金紗のベールとノクターン その6 by ZAZA9013

 

 

 

人造人間28号の初めてのお買い物の付き添いをしてくれる

人事課受付嬢マヤ・グリザレスはにっこりと笑った。

「28号さん。領収書貰えば全部経費で落とせますから、何を買っても超OKですよ。」

「ああ、僕の給料から引かれるんじゃないんだ・・・・。」

「ケフカ様が職務命令で、28号さんにふさわしい身なりをさせてって事ですから、
もう、靴からバッグから何でも買っちゃいましょうね。」

「そ、そんなに買っちゃってもいいんですか?」

 

「うーん・・・。28号さんは何も知らないようだから・・・こんなことは本当は言わないほうがいいんだけど
・・・・・ケフカ様の秘書官って長続きしないんです。」

「はあ。そうなんですか。」二人はガストラ帝国城の階段を降り、城の外へと出た。

「ケフカ様がわがままで意地悪だから、皆やめちゃうか、どっか行っちゃうんです。」

「ああ!だから皆・・・。」様子がおかしいわけだと、28号は納得した。

「仕事をやめたとしても、服とか物とかは、手元に残ったほうがいいでしょう?」

くるっと振り返ったマヤの顎の高さで切りそろえられた髪が、28号の手に触れた。

28号はドキっとした。

 

「ええ・・・まあ、そうですけど・・・。僕・・・案外長続きしそうな気がするんです。」

「まあね。現在3日目だし・・・大概の人は3日目に音をあげて人事課にやってくるんです。」

「あっははは・・・・・それは、わかるような気がします。でも、僕がんばります。やめるわけにはいきませんから。」

「無理しないでね。28号さん。聞いちゃいけないって言われてるんだけど、

やっぱり28号さんって、軍関係からいらしたんでしょ?」

 

28号は、人間扱いされたかったら、余計な事は言うなというケフカの言葉を思い出した。

「ええ・・・まあ・・・。特殊な部署から来ました。それ以上は言えません。」

「そうだと思った。ケフカ様と一緒にいて平気なんて、

絶対に特殊部隊とか、秘密部隊の超エリートじゃないかって皆で噂してたの。」

「僕は・・・優れていないので、外されました。」

「外されて、帝国城内勤務なら充分エリートっていうのよ。」

「まあ・・・そういう考え方もありますね。僕は戦うために生まれたのに・・・」

「あーー。それって、軍人さんの考え方よね。」

「そうなんですか?」28号はマヤの緑の瞳を覗き込んだ。

 

「そう!死に急いじゃだめですよ。

勲章や名誉や遺族年金が残るより、28号さんが生きているほうが大事じゃないかと思うんですけど・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」生きている方が大事?28号はすぐに返事ができなかった。

「ごめんなさい。ほとんど初対面なのに、突っ込みすぎですね。私。」

「そんなことは・・・。

僕は、戦闘に出られない自分は失格だ・・・という気持ちが

自分の中にすごくあるなあって・・・、グリザレスさんの話を聞いて気がつきました。」

「ケフカ様の秘書の仕事も、殺されそうになったらやめて逃げちゃえばいいんですよ。

28号さんに言いたいのは・・・うん、無理しないでって事。」

 

「平気ですよ。」

と、28号は言った。
しかし、自分がケフカを好きであるし、
どうしてもケフカに愛されたいという気持ちは
この人に言ってみても
わかってもらえないだろうなあ・・・と、軽い絶望を感じた。

 

「グリザレスさん。ケフカ様の評判って本当の所はどうなんです?」

「そーねぇ・・・。告げ口しない?」
「しませんよ。」

「私たちみたいな下級職員の間では最低。でも・・・・。」

「でも?」

「国内全体で言えばきっと半々くらいでしょうね。ほら、やり方が汚いとか、残酷だという意見もあるし、
ガストラ皇帝の力とケフカ様の力があるから
今の帝国が成り立っている・・・そういう意見もあるし。」

「なるほど。・・・・人の数だけ意見があるんだ・・・・。」

2人は帝国城前の広場を抜け、高級っぽいたたずまいの店が並ぶあたりへやってきた。

「28号さん。何色が好き?」

「え?」

「ケフカ様の注文だと、派手でかっこよくて立派に見えるような

服を買ってくるようにと言われたんですけど・・・。」

「はあ。」

「ケフカ様のセンスはあてにならないから、28号さんの好みで良いと思うんですけど。」

「うーん・・・秘書官だから・・・インクブルー・・・かな。

あ、ここ笑う所なんですけど・・・。」

グリザレスはちょっとだけ、笑ってくれた。

「青系ってことで、ゆきましょう。靴とか傘とか重いものは最後に買いましょうね。」

「はい。」

2人は一軒の高級そうなお店へと入っていった。

「ここは、大臣クラスの人がよく来るお店なんです。あー、自分の買い物じゃなくてもここに来れるなんてうれしいなぁ。」

28号は軍隊時代の事を思い出した。

‘女ってのは買い物のがすきだからなあー‘・・・そんな会話を聞いた事がある。

ショーウィンドーには真珠をあしらった白いドレスが飾られていた。

あんなのをケフカ様が素顔のままできてくれたら、いいなあ・・・・。

などと28号は思った。

 

グリザレスは店員と一緒に、鏡の前で28号に色んな服をあてて選んでくれている。

自分の服を買うわけじゃないのに、すごく楽しそうだと、28号は思った。

28号は腕を上げたり、体のあちこちをメジャーで測られたり、布地を体にあてられたりと、されるがままだった。

全く、買い物の展開が見えていなかった。

「28号さんの言ったとおり、このブルーブラックの服が一番良く似合いますね。」

「あ・・・そうですか。じゃ、それを買いましょう。」

「あと、式典用の紋章入りの服も注文しておきましたから。」

「はあ。どうもありがとうございます。」

「じゃ、次は普段着と寝巻きを買いに行きましょう。・・・・・もう少しお安いところへ。」

「はい。」

 

次に2人が向かった所は、市場だった。

食べ物、服、道具、武器屋などがごちゃごちゃにならんでいる。

帝国城内のような静けさはない。老若男女でごったがえしている。

「ああ、すごい・・・生きる力が伝わってくるような場所ですね。」

「昔はもっと市場も小さかったの。

帝国が力をつけてからは、あちこちから品物が入るようになったから・・・・。」

「なるほど。・・・・はぐれないように気をつけます。」

と、28号はグリザレスの手を握った。

細い指だなあと28号は思った。

ケフカに触れた時のような、あの不思議な感覚は無い。
普通に物に触った触覚だけしか伝わってこない。
・・・・やっぱり、ケフカ様って違うんだなぁと感嘆していた。

 

28号にとっては純粋にはぐれないために握った手だったが、

マヤ・グリザレスにとっては少し意味が違った。

油頭の人事課長が「誰か28号さんの買い物に付き合ってくれる人はいるかい?」

と、言った瞬間から人事課の若い女子職員の中でバトルが始まったのだ。

ケフカとは対照的に純朴そうな、そして顔色は悪いが、
見た感じは
十分かっこいい28号はひそかに人気があったのだ。

最終的にくじ引きで勝ったグリザレスは、役得役得っ!と、思いながら、28号と手をつないでいた。

 

その他に靴4足、書類カバン、28号の希望で皮製のリュックと孔雀の羽、

寝巻き、高級腕時計、下着、靴下、傘、合羽、普段着などを買いそろえると、二人の荷物は山のようになった。

「グリザレスさん。そういえば、僕の給料はいつもらえるんでしょう?」

「すいません、最初に渡すの忘れました。バイト扱いだから日払いなんです、私のハンドバックに預かってます。」

「ああ、ありがとうございます。これが給料だぁ・・・うれしいな。
それじゃあ・・・これで何か・・・お茶でも飲みませんか?グリザレスさんの時間さえ良ければ。」

「はいっ!」

28号は初めての買い物に疲れていた。長距離を歩いたわけでもないのに体がだるい。
すれちがう大量の人々を避けて歩くのに神経を使ってしまったのだろうか。

荷物は重くはないのだが、かさばって持ちにくいし・・・。

屋台から串焼肉の美味しそうな匂いがする。

しかし、28号にはあれ食べてみたいと言う気力もなかった。

激しい運動で体が疲れるのとは又違った疲れ方だ・・・・。

 

2人は紅茶の露店の1席に座った。

グリザレスの注文で銀色のポットとカップがドンとテーブルの真中に置かれた。

グリザレスが紅茶をついでくれた。

「は―――っ。買い物って疲れますね。」

「ちょっとね。でもバーゲンの時期はもっとすごいのよ。」

「・・・・・・バーゲン?」28号には初めて聞く言葉だった。

「ほら、季節の終わりに冬もの売り尽くしとかいって安くなるでしょ。」

「ふーん・・・・。そうなんですか。」

「28号さんって、きっと育ちがいいのね。バーゲン知らないなんて・・・おぼっちゃまだわー・・・。
きっと軍人の家系なんでしょうね。」

「え?あ・・・いや、そんな・・・。」

「うーん。それも秘密?」グリザレスは軽く首をかしげた。

「答えようがないですね・・・・・・。そうだ、グリザレスさんって年いくつなんですか?」

「えっ・・・・。いっつも22って言ってるけど、ほんとは24才なの。

28号さん。24はだめですか?」

28号はとまどった。何がダメなんだろう?24の・・・わ、わからないよう。

 

「・・・・・・だめじゃないと・・・・・・思います。」

「28号さんは?幾つなんですか?」

「えっ?」
28号はとまどった。

えーと・・・たしか、博士が作るのに5年かかって、そのあと暴れちゃって、

培養ベットに3年入っていたから8年とちょっと経過しているよな、僕は。

・・・・でも、8歳って言っていいのだろうか。・・・・・・・・・・・・・・・。

「それも秘密ですか?」と、グリザレス。

「・・・・・・・・・・・・・・8です。」28号苦渋の選択だった。

「えっ、8?・・・・・・・28?えーっ22か3くらいかなーって思ってました。

若いんですね。全然・・・そんな、25過ぎてるようにみえませんよ。」

「あ・・・・あははは・・・そうですかー」

グリザレスの言っている言葉の意味が突然わからなくなった28号である。

もう何があっても笑ってごまかすしかない。

けれど、これはきっと誉められているんだ・・・。そんな感じがする。

今度ケフカ様にも言ってみよう。喜んでくれるかもしれない。

「私、絶対同じか年下かと思っていましたっ。肌きれいだし。」

「ははは・・・・そうですかー。」

なぜかグリザレスの言葉には妙に力が入ってるなあと思った28号である。

 

でも、この人と長く会話していると、自分が人造人間だってことがばれてしまいそうな気がする。

悪い人じゃないんだけど・・・・。

カップのお茶を一気のみした28号は、グリザレスにそろそろ帰りませんか?

と勧めてみた。

グリザレスも少し疲れていたのか、辻馬車をひろって帝国城まで戻ってきた。

馬車の中でグリザレスは自分の家や兄弟、家族のことを話してくれた。

その話は28号にとってうらやましいものだったので、じっくりと聞いた。

「また買い物をするときは、今度も私と行きましょうね。」

と、グリザレスは28号に言った。

「はい。そうします。」と、28号は約束した。

そして、一人大荷物を抱えてケフカの所へと戻った。

 

「おかえり、28号。」ケフカは執務室で書き物を終えたところだった。

「ケフカ様。おかげで沢山買い物が出来ました。嬉しかったです。ありがとうございます。これあげます。」

「なんだ?」と、ケフカは28号から封筒を受け取った。

「給料。」28号は笑顔で答えた。

「ああ?俺のは帝国銀行の口座に入っているはずだが。」

「僕の貰ったぶんです。日給1万2千ギルで、3万6千ギル。お茶代ぬいちゃいましたが。」

「・・・・・・・・俺様に賄賂を渡す気か?」ケフカは机の上に封筒を放り投げた。

「え?僕がケフカ様のところで働いて貰った給料だから、僕がケフカ様にあげるんでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ケフカは頭を抱えた。

そうだ、多分こいつは上司の人間に奉仕するような設定なんだ。

マニュアル読んでないからわからんが・・・。

「・・・僕、まちがってます?」

「怒る気力も失せるな。この愚か者。バカ。能無しっ。給料は貰って喜ぶだけのものではないのですよ。

これはお前が貰ったものだからお前が好きに使って良いのだ。・・・・・・・・・・リフィーバニー以下の脳味噌だな。」

「服や靴も買ってもらった上に、給料貰うってそういうことなんですかっ!」

「・・・・・・・・そうだよ。じゃがいも頭。」ケフカはそっぽを向いて返事した。

 

そして長―いため息のあとケフカは28号に言った。

「お前の正体。一緒に行った奴にばれなかったろうな。」

「グリザレスって人と行きました。・・グリザレスさんは、僕の事を軍人の家系でお坊ちゃまで、

28歳で、特殊部隊にいたと・・・思ったみたいです。」

「ふーん・・・。他に報告することはありませんか?」

 

「ええと・・・。一緒について行ってくれた人事課のグリザレスさんの

おっぱいは、食事の係りのエイリアさんより小さかったです。」

「女といったのか。」

「ええ、指の骨も細かったです。」

28号の微妙にずれた回答に、ケフカの質問もずれまくる。

「で、発情したのか?お前は、グリザレスのおっぱいに。」

 

「いいえ、おっぱいならウィームス少佐のほうが大きかったですから。」

「毎晩お前を犯し倒したというウィームスよりか。・・・・・・ん?ウィームス少佐って女だったのか?」

28号と隣の部屋て寝ているケフカだったが、28号の相手が女でしかもケフカ様好きなどと言っているということは・・・・

危険じゃないか。万が一こいつに襲われても倒せるが面倒だな。

と、ケフカは思った。

 

「いえ。男でした。」

「カ――ッ、28号いいかげんにしろ。おまえ、男女の区別がついとらんのだろう?

おっぱいが男にありますか!バカ人形っ!」

「ウィームス少佐はありましたよ。僕、顔うずめるのが好きだったんです。」

「女だったんだよ。それはっ!。」

「いいえ・・・・。ちゃんと棹も下についていました。タマもあったし。」

「半陰陽か?・・士官にそんな奴がいたとは知らなかったな。

・・・・・・・・・・どんな奴だったんだろうな、ちょっと見てみたい気はするがな・・・」

「そうですね・・・・。そう、身長はケフカ様より少し大きいくらいでしたが、体重はケフカ様の3倍以上はありました。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはただ肥えているだけだ!おっぱいじゃない!

見なくて良かった。俺様の3倍だと!喰いすぎだっ!」

しかし、ケフカの脳裏には身長184p体重74sの28号が

体重150s以上のぽっちゃりしたおやじのおっぱいに顔をうずめている姿が貼りついてとれない・・・・・・・・・・・・・。

ある意味、マニア向け映像である。

 

「あったかくて、いい人でしたよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・なんだか・・・お前と会話していると、だんだん私にお前の阿呆が伝染するような気がしますよ。」

頭の中のマニア向き映像がなかなかふりはらえない。

ケフカはげんなりした。

「うつるんですか?阿呆って。」

28号の質問にケフカが切れた。

「クワ―――ッ!もうっ!さっさと荷物しまってこいっ!」

「はいっ!!!」

 

28号は大荷物でドアにひっかかりながら執務室から応接室へ走っていった。

応接室の棚が空いていたので、そこに服や靴を置く事にした。

しかし、28号は城内の誰もができない事をやっていたのである。

・・・・・・そう、ケフカのペースを崩すという難事業を。

 

28号が棚に全てを分類して収めて、執務室へ戻ってくるとケフカの姿はなかった。

机の上にメモが置いてあった。

“3大陸一番の阿呆へ、俺様は散歩にいってくる。書類を出したら掃除して8時に夕食を頼んでおくように”

「3大陸一番かぁ・・・・・・・。やっぱり視野の広い人はいうことが違うなぁ。」

と、メモ一枚にも感心する28号だった・・・・・・・・・・・。

 

夕食が来て暫くするとケフカが帰ってきた。

上機嫌である。

「書類は出してきたな?」

「はい。掃除も。」

「んー。では、食べようか・・・。」

「ケフカ様、何か良い事あったんですか?」

「ん?別に・・・・・。気分転換に池の鯉に石をぶつけて、鳩をファイアで焼き殺して、

ついでに、その辺にいた猫を蹴飛ばして遊んできただけだよ。」

「楽しそうですね。」

「フフン。これが、ブルジョワジーの密かな楽しみってやつだな。」

と、文句を言わずに夕食を食べ始めた。

デザートは胡麻豆腐。

 

「ケフカ様、明日の軍用列車は、9時にベクタ駅を出発する予定だそうです。」

「じゃ・・・6時半に起きて、7時に朝食にして8時までに仕度して出発すれば間に合いますねって、
これはお前の台詞だぞ、28号。」

「はい。」

「そのように段取りをつけるのがお前の仕事なのですよ。」

「はい。」

「で、寝坊しないと。」

「はい。ケフカ様、質問しても良いですか?」

「あ、だめだめだめっ!ちっちっちっ、せっかくのいい気分が壊れる。

明日、汽車に乗って高速艇に試乗した後なら受け付けてやる。」

「・・・・・・はい」

28号は、汽車の中でお昼の食事はどうするのか聞きたかっただけなのだが・・・・。

「あとな、明日はいい服きてゆくんだぞ。一般兵のその服じゃダメだ。」

「はい。」

「どんな服を買ってきたのだ?」

「えーとインクブルーに黒いリボンがついてます。帽子もお揃いで・・・」

「聞いただけで地味すぎるのがわかりましたよ。まったく、どーせ中身が無いんだから

外側だけでも良くしようと思わなかったのですか?」

ケフカはファッション原色派である。

赤と緑、黄色と青などの補色の組み合わせが好きだ。

一番好きなのは赤らしいのだが。

「え・・・。緊張してそこまで考え付きませんでした。」

「まあいい。私と並べば、つけあわせのクレソンくらいには見えるでしょう。」

「クレソンって青でしたっけ?」との28号の問いを無視してケフカは
「ま、明日が楽しみですね。クックックックック・・・・」と、笑った。

 

ケフカの入浴も終わり、昨日のように28号は掃除を終え、洗濯物を廊下に出した。

応接室の方から音楽が聞こえてくる。

「ケフカ様、ピアノうまいんですねー」と、28号がピアノの側へ行った。

 

だが、ピアノには誰も弾いている姿がない。鍵盤の蓋が閉じているのに鳴っている。

自動ピアノかな?と28号はピアノの蓋を開けた。

中をあけると、軟らかそうなハンマーがピアノの弦を叩いている。

鍵盤の蓋も開けてみた。・・・・・・・・・鍵盤は勝手に動いている。

自動ピアノってきいたことあるよなぁ・・・・中に音に合わせて孔のあいた紙が入っていて
その孔で曲を演奏してくれるっていうやつ・・・。

どこにそんな仕掛けがあるんだろう?このハンマーと鍵盤の間かな?

と、28号はピアノの蓋の中に頭を突っ込んだ。

とくに、紙を巻く装置も多分動力源のぜんまいも見つからない・・・・・・・・・・。

うーん。これはいったい・・・・??

 

「28号、ピアノに頭がはさまったのですか?もう僕ちんは寝ますよ」

応接室のドアに腕を組んでよりかかっているケフカの声だった。

「ケフカ様―このピアノ、何の仕掛けもないのに曲をひいてくれてるんですー」

「ああ、そうだよ。」

「どうして?」

「そのピアノ、占領した街の教会の地下室に封をして厳重に保管されていたんだ。

・・・・美術品として価値があるのかとおもってベクタへ持ってきたのだが、

古いだけでそれほどの価値はなかった。ただな、」

「ただ?」

「28号、おまえカーテンきちんとしめなかったでしょう。」

「あっ・・・すきまがありましたっすいません。」

「月の光があたると勝手にこのピアノ、曲を弾き出すんですよ。
最初は面白かったけど
レパートリーが18曲しかない。
あきたから、大臣にでもくれてやろうとすると、
なぜか、皆いらんといいはるのだ。」

「は――。おもしろいのに・・・・・・。」

「あきるまではな。カーテンを閉めろ、もうねるのだ。」

 

28号はカーテンを閉めた。

ぴたっと曲が止んだ。28号はモルボルちゃんぬいぐるみの隣で眠った。

 

明日は汽車の旅ができる・・・お昼に何が出るんだろう・・・・。

と、胸をわくわくさせながら・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 つづく・・・・

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