金紗のベールとノクターンその8    by ZAZA9013

  

 

天気は良く海面は午後の日差しにきらめいていた。

皆それぞれ休んだり高速艇「銀の人魚号」の写真を撮ったりしている。

ケフカは何も言わず両手で頬をつつみ膝に肘をついて休憩所のテントの中から海を見つめていた。

28号も静かにして、輝く海を見ていた。

 

「銀の人魚号」がもどってきた。

場内アナウンスが告げる。

「第六班の皆様はご乗船のご準備をお願いします」

「待たせ過ぎですねェ・・・・」と、ケフカは立ち上がった。

「わくわくしますね。ケフカ様。」

「全然。」

28号は嬉しかった。それまでの船と形が違う。

ガストラ帝国の最先端技術の塊の高速艇に乗れるのだ。

 

案内の将校の後ろを威風堂々とケフカが歩いていく。

そのあとを28号はついていった。

6班は研究者が多いのか、やけに生白くて大荷物を持った者が多かった。

 

ステップを渡り甲板へと上がった。

「皆様ようこそ、銀の人魚号へ、私が船長のセブロンです。」

セブロン船長は真っ黒に日焼けしていて、骨太で鼻の下には堂々とした髭を

たくわえていた。まさに海の男という感じであった。

「では、皆さんは案内のリージ少尉についていってください。

ケフカ様は、どうぞ船長室の方へいらしてください。」と、セブロン船長は一礼した。

「うむ。」

「ケフカ様。僕はどうしたらいいのでしょうか?」
28号は尋ねた。

「おまえな・・・。お前は俺様の付録だから僕ちんについてくるのだ。」

「はい。」

船が動き出した。

 

船長室には、机、椅子、海図、天球儀などがあった。

28号はめずらしそうに部屋の中を見回した。

新しい木の香りがする。

船の外側は金属だが船長室の内装は、木材を多用していた。

落ち着いた感じのバーみたいだな・・・。と、28号は思った。

 

「ケフカ様。ガストラ皇帝よりの勅命を預かっております。同じく、28号様にもあります。」

姿勢を正したセブロン船長は、蝋で封をされた封筒をケフカに渡した。

「勅命だと・・・?何の嫌がらせだ。俺が今日皇帝に挨拶しなかったからか?」

といいながらケフカは、帝国の紋章が入った封筒を開けた。

28号が封筒を開けるのに手間取っていると、ケフカが悲鳴をあげた。

「うわああああっ!くそっ!あのバカ野郎っ!俺様をはめやがってっ

ち・・・・・・・・・・・・ちっくしょ―――っ!どうしろってんだくそうっ!」

ケフカは勅命がかいてある紙を床に叩きつけると、肘まで直列に腕輪が

はまった手でガンガンと壁をなぐり、それでもあきたらずに自分の頭を壁に叩きつけた。
「痛い!いたい・・・・・くっそーっ!!」

突然の醜態にセブロン船長は、声をかけかねているようだった。

 

28号はケフカが投げ捨てた勅命が書いてある紙を拾って、よせばいいのに声に出して読み始めた。

「勅命・・・帝国宰相ケフカ・パラッツォ・・・・。貴殿に休暇と東大陸侵攻作戦の下見を兼ねてドマ国、
及び東大陸の偵察任務を命ずる。なお、任務中は
極力身分を隠し、身なりを慎むように。
また、観光名所はみておくように。

そして魔法を使う事を禁ずる。任務期間は6ヶ月。

・・・・・・船上では船長の指示に従うように。ガストラ帝国皇帝・・・・・・・」

息を切らし額から血を流しているケフカに、28号はおそるおそる話しかけた。

「ケフカ様・・・。これって、休暇をくれるから遊んで来いってことでは

・・・・・・・・・・・ないでしょうか?」

血走った目でケフカは28号を睨んだ。

「バカ!バカ!バカ!お前は何もわかっていないっ!俺様は船酔いするんだ!
東大陸まで船になんか乗っていたら死んでしまう!
それに両側に人形がいないと安眠できん!

これは、俺に船酔いと寝不足で死ねと言っているのと同じことですっ!」

 

セブロン船長が口を開いた。

「ケフカ様。船酔いで死んだものはいませんし、乗っているうちになれますよ。」

「貴様―!僕ちんに口答えするのかっ!俺は俺は・・・・、人形が両側にいないと一晩中悪夢を見つづけるんだぞ!

焼き鏝をおされたり、身体中に太い針をさされたり・・・・・・・・」

「それはまた・・・。では、人形を部下に作らせましょうか?」

「お前も大馬鹿だっ!俺様の人形は全てベクタの人形師に作らせた特注品だっ!
がさつな船乗りの麻袋で作ったようなのと一緒にするなっ!」

「・・・・・・・・・ケフカ様。私も皇帝陛下から勅命をうけました。ケフカ様を東大陸へとお連れするようにとの事です。
船はもう出てしまいました。」

返事の替わりに、ケフカはガンッと右手の拳を壁に叩きつけた。

 

とりあえず28号は自分に来た勅命を見た。

 

「ケフカ様。ガストラ皇帝は、僕に命をかけてケフカ様を守るようにと書いてありました。
僕がケフカ様を何があってもお守り・・・」

ケフカは28号の言葉をさえぎった。

「28号!お前に一体何ができるというのですか!この不良品!

阿呆!できそこない!歩く生ゴミッ!碌な魔法も使えず弱いくせにっ!」

「うぅ・・・。」28号は一瞬泣きそうになった。

それをこらえて、ポケットに入れてきた、「大事なもの」をケフカに無言で差し出した。

それを見たケフカの表情が変わった。

 

「おまえは・・・、皇帝の勅命の事を知っていたのですか?」

28号はいいえと首を横に振った。

「なぜ、これを?」

「海へ行くから、これで遊べるかなー・・・・・・・と思って。」

それは、ケフカがお風呂の時に一緒にはいる黄色いアヒルちゃんだった。

 

「人形その一、その二・・・・そうか・・・・・。これで、寝られる。」

ケフカは28号の手の中にあるアヒルちゃんをじっとみつめていた。

 

「しかしっ!セブロン船長!貴様はいつか絶対船ごと沈めてやるからなっ!」

と、突然ケフカは船長室を走り出た。

あわてて船長と28号がついていく。

「ケフカ様―。みんな乗ってるんだから沈めちゃまずいですよー!」

「ケフカ様―!お待ちくださいー!」

 

ケフカはデッキの端の手すりにつかまって頭を下げている。

何か大きな呪文を唱えているように28号には見えた。

「ケフカ様・・・・?」

 

ケフカは海に向かって吐いていた。

ひととおり吐き終わると、その場に座ってすさまじい目つきで船長を睨んだ。

ケフカの顔は血と嘔吐した時の汗でメイクがぐしゃぐしゃだった。

「船酔いで死んだ者はいないだと?僕ちんがその第一号になったら、
セブロン船長、貴様にとりついて
貴様も貴様の一族も不幸のどん底におとしてやるからな!」

しかし、セブロン船長はそんな脅しには動じずに

「ケフカ様。・・・・・・・特別船室へご案内いたします。船に慣れるまで、少し休まれたほうが良いかと思いますので。」

「フン!特別船室だろうとなんだろうと、揺れるくせに!28号。肩をかせ。」

「はい。ケフカ様。」

ケフカは急激な嘔吐のせいか、異常に力がなかった。

 

先を歩く船長に28号は訊いた。

「船長さん。あのー東大陸まで、この船でどれくらいかかるんですか?」

「計算上では2週間ですが・・・。3週間を予定しています。」

「それでも、普通の船の倍以上早いんでしょうね。」

「ええ、機関の様子をみながらですので、何箇所か輸送船や臨時の基地に寄港する予定はありますが
・・・天候に左右されますからね。」

「3週間もか・・・生きていられるかな」とケフカが小さくつぶやいた。

「では、この部屋です。ドアの上のほうのこの大きなバルブを閉めると水は絶対に入ってきません。
普段は下のドアノブのみお使いください。」

「はい。わかりました。船長。」

 

部屋に入るとケフカは洗面所で何度も口をすすいでから、ベッドに横になった。

28号は絞ったタオルでケフカの顔をふいた。

血も、化粧も落とした。

化粧を落とすと、ケフカの顔色が異常に悪いのがわかった。

「ケフカ様。ケアルをかけましょうか?」

「回復魔法で船酔いはなおらん。」

「では・・・エスナは?」

「浄化したってなおらんのだ。クソッ。きくのなら自分でやっとるわ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

心配そうにみつめる28号にケフカは

「そんな顔で俺を見てたってどうにもならん。どっかいってろ28号。少し一人にしておいてくれ。」

「はい・・・・。ケフカ様。」

28号は特別船室を出た。

バストイレつきで、部屋の両側に作り付けのベッドがあり、船長室より豪華な造りだったが、
じっくり見る心のゆとりは28号にはなかった。

 

船は夜の始まる方角へ向かって進んでいた。

28号は、海をただひたすらみつめていた。

ポケットにはアヒルちゃんがある。

これ見てケフカ様が落ち着いたって事は・・・・これがあればケフカ様、眠れるんだ。

持ってきて良かった・・・とアヒルちゃんに28号はキスをした。

 

「ケフカの秘書さん。タバコ、吸う?」と声をかけたものがいた。

「えっ?あ、いや、僕はその・・・形だけなんです。」

28号はアヒルちゃんを慌ててポケットにしまった。

 

「形だけ?ははは・・・・。ケフカ様、さっき船長室で大暴れしたんだろ?ブリッジまで聞こえてきたぜ。」

その若い水兵は28号に無理矢理タバコを咥えさせ火をつけた。

 

「あ、ど・・どうもありがとうございます。僕は28号といいます。」

「28号?暗号名みたいだなぁ。俺はソレル。この船じゃ一番下っ端乗組員さ。」

「下っ端なんですか。」

「そ。28号さんも大変そうだね。」

「いや、僕は・・・そんな・・・。」

「ほんとに?」
ソレルはダークブラウンの髪を掻き上げると微笑んだ。

「うーん・・・。ソレルさん、船乗りは何年目なんですか?」

「18の時から海に出て今年で4年目。全然下っ端だろ?」

「船酔いしない方法ってありますか?」

「甲板では遠くを見る。あとは寝る。そのうち慣れるよ。」

「では、吐いちゃったら、そのあとはどうしたらいいんですか?」

「俺の場合は、船で仕事しているうちに気が紛れたっていうか、慣れちゃったけどね。」

「やっぱり、慣れるしかないということですか・・・。」

「そ・・・。」と、ソレルはうーんと伸びをした。

28号は、自分より一回り小さ目の体格だけどすばしっこそうな感じの人だなと思った。
 

28号はタバコの煙を肺には入れずに、ただ口から出していた。

「28号さん。船の中、案内しようか?俺、当番が終ったからもう休憩時間なんだ。」

「お願いします。」

「28号さんって、いつも化粧しているの?俺、実はそこんとこがききたかったんだよねー。
ケフカ様の素顔とかさぁ・・・・・。海軍でもすごく噂の人なんだよね。

ケフカ様って・・・。」

「白塗りは・・・僕は今日だけです。ケフカ様の素顔はそのうちみることができますよ。」

「じゃ、期待してまってよう。船長はああ見えても良い人だぜ。
信頼できるからさ、困ったら何でも相談するといいよ。」

「ええ、とても立派な人に見えました。ソレルさん。行きましょうか。」
28号は紙巻タバコをポイと海に投げた。

ソレルがあちこち丁寧に案内と説明をしていてくれていたのだが、28号は上の空だった。

どうやったらケフカ様、船酔いを忘れて楽しい気分になれるんだろう・・・・。

 

一方、ケフカは具合がだいぶ悪かった。

船に乗った瞬間から足元がふわふわして、気分が悪くなった。

勅命をみて気分の悪さが絶頂に達した。

そのあと、昼食を全部吐いてへろへろになった。

気持ちの悪い冷や汗で全身がじっとりしている。

そして、さらに最悪なのはこれが3週間続く事だ。

 

くそっ、皇帝め。いつか、いつかきっと殺してやるからな。

セブロン船長も食えない野郎だ。フン。いつか船ごと沈めてやる。

額の痛みも手の痛みも感じないほどケフカは怒りつづけていた。

 

・・・・・・しかし、まさか28号がアヒルちゃんを持ってきていたとは・・・・・・・あとで少しほめてやろう。

あれがあれば、お風呂にも入れるし、眠る事ができる。

あのアヒルちゃんは、特注品ですからねぇ・・・・・・。

あとで、28号を誉めてやらなくてはいけませんね。

なんというか・・・、どんなものでも一つくらいは良い所があるのですね。

額からの出血も止まった。

ケフカは両腕にはめている腕輪にどれくらい傷がついたかチェックしはじめた。

ダイヤモンドはさすがにきれいなままだったが、ずっしりと重い黄金の腕輪たちの表面には

細かい傷がいくつもついていた。

両腕をベッドに下ろすとズシャッという音がした。

「フゥ――」と、ケフカはため息をついた。

 

特別船室のドアが突然開けられた。

「ノックぐらいしろ、28号。」

「はい、すいません。ケフカ様。いいものお見せしますからちょっとデッキまで上がってきていただけますか?」

「いいもの・・・?しかたがないですねぇ。行ってあげましょう。」

「わーい。良かったー。」

「は――っ。28号、身なりはきちんとしなくてはいけませんよ。威厳と美しさがないと私の秘書としては失格です。」

28号は、インクブルーの長衣ではなく、ベクタ海軍のセーラー服という格好になっていた。

水兵さんの服が着てみたいと、ソレルに言ったら快く貸してくれたのだった。

 

船尾の方に28号はケフカを連れて行った。

「ケフカ様っ見て見てっ!高速艇アヒルちゃんー」

ケフカは息を呑んだ。

釣り糸らしき細い糸の先にアヒルちゃんが曳航されている。

いや、正しくはアヒルちゃんは波にもまれまくっている。

「バッ・・・・・バカものーっ!!糸が切れたらどうするんだっ!早く船に引き上げろっ!
アヒルちゃんがなくなったら俺は究極魔法でこの船ごと自爆してやるっ!!!」

「ええっ!つまらなかったですかっ!」

「つまらないどころの騒ぎではないっ!この大馬鹿者っ!生ゴミっ!脳たりん!役立たず!早く引き上げんかっ!」

「はい―――っ!」

 

あせって手すりに結んだ釣り糸をほどく28号。

糸はほどけた。

「あーーーーッ!」

「うわーーーーっ!」

ほどけた糸は28号の手をするりと抜けて、波間へと消えていった。

アヒルちゃんの姿は一瞬で消えた。

「馬鹿者があああーーーーッ!拾ってくるまで帰ってくるなーーーーッ!」

ケフカのクリティカル突っ込みが28号を海へと突き落とした。

 

うわ、大変だっ!と、一部始終を見ていたソレルが慌てて船長に報告に行った。

銀の人魚号は緊急停止した。

 

ケフカに蹴り飛ばされた28号は一瞬スクリューの巻き起こす水流にのまれかけた。

しかし、すぐに体制を整えると美しいフォームでアヒルちゃんのいるあたりへと泳ぎ始めた。

海水の中で28号が目に力を入れると眼球の表面にもう一枚透明な膜が降りて、水中での視界が確保できた。

下の方を見ると海はグリーンから深い青へとどこまでもつづいている。

底が見えない不思議な世界だった。

魚の背中がちらちらと光っている。

ずっとみていたい・・・と28号は思ったが、それよりも何よりもアヒルちゃんを見つけないと、

絶対ケフカ様魔法であの船を沈めてしまうだろう・・・。

あんなに怒っているケフカ様見たの初めてだ・・。

高速艇アヒルちゃん・・・絶対喜んでくれるとおもったのになあ・・・。
・・・・・・・・・28号のアイディアはおもいっきり裏目にでてしまったのであった。

 

「ケフカ様。」

「何だ、セブロン船長。別に船なんぞ止めなくてもあいつは帰ってこれる。」

いつのまにか甲板には人の輪が出来ていた。

「いいえ、船が走っている時に、人を突き落としてはいけません。」

「あいつはアヒルちゃんを取りに行ったのだ。」

「この船は普通の帆船とはちがいます。スクリューの回転も非常に早いので巻き込まれれば確実に死にます。」

「アヒルちゃんがなかったら俺様が死んでしまうだろうがっ!」

「ケフカ様。船が止まると、その分ケフカ様が船に乗っている時間が長くなりますよ。」

「む・・・・・。」

 

「船長、ボートを出しますか?」リージ少尉が尋ねた。

「いや、ボートを出している間に28号さんがたどり着きそうだ。はしごをかけたほうがいいだろう。」

船長が指さす先にはアヒルちゃんを片手に持ち、ぐんぐん泳いでくる28号がいた。

船員たちは感心してみていた。

あんな野郎の秘書でも、結構泳ぐの速いじゃないか、などと言っている者もいる。

 

ソレルが梯子を船べりにかけた。

「ケフカ様・・・・・。」

「何だ船長。」

「28号さんに手を貸してあげてはいかがですか?あなたの為に海へ入ったのでしょう?」

「フンッ。知るもんか!」

ケフカの返事に船上が一気に険悪な雰囲気になった。

今にもよってたかってケフカを海に放り込もうとする一歩手前である。

「ケフカ様・・・・・。」

「なんだ、船長も、お前らもっ!そんな目で俺様を見ることはないだろうっ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、わかりましたよ。

わかったよ!やればいいんだろっ!全く海軍なんて人間の屑の集まりだっ!」

 

ケフカは梯子のそばへ行った。

28号は船のすぐそばまで来ていた。

「ケフカ様―!アヒルちゃんですー船乗っていいですか?」

「ああ・・・・・・上がって来い。」

「船長!上がる時に落としたら困りますから、先に預かっていてくださいっ」

アヒルちゃんを28号は船長に投げた。

船長は両手でそれを受け取った。

 

梯子を上がってくるずぶぬれの28号にケフカは手を差し伸べた。

28号がケフカの手を掴んで軽く引っ張った瞬間、バランスを崩したケフカは音を立てて海に落ちた。

甲板の上では喚声と拍手と口笛の嵐がおこった。


「あ・・・・・・っ。」と、28号はケフカが沈んでいったあたりを見た。

浮かんでこない。

 

気がつくとケフカは海の中にいた。目をあけても滲んで回りが見えない。

梯子はどこだ?船はどっちだ?

闇雲に手足をばたばたさせてみるが、ゆっくりと沈んでいくのがわかる。

そうか、腕輪が重いのかっ!と、気がついた瞬間、両耳に急激な痛みを感じた。

息がもう持たない。

ごぼっと吐き出した空気と入れ違いに、ケフカの鼻と口から大量の水が流れ込んできた。

その時、ケフカの肩を力強く掴む腕があった。

28号だった。

 

ケフカは甲板に引き上げられた。

ケフカの意識はなかった。呼吸をしていない。

28号がすぐケフカに人工呼吸を開始した。

マウストゥマウスでケフカの鼻をつまみ、口へと息を吹き込んだ。

 

船医が走ってきた。脈、瞳孔などを確認している。

ケフカが咳とともに大量の水を吐き出した。

しかし、それでも28号は人工呼吸を止めなかった。

ケフカの顔色が少しずつ生気をとりもどしはじめる。

 

ケフカは突然28号を突き倒し馬乗りになった。

「がふっがふっ・・・・にじゅうはちごう―――。俺が水を吐き出したい時に

どんどんどんどん、空気入れやがってげふっげふっ

苦しいったらないぞ・・・・・・っ・・・がふっがふっ・・うう・・・はあはあ・・・」

げーーーっと水をはきだしながら、

ケフカは力なく28号をぽかぽかと叩いた。

 

28号は、ケフカの吐いた水と鼻水と涙をあびながら叩かれていた。

・・・・全然痛くない。

 

でも、なんでだろう。恋愛についてモーレじいさんはこう言っていたのに・・・

―――――若い頃は押したり引いたりして結婚してからは上になったり下になったりしたもんじゃのう・・・・

ふぇっへっへっへっへ・・・・・・・――――――――――

 

ケフカの背後にはうっすらと輝き出した星たちの姿があらわれはじめた。

それを見ながら28号は思った。

押したり引いたりしてから、上になったり下になったりはしているけれど・・・・・

これで僕の恋愛ってうまくいっているんでしょうか・・・・・・。

ねえ・・・モーレじいさん・・・ほんとにこれってどうなのかなぁ・・・教えてほしいなぁ。

と、28号はぼんやりと思っていた。

 

ケフカの手が止まった。

「叩きつかれた・・・・・・・・もういい・・・・。」

「立てますか?ケフカ様」

「ああ、もう、今日は風呂に入って寝る。船長、アヒルちゃんをよこせ。」

「はい。」セブロン船長はアヒルちゃんをケフカに渡した。

 

「ほんとに、今日は疲れた。散々だ。28号。」

「はい、ケフカ様。」

ケフカは28号に引きずられるようにして特別船室へと去っていった。

甲板の人垣も消え、皆それぞれの持ち場へともどっていった。

夕日は大きく沈みかけ、船の往く手を金色に染めた。

 

 

つづく 

 

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