金紗のベールとノクターン その7 by ZAZA9013 目覚ましが鳴った。28号はそれを止めると、ダッシュで顔を洗って髪を梳かして、 ケフカは寝覚めがいいほうだ。というか、朝っぱらからハイテンションだった。 「ん・・・・。おはよう28号」「はい、おはようございます。ケフカ様。」 「ルタちゃんとフランちゃんを棚にしまっておけ。」「はい。顔をあらいますか?」 「うん。」ケフカが顔を洗っている間に28号は朝食の電話をかけた。 ケフカが寝巻きから普段の派手な黄緑色の服に着替えた頃に朝食が来た。 朝食は給仕長自らが運んできた。 「ケフカ様。今朝は、林檎ヨーグルトと胡桃いりパンとホットミルクとコーンスープとスクランブルエッグですが。」 「アスパラはないのか?」 「フン!ま、いいさ。さっさと行っちまえ。」 給仕長は一礼するとケフカの執務室から出て行った。 「28号!もう食べるぞ」 ケフカはホットミルクに胡桃入りパンをちぎって浸しながら食べた。 28号は素晴らしい勢いで食べている。 ケフカが半分を食べ終わった頃には、もう28号はコーヒーの準備をしていた。 ケフカは外を見ながら林檎ヨーグルトを食べている。 天気は快晴。風もない。暖かな日差しが二人を包んでいる。 「28号。」 「なんですか?ケフカ様。ブラックでよろしいですか?」 「ああ、僕ちんはいつものとおりにきがえればOKなのですが・・・・ ・・・・・・・どうも、おまえがねぇ・・・・・・・・・・・」 「え、この服じゃやっぱり地味すぎますか?」 「今日は沢山の軍関係者と、政治関係者が来ます。 ついでに、大陸日報とか帝スポ(帝国スポーツ新聞)とかマスコミもね。 ま、おまえの政治家秘書としてのデビューといってもいいでしょう。」 「挨拶はこの前行きましたが、あれじゃまだだめなんですか?」 と、28号はカップにコーヒーを注いでケフカに出した。 「うーん・・・・・・・なんか、こう足りない。」 「はあ。」 「頭が足りないのはしかたない、しかし、賢く有能には見えん」と、 ケフカはコーヒーを飲みながら28号の上から下までをじっくりと眺めた。 「もう・・・それは・・・僕はどうしようもないですよ・・・努力はしてますが・・・」 「うーん。よし、お前も化粧しろ!」 「ええっ!・・・・・・・それで僕もちゃんとしてみえるんですか?立派な秘書に?」 「それはどうかな」フフンとケフカは鼻で笑った。 「そーんなー」 「立派で賢くて勇敢で有能な秘書にはみえなくとも、私の秘書だ、ということは 皆わかるはずだ・・・・・・」 「あっ!それならいいです。そうしましょう!」 「そうか」と、ケフカは嬉しそうに笑った。 ケフカは鏡の前に座るとまず自分の顔を真っ白に塗った。 いつもより念入りに瞼の上に赤くグラデーションカラーを乗せていく。 そして、頬から瞼にかけて赤で模様を描いた。 睫をアップしマスカラを載せる。細い繊維が、睫を更に際立たせる。 赤い唇にはグロスを乗せ、濡れたようなパールの光沢が輝く。 顔全体にきらきらとした光る粉をさっと刷毛で刷いた。 28号は驚嘆の眼でそれを見ていた。 早い、そして、あっという間に別人。 これじゃ、ほんとに誰も素顔がわからない。 「虹色の羽根を頭につけて行こう、マントは白の羽根がついてて濃い目の赤の出しておけ」 「はい。」 28号はケフカの頭に羽根をつけ、マントを衣裳部屋に取りに行った。 ケフカはマントを受け取ると、さっきまで自分が座っていた鏡台の前に28号を座らせた。 「あ・・・ケフカ様・・・・もしかして、僕も白塗り!?」 「そうだ。口を開くな。」 「うわぁ・・・いいにおい。」 「口を開くな!口の中も塗ってしまいますよ・・・。」 ケフカは自分の愛用のおしろいを28号にぐりぐりと塗りこんだ。 普段の手入れをしていない割には28号の肌の状態はいい感じだ。 「ケフカ様―なんだかこの顔怖いですよぅ・・・」28号の顔は眉毛も睫も唇も真っ白であった。 「うるさいですねぇ。ここからが楽しいんですよ。 お前は人形なんだから、黙って私に遊ばれなさい。」 「はい」 「私が赤だから、お前は青系にしてみましょうか・・・・・・」 28号の顔がケフカによって塗られていく、瞼は青から緑へと金属の光を放ち、顔には ケフカの手で模様が描かれていく。 28号の口紅は青だった。押さえ気味のシルバーのパールが唇の立体感を強調している。 「28号、アイラインを入れる時よくじっとしていましたね。えらいですよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 えらい事になってしまったのは28号だった。 ケフカ様!この顔怖いですよ!絶対怖いですよ!僕の顔見たら皆怖くって逃げちゃいますよ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、言いたかったが我慢した。 ケフカが楽しそうだったからである。 「この銀のマスカラを一回使ってみたかったんだ。どうも俺様の顔には 合わないような感じがしてな・・・・・・・・」 と、ケフカは、透明マスカラを塗った28号の睫の上にさらにもう一つ重ねようとしている。 「あの、ケフカ様。もう8時になります。準備して行きませんと。」 「準備といってもな・・・ハンカチとちり紙と日傘くらいだ。」と言って、ケフカは28号に銀のマスカラをつけた。 「ああ、やっぱりいまひとつですね。」 「そ、そうですか・・・・」 「では、手袋をはいて、お前は荷物もってベクタ駅まで行きますよ。」 と、ケフカはマントを羽織った。28号は昨日買ってきた孔雀の羽を帽子につけた。 白塗りプラス羽根。これで、ケフカ様と同類項に見えるはず・・・・。 28号は、大事なものを一つ持っていくことにした。 行き先は海なのだから・・・・・。 帝国城の39階からスカイアーマーに乗って、ベクタ駅のホームに2人がついたのは8時50分だった。 しかし、2人が進むと、兵士の敬礼と共に道がおのずから開いた。 急ぐ様子もなく、ケフカは9時ちょうどに軍用列車のコンパートメントにすわった。 「間に合いましたね。ケフカ様」 「フン。くだらない。わざわざ何で俺が高速艇のお披露目になんか出なきゃならん。 皇帝一人来れば十分だろうに。」汽車に乗ったとたんケフカの文句が始まった。 28号は腕時計を見た。 「あれ、もう9時10分になるのに出発しませんね。」 「でかい行事になればなるほど、おくれるものさ・・・。」 汽車は18両編成でベクタを9時30分に出発した。 それまで、ケフカは延々と早く行かないのか、何で遅れているんだ役立たずの機関士どもなどと 汽車が動き出すと、ケフカは静かになった。 ・・・・・・しかし、反対に28号が喋り出した。 「ケフカ様!ケフカ様!この列車早いですねー。」 「ああ」 「あっ、鉄橋だ!もうベクタの街がおわっちゃいましたねー。」 「ああ」 「ケフカ様!見て見てっ!牛の親子!かわいいなあ」 「・・・ああ」 「あっ!線路工事してるー。線路2本にするんですかねー。」 「・・・・・・・・・・ああ」 28号は作業員たちに向かってぶんぶんと手を振った。あっけにとられた作業員たちの姿もすぐ後に流れていく。 「ケフカ様・・・・もしかして、ご機嫌斜めですか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。お前少し黙ってろ。寝られん。」 「また、寝るんですか?さっき起きたばっかりなのに。」 「お前は、汽車に乗って楽しいのですね。」 「はい。こんな立派なお部屋のついた列車は、初めてですから。」 「ふーん・・・・・。」 「あ、そうか。ケフカ様はいっつもこうゆうのに乗ってるから、嬉しくないんですね。」 ふーっと、ケフカはため息をついてから話し出した。 「線路が2本になったら、仕事が増えて面倒ですよ。」 「・・・どうしてですか?ケフカ様は鉄道の仕事もやってたんですか?」 「鉄道はやってない!よーく考えてみろ、28号。この線路の行き先はどこだ?」 「軍港第4基地ですが・・・・。それが何か?」 「この南大陸は全部ガストラ帝国の物になった。じゃ、次はどうする?」 「お祝いのパーティする?」 ケフカは28号の首の生え際の髪の毛をおもいっきり引っぱった。 「・・・・・・・・・・。兵隊はどう動かす?考えてみろ。」 痛いので28号は必死に答えた。 「え?えーと・・・船で兵士を送って征服しに・・西大陸や東大陸へ・・・行く・・・?」 「そういうことだ。ベクタの最新兵器が迅速に輸送できる。」 と、ケフカが手を放した。 「・・・・・・・なるほど。」 「交通網、補給路の確保、国内を整備してからじゃないと、戦争ってのはできないからな。」 「なるほど!」 「ま、しばらくは他所の大陸まで行くことはないでしょうけどね。」 「ケフカ様、頭いいですね。」 ケフカは嫌な顔で答えた。 「おまえに誉められてもちっとも嬉しくない!」 28号がトイレを探しにコンパートメントから出て行った。 ケフカの嫌な顔はしばらく続いた。 こんな奴を秘書に使って僕ちんはこれでいいのか・・・・。 いや、人間は信用できないですしね。 まあ、あきたらあいつで着せ替え人形ごっこをすればいいか。 思ったより化粧映えするし・・・。 でかいから遊びがいがある。 暗殺者が来た時に楯にして、影にかくれられるしな。 などと考えていた。 トイレを終えた28号が列車の廊下を歩いていると 向こうからワゴンを押してエイリアがやってきた。 「あっ、エイリアさんもこの列車に乗っていたんですかー。」 と、にこやかに28号は挨拶をした。 「きゃっ!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、28号さん?」 エイリアはかなり驚いた様子だった。 ケフカの化粧と違って28号は身長があるため大迫力なのだ。 「・・・・・やっぱり、この顔・・・・怖いですか?」 「・・・・・・・・・ええ・・・・・・・」 「実は僕もかなり怖いんです。」 あは・・・・あははは・・・とひきつったようにエイリアが笑った。 「28号さん、コーヒーと紅茶とどちらがいいです?マフィンもありますよ。」 「ケフカ様のところはもう行ったんですか?」 「ケフカ様はいらないっておっしゃいました。」 「紅茶とマフィン1つ下さい」 「はい、どうぞ」 28号はコンパートメントに戻った。 エイリアの反応から列車内を探険して歩くと、多分みんなに驚かれてしまうだろうと思ったのだ。 ケフカはシートを最大限に倒し、赤いブーツを脱いで丸くなって眠っていた。 両腕の肘まで直列にはめられた重そうな金細工のブレスレットが輝いている。 ケフカに自分の上着をかけると28号はマフィンを食べた。 おいしい・・・。 紅茶もいい香りがする。 車窓からは草原が見える。 この空の下、自分の知っている全ての人たちが幸せに生活しているといい・・・・と28号は思った。 戦場で出会った兵士たち、自分を作ってくれたDr.リサン、 僕の事を何とも思っていないだろう僕の兄弟たち、人事課のグリザレスさん・・・・。 目の前で寝ているケフカ様は幸せなんだろうか・・・・? 美味しいもの食べて、立派な服を着て、大魔導士で魔法が使えて・・・・。 でも、また戦争になったら、僕と一緒で魔法が使えるから 人間を殺さないといけない。 僕は命令されれば、敵は殺す。そのために造られたのだから。 でも・・・・・・・ケフカ様はどうなんだろう? 殺すの好きなのかな。 って聞いたら怒るかな・・・。 流れ行く草原を見ながら28号はそんな事を考えていた。 しばらくしてノックの音がした 「はい?どうぞ。」エイリアが昼食を運んできてくれた。 「28号さん、ケフカ様はお休み中ですね。」 「そうですね。じゃ、こっちのテーブルの方へ置いてください。」 「はい、かしこまりました。」 メニューはアスパラのサラダと、牛のコンソメスープと、 キャベツとべーコンをいためたオープンサンドイッチだった。 それと、コーヒー・・・・・・・・。 「エイリアさん。今日は準備で朝早くから大変だったんじゃないですか?」 「いえ、わたしは上級職員の係りなので、それほど人数はいないから大変ではないんです。」 「それはよかったですね。」 「後の係りの人たちの方がきっと忙しいですよ。」 「へぇ・・・・そうなんですか」 「人数も多いしサービスというよりは配給状態です。もう大変。おかわりは?とかもっとよこせとか・・・・。」 「ああ、そういえば、新聞関係の人たちとか偉くない人たち、後の車両に乗ってるんでしたね。 個室じゃないんでしょうね?・・・・・きっと。」 「ええ、ギュウギュウづめですって。」 「ああ!うるさいっ!」 ケフカが起きた。 「失礼しましたっ!」エイリアは飛ぶように出て行った。 「ケフカ様。お昼ですよー。」28号は不機嫌そうなケフカに食事を勧めた。 「んなもん見ればわかる!ああ、もう、今ごろアスパラのサラダですかっ!気が利かないにもほどがあるっ!」 ケフカはテーブルに近いシートへとうつった。 「ケフカ様のリクエストじゃなかったんですか?」 「ふんっ!それは今朝の話だ。俺はサラダは食べない。」 ケフカはサラダを28号の方へ寄せた。 「あれっ!?僕にくれるんですか?」嬉しそうな28号。 「下さるんですかといいなさい。全く言葉遣いから教育しなくてはならないとは・・・」 「はい。くださるんですか。ケフカ様。」 「いらん。・・・・・・・サラダに毒を盛られる夢を見ていたのだ。私は。」 「はははは・・・・。おいしそうですよ。アスパラ。」 「いらんと言ったらいらないのだ。」ケフカはコンソメスープを飲んだ。 これ以上サラダをすすめると、怒られそうな気がした28号は黙って食べ始めた。 ちょっと胡椒のきいた、ごくごくプレーンなドレッシングが美味しい。 細めのアスパラの色はケフカの服の色に近かった。 ブロッコリーの深い緑は広葉樹の森を思いださせた。 小さくブロック状に切られたトマトはほんのりと甘くサラダを彩っていた。 これすごくおいしいのに・・・もったいないなあ、ケフカ様・・・・。 食事が終った。28号は満腹だった。 多分、キャベツとベーコンの炒めものはケフカ様好きなんだろうと思った。 ・・・・・・・なぜなら、一言も文句を言わずに食べたから。 食事を下げに来たのは28号がはじめて見る若い給仕だった。 「ケフカ様。あのー・・・・・」 「なんですか。ああ・・・口紅が落ちかけていますよ28号。気をつけて食べないから・・・・・。」 「すいません。ケフカ様。質問してもいいですか?」 「俺様を怒らせないような質問ならな・・・・・。」 「ケフカ様、年いくつなんですか?」 28号は昨日のグリザレスとの会話を思い出していた。 「26だ。」 「はー26・・・。お若いですね。21か20くらいにしか見えませんよ。」 「ふんっ。どうせ私はガキにしかみえませんよっ。 背も167センチしかないし、体重も48キロしかないしっ。 どーせ、影で大臣や兵隊どもが若造呼ばわりしてるんだっ! みんなして、僕ちんのことをバカにして――!」 あれ、グリザレスさんのときは、なんかちょっといい感じだったのに・・・・。 と28号は思った。 「小さくてかわいくて軽くて運びやすくて僕はいいと思いますが。場所も取らないし。」 「小さいっていうなー!軽いのも気にしてるんだ。 それに何だ!運びやすくて場所を取らないってのは・・・」 「あ、あー・・・。ケフカ様、僕8なんですけど8はだめですか?」 「8じゃなくてもお前はダメだ!」 「え――っ!だめなんですかっ!」 「ダメに決まってる。」 「どこですか?どのへんがだめなんですか?」 「全部。」ふふん、と、ケフカは自分の羽のついたピアスを人差し指ではじきながら言った。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「いい所がないから、廃棄処分になりかけた。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「それを私が拾って使ってやっているのだ。ありがたく思え。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・年、聞くんじゃなかった。 と、28号は深く後悔したのであった。 汽車は第4軍港基地へとすべりこんだ。 案内の将校、皇帝、大臣、ケフカと基地の中へと進んでいく。 歓迎の演奏が軍の音楽隊によって演奏されている。 ドックの周りには、工事関係者、基地の兵隊などが整列している。 皇帝の演説が始まったが、ケフカは勝手にドックの新型高速艇「銀の人魚号」の回りをうろうろしている。 28号は、こういうときは偉い人たちと一緒に前の方に並んでいるものじゃないのかなーと思ったけれど 「この船は金属製ですね。形も座薬に近い・・・もっと下の方が尖っていて甲板を広くすればいいのに・・・。」 船は上部の部分も流線型であった。 「何か窓が下よりですね。」 「うむ。水中すれすれだろうな。それにこの擬装は何だ?」 魔導レーザーが付いていると思われる前後の砲塔には人魚の張りぼてがかぶさっている。 マストは一応ついているが低めで帆走できるぎりぎりの大きさではないのか・・・ とケフカは思った。 皇帝の演説が終わり、一行がドックの方へやってきた。 何となく28号は皆の視線が痛いような気がしたが、無視する事にした。 ファンファーレがならされ、皇帝がシャンパンの壜を船の先で叩き割った。 拍手の嵐の中、しずしずと「銀の人魚号」はドックの傾斜を下り海へと進んでいった。 船の上では水兵服の乗組員が一列に並び敬礼している。 やたらと景気のいいマーチと共に「銀の人魚号」は埠頭の方へと移動した。 埠頭の方には報道関係者用の休憩所、軍関係者用、民間人用の休憩所がテントで設営されていた。 一番最初の班は皇帝と報道関係者たちであった。 ケフカは一番最後の6班であった。 海軍将校にそのことを伝えられても 「何故俺様が一番じゃないのだ―っ!」と、ケフカは怒らなかった。 不思議と休憩所でおとなしくしている。 ケフカ様、実は海を見ているのがすきなのかなあ・・・と 28号は思った。 つづく!
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