金沙のベールとノクターンその11 ZAZA9013
○10話までのおさらい○
わがままで人使いの荒いガストラ帝国宰相ケフカ様の周りで頻発する職員行方不明事件。
おかげで、ガストラ城内の職員は慢性的に人手不足だった。
帝国城の油頭の人事課長と給仕長ガードナーの陰謀により、強制的にケフカは
高速艇「銀の人魚号」に乗せられ、東大陸へ行って年休を使わせられることになったのだ。
期間は半年。
その間に、帝国城の職員を補充し、また、働きづめの職員に休暇を取らせるためである。
なお、この件にはガストラ皇帝自らも関わっていた。
そんなことを知らないケフカ様は、耐久力のある人造人間を召使として
魔導研究所からパチってきてこき使うのであった。
しかし、この人造人間、服従器が故障しているので、やたらと無駄口が多い。
そのうえ、理由は不明であるがケフカ様の事が好きである様子である。
そして、微妙に純粋かつ大ボケ野郎だったのだ。
士官食堂でケフカはお昼をほとんど食べなかった。
「俺様が具合の悪い時に羊の肉のから揚げを出すのだな・・・・海軍は。」
「あの、もっとあっさりしたものを頼んでみましょうか?」
「ん・・・いや、スープとコーヒーだけ食べるからいい。
僕ちんが、元気がないと知ると喜ぶ奴もいるだろうからな。弱点は隠しておいたほうがいいし・・・。
この舟だってどんな奴が乗っているかわからん。私を暗殺しようという輩もいるかもしれん・・・。
けどな・・・・。」
「けど?」
「やはり、毎日こんな食事では辛くなってくるような気がする。むぅ・・・・・・・・・・。
背に腹はかえられん・・・。もう少し消化の良いものを作るよう言ってくる。」
「はい・・・。では、おかず貰ってもいいですか?」
「ぬう、28号。こういう時はだな、おかず貰っていいですかではなくてだな、
僕がケフカ様の剣となり楯となってお守りいたします、ぐらい言えんのか?ああ。
・・・・・・・・・・・・・たとえそれが気休めでも。」
ご機嫌も斜めである。
「・・・そうですね。失礼しました。」
ケフカは、さっと立ち上がりすたすたと歩いていくと、
厨房カウンターの中の職員に向かって、二言、三言何か言ってもどってきた。
おそらく、自分の食事の変更を頼んだのであろう。
「でも、ここまで暗殺者なんて来るんでしょうか?」
「ちっちっちっ・・・。油断するな28号。俺だけじゃない、お前も気をつけろ。」
「はい。」
ケフカはスープとコーヒーを飲みつつ、大きな声で独り言を言っていた。
「ああ、こんな長旅をするとわかっていたら、
6分の1ドールルタちゃんプヨ肌カスタムタイプを持ってくるのだった。
ついでに着替えセットとメイクアップセットも・・・。
アヒルちゃんじゃお風呂でしか遊びようがないもんなーちっちっ。
それに海軍のシャンプーは洗うと髪がごわごわになるし、石鹸で顔を洗えば顔がガサガサだ。
つめやすりないしマニキュアもない。士官待遇というよりはこれじゃ平民待遇だ。
だいたい・・・・・・こんな油ぎとぎとの食事ばっかり出しやがって。俺様は頭脳労働専門なのに。
もっと頭が良くなる食事を作れよなー。だから海軍はバカばっかりで嫌いだ。」
・・・・・・・・・・・・などと、不平不満エンドレス状態である。
「頭が良くなる食事があるなら、僕それ食べたいです。」
そう言った28号の真剣なまなざしにケフカは・・・・
「そうだな。ま、トレイを下げた時に頼んでみたらどうだ。」
そんなものはありえないぞと突っ込む元気を失った。
「では下げてきます。」
「うん・・・。」
ケフカはさっさと特別船室へともどっていった。
船長曰く、「有史始まって以来船酔いで死んだ人間はいない。」のだそうであるが、船酔いで死ぬ目にあう人間は多数いる。
ケフカがその代表格である。
船に乗っている間は、ずーっとひたすら気分が悪いのだ。
寝ても駄目、甲板へ立っても駄目、酒を飲んで酔いつぶれても、起きた時が更に駄目な状態になるのだ。
食事も楽しくないし、本などは読む気もしない。
ただ、黙って船旅が終るのをじっとこらえるしかないのだ。
そして、うとうとすると・・・自分が船に乗っている夢なんか見てしまって、目が醒めた時更にブルーになるのだ。
ケフカは横になって天井を見ながら色々と考えていた。
胸の上にはアヒルちゃんがのっている。
ここで私を殺そうとするのは簡単だな。
その1 船ごと沈める
その2 通風孔から毒ガス
その3 食事に毒を混ぜる
その4 船酔いで弱っている所を毒を塗った刃物で刺し殺す・・・
うむ、このまま船旅が長引くというのもあるな・・・。
そう簡単には私は死なない。回復魔法が使えるからな。
けれど、刺されると痛いし敵の顔を見たら腹立つし・・・。
不慮の事態に28号がどれだけ対応できるかは疑問だしな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あまり、あてにはできん。
ケフカはベッドの足元の方向にある、小さな机の上を見た。
28号が持ってきた銀の人魚号の航海の計画書があった。
気分の悪さをおしころしつつ、それを見た。
それにはさらに気分が悪くなりそうな事が書いてあった。
大口径魔導レーザーの射撃演習はいいが・・・潜水航行実験って・・・・。
この舟で海の底へと潜るのか・・・?
知らないぞ、そんな事ができる舟だったなんて。
普段から書類にはきちんと目を通しておくべきだったな・・・。
そうしたら、どんなことをしてもこの船には絶対に乗らなかったはずだ。
俺は昨日溺れかけたばっかりなのに。
海なんか大嫌いだ。
28号は食堂のお膳を下げる所にいた。
食器をさっとゆすいで流しに置くついでに中にいた太った職員に言ってみた。
「いやー頭が良くなるような食事があったらお願いしますよ。」
くるうり、とその太った職員が振り向いた。調理主任のポルタルーピである。
「ふっふっふ。頭が良くなる食事はあるぞ。」
「ほんとですか!?」
「教えてやろう。頭が良くなる食事とは、ピーマン、人参、セロリ、そしてイカだ
。・・イカリングにイカのマリネ、イカスミのパスタ!」
「うっ・・・そのチョイス、どこかで聞いたおぼえがあります。」
「ふっふっふ・・・。俺はケフカの嫌いなものはよーくしっているぞ。」
太った職員はニヤリと笑った。
「なぜです?」
「かつて、俺は帝国城で料理人をやっていた。」
「・・・・・・・・・・・・・・もしや・・・・」
「イカ料理を出してケフカに首にされちまったのだ。ボーナスもらう直前にな。」
「あああ・・・・・。あの、もしや暗殺なんかしようなどと思っていませんか?」
「暗殺はしないし、毒ももらんぞ、失礼な。それは調理人としてのプライドがゆるさん。
・・・・・・・・・考えたことはあったが。」
「えーっ・・・、考えちゃったんですか・・・・。」
「ま、偏食するから背丈も伸びんし細ッこいんだろう。
好き嫌いを治してやるから覚悟しろって言ってもいいぞ。」
「そんな、言えません。僕の口からは。」
「そーだろうなー。ま、この件に関しては調理員の意見が一致してるんだ。」
「あ、じゃ、他の方々も・・・もしかして・・・」
28号は不吉な予感に襲われた。
「そう。ケフカに帝国城を首になったシェフばかりだ。」
「あーっ・・・・。どうしたらいいんだ。」
「告げ口してもかまわないぜ。」
「いえ・・・、えー・・・ちにいて乱をおこさず、です。僕、今の話聞かなかったことにします。」
「はっはっはっ、弱虫め。」
28号は笑い声を背に食堂を出て行った。
弱虫っていわれたー弱虫ってー・・・。
それもちょっとショックだけど・・。
でもでも、これ以上ケフカ様の機嫌が悪くなるような話は・・・・僕にはとても言えません・・・・。
ああ、でも教えたほうがいいのかなー。
でも、あの人たち100%悪意ってわけじゃなさそうだし・・・。
言わないほうがいいよなーやっぱり。
・・どっちがいいんだろう・・・。うーわかんないよう。
迷いまくっている28号は、ケフカのいる特別船室にすぐ戻れる気分ではなかった。
甲板の上でしばらく潮風にふかれていた。
とりあえず僕の任務は、アヒルちゃんの安全と船長の情報とケフカ様を怒らせないことだから・・・。
一時間ほど考えて、やっぱり黙っていたほうがいいという結論に達したとき、
肩越しに声をかけられた。
「おい、28号!」ケフカは珍しく上機嫌そうだった。
「はい、ケフカ様・・・どうしました?」
「デッキチェアを借りてきた。コレで甲板で日光浴をするのだ。」
「そうですか・・・。」
「うむ、閉じこもってもどうにもならぬ。・・・せめて休暇気分を楽しもうと思ってな。」
「なんか、すごく前向きな発想ですね。」
「守りに入っていてもどうにもならんからなー。しかたがないから、日に焼けてあげましょう。
あまり色白でも、かえって不健康そうで目だっていけない。
で、お前の任務はだなー・・・サンオイルを調達するのだ。」
「サンオイル、ですか?」
「サンオイルって何だって僕に聞くなよ。では、売店へ行ってくるのだ。」
「はい。」
銀の人魚号には売店がある。
お酒、タバコ、調味料、下着など、格安で船の中の消耗品を扱っている。
28号は売店へ行った。
「すいませーん、サンオイル一つ下さい。」
「はいはい、2枚目さん。濃い日焼け用、普通の日焼け用、薄い日焼け用、どれにする?」
店員は一人。小太りで黒髪の小さいおっさんだった。
名札にバーブラと書いてある。
「ええっと、濃い日焼け用のお願いします。」
「ケフカ様のつけでいいかい?」
「はい。」
バーブラは帳面にケフカ様、サンオイル1と書いた。
どうやら、現金買い物方式では無いようだ.
「なあ、あんた、ケフカ様の秘書だろ?」
「はい、そうですが。」
「ふふふ、俺はバーブラ、何でもあつかってるからよろしくな。」
バーブラはサンオイルを28号に渡した。
「はあ。どうもよろしくお願いします。」
「時に相談があるのだが、一儲けする気はないか?秘書さんよ。ひひ。」
バーブラはもみ手をしている。手の甲と指に生えている毛が長い。
「えー?何のお話でしょう?バーブラさん。」
「へへ、別に軍規に違反するような事じゃねぇから安心しろ。
・・・なあ、あんた、ブロマイドつくらねぇか?写真をとってさ。」
「ブロマイド?」
28号が聞き返したときに、丁度リージ少尉がやってきた。
「28号さん。ケフカ様にデッキチェアーをお貸しましたよ。」
「リージ少尉、ありがとうございます。ケフカ様、日光浴するそうです。」
「それは良かったですね。バーブラ君、タバコ一つ。
28号さん、ここで買うと税金かからないんで国内で買い置きするより安いんですよー。」
「へぇーそうなんですか・・・。」
「へいへい。」バーブラはリージ少尉にタバコを渡すと売店の奥へ引っ込んでしまった。
28号は写真の話はどうなったんだ?と思いながら甲板のケフカの所へともどった。
「ケフカ様、サンオイル買ってきました。」
ケフカは帝国海軍の運動着の短パン一枚の姿であった。
デッキチェアの背もたれを水平に倒して、うつぶせに寝転がっている。
「じゃ、私の背中にそれ塗って。何にも塗らずに日焼けするのは危険だからな。」
「はい。これが話しに聞いたオイルを塗る、という行為ですね。」
と、28号は自分の服を脱ぎだした。
「なぜ、お前が脱ぐ?」ケフカは怪訝な顔をして28号に尋ねた。
「え・・・、オイルを塗るときって自分の身体にまず塗って、それを相手にすりすりして塗ってあげるん・・・・・
・・・・ぐはっ!!」
ケフカのクリティカルつっこみが28号の腹部を直撃した。
「バカ者!普通に塗れ!普通にっ!!、普通に手で塗るんだ!!」
「まったく!ウィームス少佐という奴はお前にろくでもないことばかり教えたものだな。」
「あああ・・・すいません、ケフカ様・・・・。」
28号はケフカの背面にオイルを塗り終わり、細い脛のほうへととりかかっていた。
「ケフカ様、僕が聞いた話では、女の人がこう裸になって自分の体に塗ったオイルを
すりすりしてくれるのが正しいオイルの塗り方だと・・・。」
「うーむ・・・。困った奴だ。他にウィームスはおまえにどんな事を教えたんだ?
あまり聞きたくないが、退屈だから聞いてやる。」
「え?えーと他にですか・・・。よくやったのは奴隷の心得ですかねぇ・・・。」
「どれいのこころえ?」
「ええ、『女王様、今日はこの卑しい奴隷に御調教をお願いします』って言わなきゃいけないんですよ。
で、這いつくばってお辞儀して女王様がいいって言うまで頭上げたり勝手な事しちゃいけないんです。
女王様がムチでぴしって叩くんです。
で、叩かれたら『ありがとうございます』ってお礼言わなきゃいけないんですよー。僕は痛いのに・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」ケフカは頭を抱えた。
28号は沈黙するケフカに話を続けた。
「で、女王様が意地悪なんですよーもう・・・。散々刺激しておいて、僕の下半身の一部が膨張したら
『一体コレは何なの』とか
『奴隷のくせに勝手にそんなことしていいと思っているの』とか
『恥ずかしい奴隷ね、ほんとうにイヤらしいわ』とかいって更に苛めるんです。
踏んだり叩いたり撫でたりして・・・これがまた辛いんですけど気持ちが良くて・・・。
でもなんか、すごーくおもちゃにされちゃったって感じがしました。
ケフカ様、そんなことって人間同士ではよくあることなんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・あまりない、と、思うが・・・・・・。」
「やっぱり。他の方々からは聞いたことがなかったもの・・・。」
28号はケフカの大腿部にオイルを塗っている。
「・・・・・・・28号、その女王様はやっぱりウィームスがやっていたのか?」
「はい、その時の服装は・・・」
「いやいいっ!それ以上話すな。俺様にも耐えられないビジョンというものがある。」
「そうですか?めずらしい格好でしたけど。」
「話さなくていいと言っているだろうが!耳が穢れる!脳が腐る!お前の話は妙に疲れる!
・・・・・オイルはもう自分で塗るから、お前は船内で更なる情報収集に努めるように。
はいはい、早くどっか行け。あ、それからその話は絶対誰にも話すな。
死んでも言うな!恥ずかしすぎるぞ。・・・・・・・・俺様の権威まで失墜しそうだ。」
「はい、わかりました。」28号はケフカに追い払われた。
28号の話にケフカは脱力しきっていた。
ぐぬぅ-――・・・・・・。ウィームス、只者ではなかったのだな。
任務が終った暁にはウィームスってどんな奴だったのか調べてみなくては。
とんでもない野郎だ。
それにつきあっていた28号もどうしようもない大バカ者だ。
ことわれよ!!まったくもう。
他にもう少し考えたほうが良い問題があるのだろうけれど・・・・、
ケフカの頭は28号の話で麻痺してしまったようだ。働かない。
ケフカは妙に疲れた感じがして、アヒルちゃんを右手に握ったまま軽く目を閉じた。
聞こえるのは波の音、魔導エンジンの音・・・。
エンジンの音は、幻獣の終らない苦痛の叫び。人間への呪詛。
・・・・・他の連中は、この音の中にいてよく平気でいられる。鈍感でバカだからか?
それとも俺が、幻獣に近い感覚だからわかるのか・・・。
あいつの苦痛が。
・・・・・・・・・・28号にも伝わったみたいだしな。
ほんとにコレがわかるのが僕ちんと28号だけなのか?・・・ま、いいか。
「ケフカ様。」28号がやってきた。売店のバーブラも一緒だ。
「何の用だ?」
「ワタクシ、売店のバーブラ軍曹です。今回の作戦では記録写真の係りでもあります。」
バーブラはカメラを構えた。
「ふーん。で?」
「ケフカ様、写真撮ってもよろしいですか?」
「とってどうするのだ?」
「記念にさしあげます。」
「・・・ふーん、じゃ、とれ。」ケフカはやや不機嫌な顔つきのままである。
「は、ありがとうございます。28号さんもご一緒にどうぞ。」
バーブラが満面の笑みを浮かべて写真を撮りはじめた。
10回くらいシャッターを切ったバーブラは、現像したらすぐにさしあげます、といっていなくなった。
「ああ、緊張しました・・・」と28号が言った。
「そーか?」気の無さそうな返事をするケフカ。
「僕、写真は初めてなんですよ。」
「ああ、そうか・・・そうだな。俺は写真は事あるごとだな。帝スポ(ガストラ帝国スポーツ新聞)とか
大陸日報とか・・・ネタが無い時はとりあえず俺様の写真を載せているし・・・。」
「すごいですねー。」
「そうだ。バーブラが写真を現像し終わったら、ネガフィルムを取り上げて来い。」
「なぜです?」
「悪用されると困るだろ。」
と、ケフカに言われてどんな悪用の方法があるのか見当もつかない28号であった。
そもそもネガフィルムがどんなものなのかすらわかっていないのだが。
「はい、わかりました。現像が終わったらネガフィルムを取ってきます。」
・・・・・軽快な返事をするのであった。
つづく・・・
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