つきが鋭いだけのただの若造とは著しく何かが違うのだ。
奸智にたけた野心家?凶悪な魔法を駆使する性格破綻者?
彼の印象を言葉にするとそれも近い。
ケフカの無色に近い淡い青色の目を見ると、
人間が覗いてはいけない暗黒の深淵を見てしまったような気がするのだ。
そう・・・なんともいえない嫌な気分に引きずり込まれる。
こういうときは、ひたすら喋りまくって乗り切るバーブラなのだが、
占いにも集中力が必要だ。場の沈黙が非常に重く感じられた。
「ケフカ様、では何について占いましょう。」
「東大陸での旅だな。・・・ま、悪かったからといって旅をやめるわけにはいかないのだが・・・。」
バーブラはビロードの上で占いカードを混ぜた。
ただひたすら悪いカードが出ないことを願いつつ・・・。
「ケフカ様、ではカードを混ぜてください。」
「うん。」
ケフカは両手でカードを混ぜた。
バーブラがそれを一つにまとめる。
「占いのカードの絵柄はわりとすきだな。私には意味はわかりませんが・・・。
一枚一枚に物語が秘められている感じで。」と、ケフカが言った。
「いやいや、私のはほんのお遊び程度でして・・・・。」
「遊びで10ギルは高いよなー。」売店のレジにいるはずのソレルが口を挟んだ。
余計なことを言いやがってこのクソガキは!という思いを込めてバーブラはソレルを一瞥した。
が、ソレルはバーブラの手元だけをみていて気がつかない様子だ。
「10ギルは占いの相場では高いほうなのですか?」
と、ケフカがソレルにたずねた。
「サウスフィガロのパブの姉ちゃんなら5ギルでやってくれましたよ。」
「そうなのか。」
「でも、あたんないんですよー。どっちかっていうと、お客はカード混ぜてる
姉ちゃんの谷間がめあてですね。踊り子の服着てますから。」
「サウスフィガロに行った事はあるが、それは知らなかったな。」
「ショーの合間で、お客が少ない時ならやってくれるんです。」
「ほう。」
「閉店まで粘れば確実だけど・・・・、船がたくさん入ると混みますからね。」
バーブラはカードをならべて、ひっくりかえしはじめた。並べられたカードは全部で7枚。
一同の視線がカードに集中する。
ソレルは一瞬、あれ?という顔をした。
「ケフカ様、このカードは過去を語るカードです。愚者が逆さになっています。」
「ふーん・・・愚者。愚者ねぇ・・・。」
もしかすると、ケフカはいきなり愚者が出たのが気に入らないのかもしれない。
ケフカの表情を覗いつつバーブラは語りだした。
「意味は愚行、無思慮、浪費、無規律、不親切、精神錯乱、凶暴、不節制、空約束、不安定、
冒険、転向、危険時期、興奮、新事態などです。」
「・・・・・いつもながら解説書棒読みしてるだけだなー。」と、ソレルが突っ込みを入れる。
ソレル、頼むから余計なこといわんでくれと、バーブラは思った。
「いいんだよ、この方が・・・よけいな解釈はしなくてすむし、深い意味は自分で考えるほうが・・・」
バーブラ苦肉のいいわけである。占いの中身を細かく突っ込まれると困るのだ。
「うん、私もそのほうがいいな、バーブラ。思い当たる節は沢山あるから。
新事態かぁ・・・。うーん・・・・。
28号、手帳はあるか?メモしておいてくれ、後でじっくり考えるから。」
「はい、ケフカ様」28号は手帳を取り出した。
「では続けます。これが現在を意味するカードです。塔のカードが逆さまですね。
意味は分裂、逆境、災難、悲惨、詐欺、突発事件、滅亡、終局、破産、未解決、
過去関係の放棄などです。」
「ううむ・・・・。逆境で災難で悲惨なのか・・・当たっているようだな。
たしかに仕事は中途半端だし、強引に船に乗せられた感じがするし・・・。
むううう・・・・・・・。」
ケフカは真剣な面持ちで聞いている。
「ではこれが近未来を意味するカードです。星のカードが逆に出ていますね。
希望、満足、輝かしい将来、運命、洞察力、被暗示性、将来への準備、過去現在と将来との混同、
最大の困難という意味です。」
「いいのか悪いのかさっぱりわからんな・・・。」
「ここが本人の取るべき手段です。運命の輪が逆になっています。」
「もしかして、このカードはさかさまになっているのは、悪い意味なのか?」
「全部が全部そういうわけではありません。意味が弱まったり、遅れたりとか
・・・逆になっているほうがいいカードもあります。」
「ふーん・・・で?」
「カードの意味は宿命、命運、不可避の事態、変化の接近、幸福、神の賜物、絶頂、結果、
問題の終結または解決の接近を意味します。」
「・・・つまり何かが起こる、それは避けられないとか・・そういうことかな?」
「まあ、おそらくそんなところでしょう」
「むぅ・・・。」
「では、これは周囲の状態を意味するカードです。正義をあらわすカードが正位置でています。
意味は、公正、公平、正当、均衡、調和、特性、名誉、正当報酬、誠意、善意の行動、
忠告などです。」
「私の周りには足を引っ張るような者はいないということですね?」
「ええ、大体そういう感じでしょうね。」
「ふーん・・・。」
「で、これが願望や姿勢を表すカードです。剛毅のカードが正位置で出ています。
意味は、勇気、剛毅、勢力、決意、挑戦、行動、自信、熱意、体力、精神主義、
征服、完遂、危険を伴う成功となっています。」
「ああ・・・、私は何かをやり遂げたいと気合いっぱいだということかな?」
「御自身でそう思われるならそうでしょう」
いい加減な解釈だなー・・・と、ソレルは突っ込みを入れたかったのだが、
ケフカの真剣なまなざしに茶々を入れるのをやめた。
「これが最終予想です。太陽をあらわすカードが正位置でています。」
「少しはいいカードっぽいようだな。」
「意味は、勝利、成功、幸福、完成、満足、温情、愛情、誠意、
友情、新しい友、献身、信認などですね。」
「まあつまり、満足するんだな。ふーん、そう悪くないじゃないか。
・・・そうか、やはり、この船に乗っている限り苦痛は続くのだな。
船から下りさえすれば、輝く未来が待っているんだな。」
ケフカはそう言った。
「ケフカ様、全部書きましたよ。」
28号は手帳を破ってメモをケフカに渡した。
「ありがとう28号。部屋に帰ってじっくり見る。」
ケフカは20ギル置いて笑顔で去っていった。
「あー緊張した・・・。」バーブラはカードを一つにまとめた。
「ケフカ様、ニコニコで出て行かれましたねぇー。あんな上機嫌を見たのは久しぶりです。」
「28号さん、やっぱ10ギルじゃ悪いから、胡桃一袋つけとくわ。」
「ありがとうございます。じゃぁ・・僕は恋愛を占ってほしいんですけど。」
28号は手帳を片手に、準備OKである。
「はい、それじゃカードをまぜるから・・・ってソレル、店番しろよ。」
「客が来たら行くからさ、見ててもいいかな?」
「僕はべつにかまいませんが・・・・。」
「ソレル、それじゃぁお前を呼んだ意味ないだろう・・・・。ま、いいけどさ・・・・。」
バーブラは再びカードを混ぜ始めた。
28号が特別船室へともどってきた。
「どうだったのだ?28号。」
「悪かったです。あまり悪かったので、バーブラさんが胡桃のほかにもだいじ袋をくれました。」
28号は兵士たちがよく首から下げている小さめの袋をケフカに見せた。
「ケフカ様、くるみ食べます?」
「ん?おまえが殻を割って中の薄皮もむいてくれた食べる・・・・・。
いや、私は謙虚になったのですから、やっぱり中の薄皮は自分で剥く。」
28号は、両手の親指で胡桃の殻を押した。
くるみは粉々に砕けた。
「力を入れすぎです。殻だけ割ってくれればいいのだ。縦に持つのだ。」
「はい」
パリンと胡桃はまっぷたつにわれた。
ケフカはくるみの中身だけ受け取った。
「で、占いはどうだったのですか?」
28号は無言で手帳を開いてケフカに渡した。
1過去ー法王(逆)慈悲・親切・善良・同盟・隷属・不活発・恐れ・躊躇・自身欠乏・逃避・非現実
2現在ー太陽 勝利・成功・幸福・完成・満足・温情・愛情・誠意・友情・新しい友・献身・信認
3近未来ー塔(逆)分裂・逆境・災難・悲惨・突発事態・滅亡・終局・破産・未解決・自信喪失・過去関係の放棄
4とるべき手段ー審判 決意・決定・結果・発展・賠償・懺悔・許容・弁解・回答・再調整・構成・好機
5周囲ー正義 公正・公平・正当・均衡・調和・特性・名誉・正当報酬・自己満足・善意・善意の行動・忠告
6願望ー死神 急変・意外な変化・突発事件・損失・失敗・破壊・終局・強い影響力・ずっと続く心の傷
7最終予想ー愚者(逆) 愚行・無思慮・浪費・向き率・不親切・精神錯乱・凶暴・不摂生・空約束・
不安定・冒険・転向・危険時期・興奮・新事態
「ためになるかと思って記録しましたけれど、これ見るたびにおちこみそうです。」
胡桃の殻をひろいながら、28号はがっくりと肩を落とした。
「・・・・こう単語をならべられても、さっぱりわかりませんが
・・・28号が一番いいのは今だけという感じですね。」
「こんなに悪いのは久しぶりだとバーブラさんに言われました。」
「うむ、やはり旅先では事件はつき物。何かあれば対応はきちんとしろということでしょう。」
「願望がよくわからないんですよ
・・・別に僕は破壊とか失敗したいとか思っているわけじゃないのに・・・。」
28号はかなりへこんでいる様子だ。
「うーん。今の気持ちの持ち方がいかんということかしれんが・・・・。
私にはそんなふうにはみえませんがね・・・。
おまえは妙に優しいところがあるから、それがいけないのか?
善良さに付け込まれて、誰かに騙されるとか・・・。」
「東大陸では、だまされないようにします。」
「うん、そうしてくれ。」
「でも、これ僕の恋愛の行く末を占ってもらったんですが・・・。」
「ふーん・・・。人造人間だからなー・・・。人間とはうまくいかないのかな?」
「えー・・・・・・・・・・・・・。相手はケフカ様を想定してるのですが・・・。」
28号はもじもじしている。
「私ですか?それは無理ですね。」
「ううーん・・・・。」
「だって、おまえは既に私のものだもの。所有物にそれ以上のぞまれてもねぇ・・・。」
「それって、一般的には良いんですか?悪いほうなんですか?」
「私にとっては別に普通ですね。」
「あああ、わからないですぅ・・・。」
「つまり、備品が喋ってるみたいなもんだな。」
「びひん・・・・?」
「たとえば、おまえは今、手帳を持っている。その手帳に好きだと言われる。
・・・・・・・困らないか?」
「手帳なんですか?僕は・・・。」
「枕でも、定規でも、ファイルたてでも消しゴムでもいいんだ。
たとえだ、たとえ。」
「消しゴムはイヤです。」
「いかにも消耗品すぎるものな・・・。ま、そういうことだ。」
「あああー・・、やっぱりわからないですぅ。」
「おまえが培養ベッドを出て人間の間で生活した時間って、合計して1年もないだろう?
世の中は、矛盾だらけでわからないことだらけで、あたりまえなんですよ。
僕ちんだって、26年くらい生きているが、全てを理解して納得して行動しているわけじゃない。」
「・・・・・ケフカ様でも、わからないことが沢山あるんですか?」
まず28号、おまえの頭の中が一番わからん、とケフカは言いそうになったが、
謙虚モードを思い出して我慢した。
「うん。」
「うーん・・・・・・・・。」
これ以上ケフカ様の事を好きになっちゃいけない、というような感じなので
28号はとりあえず安心した。
しかし、人間とはなんとも悩みが多いものだ。
ケフカ様ですら理解して納得しなくても、とりあえず行動しているなんて・・・。
と、28号は思った。
28号は、胡桃を旅用のリュックに入れた。
だいじ袋には写真を入れて自分の首に下げた。
ケフカは上機嫌で自分の占いのメモを見ている。
「ふふふふ・・・・ああもう、明日船から降りられると思うと嬉しくてしかたがありません。」
「うれしそうですね、ケフカ様。」
「そうだろう。ふふ、いい事を思いついた。」と、ケフカはベッドから立ち上がった。
「船のクルーの皆さん方に下船前の御挨拶をしてくるのだ。
お世話になったとか何とかいいながら、俺様の幸せな姿をみせつけてやるのだ。
そして、俺を殺しそこねた誰かさんに煮え湯を飲ませる思いをさせてやる!」
「挨拶回りですかぁ。動機がなんかアレですが、普通のえらいひとみたいですぅー。」
「ついてこい、28号!」
2人は勢いよく特別船室から出て行った。
そのころ厨房では、ポルタルーピはじめ、5人の料理人たちが
明日ケフカ様に持たせるお弁当のメニューについて論争中だった。
「ピーマンとかにんじんもここ一週間きちんと食べてるしのう。好き嫌いなおったんじゃないの?」
「ホントに治るものなのでしょうか?この機会に私は帝国城をクビになった仕返しが絶対にしたいのです。
だから、明日はイカとピーマンとにんじんとセロリとパセリは入れたいのです。」
「けど、お弁当にイカスミ味の何かって唐突すぎませんか?
やっぱり、帝国軍の高官のお弁当の定番となると、
ローストビーフサンドとサラダとデザートとスープっすよ。
それにパセリ食わないのは嫌いなんじゃなくて飾りだからじゃないっすか?
俺んときはタマネギのスライスが水でよくさらしてなくて苦いってクビだったし。」
「ケフカ様は食わず嫌いなんじゃなくて、食べて嫌いなんですから、我慢して食べているだけですよ。
敵を討つなら今です。」
調理主任のポルタルーピが発言した。
「んじゃぁ、こうしよ。フツーのメニューにして、ケフカ様の嫌いな素材を使う。」
「ま、それならいいでしょう。」
「そうですなー、好き嫌いが治っていたら、どのみち私達が何を入れてもおいしく食べてしまうしね。」
「あんた、あのケフカが好き嫌いなおったと本気でおもってんのか?」
「まぁまぁ・・・・。わざとまずいものを作って嫌がらせする、って案もありましたが、
皆さんそれは料理人のプライドが許さんってきっぱり断ったじゃないですか。
そんな腕の悪い料理人はこの中にはいないんですから、これが一番妥当な案です。」
「ポルタルーピさん、まとめるのうまいっスね。」
ノックの音とともに現れたのは当のケフカ本人だった。
「仕事中だったかな?」
「ケフカ様、何の御用ですか?」ポルタルーピはちょっとびくびくしていた。
さっきまでの会話をきかれていたら、ここから更に待遇の悪いところへと
全員確実に飛ばされてしまう。
「諸君らのおかげで、食事が苦痛ではなかった。
心から感謝する。
デザートがいつも美味しかった。
楽しみの少ない船旅で、君らの働きは皆に喜びを与えただろう。」
「!?、・・・・・・いえいえ、私たちはやるべきことをやっただけです。
ケフカ様こそ、どうかお気をつけて。良い旅になることを陰ながらお祈りもうしあげます。」
ポルタルーピが頭を下げるとケフカは厨房から出て行った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・だとさ。」
「どうします?ポルタルーピさん。」
「ま、方針はさっき皆で協議したとおりだ。」
「しかし、初めの頃にくらべると・・・随分と・・・感じかわったっすね。」
「君ねぇー・・・。騙されやすいって人からいわれませんか?」
「変わったって言っただけっすよ。」
「人間の本質なんてそうそう変わるもんじゃありませんよ。」
「なんだと!あんたなぁ、ちょっと頭良いからって、バカにすんなよ
いっつもえらそうにしやがって!」
「ふん、口の利き方をしらないガキだな。たいした仕事もできないくせに」
「まぁまぁ・・・・・、二人とも、おさえておさえて」
厨房はケフカが去ったあと、なぜか一触即発の雰囲気になってしまった。
ポルタルーピがあとで聞いたところによると、ケフカが挨拶に行った後の
部署はどこも似たようなことが起こったらしい。
そして、下船当日。
ケフカ様がすでに甲板の上で非常に待ちきれない様子だと
リージ中尉から聞いたポルタルーピは、お弁当をもって28号のところへ行った。
「28号さん、まだ下船の時間には早いと思いますが、お昼用にサンドイッチをお持ちしました。」
「すいません。下船するの、ケフカ様待ちきれないみたいです。」
28号はお弁当を受け取ると、とりあえずリュックに入れた。
「そんな感じですなぁ・・・・。」
そのとき、28号とチョコボたちの体がふわりと宙に浮いた。
「あっ・・・。」
慌てふためく28号。
「ポルタルーピさん・・・離れて!!」
くるりと振り返ったケフカはチョコボのたずなを片手で持ち、
28号に手をさしのべた。
「やっぱり待てない、出発だ28号。」
「もう行くんですか!?だって船は・・・」
ケフカは28号の服をつかんだ。
「僕ちんは下船したいんだぁーーーっ!!」
その時、轟音と共に銀の人魚号の右舷で巨大な水柱が立った。
船は転覆しかけた。
見張り台にいた船員と、ポルタルーピは落水した。
ケフカの魔法でおきた爆風に吹き飛ばされたのだ。
ケフカとチョコボと28号の姿は無かった。
28号は海面すれすれを飛んでいた。
目に風が入って開けているのがつらい。
陸地がみるみるうちに近づいてきた。
チョコボを見ると、足を曲げ、羽根を閉じて固まっている。
28号の位置からは、ケフカの表情はわからない。
きっと、満面の笑みを浮かべているのだろうと、28号は思った。
海岸の岩場を越えた崖の上で、ケフカは魔法を解いた。
28号が振り返ると、銀の人魚号は沖にある小さな点だった。
「ケフカ様・・・・。」
「28号。風当たりが悪くて、日当たりの良さそうな場所にテントを張ろう。」
「あれっ・・・出発しないんですか?」
「出発する前に揺れない場所でぐっすり眠りたい。」
「はい、わかりました。」
船がとってもとってもつらかったんだな・・・。かわいそう。
と、思いながら28号は平らな場所にテントを張った。
ケフカは寝袋を出して早速寝る準備をしている。
「チョコボは木につないで草をたべさせてやれ。面倒だが荷物はテントへ。」
ケフカは寝袋に入りながら28号に言った。
リュックを持ってテントに入ってきた28号はケフカに報告した。
ケフカの頭の左側にはアヒルちゃんがいる。
「双眼鏡で船のほうを見てたら、信号弾打ち上げていました。赤いの。
赤は非常事態発生だったような気がしますが・・・。」
「ふーん・・・。きっと、出発祝いの礼砲だ。さっさと帝国に帰っちまえばいいのに。
赤いのあげてお祝いしてるんだよ。」
「そうですか?」
「うん。28号は退屈ならその辺にモンスターがいないか見ておいで。僕ちんは寝る。
アヒルちゃんがいれば寝られそうな感じがする。」
船が気になった28号はもう一度双眼鏡で銀の人魚号を探した。
甲板と見張り台で紅白の旗を振っている。
もしかして、あれは・・・手旗信号? そういえば、そういう通信手段もあった。
けど、28号はあんまりおぼえていない。
野戦電話があったから、急いで覚える必要が無かったのだ。
必死に旗を振っている姿を見ていると、緊急事態、すぐ戻れ・・・といわれているような感じがした。
28号は再びテントに戻った。
「ケフカ様、船の上で赤と白の旗を振っています。手旗信号かもしれません。
僕、わからないので見ていただけませんか?」
「なに、私がいなくなったんで、お祝いしているのだ。気にするな28号。」
「ほんとうにそうですか?」
「そうだよ。紅白といえばお祝いに決まっているだろ。」
と、寝袋から手を伸ばしてケフカは28号の頭をなでた。
28号は、船が自分たちを呼んでいる気がして仕方がなかったけれど
それ以上ケフカに何か言うのはやめた。
ケフカは目を閉じた。
それは28号がひさびさに見る幸せそうなケフカの顔だった。
金紗のベールとノクターンU東大陸見聞録へとつづく!!
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