
金紗のベールとノクターン その12 ZAZA9013
おさらい
わがままで人使いがあらく、年休もさっぱりつかっていないガストラ帝国の大魔導士ケフカ・パラッツオ。
帝国城内の人事課長などの陰謀により新型高速艇「銀の人魚号」に乗せられて、
東大陸の視察旅行へと行かされる羽目になりました。
ケフカ様のおともは魔導研究所からむりやり身請けしてきた人造人間28号でした。
日々船酔いで不機嫌なケフカ様。
はたして、無事東大陸までたどりつくことができるのでありましょうか。
「仕事がないのは、退屈だなー・・・・」
朝食のあと特別船室へ戻ってきたケフカはぽそっと呟いた。
「そうですか、ケフカ様。
・・・今日のお昼のデザートは胡麻豆腐って食堂のメニューに書いてありましたよ。
ちょっと楽しみですね。」
単調な船上での生活では食事も大きな楽しみの一つである。
「考える力の無い生き物はお気楽そうでうらやましいな。
むうう、これでやっと船に乗って一週間か。俺様には辛すぎる試練だ。」
ケフカは相変わらず渋い顔をしている。
「でも、ケフカ様。見たかんじでは一昨日よりは全身の動きがスムーズになっていますよ。」
「ほう、俺はずっと普通に動いていたつもりだったが・・・。」
「えーと・・・首から肩にかけての不必要な筋肉の緊張した感じとかが減って、
歩く時の体重移動の仕方が、かなり滑らかになったように見えますが・・・。」
「ふーん・・・。そんな事を観察しているのか、28号。お前もヒマなのだな。」
「他に見ても楽しい人がいませんから・・・。」
はにかんだ笑みをうかべる28号。
「では、・・・そうだ、ここの船員どもを見てだな、
腰が悪いだの足が悪いだのそいつの動きでわかるのか?」
「完全ではありませんが、だいたいわかると思います。」
「ふん、じゃあ、船長はどこが悪いと思う?」
「・・・左腕の上腕の筋肉が少し細いのではないかと思います。」
「・・・・その程度では弱点でも何でもないな・・・。
せいぜい船が揺れた時にわざと左腕にぶつかってやるぐらいにしか使えん。」
「あと、売店のバーブラさんは腰痛もちだと思います。
歩き方が他の若い人とはかなり違いますから。」
ケフカは写真をとりにきたバーブラ軍曹を思いうかべた。
・・・普通に歩いてきたような気がしたのだが・・・。
「ほー・・・。退屈だから売店へ行って確認してくる。」
「いってらっしゃい。」
「いってらっしゃいって・・・、28号、写真とネガを貰ってくるのを忘れていたろう。」
「あっ!すいません。」
「実は私も忘れていたのだが、バーブラで思い出したのだ。では、行ってくる。」
「はいっ。」
一人残された28号は、ネガの件で怒られなくて良かった・・・と、安堵の息をもらした。
船内の情報収集もあまり進んでいない。
船長はすごくいい人で皆から信頼されている・・・という結果ではケフカ様は満足しないだろうし・・・。
スパイの可能性が高い人物を見つけておけともケフカに言われたのだが、
28号にはほとんどがただの善良な人間にみえてしまうのだ。
むしろ、ケフカ様のほうがあらゆる面できびしい感じがする。
でも、それは28号にとっては好ましいことであった。
やっぱり、偉い人はその辺の人間よりもつきぬけて違う所があるんだなー・・・と、
敬愛の念が増すのである。
ガラガラと売店のシャッターを開けたバーブラ軍曹は、
背後から刺すような不穏な気配を感じて振り返った。
・・・・朝一のお客はケフカ様だった。
全身の毛穴がぎゅうっとひきしまった感じをこらえてバーブラは挨拶した。
「おはようございます。ケフカ様。」
「おはよう。少し来るのが早すぎたかな?」
「いえいえ丁度開店したところです。写真はできました。お昼にでも伺おうかと思っていました。」
「そうか。ネガフィルムもくれ。」
「はい、わかりました。少々お待ちを・・・」と、バーブラは売店の奥へと消えた。
バーブラは少し動揺していた。
ああ、びっくりした。素顔のケフカ様が背後にいるなんて・・・。
殺されるかと思った・・。
ケフカの悪評は国の隅々まで浸透していた。
多少みなれたとはいえ、やはり怖い。
敵も殺すが、帝国軍の人間もかなりの勢いで処分しているという噂だし。
その魔法は一撃で小さな村なら焼き尽くすという話だったし。
けれど、バーブラにはお金儲けという情熱がある。
そのためなら、たとえケフカ様が相手でも恐くない!
売上こそが俺の生きがい!
恐くても商売のためなら何でもできるんだっ!とりゃーっ!!と自分に気合を入れた。
バーブラは写真の入った紙袋とネガフィルムをわしづかみにすると急いでもどった。
「ケフカ様。写真とネガフィルムです。ご確認をお願いします。」
「うむ。」
ケフカは写真を一枚一枚チェックしていた。
「ケフカ様。ところで、海軍の枕は合いますか?」とバーブラは尋ねた。
「高すぎるし、硬すぎる。」
「ジドール直送の羽枕の在庫がありますがいかがですか?」
「そんなものも置いているのか。」
「ガストラ帝国内特産“ふるさとのお菓子シリーズ”も好評です。」
バーブラはずらっとならんだ袋菓子を指さした。10種類以上ある。
「菓子はいらんな。」
「お酒もおいしいのから、お安いのまで幅広くそろえております。
おつまみも沢山ありますからぜひどうぞ。
コショウ味のチョコボジャーキーはおいしいですよ。
このピリッとした味が、ビールのお供にぴったりです。
ご試食用に一袋さしあげます。」
「そうか。」
「ええ。あと、フィガロ製の高級双眼鏡もあります。
今日は射撃訓練がありますから、おひとついかがですか?
帝国軍で支給するタイプより軽くてコンパクト、
なおかつ高倍率で、視界も広くていいですよ。」
「ふーん。」
「あと、船内でひそかに売れているトップ商品。この船酔いの薬なんていかがでしょう?」
「あまり薬に頼るのは好きではないので、いらんな。
ところで、お前は腰が痛いのか?」ケフカは写真を袋にもどした。
「は、痛そうに見えましたか!?実は搬入の時にちょっと無理しまして、少し痛いんですよ。」
「そうか。・・・双眼鏡、一つくれ。」
「はい。ありがとうございました。
あの、他にもいろいろと置いていますので必要なものがありましたら何でもいってください。」
長い毛のはえた指でもみ手をしているバーブラを後にケフカは去っていった。
甲板から海へネガフィルムを魔法で焼き捨てたケフカは特別船室へともどった。
「お帰りなさい、ケフカ様。」
「すごいぞ、28号。バーブラは腰が痛いんだそうだ。」
「そうですか。やっぱり・・・。」
「チョコボジャーキーをもらった。毒見しろ。」
「わぁ、おいしそう。」パリっと袋をあける28号。
「朝飯食ったばかりで、よくそんなもの食えるよな・・・。
信じられん。そういうのも、性能がいいうちに入るのか・・・。」
「え・・・。」
ジャーキーをくわえたまま、ちょっと困っている28号にケフカは写真を渡した。
「良く撮れているぞ。」
「僕だぁー。ほんとに僕が写ってるー。すごいなー・・・。
ケフカ様、僕一回写真になってみたかったんですよー。
ケフカ様も写ってるー・・・。本物そっくりだぁー。」笑顔全開である。
「そんなに嬉しいのか。」
「はい。ずーっとあこがれていました。僕以外の兵隊さんたちは、
家族や彼女の写真持っていたから、すごく、うらやましかったんです。」
「じゃ、それ全部おまえにやろう。」
「ええっ。ほんとにいいんですかっ!ありがとうございますっ。」
「うん。ほとんど背景がぼけていて、どこで撮影したかわからない出来あがりだし・・・。
ま、顔しか写っていない感じだしな・・・。無くすなよ。」
「無くしません、絶対に。ケフカ様、お礼に僕の写真一枚あげます。」
28号は自分の写真をケフカに渡した。
「・・・?。おまえの行動はよくわからんぞ・・・。お礼にこれをくれてもなぁ・・・。
いやまあ、とりあえずもらっておこう・・・。
ありがとう。この場合、僕チンがおまえに礼をいうのが正しいのか・・・?」
写真をくれた28号の意図などまるでわかっていないケフカであった。
ブリッジではセブロン船長以下銀の人魚号のクルーの主だった面々、
魔導研究所から派遣されている科学者などが集まり、
大口径魔導レーザー砲の実射演習のミーティングが始まっていた。
ケフカと28号はそーっと入った。
ケフカはもともと説明など聞くつもりはなかった。
一番いい場所でレーザーの発射をみたかっただけなのである。
ミーティングがおわると兵士たちは各々の作業をするために船内各所へと散っていった。
することのないケフカと28号は甲板にいた。
魔導レーザー砲を覆っている人魚の張りぼての擬装をはがす作業を見物していた。
「説明を聞いて理解できたか?28号。」
艦長の話をほとんど聞いていなかったケフカは、28号に要点だけを説明させた。
「えーと10時にはカイラース島のすぐそばに行って、島の周りをグルッと回りながら
標的を撃つんですねー。」
「ふーん・・・。では、9時57分になったらブリッジの屋根にあがろうか。」
「え?砲の係り以外は甲板にいちゃダメなんじゃないですか。ケフカ様。
ヘルメットかぶって、戦闘時と同じくしないと・・・・」
「ブリッジの屋根に双眼鏡持って上がってはいけないとはセブロン船長は言ってなかったろ?」
「・・・そうは言っていませんでしたけど・・・」
「フツーの人間はヘルメットかぶって船の中にしがみつていれば良いのだ。
・・僕チンは魔導レーザーの直撃ぐらいじゃ死なない自信はありますよ。」
「・・・ケフカ様はそうでしょうけど・・・。」
「お前の上司は俺様なんだから、俺の命令が優先だろう?」
「でも、見つかって船長に怒られて重営倉とか牢屋にいれられたり・・・」
「むう、俺様がいかにも命令違反をするような口ぶりだな。」
「大丈夫ですか?ケフカ様。セブロン船長とケンカになりませんか?」
「ばれなきゃ大丈夫だ。」
「ええ――っ・・・・」
「バニシュをかけるのだ。透明になる魔法だ。
お前はバニシュは使えないかもしれないが・・俺がかけてやるから問題ないだろう。」
「でも、魔法を使うなって勅命で皇帝陛下から言われていたのでは・・・」
「ふん、どうでもいいことを憶えているな、28号。
戦闘時と同じ状態で魔法を使わない大魔導士などこの世にはありえんぞ。
だいたい、僕チンに魔法を禁ずるなんてそんな命令まちがっている!」
ケフカは右手の拳を天に向かって高く上げた。
「わかりました。・・・もう、何があってもケフカ様についていきますぅ・・・。」
「最初からハイといえばいいのだ。」
その会話を耳をそばだてて聞いていた者がいた。
ボーズリー曹長である。
彼は今、人生最大の危機に直面していた。
そう、彼にも「ばれなきゃ大丈夫」と思ってやったことがあったのだ。
数週間前のことである。
カイラース島で行う演習のため砲撃目標となる的を設置したのだ。
的といっても、壊れた馬車や帝国軍ででた粗大ゴミや旧式の大砲などをまとめて
その上に×印をかいた看板をたてておくのである。
たまたま粗大ゴミの中にマネキン人形があった。
仮装にでも使うようなウイッグがあった。
商店で品物の埃をはらうような羽箒の擦り切れたものがあった。
・・・つい出来心でそれらを合体させてしまった。
そしてあまった板にペンキで「的:ガストラ帝国大魔導士ケフカ様」と書いて
ご丁寧にもロープでマネキンの首にくくりつけてきたのだ。
現場では大受けしたし、それくらいの冗談は誰もとがめるものはいなかった。
だがしかし・・・。
それを海軍伝統のジョークなんですと説明しても、
絶対に笑ってくれそうもない人物が双眼鏡を持って目の前にいる・・・。
しかも、恐ろしい魔法の力を使う気まんまんである。
今は若干機嫌が良さそうだが、あの的を見た瞬間怒り狂うことは間違いない。
ケフカが落水したときの醜態は記憶に新しい。
噂よりもずーっと感情の起伏が激しい奴だった。
ボーズリーの心の中は嵐の海にゆられる一枚のちり紙のようだった。
俺の命日は今日なのか・・・。
・・・・・・・なんとかしなければ・・・、とにかくあの標的がケフカの目に入らないようにしなくては・・・。
唯一のチャンスはあれが一番最初の標的ということか・・・?
「ケフカ様!船が近づいてきます。」
支給品の安い双眼鏡を持った28号が後方を指差した。
「ああ、あれはセイレーン号だ。俺はあれにも乗せられたことがある。」
セイレーン号はガストラ帝国の紋章の入った帆をかかげた美しい帆船である。
「向こうの方がカモメが沢山お供していますね。」
「船尾で残飯でもすててるんだろ・・・。
あいつら、見物したら帝国領へすぐもどるんだろうな・・・うらやましい。
28号、今何時だ?」
「はい、9時55分です。」
「なるほど、さすがに甲板の上の人口がへっているな。
では、私たちもブリッジへ入るふりでもしましょうか。」
すたすたと歩いていくケフカの後を28号はあわてて追った。
10歩ほど歩くとケフカの姿が不意に消えた。
バニシュの魔法を使ったのだ。
「ケフカ様!ほんとに見えませんよ!どこにいるか全然わかりませんっ!」
28号の双眼鏡を持った手が何かにぶつかった。
「ぐ・・・、気をつけろ28号、お前も今透明になったのだ。」
「あ、ほんとだっ、自分の手も見えません。・・・あ・・・。」
「動くな28号。俺をおんぶしてブリッジの屋根へとべ。どこにいる?」
不意に28号の耳がぎゅうっと引っ張られた。
「いたいですぅ・・・・。ここにいますぅ・・・・。」
ケフカは手をグーにした状態で28号の位置を確認していた。
「互いに見えないというのは不便だな。
背中はこっちだな。さっさと飛ばないとどっかのバカにぶつかられるぞ。」
ケフカを背負った28号はブリッジの屋根へとジャンプした。
「魔導レーザーが爆発してもいいように、回復呪文をかける準備はしておけよ。」
28号の背中からおりたケフカは双眼鏡でカイラース島の標的を探しているようだった。
ただし、お互いに透明なのであくまでそんな気配だけである。
「レーザー・・・爆発するんですか?」
「万が一の場合だ。」
ケフカ様が爆発って言うと、
なんでだかケフカ様が爆弾を仕掛けたみたいに聞こえるのは何でだろう・・・と28号は思った。
しかし、それを口に出さなくなったのは大きな進歩である。
「ああ・・・そうですか・・・。・・・・標的ってどこにあるんでしょうね。」
「ブリッジの望遠鏡なら良く見えるだろうが・・・遠すぎるのかな・・。」
波は穏やかとはいえ、船酔い体質の人間が船の上から双眼鏡でものを探すというのは短時間でも辛いものである。
「んー的がわからんとどこを見ていいのかわからんな・・・とりあえず正面か・・・うん?」
ケフカの視界を白いものが横切った。
「今の何でしょうねぇ?」
28号の視界にも白い何かが横切った。
それはあっというまに数を増していく。
「ぐっ・・・・!?」
ケフカは後頭部に猛烈な痛みを感じた。
反射的に双眼鏡を目から離しふりむいた。
目の前が白かった。ドンという衝撃にバランスを崩した。
「イッターイ!!なんだよー!!」
ブリッジの屋根の上に無数のカモメが舞い降りようとしていた。
「このバカ鳥どもがあっ!!」
ケフカの怒鳴り声が聞こえた。
「うわわっ?」
ワンテンポ遅れて28号が事態に気がついた。
カモメたちは、透明になっているケフカと28号におかまいなしにどんどん降りてくる。
白い羽が散っているあたりにケフカがいるのだろう。
「ケフカ様!大丈夫ですかっ!!・・・あ痛っ!!」
28号は肩にカモメの足の直撃を受けた。
「なんでこんな時に来やがるんだ!バカ鳥ども降りてくるな!見れないだろっ!!」
その時魔導レーザーが発射された。
カモメたちは一斉に飛び立った。
「・・・・・見れなかった・・・。ちくしょー・・・。」
ケフカはかなり怒っている様子だが、透明なので見えない。
「なんだったんでしょう・・・いまの・・・・。」
「不自然だ!絶対不自然だ!!何かの陰謀だ!!」
28号は屋根の上に落ちている白っぽい小さな物体を摘み上げた。
「ケフカ様、なんでしょう?これ・・・。」
「鳥の羽じゃないのか?」
28号はそれの匂いを嗅ぐと口に入れた。
「あ、おいしい・・・これお菓子ですよ。初めて食べる味です。」
「ん?なんだと。どこだ?」
ケフカがそれを拾おうとしたとき、潮風がお菓子と散乱しているカモメの羽をブリッジの屋根から吹き飛ばした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・とりあえずだな、魔法をといてブリッジでおとなしくしていよう・・・。
よくわからんが、透明なのも案外危険だ。」
「はい、わかりました。ケフカ様。」
2人は屋根の上から降りると魔法を解除して、平静を装いつつブリッジへと戻った。
「むぅ・・・・、バニシュのいいところは、攻撃があたらないところだとおもっていたのだが・・・」
「?」
「透明になっても・・・・・普通の攻撃は、・・・・ものすごくあたりずらくなるだけなのだな。」
「カモメは痛かったですね。」
「うん、矢が雨のように降ってくるところでは使わないほうがいいようだな。」
「もしかして、初めて使ったんですか?」
「帝国城以外ではなー・・・・・・・・・・・。」
・・・・・ケフカ様、帝国城で透明になって、いったい何をしていたんだろう?と28号は思った。
カイラース島に設置した4ヶ所の標的を破壊して訓練は終った。
魔導レーザーの威力は素晴らしいものだった。
船長からコメントを求められたケフカは
「これで、私が海戦に行かなくてすむ。」と言って場をなごませていた。
魔導研究所から派遣された研究員と砲術係り以外は、それぞれの普段の業務にもどっていった。
セイレーン号からはボートで銀の人魚号に新鮮な野菜と果物の補給があった。
特別船室へ戻る途中にケフカが28号に命令した。
「28号、売店へ行ってお菓子を一つずつ全種類かってくるのだ。
・・・・屋根に落ちていたお菓子と同じものを買った奴を見つけるのだ。
買い物の記録が売店には残っているはずだ。俺はコーヒーでももってくる。」
「はい。」
28号が売店からお菓子の山をかかえて、特別船室へもどってくると
ベッドサイドについている小さなテーブルの上にコーヒーがあった。
ケフカは不機嫌そうに自分のベットの上に横になっていた。
「買ってきました。」
「じゃ、それ食べろ。さっき拾ったやつと同じお菓子を見つけるのだ。」
「はい。」28号はお菓子の袋をあけると食べ始めた。
ケフカは目を閉じ、お風呂用のアヒルちゃんを握りながら話し出した。
「・・・・・・・・・せっかく少し休暇らしい楽しみができるかと思っていたのに
・・・これで全然くつろげなくなってしまったな・・・。
透明になっているときにカモメをけしかけるとは、油断ならん相手だ。
俺様の動きを読んでいたとは思えないから、
ずっと見張っていたとしか、思えん。だとすると犯人は複数だな。
カモメを眼くらましに使うとはそこそこの知能犯だな・・・。
島の近くでカモメが集まれば、猛禽類タイプのモンスターがすぐ飛んでくるだろうし・・。
甲板には魔導レーザーの砲兵どもしかいなかったとおもうのだが・・・・。
おい、28号・・・・、その菓子一袋全部食べなくていいのだぞ。
さっきの菓子と同じ味のを見つければいいのだ。」
「あ・・・そうですね・・・。さすがにこれ全部食べきるのは辛いかな・・・と、今思っていました。」
「一口食べればわかるだろうが・・・。・・・・・・・・どうだ?それは。」
「ベクタ名物白カリントウじゃないですね。さっきのはこんなに甘くありませんでした。」
「じゃ、さっさと次に行け。」
「はい、沢山あるからケフカ様もどうですか?おいしいですよ。」
「・・・・・・・あのなー・・・・・・・。黙って食べるように。」
28号は次々とお菓子を開けた。
「ケフカ様、経過報告ですけど・・・・。
チョコキューブスナックナッツ味でもブラザーコーンでも蜂蜜チップでも淡雪せんべいでも
マザーメイドカントリークッキーでもふわふわスナックでも銘菓チョコボの卵でも
カレームーチョでもベクタの灯火でもオペラ座に行ってきましたでもないみたいです。」
「・・・・あとは何が残っている?」
「紅茶のお供と海峡えびせんです。」
「む・・・・。もうお昼が近いな。無理して食べなくてもいいぞ28号。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よく考えたら、売店で買った菓子とは限らん。」
「あっ・・・。」
「船に乗っている連中の持ち込んだものすべてを把握するなど・・・・
できなくもないが、何人かが共謀しているとなると難しいだろう・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「私の命を狙っているなら、どうせまた何かある・・・・その時犯人を捕まえればよいのだ。」
「僕、絶対に捕まえます。」
「うん、ちょっと期待しているぞ。俺もなんか食べたくなったな。一つくれ。」
28号は海峡えびせんをケフカに渡した。
「あまり悩んでもしかたがない。ちょっと散歩にいってくる。」
ケフカはえびせんを持って特別船室から出て行った。
潮風に光る髪をなびかせながら、ケフカは甲板でえびせんを食べた。
甲板では魔導レーザーのうえに人魚の張りぼてを据え付ける作業を4、5人の兵士が行っていた。
この中に犯人がいるのか?
・・・・まあ、顔だけは見ておいてやろう・・・とケフカはそこへと近づいた。
「さっきはご苦労だったな。たべさしだが、これをやる。」
と、一人の兵士にえびせんを渡した。
全員が怪しいといえば怪しく見える・・・・。
このなかに俺を殺そうとしている奴がいるかもしれない。
そんな状況は帝国城ではいつものことだった。
けれど、こんな連中は俺様と一対一で戦う事になればアリを踏み潰すよりたやすく殺せるのだ。
「はっ!あ、ありがとうございます。ケフカ様。」
えびせんをもらった兵士はとても恐縮している。
それもいつもの事だ。
「じゃ・・・。」と、ケフカは甲板を去っていった。
えびせんを受け取ったのはボーズリー曹長だった。
彼は恐怖におののいていた。
えびせんの袋を握った手が小刻みに震えている。
なぜ、ケフカが突然菓子などくれたのだ。
二人の甲板での会話を聞いて、ケフカと秘書が消えたあと
ブリッジの屋根に上って風上からえびせんを撒いたのが俺だとわかっているということか・・・。
俺の命など風前の灯火とわざわざ告げに来たのか・・・・?
・・・・・・・・・・・・恐ろしい・・・。
ケフカは真実に一瞬かぎりなく近づいたのだが、
また遠ざかってしまったことに全く気がついていなかった。
その日のお昼のデザートの胡麻豆腐を28号の分まで食べて、
比較的穏やかな気持ちで過ごしたのである。
つづく
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