金紗のベールとノクターン その14 ZAZA9013
前回までのあらすじ
ガストラ帝国の魔導士ケフカ・パラッツオが25歳の頃のお話である。
ガストラ帝国城で、職員をクビにしてばかりのケフカ様は
帝国城の人事課長らの陰謀によって、東大陸を視察するために、
高速艇「銀の人魚号」に無理やり乗せられてしまった。
人使いの荒いケフカ様のお供は、魔導研究所からパチってきた
人造人間28号であった。
銀の人魚号の潜水航行実験中に巨大イカに襲われるも、ケフカの魔法で
辛くも脱出することができた。
しかし・・・
銀の人魚号は、浸水する水をポンプでくみ出しつつ航行している・・・という
事実に、船が嫌いなケフカ様は、
言葉にいいつくせないほど落ち込んでしまっていたのである。
・・・・船長にだまされた・・・・
次の日の朝、目が覚めたケフカが一番最初に思った事であった。
別に船長はケフカを騙したわけではなかった。
ケフカが一番気にするであろう、食事とシャワーに関してOKだという事を述べただけである。
それ以外の不必要な事は言っていない。
船長のつぼを押さえた発言が腹立たしかった。
船が水漏れしてると知っていたら・・・・絶対に戻ってこなかった。
これ以上ゆれるのも海水に沈むのも嫌なのだ。
もうなにもかも嫌だと枕を抱えているところに
ベクタ海軍の運動着を着た28号が戻ってきた。
「ケフカ様ーおはようございます。ゆうべは眠れましたか?」
28号のさわやかな笑顔すら、今のケフカには腹の立つ対象だ。
「・・・あんまりな。」
「僕はおなかがいたいのが直りました。あんなに下痢が苦しいなんて知りませんでした。」
「ふーん」
「ということで、腸きれいなんです。」
「おまえの腹の話など聞きたくないぞ・・・。」
「シャワー浴びたので肛門もきれいですが・・・。」
28号は今ならOKとアピールをしているつもりなのだが、
あいにくとそんなことはケフカには伝わらないようだった。
「肛門の話もだ・・・。顔を洗ったら、朝食へ行くぞ。」
ケフカは寝巻きからベクタ海軍の青い士官服に着替えた。
相変わらず、肩と胸周りがぶかぶかで、生地も硬いため着心地は最低だった。
朝食は黒パン、トマトと卵のサラダ、チキンのクリームスープにレモンのゼリーだった。
ケフカは何もいわずに食べた。
28号が朝食のお盆を下げた後、ケフカにたずねた。
「昨日から気になっていたんですけど、廊下の黄色いホースってなんなんでしょうね?」
「浸水しているのだ・・・。おまえ、行って修理を手伝ってこい。わかっているだろうが、余計な事は言うなよ。」
「はい、行ってきます。」
いつもなら船長に朝の挨拶に行くのだが、そんな気分にもなれない。
ケフカは甲板へとでた。
船尾のほうに、直径10センチぐらいの黄色いホースが伸びていた。
見たくないとは思ったが、確認せずにはいられなかった。
ホースは滝のように水を海に向かって排出していた。
「あァーーーーッ!もーいやだ。こんな船。もう、絶対乗らん!」
ケフカはホースの横に、頭を抱えてしゃがみこんだ。
「ケフカ様、大丈夫です。この船は沈みません。」
セブロン船長だった。
ケフカとは対照的に浅黒く日に焼けた肌と頑丈そうな体格。
現在のケフカの敵である。
「信じられんな。」
「船底のほうの隔壁を下ろします。それで通常航行ではこれ以上浸水することはありません。
いま、船底のほうの倉庫から荷物を移動する作業をしている最中です。」
「ふーん・・・。」
ケフカは疑いのまなざしで船長を見た。
「ケフカ様、皇帝陛下からお預かりした荷物をお渡ししたいということです。
魔導研究所のアワヅ博士が、いつでもよろしいですから来てくださいと言っておりました。」
「アワヅ?ま、あとでいってみるよ・・・。」
船長には1週間ぐらい寝たきりになって動けなくなるようなひどい事を言ってやりたいのだが、いかんせん隙が無い。ケフカが色々と苦情を考えているうちにセブロン船長は甲板から去ってしまった。
あとでといっても別に仕事があるわけではないので、ケフカは特別船室に戻ってしばらくごろごろしていた。
「ケフカ様ー!!」28号が勢い良く戻ってきた。
「ごくろうだったな。荷物は移動したか?」
「はい。それよりも・・・ケフカ様、知ってました?」
「何を?」
「この船、チョコボが乗っているんです!」
「ああ、そう。」
「もっ、すっごくかわいいんですよ!見に行きませんか?」
28号は両のこぶしを握り締めて力説する。
「チョコボか・・・。私たちが東大陸へいったら、きっとそいつに乗るんですよ。」
「そうなんだぁー!やっぱりそうなんだぁー!うれしいなぁー。」
「そんなに嬉しいのか?28号。しかたありませんね・・・・・
あまりチョコボは好きじゃないけど、退屈だから見に行ってあげましょう。」
ケフカは28号と一緒に特別船室を出た。
はしごを降りて下級船員の船室のそばの広めの部屋へと入った。
「うわ。」
28号がドアを開けると目の前にチョコボの顔があった。
一匹はチョコボ用の藤で編んだ大きな巣に入っている。
もう一匹は部屋の中をうろうろしている。
下っ端船員のソレルがあいているほうの巣に寝藁を敷いている最中だった。
「うわーかわいいー。ケフカ様。
こっちがチョコフレイク号、むこうの座っているのがチョコナッツ号です。」
「ふーん。生意気そうなくちばし野郎どもだ。」
ケフカはチョコボに触れることなく1mぐらい距離を置いている。
28号はチョコフレイク号の体を両腕でなでながらケフカにたずねた。
「ケフカ様、どうしてチョコボ好きじゃないんですか?」
「ん?だって、こいつら、僕ちんのことをつつくんだよ。」
鳥はつつくのあたりまえだろ、手がないんだから・・とそれを聞いていたソレルは思った。
「ケフカ様だけ多くつつかれるんですか?」
28号の質問にケフカは憮然とした表情で答えた。
「チョコボには何度もピアスを取られた。今は何もつけてないから安全だが・・・。
こいつらは光るものが好きだから、耳たぶの後ろからでも平気で狙ってくるんだ。
耳はパクッとされるとすごく痛いんだよ。
お前も一回チョコボにイヤリングとか取られてみろ。僕ちんの気持ちがわかるはずだ。」
「かなり痛そうですね。」
「そのために・・・いつかおまえにイヤリングを貸してやるよ。ヒッヒッヒッ・・・。」
「ケフカ様、怖いですー。」
チョコフレイク号は28号の腕をするりと抜けて巣にはいってしまった。
ソレルの寝藁を敷く作業が終わったのがわかった様子である。
見た目よりずっと賢いのだ。
「そうだ、アワヅが用があるらしい。エンジンのほうへ行ってみよう」
ケフカは28号を促した。
28号は巣に入ったチョコフレイク号の頭をなでてからケフカの後についていった。
魔導エンジンの制御室にアワヅはいた。
「ケフカ様、わざわざ来ていただいてすいません。」
アワヅは深く一礼した。
「で、東大陸での装備を今渡すのだな?」
ケフカは制御室の床の大半を占めている荷物の箱に目をやった。
「もうしわけありません。携行する武器を選んでいただきたいのです。
隔壁をおろしてしまうと、取りにいけないものですから。」
「こんなに沢山あるんですか?」
大き目の木箱が大小あわせて10個以上積んである。
「まず、見てください。」
アワヅは箱を次から次へと開けた。
片手剣、両手剣、スリング、モーニングスター、斧、ナイフ、鞭、ショートボウと矢、棍棒、ナックル、刃の長さが2mぐらいあるグレートソード・・・。
すべて黒でつや消しの塗装がされていて、刃の部分だけが銀の糸のように光っている。
見ただけで凶悪な感じのする武器だ。
「うわー、これかっこいい・・・。」
28号はモーニングスターを手に取った。
すかさずケフカが言った。
「それを振り回すなら俺様から離れろ」
「壁に気をつけてくださいね。計器の無いほうでやってください。」
「はい」
28号は頭の上で鉄球をぐるぐる回した。
ケフカは15センチぐらいのナイフを持っている。
「普段はこれで十分だな・・・。
まあ、もう一本軽い剣でも持っていれば、物取りも襲う気にはなれないだろうな・・・。
これでいいか・・・。」
と、細身の直刀を手に取った。
「ケフカ様、強そうですよ。」
モーニングスターを置いてグレートソードを握っている28号が言った。
グレートソードは2m近い長さがある。
「そう見えるか?お世辞がうまくなったな。剣は全然使えないんだ。
アワヅ、盾はないのか?小さい奴でいい。」
「はい、お出しします。」
アワヅは緩衝材の詰まった箱から黒くて小さめの盾を出した。
ケフカは盾をもった。
「ああ、軽くていいな。これ、魔導工場の試作品だな?」
「はい。魔法の属性をつけることができます。」
「なんとも地味で暗殺者みたいだが、まあいい。」
28号は狭い室内でグレートソードを無理やり上段の構えで持とうとしている。
「チョコボ騎兵をチョコボごと真っ二つにするんじゃないんだから・・・、
そんなデカイ剣いらないぞ、28号。」
「えー・・・、これ、かっこいいのに・・・。」
「戦争に行くんじゃないんだ。旅に出てくるのは強盗とおなかをすかせたモンスターだ。
モンスターは・・・そんなに強いやつは出てこないだろ。」
28号はしぶしぶグレートソードを箱に戻した。
「では、何を持てばいいんですか?」
「そうだなー・・・・。弓矢だな。糧食確保のためだ。」
28号は弓に矢をつがえた。
「こんな感じですか?」
「そうそう、それと・・・薪を割るのに斧。」
「これですか・・・」
28号が手にした斧は、柄の部分と刃の部分が一体形成されたごくごくシンプルな形のものだった。
これも全体がつや消しの黒い塗装がされている。
戦斧のようなとげとげもあちこちについていない。
柄の長さは70センチぐらい。
「なんか・・・地味ですね。」
「パレードじゃないんだ。目だってどうする。
あと、ナイフ大きいのと小さいの持てば十分だな。」
「・・・・」
「不満か?」
「うーん・・・かっこよく剣を持って歩いてみたいんですが・・・」
「ん?じゃ、俺の剣を普段おまえがもって歩けばいい。」
「それでいいです。」
「あと荷物に余裕があったら、槍をもっていきたいな。」
「槍ですか?」
「チョコボに乗っている時にモンスターに教われるとするだろ、槍だとチョコボから下りなくても良いから便利だぞ。」
「なるほど。」
「それに、洗濯物も干せる。」
「ああ、チョコボで走りながら干したら乾くのはやそうですものねー。」
「うん。では、そういうことで・・・。アワヅ、これで終わりか?」
「もうひとつ、皇帝陛下よりこれをお預かりしました。」
アワヅは一際厳重に梱包された箱の中から小さな袋を出した。
青いリボンがかかっている。
中には香水壜のような小さなガラスの小瓶が入っていた。
透明な液体が入っている。
「ああ・・・このリボン・・・。ふーん・・・・。リュックの底にでもしまっておいてくれ。」
ケフカは壜をすぐ袋の中にしまってアワヅに渡した。
「テント、寝袋、着替えなどはこちらにあります。ご確認を願います。足りないものがあったら、調達します。」
「こっちが私のですね。う・・地味な茶色・・・。」
ケフカは旅の服を見てちょっと嫌な顔をした。
「あ、僕、黒だ。」
28号はそこそこ満足しているようだ。
「マントもテントも生地の中にミスリルを蒸着してあります。防水でかなり丈夫に出来ています。
旅の服はライトメイル仕様になっています。肩と胸部のプレートは取り外し可能です。
洗濯するたびに機能は落ちていってしまいますが、
防水かつ体からの汗を蒸発させますので、多少暑い所でも脱がなくても大丈夫です。」
「試作品大放出だな・・・。」
「そんなにすごいんですか・・・みた感じ普通なのに・・・」
「これ全部特別船室で保管するのか?」ケフカが尋ねた。
「ロッカーに入ればそうしていただきたいのですが。」
「入るな・・・。壁の一面が収納になっているからな・・・。じゃ、28号あとはよろしく。」
そう言うと、ケフカは出て行ってしまった。
「あ・・・はい。」
28号は、両手に荷物を持とうとした。
「てつだいますよ。一度に一人で運ぶのは無理でしょう。」
28号はアワヅの顔をじっと見た。
彼の枯れ葉色の髪は見たことがある。
「君には悪いことをした・・・28号。」
「えー・・・すいません、思い出せないんですけど・・・魔導研究所あたりでお会いしているんでしょうか?」
28号はライトブルーの目をぱちぱちさせた。
「君が研究所から逃げようとした時に、他の人造人間を連れて行ったのが
私なんだ。あのときはすまないことをした。」
「そうなんですか・・・。僕、興奮していたんで覚えていないんです。
そのーーー、気にしないで下さい。・・・・僕が暴れたらみんな怖いですよね・・・。」
「私は、その時君を保存するのは反対だった。処分しようとしていた。
・・・しかし、よく考えてみる君が逃げようとしたのは当然だ。
君は人間と同じだとリサン博士が言っていたのが、当時の私には理解できなかった。でも・・・今はわかる。」
「そうですか・・・。」
「君は人間なんだ。人間らしくありたまえ。」
アワヅの言葉に28号は微笑んだ。
「余計なお世話かもしれないが・・・東大陸へついたら、隙を見てどこかへ逃げなさい。」
「ケフカ様と一緒に?」
「いや、君一人で、だ。ケフカ様は強いから、一人でも無事にベクタへ帰ってこられるよ。
心配する必要は無い。」
「でも・・・・。」
「東大陸のどこか・・・人里はなれた場所で、帝国とは縁を切って静かに暮らしなさい・・・。
多分、それが君のためだ。」
「それは・・・僕は・・・。」
28号はとまどった。
「ガストラ帝国は近々また戦争をおこす。・・・そうしたら、君は戦いへ行かなくてはならないよ。
たとえ、ずっとケフカ様のお供であっても。」
「・・・・・・・・」
「君の心はまだ子供なのだ。戦いにいけばつらいものばかり見ることになる。
君が傷つく姿を見るのはリサン博士も、私もつらいのだ。」
「・・・僕は・・・ケフカ様が好きなんです。」
「今すぐ決めろとは言わない・・・東大陸へ行ってからでもいい。考える時間は沢山あるはずだ。
君には・・・そういう選択肢もあるんだ。」
「はい、わかりました。アワヅ博士。
その・・・、僕のことより魔導機関に入っている幻獣を何とかしてあげられませんか?苦しんでいます。」
28号は思い切って頼んでみた。
もしかしたら、この人なら・・・と思ったのだ。
「残念だが・・・私にはなんともできない。
幻獣を兵器に利用するのは、ガストラ皇帝自身の強い御意志から始まっている。
この流れは帝国が存在する限りとめられない。
それに、いまあの装置から幻獣を取り外すのは物理的に難しい。」
「そうですか・・・。」
28号はがっかりした。
「期待に添えなくて申し訳ない。君が思うほど私には力がないんだ・・・。
私が研究をやめてもかわりの者が現れるだけだ。
他に何か私にできるようなことがあれば、なんでも言ってくれてかまわないよ、28号。
君の素性をしっているのはここでは私だけだから・・・。心配することは無い。
・・・・・・・・・・さあ、荷物を運ぼうか?」
「はい。」
その頃ケフカは、甲板にいた。
船首の手すりにつかまって、足元で別れる波を見ていた。
風はやや冷たく、空はうすぐもり。
いつもより船のスピードが遅いのか、揺れはそれほどでもない。
つい近くの海面を見つめすぎて、急に気分がわるくなった。
視線を空へむけた。
ケフカは冷静に現況を分析しようとした・・・。
しかし、思い浮かぶのは愚痴ばかりだった。
この旅は面倒なことになる・・・。
何が観光名所は見ておくようにだ・・・皇帝の奴・・・・。
僕がいなくなったら、本当は困るくせに。
ああ、もう、うんざりだな。
ケフカは28号のことを考えた。
28号・・・思ったより元気だったな。
何も考えていない割に前向きな奴ってのは、精神的なダメージを受けても
あまり尾をひかないものなのか・・・・?
俺なんかまだ嫌な感じから抜け切れていないのに・・・。
28号より俺のほうがよっぽど動揺している。
俺の一番強烈な記憶ってあれなのか?もっとすごいものを沢山見ていると思うんだが・・・。
腐敗の進んだ死体とか、部下に裏切られて殺されそうになった時の記憶とか・・・。
占領した村で夜襲を受けて、気がついたら火の海の中にいたとか・・・。
阿呆な奴に犯されそうになったり、夕食を食べようとしたら
テントに砲弾を打ち込まれたりとか・・・。
帝国城でおちついた生活ができるようになったのは、ここ4−5年のことなのに・・・。
それでも、忘れた頃に暗殺者が帝国城の壁を登ってくるのだから・・・・始末におえないな。
俺の記憶は嫌なことばかりだ、暴力と殺戮と怒りばかりがぎっしり詰まっている。
普通に楽しいことが少ないんだろうな・・・・。
どれが28号のところへいっても、やっぱりあいつは泣いただろう・・・。
体は大きいけど頭の中は子供だからな・・・。
能力は人間以上なんだけどどう考えてもあいつはすぐ死にそうなタイプだ。
あまり情けをかけると・・・別れる時がつらい・・・。
それこそ、きれいな姉ちゃんに毒入りのお茶をだされたら、何の疑いも無く一気飲みする感じだよな。
相手を信用したまま、なんで死んだかわからないうちに死んでしまいそうだ。
ポイゾナ使うの忘れてさ。
俺が他人を信頼できないのは、何度もそういう目にあっているせいだ。
けど、この船でさえどんな奴が乗っているのかわからん・・・。
この前の、実射訓練の時もあぶなかったし・・・。
ああ、今一番信頼できるのがあいつしかいないというのも何だかな・・・。
何の実力があるのかわからないがのさばってる大臣連中みたいに、
人脈とか派閥づくりに精を出したほうがいいのか・・・?
実力・・・。
実力で、俺を帝国から追い払える奴はこの世にはいないと思っていたが・・・、
気がついたら船に乗せられてしまったしなぁ・・・。
次、何かあったら心当たりは全員粛清だな。
やっぱりその方針が一番いい。それで生き残った奴を俺の下に入れておこう。
けど、このやり方で信用できる人間が増えるのか?
認めたくないが、人心をまとめる才能は皇帝陛下のほうが上って事なのか・・・。
トップに立てない僕ちんはまだまだ小物なんだな・・・。
僕ちんだって学ぶ機会は沢山ある。
きっといつか皇帝なんかより偉くなれる・・・・はずなのだ。
すごい国を作れるはずなんだ。
そのためと思って今は何があっても我慢しよう。
謙虚、謙虚だ。
むううう・・・しかし、何をすれば謙虚になれるのだ!?
ケフカは船首から遠くを眺めつつ考え込んでいた。
28号は荷物を特別船室に運んだ。
アワヅの手伝いもあって、すぐ終わった。
ロッカーにテントやリュックや武器を崩れないように収めた。
いつものパターンだと、今日はリネンを取り替えて掃除すれば後はすることが無い。
28号はアワヅにいわれた事を考えながらマットレスからシーツをはずす作業を開始した。
逃げる・・・かぁ・・・。
ケフカ様に使われるようになってから、逃げるは思いつかなかったなぁ・・・。
うーん・・・。
僕の幸せ。
幸せかぁ・・・。いまは、不幸じゃないような気がする・・・。
自由になりたいと思っていたけれど、自由というより人間を殺すのが嫌なんだ。
直接殺さなくて済むのなら・・・ケフカ様のそばにいたいけど・・・。
ケフカ様は敵が多いから、遅かれ早かれ戦う羽目になるんだろうな。
ケフカ様を守るためなら、人間を殺すのも仕方が無い・・・かな・・?
僕のやりたいことって何だろう。
優先順位をつけてみよう。
1ばん・・・一番やってみたいこと・・・
ケフカ様と身も心も激しく愛し合ってみたい。
2ばん、あんなことやこんなこともしてみたい。
だめだ、1ばんと2ばんがほぼ一緒だ。
もうすこし軽い内容だと・・・
3ばん、一人エッチの時にみまもってほしい・・・。
これも、無理だな・・・。
4ばん、おはようとおやすみでちゅーしたい。
・・・って、ダメだ。この系列はきりが無いよ。
5ばん、あの幻獣を楽にしたい。
6ばん、で、人間みたいに家族がほしい・・・・。
いいよなー大事な人が沢山いるって・・・。
マヤさんがうらやましい・・・。
Dr.リサンは僕と人間じゃ子供はできないだろうっていってたし・・・。
やっぱり、人間っていいなー。人間になりたいなー。
さっき、心は人間っていわれたけど・・・それじゃなんか足りないような気がする。
でも船の人は僕のこと人間だと思っているから、僕は人間になっているのかなぁ?
それでいいのかな・・・・。
わかんないや。
28号ははがしたシーツと毛布カバーをたたんで床においた。
ケフカ様に聞いてみたい事や、言われてみたい事なら
何パターンでも、思いつくんだけどなー。
新しいシーツを手に持って、28号はベッドの上でとびはねた。
マットレスのスプリングが利いていて、トランポリンのようで楽しいのだ。
ケフカのベッドと自分のベッドの上を往復した。
最近の28号の開発した遊びだった。
ジャンプに飽きると、ケフカの枕を渾身の力でだきしめた。
『やさしくするから』ああ、これすごく言われてみたいな。
この場合『から』がポイントだな。
『から』が。ふふふふふー・・・。
もう少しかしこくなって立派な秘書になったら、もう少し好きになってくれるかな?
妄想エンドレスぎみで作業をおえた28号のもとへケフカが戻ってきた。
「荷物はしまったのですね。28号、これを読んでおきなさい。旅には必要な知識だ。」
ケフカは一冊の本を渡した。
「世界の動物・モンスター Dr.オーキッド著」
28号はタイトルを声に出して読んだ。
「ケフカ様、これ、モンスター図鑑ですね。ありがとうございます。
きっと役立てます。」
「うん、礼にはおよびません。今日から私は謙虚な人になることにしたのだ。」
「謙虚ってなんですか?」
「へりくだってつつましいこと、傲慢の反対・・・というような意味です。」
「つまり、今よりずっと偉い人になっちゃうんですね?」
「うむ、そうなのだ。とりあえず、食べ物の好き嫌いを克服することからはじめようと思って、
これからは嫌いな野菜抜きメニューじゃなくて皆と同じものを出すようにと厨房へ言ってきたのだ。」
「うわー・・・・すごいです・・・。
でも、そんなことして大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。謙虚だからな。」ケフカは鷹揚にうなずいた。
「じゃあ・・・質問してもいいですか?」
「何でも聞きなさい。」
「…口の中って人に見られても、そんなに恥ずかしくないのに、肛門を指で広げて
見られると、どーしてあんなに恥ずかしいんでうわ!!」
ケフカのクリティカルデコピンが28号を直撃した。
28号はきれいに半回転して床のたたんだシーツの上に倒れた。
「痛いですぅ・・・。」
「あたりまえだ!!」
「なんでも聞いていいって言ったのに・・・・。」
「謙虚一時中止だ!!
おまえは、いつもそんな調子で他の船員どもと会話しているのか?
・・・・恥ずかしいぞ・・・。」
ケフカは床に座りなおした28号をにらみつけた。
「いえ・・・。ケフカ様だけです。」
「そんな下品な質問をなぜ僕ちんにきく?」
「だって、気になっていたんです・・・。」
「そんなこと聞かれたら誰だって謙虚中止するぞ・・・。」
ケフカは自分のベッドに座ってため息をついた。
「ケフカ様、他人の性欲って気になりませんか?
どーゆーシチュエーションが燃えるかとか、その・・・いろいろと・・」
「ああ、そーゆーのは他の奴に聞け。」
さっきの発言と多少矛盾はあるが、28号は気がつかなかった。
「ケフカ様のが気になるんです。」
「俺、性欲無いもん。好奇心はあるが・・・。」
「え・・・!?ないって・・・無いんですか?」
「うん、気合入れて考えないと出てこない。やりたいとは思わんな。」
「もしかして・・できない!?」
「失礼な奴だ。3年に1回ぐらいは・・・」
「さんねん!?」
28号にとってそれは無限に近い長さである。
「3年だ。いいじゃないか、自分も生き物なんだなーと思うのが
3年に1回で。」
「・・・・・・」
「28号は雑念が多いのだ。余計なこと考えないで業務に専念しろ。」
「・・・ケフカ様、病気?」
「魔導の力の影響かもしれんが、僕ちんは別に困ってないぞ。」
「そんなー・・・。周りの人が困りますぅー。」
「あのな、私をウィームスと同じレベルで比べるな。私は男も女も大嫌いなんだ。」
「・・・人形は?」
「あれは別。そんなことどーだっていいだろう・・・。」
「僕には重要です。」
「せっかく、謙虚なケフカ様になろうとしているのに、出鼻をくじくようなマネしやがって、腹立たしい奴だ。
もう言いたいことはないな?では、僕ちんは謙虚モードにもどりますよ。」
「・・・・・はい・・・・・・・・」
「28号はお下品な発言は今後ひかえるように。」
「はい。」
「謙虚でしょう?」
「はい、謙虚です。」
・・・・しかし、真に謙虚な人間は謙虚さをアピールしないものである。
つづく
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