金紗のベールとノクターン  その9          ZAZA9013

 

 

 
表面をミスリルでコーティングした鉄の船、銀の人魚号は東大陸へ向かって進んでいた。
落水したケフカは特別船室に戻った。
甲板であとかたづけをしているのは、リージ少尉とソレルである。

「ソレル。梯子をしまっておいてくれ。」

「はい。リージ少尉。」

ソレルは銀のペンキが塗ってある梯子を引き上げた。

「ソレル、28号さんって異常に泳ぐのが速いと思わなかったか?」

「ええ。びっくりしました。服着たままであのスピードは・・・・。」

「噂だけどな、ケフカの秘書官ってなり手がいなくて、特殊部隊から引き抜いたりしているらしいぜ。
あの人の話をきいておくと結構ためになることが
きけるかもしれないな。」

「はい。28号さんは基本的にイイ人みたいですよ。」

「28号さんの負担にならない程度に、楽しく過ごせるよう配慮してやってくれ。・・・・・ケフカ様の噂は聞いていたが・・・・・・・・・あれじゃなー・・・・・。この船で若いのがお前と俺くらいだからな。なるべく話しかけてやろう。」

「はい。リージ少尉。」

「すまないな、もう休憩時間だったのに。」

「いいえ・・・。僕は、まだまだ新米ですから。」

 

そのころ特別船室では・・・。

「べちゃべちゃだっ!どうしてくれる28号っ!」

復活したケフカが頭から湯気をたてていた。

「ケフカ様、とりあえずお風呂に入ってください。」

「ああっ!服がくっついて脱ぎにくい――っ!」

「ケフカ様が梯子から落ちるからいけないんですよ・・・。」

「むぅ――・・・たしかに腕輪が重かったのは認める。」
ケフカは大きく息をすいこんだ。

しかし!俺様の握力の低下を招いたのはガストラ皇帝の勅命だっ!

なにもかも皇帝が悪いんだ!ちくしょ――っ!!」

たしかに壁をこぶしでどつかなければ、ケフカは落水する事は無かったかもしれない。

「そうですね・・・、あまりにも急な命令でしたね。」
「命令なんていつも急なものだぞ!28号。それはわかっているが、腹が立つのだっ!」

28号はケフカの脱いだ服を浴室へ絞りに行った。

 

すぐ、裸のケフカがやってきて、

「28号。それは絞っただけではダメです。洗濯をしなさい、洗濯を・・・」

「えっ、ここでしていいんですか?」

「ここは僕ちんが一人で風呂に入るんだ!」

ケフカは手でしっしっと28号を追い払うしぐさをした。

「では、洗濯室へ行って来ます!」

 

28号はずぶぬれのまま洗濯室へいくと洗濯機に服を放り込んだ。

ついでにシャワー室へ行き、シャワーを浴びてそこにあったバスタオルを身体に巻いてもどってきた。

ケフカはなぜか28号が市場で買ったはずの服を着ていた。

麻と綿の混じった毛糸で編んであるベージュの長袖のサマーセーターと、同じくベージュのチノパンである。

チノパンはだぶだぶで、足首ですそを折っていた。
いつもつけている頭の羽根飾りもなく、髪もむすんでいない。

化粧もきれいに落としていて、全体的にあまりにもすっきりしすぎて、28号には一瞬誰だかわからなかった。

ケフカの冷酷な薄いブルーの瞳は明らかに怒りの色をみせていた。

 

「あれっ。ケフカ様。それ、僕が買った服ですね。」

「むうぅぅぅぅ・・・・。クローゼットを開けたら俺様の服が無かったのだ。」

「ええっ!」

ケフカは腕を組み、自分のベッドの上に座っていた。

28号は雰囲気に押されなんとなく床の上に正座してしまった。

 

「ふんっ!明らかに俺とわかる格好をさせたくなかったんでしょうねっ!

ああ、こんな安っぽい服を着なければならないなんて拷問ですっ!

これは陰謀だ!嫌がらせだ!虐待だ!くっそーっ!帰ったら馬鹿官僚どもを皆殺しにしてやりますっ!」

「はあ、じゃ、その時はぜひお手伝いさせていただきます。」

「手伝いだと?一人ずつ拷問にかけて、私がこの手でじっくりとなぶり殺しにするんですっ!

絶対そうしてやる。いや、そうするんだ!」

「はい。わかりました。」

「船酔いで具合が悪いし、何だか人生最高に腹がたっています!28号、おまえ・・・・何か船長に嫌がらせしてこい!

そして、成果を僕ちんに報告するのだっ!」

「ええっ!嫌がらせって・・・何をすればいいんですか?

・・たとえば、犬のうんこを船長の靴にいれるとか?」

「この船に犬はいない!それくらい自分で考えろ。船長の嫌いなものを食事にまぜるとか、
船長に関する情報を収集して
弱点を見つけて嫌がらせをするのだ。」

「えーーーッ!むずかしすぎますよ・・・・。」

「何かするまで帰ってくるな!行けっ!」

そう言うとケフカは自分のベッドに横になった。

気分が悪いのだろう。アヒルちゃんを自分の頬にぴったりとつけて目を閉じた。

28号はしょうがなく特別船室を出た。

 

28号はバスタオルを巻いたままの姿で厨房へと行った。

狭い厨房では忙しげに4人ほどの調理人が夕食の支度にてんてこ舞いだった。

「あのー」

揚げ物をしている太った人と目が合った。
白いコック帽の横に調理主任ポルタルーピとマリンブルーの糸で刺繍がしてある。
ポルタルーピは28号をじろりと睨んだ。

「あぁ?料理場になんでハダカで来るんだ?夕食は6時だよっ!」

「いやぁ、その、お忙しい所を失礼します。僕は28号といいます。」

「あ―――ぁ。あんたがおもちゃのアヒルを泳いで取りに行って、ケフカを海に引きずり落としたって人だな。
やるな、あんた。
あったかいコーヒーなら、士官食堂のコーヒーサーバーに入ってるぜ。」

といいながらも彼の手は次から次へと四角い鍋にコロッケを放り込んでいる。

「それはどうもありがとうございます。・・・・で、質問なんですが、船長の嫌いな食べ物ってなんでしょうか?」

「ん―――。無いだろう。」

「は・・・無いんですか・・・・。」

どうしよう・・・・・食事に嫌いなものを混ぜる作戦は、これじゃ実行不可能だ。

と、28号は思った.

 

「いちいち喰いもんの好き嫌い言ってちゃ、船長は勤まらないよ。ケフカの嫌いなものってあるのかい?」

「ええと、青臭い人参とピーマンと生のセロリでかんかんに怒りますから、できればそれだけは避けてください。」

「ああ、それは知ってるがな。ま、楽しみにしといてな。」

「は?・・・失礼しました・・・。」

 

28号は士官食堂のコーヒーをカップに2つ注いだ。
陸軍と同じ金属製のカップだが新品でピカピカしていた。

失敗する前に、とりあえず何かサービスをしてご機嫌をとっておこう・・・と思ったのだ。

船長のことを良く知ってそうな人間は誰だろう・・・海軍に在籍が長そうな人だな・・・その辺りから皆に聞いて歩けばいいかな・・・と、28号が考え始めた矢先にセブロン船長が士官食堂に入ってきた。

「船長さん。さっきは船を止めて下さってすいませんでした。」

船長の姿を見た瞬間に28号は謝ってしまった。

「いや、ケフカ様とあなたを東大陸へ送り届けるのは任務ですから、気にする必要はありませんよ。」

「そうですか・・・。あの・・・聞きにくい事なんですが・・・セブロン船長の一番嫌いなものって何ですか?」

「私の嫌いなもの・・・?」意外な質問に船長は黒く立派な顎髭をなでながら答えた。

「嫌いなものは・・・そうだな・・・。自分で自分のした事の責任をとろうとしない卑怯な奴は大嫌いだな。

あとは、自分のやるべき任務を自分でやらずに人任せにする奴。そんな奴はこの船にはいないと思うが・・・。」

「なるほど・・・。では、食べ物の好き嫌いが多い人というのはどうですか?」

「はっはっはっ・・・そんなのは論外ですよ。食べ物があたるだけありがたいと思わないといけませんな。」

「やっぱりそうですよねー。船長さん、お忙しい所申し訳ありませんが、
1分でいいですからケフカ様の顔を見にきて頂けませんか?」

「ええ、かまいませんよ。コーヒーを一つ持ちましょう。
落水されてから、調子はどうなのか実は少し心配していたのです。」

「セブロン船長は立派な人ですね・・・。」

「とんでもない。船長として当然のことです。」

この人をがっくりさせるのはかなり難しいんじゃないだろうか・・・と28号は思った。
しっかりしていて、立派な人で、隙がない・・・・。

 

セブロン船長と人造人間28号は、特別船室へと入った。

「28号です。ケフカ様。コーヒーをお持ちしました。」

「ん・・・。」とケフカが起き上がる。

船長はだるそうなケフカに一礼した。

「ケフカ様。お加減はどうですか?船医をよこしましょうか?」

「むうう・・・セブロン船長・・・何の用だ?」ケフカはあからさまに嫌な顔をしている。

「ケフカ様のお体が心配で参りました。」

「心配だと・・・・。いらんいらん。帰れ帰れ。貴様に用など無い!」

「では、失礼します。」セブロン船長はコーヒーを置くときびすを返した。

 

「28号・・・あんな奴を連れてきて一体どうゆうつもりだ?船長の顔なんぞ見たくもないっ!

嫌がらせは成功したのか?何をやったのですか?」

28号はドキドキしながら答えた。

「あの――・・・・。

僕の調査の結果では、今のところセブロン船長が一番嫌いなものは・・・多分・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ケフカ様です。」

「なんだと?・・・そうか・・・ふーん・・・。じゃ、毎朝挨拶にいってやろう。

しかし、私もあいつを嫌いですからある意味諸刃の剣ですね。

・・・・ま、嫌がらせと思えば心も弾みますが・・・。」

ケフカはククッと笑った。

「ああ、良かった。ケフカ様・・・・。」

「お前は引き続き船長に関する情報を集めなさい。」

「はい。・・・あの、コーヒー飲んで、着替えてからでいいですか?」

「うむ。28号。くれぐれも海には落ちるなよ。今、お前に消えられると俺様が眠られなくなるから。」

「はい。ケフカ様。」

よかった、とりあえずケフカ様の命令は果たす事ができたのだ。

嬉しい・・・。と、28号は思った。

 

「ケフカ様。もう6時になります。夕食ができてると思うので取りにいってきます。」

「うむ。」

夕食はクリームコロッケとライスとサラダとベーコンとレタスの浮いたギトギトしたスープ。

28号がケフカに持っていくと、ケフカは嫌そうな顔をしてサラダのトマトとキャベツをすこし、
ライス半分とスープを食べた。

28号は山盛のライスにほくほくしながら笑顔で全部食べた。

「ケフカ様、もう食べないんですか?」

「船酔いで具合が悪いのだ。こんな揚げ物なんかたべたら吐く。」

「そうなんですか・・・・・・・。」

「お前は元気が良いですね。それは神経が太い証拠です。」

「もしかして、誉めてくださってます?」

28号は言われた意味がわからなくて問い返した。

「非常に不本意だが、船酔いしないお前がうらやましいですね。」

「うーん・・・。揺れているな、とはおもいますが、それで具合が悪いとは思いませんね。」

28号。貴様、船酔いしないからって俺に勝ったと思うなよ。」

「えっ・・・。そんな、勝ち負けなんて考えてもいませんでした。」

「ほんとうか?」

「はい。・・・・・・・・・僕は、きっとどんな事があってもケフカ様が一番好きです。
ケフカ様のお役に立てる事が嬉しいんです。」

「ふーん。・・・お前はまたそれですか。不思議ですねぇ・・・・。」

 

28号は思い切ってケフカに聞いてみた。

「ケフカ様は、僕の事はどうなんですか?
好きですか?
それとも、あんまり役にたたないから嫌いでしょうか?」

「アヒルちゃんを持ってきたのでプラス1点、でもさっき海になくしかけたからマイナス1点。

拾ってきてもそれはあたりまえ、だから0点。」

ケフカの回答に28号は何と反応して良いかわからなかった。

0点・・・0点って・・・・・・うーん・・・。

マイナスじゃないだけいいのかなー。

 

しかし、ケフカに好きな人間などいないということを28号は忘れていた。

ケフカはガストラ皇帝に仕えるようになってからは、その類稀な容姿と能力のために、常に嫉妬と羨望の的であった。

何人もの人間が陰に日にケフカを失脚させようとして失敗してきた。

ガストラ皇帝もそうであったが、ケフカもまた子供の頃から、常に謀略と陰謀の標的であった。

それに対してケフカは自分に逆らうものは皆殺しにすることによって、対処をすることをおぼえた。

関連者全てを消してしまう事が、後々の禍根を防ぐ有効な手段だったのだ。

そして、他国からの暗殺者だけではなく、自分の周囲の者にすら心をゆるせない日々が

彼の性格をゆがめた大きな原因の一つでもあったのだ。

 

そんなケフカが0点と言った事の意味を28号はあまり理解していなかった。

「ケフカ様、あのう・・・僕は、100点満点で0点なんですか?」

「4731点満点だ。」

「えっ・・・。なんて半端な満点。」

「・・・・・・・・嘘だ。上限など無い。下限もな。

私に好かれているかどうかなどと考えるより、お前はもっと業務に専念しろ。」

「はい・・・。業務って、船長の弱点探しですか?」

「今の優先順位は、お前とアヒルちゃんが俺様の横で寝る事。

2番が船長の情報を収集する事、3番が僕ちんを怒らせない事だっ!」

「はいっ!!」

 

「歯を磨いたら、今日はもう寝る。」

「はい」

28号はケフカに続いて歯を磨いた。

特別船室といってもさして広くはない。

やや高めの位置にベッドが2つ並んでいて、

壁から机と明かりが出ている。

室内はコルク張りで、小さなまるい窓が海面すれすれに2つついている。

専用の狭いユニットバスとトイレがついている。

しかし、下級船員はこの広さに3段ベッドを2つ入れたところで生活している。当然窓もバスもトイレもない。

 

波と魔導エンジンの音でケフカはなかなか眠れなかった。

胃の中で食べ物が停滞している感じがする。

毛布を身体に巻きつけて右を向いたり、左を向いたりしていた。

「・・・・・・・くぅぅうぅ・・・くっそ――!疲れて具合が悪いのに、何だか腹が立って眠られん!!」

ケフカは跳ね起きた。

横のベッドで寝ていた28号もつられて起きた。

「いつもの時間より大分早くベッドに入っちゃいましたからねー。」

「甲板へ散歩に行く!」

ケフカと28号はロッカーにあった白にライトブルーのストライプの入ったベクタ海軍のパジャマ姿で甲板へと向かった。

 

・・・・・・・しかし、思いのほか寒くて甲板に出た瞬間、ケフカは激しく後悔した。

「むぅー――っ・・・。寒い。海の上の風はこんなに冷たいのかっ!」

ケフカのだぶだぶしたパジャマが激しく風にあおられている。

「毛布をもってきましょうか?ケフカ様。」

「天候すら俺様の思い通りにならんっ!くっそ―――――!」

ケフカは右手を高く上げた。火球が連続して天へと登っていった。

・・・まるで、うちあげ花火だ。

「わーきれい・・・。ケフカ様の魔法はやっぱり力が強いですね―――。」

星空に次々と吸い込まれる火球に28号は見とれた。

「うむ。寒くて揺れる海なんぞを作った天の神様にとりあえず抗議したのだ。」

「星まで届きそうな感じでしたね。あ、でも魔法はだめって勅命で・・・」

「僕チンに魔法を禁ずるってのは皇帝陛下の冗談だよ。
一発でもかすっていれば、嬉しいのだが・・・
確認の取りようがないのが悔しいですね。

ちょっとすっきりしたから、眠れそうです。」

 

2人は船員たちとすれ違いながら、特別船室へと戻った。

ケフカの素顔をみて皆微妙に顔がひきつり気味だった。

「あーすっきりした。おやすみ28号。」

ケフカは毛布をぐるぐると身体に巻きつけて寝ようとした。

「ああっ!僕はすっきりしませ――ん!」

28号がケフカに羽布団をかけながら訴えた。

「いいんだ。お前はすっきりしなくても。気にするな。」

にべもないケフカの返事に28号は半泣きであった。

「ケフカ様の素顔が皆に見られちゃったから、誰かが横恋慕して僕からケフカ様をとられちゃう―――。

そうなったら、僕、死にますぅ・・・。」

 

「何を言っているのだ・・・貴様は。今は死ぬな。ベクタに帰ってからにしろ。」

「みんなケフカ様の素顔に見とれていましたぁ・・・。

ああ、もう僕はおしまいです・・・・。

あしたから、きっと僕より賢くて出来のいい人が秘書やりたいって

ケフカさまの所に殺到するんですよぅ・・・。

僕は、首になって燃えないゴミの日にだされてしまうんです・・・。」

「それはありえないから早く寝ろ。」

28号の発言に脳味噌が崩れてしまいそうになったケフカはきっぱりと否定した。


「本当に?」

ケフカはため息をついてから答えた。

「人形が2体ないと俺は安眠できないといったろう。このアヒルちゃん、実はもう魔法がかけてあるのだ。

俺様が眠っている時に不審者が侵入してきたら、自動的にファイアとサンダーで攻撃するようにしてある。

城にある人形たちも全部そうだ。・・・ぐっすり眠っているのはおまえくらいだぞ、28号。」

「・・・・そうだったんですか・・・・・」

「お前も何かあったら、眠っていても起きて私を守りなさい。」

「はい。」

「まったく・・・。お前はよほど誰かに必要とされたいのですね。しかも、確認がしつこい。

そんな事では私の秘書としては失格ですよ。

まったく、世の中は自分のために回っている、いや、

己のために世の中をまわすんじゃあっ!くらいの気迫がないといけませんよ。」

ケフカは人差し指を立てながら、28号に話した。

「己のために世の中を回すんですか・・・すごいなぁ・・・なんか壮大な響きがする言葉ですね。
ためになりました。
ケフカ様。ありがとうございます。」

「うむ、おやすみ。」

「はい、おやすみなさい。」

 

28号は船の揺れを心地よく感じながら眠りについた。

人間の子供が入っているゆりかごってこんな感じなんだろうなあ・・・。

 

朝、28号はケフカに起された。

「28号!顔を洗ってすっきりして、船長に朝のご挨拶に行くのだっ!

朝一番から嫌がらせができるとなると、妙にテンションの高いケフカである。

「はい。おはようございます。あのーどこかから目覚まし時計を調達したほうがよろしいようですね。」

「うむ、壁にくっついている時計だけでは心もとないな。」

「はい。」28号は顔を洗いに行った。

ケフカは本人的には非常に地味で質素で貧乏臭くて嫌な
・・・昨日着ていたサマーセーターと
チノパンに着替えていた。

28号はベクタ海軍の紺と白の運動着に着替えていた。

これはクローゼットに入っていたのだ。

2人はブリッジへと向かった。

ケフカが船長を見つけた。

「・・・・・・セブロン船長。おはよう。」

船長は航海士と海図を見て何か話し合っていたが、ケフカの声に顔を上げた。

「おはようございます。ケフカ様。お加減はどうですか?」

「フン。お加減は悪いよ。」

「船医の所へは行きましたか?」

「いや。・・ほう、それがこの船の進路か。」

ケフカは海図に目を止めた。そして怒りだした。

「む、これはどういうことだ?俺様を東大陸へ連れて行くなどといいながら、

船は東へ進んでいるではないかっ!」
実はガストラ帝国のある南大陸から西へすすんだほうが東大陸へは近いのである。

「ジドール沖で一度補給を受けます。」

「むうう、これではほとんど世界を一周してから東大陸へ行くのではないか!

高速艇といいながら2週間だの3週間だの妙に長いと思ったら!」
と、ケフカは言ったが・・・・3週というのは船としては歴史に残る速さなのだ。

「ケフカ様・・・。これは作戦行動です。船から早く下りたい気持ちはわかりますが、

ケフカ様のためにコースを変更する事はできません。」

「く―――っ!それくらいわかっておるわ!腹立つっ!行くぞ28号!」

すいませんすいませんと船長のほうに向かって頭を下げながら、28号はケフカの後を追った。

 

ケフカは甲板へと出た。風は暖かく、天気は快晴。

「28号、どうだった?」と、ケフカは尋ねた。

「え?なにがどうだったんですか?」ケフカの言葉の意味を図りかねた28号。

「むうう・・・何がどうって・・・」ケフカは甲板の手すりによりかかると言葉を続けた。

「船長だ、船長。朝から私に挨拶されて、精神的なダメージを受けたようだったか?」

「え・・・。」28号はとまどった。これを正直に言っていいものだろうか・・・。

「ケフカ様。ケフカ様のほうが船が東へ向かっている事で精神的ダメージを受けたように

僕には見えました。」と、一瞬悩んで結局正直に言った。

「なにっ!・・・・・・・むうううっ!俺のダメージは見なくてもいいんだ!

船長は俺の顔をみて嫌そうだったか?」

「はい。嫌そうにみえました・・・。」

「くくく・・・。だったらいいのだ。相手に少しでもダメージを与える事が目標なのだからな。」

「でも、ケフカ様。傍で見ていてケフカ様のまけにしか見えませんでしたが・・・」

28号の正直な発言にケフカの細い眉が2回ほど痙攣した。

「最近賢くなったな、28号。今のようなのを肉を切らせて骨を断つ、というのだ。」

「なるほど。」

なんとなくちょっと違うような気はしたけれど、ケフカに言われると納得する28号であった。

「朝食を食べたらあとでエンジンを見に行こう、28号。どんな奴が入っているのか楽しみだ。」

「ケフカ様。エンジンって昨日見ましたけど、あれ、人が入ってるんですか?」

「ちっちっ・・・。お前が見たのはエンジンの外側だよ。中は偉い人しか見ちゃいけないのだ。」

「はー・・・そうなんですか。」

「機密事項ですよ。でも私は見てもいいのだ。」

「ぜひお供させてください。ケフカ様。」

ケフカと28号はつれだって士官食堂へと向かった。

 

朝食はトーストと、バターをたっぷり使ったスクランブルエッグと、かりかりにやいたベーコンと

アスパラとブロッコリーのサラダだった。

士官食堂は時間が皆とずれたせいか2人のほかには誰もきていなかった。

一応ケフカは文句を言わずに食べた。

「しかし、このメニュー・・・まるでどこかのグランドホテルの朝食のようですね。」

「ケフカ様、ホテルに泊った事があるんですか。うらやましいなぁ。」

「うむ、そこの朝食が1000ギルもして、このメニューだったのだ。

・・・・しかも、牛乳とドリンクヨーグルトとオレンジジュースとコーヒーをもってくるのだ。おおきなグラスで。」

「はは。おなかが、がぼがぼになりそうですね。」

「苦しかったが、我慢して全部飲んだよ。コーヒーのおかわりはさすがにできなかった。」

「高いから沢山つけてくれるんですね。」

「水物ばかりつけられて、正直言ってつらいものがありましたね。」

「ケフカ様、今日はエンジン見に行ってから何をしましょうか。」

「うーむ。私は気分が悪いから寝ていようかとおもうのですが・・・・」

「仕事がないと退屈ですね。」

「お前には昨日言った任務があるだろう。情報収集してこい。」

「あ、そうでした。」

ケフカは特別船室へと戻ってしまった。一休みするのであろう。

28号はすることもなく、甲板へと出て潮風に吹かれていた。

空が広い。雲は殆どない。どちらを向いても海と空ばかりがずっと続いている。
水平線に近い空の端は、ケフカの瞳の色に似た薄い水色に輝いていた。
空の中心部は深い紺色だった。見ていると自分も吸い込まれそうな感じがした。

海も空も輝きに溢れていた。28号は、両腕を上げてのびをした。
遠くに海鳥の群れが飛んでいるのが見えた。
こんなに奇麗な風景を見たのは初めてだった。

ケフカ様にも見せてあげたいと思った。

 
つづく