金紗のベールとノクターン その5 ZAZA9013

 

 

・・・・28号の勉強と言っても、ケフカにタイプライターの使い方を教わっただけだった。

応接室のソファーで二人は向かい合っていた。

 

「いいか28号、高級官僚昼食会といってもランチミーティングみたいなものだ。」

「ああ・・・、食事しながら作戦を決める、消化に悪い会議形式のことですね。」

「よく知っているな。話し合った事の概要をお前は記録するんだ。」

「はい」

「で、印刷室へ行って輪転機を回してもらって、出席した連中の数だけ印刷して、それを配ってくるのだ。」

「はい・・・ケフカ様、質問があります。」

「なんだ?」

「印刷室行くのと僕の昼食行くのと、どっちが先なんですか?」

 

ケフカは無言で28号に‘クリティカル突っ込み‘を入れた。

「お・・・・・っ」28号は一人がけソファーごと後ろにひっくり返った。

「バカ者が!印刷室に決まっているだろう!」

「多分そうかなーっと思ったんですけど、一応聞いただけですってばぁー」

「それくらい考えつかんのかっ!不良品の壊れ人形!捨ててしまうぞ!」

「あーっ・・・捨てないで下さいよう・・。自分で考えるのに僕は慣れていないんです。」

28号は立ち上がり、ソファーを起こし、座りなおした。

 

「カ―――ッ!そんなことが言い訳になりますかっ!」

ケフカは怒っている。

これ以上何か言ったら更に怒られるだろうな・・と、28号は思ったが言ってみた。

「言い訳というか・・・本当のことです。」

「ふ――――ん・・・・・・。」

納得したのかケフカはそれ以上文句を言わなかった。

顔はおこっていたが。

 

「ケフカ様。そろそろお風呂にしませんか?お湯をためておきますから。

今日は気合を入れて髪も洗うし、背中も流させていただきます」

「・・・・気合は入れても力は入れるな。おまえに全力で洗われたら背中の皮が削ぎ落とされる。」

「はい」

「行ってよし。」

28号がお風呂の用意で部屋を出て行ったあと、ケフカは深いため息をついた。

・・・・・・・・使えるのか使えないのかわからん・・・・。

しかし、使うしかない・・・・・。

 

28号はお風呂にお湯をためながらつぶやいていた。

「押して引く、押して引く・・・・うーん・・・どうすればいいんだろう。」

浴槽に花の香りの入浴剤を振りまいた。

ケフカはこれが好きなのだろう。

あとは、一生懸命洗うのを手伝ってケフカ様の機嫌が直るのを祈るしかない。

 

お湯がたまるのを待ちかねたケフカが裸で浴室に入ってきた。

「なんですか、お湯がまだ半分しか入ってないじゃありませんか!」

「えーと・・・。髪を先に洗いましょうか?」

28号はあせった。バスタオルは持ってきたがバスローブを忘れたのに気がついたのだ。

まずい。あとで叱られる。

「うむ。」と、ケフカはシャワーの前に立った。

28号とは身長差が20cm近くあるので、ケフカがかがまなくても髪は洗える。

腰まである金髪に28号はシャンプーを泡立てた。

丁寧に頭皮を指先で洗う。

お湯をかけながらケフカの顔を覗くといつもの厚化粧が流れていた。

「もういい。顔用のを渡してくれ。」

ケフカはシャワーを避けながら顔をごしごし手で洗っている。

 

28号はケフカの体の動きに見とれていた。

軍で見かけた人たちとは体の作りが違う。

両手が動くたびに天井のライトが細い肋骨に影をあたえて一層華奢に見える。

肩も薄く、筋肉も細い。同じ種類の人間とは思いがたい。
いや、人間とは見かけも大きさも多種多様に富んでいるのだ。
性別も2つあるし。
人造人間には2桁ナンバーの「人間型」と3桁ナンバーの「モンスター型」がいた。
ケフカはしいて言えば「魔法型」の人間なのだろうか?と28号は思った。
骨格は男性型だけど、骨の太さはどちらかというと女性に近い。

この体のどこから、あんな魔法の力が出てくるのか不思議なくらいだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・特にクリティカルつっこみ。

 

すっかり素顔になったケフカは、浴槽に漬かった。

人差し指で浴槽の中をこすった。

「・・・・・・・・28号」

「はい?」28号はしゃがんでケフカの側に寄った。

ぴしっとケフカのでこピンが直撃した。

「ぬるっとしてるぞ!きちんと洗っているのか!」

「はい。すいません。次からは。」

「ここは前線じゃないんだ。洗剤はおしまず使え!」

「はい。ああ、やっと今、意味がわかりました!」

「なんのだ!」

「こじゅうと。」

ケフカはシャワーを手に取るとバルブ全開で水を28号にかけた。

 

「冷たいですぅケフカ様」と、言いながら28号はケフカの背中をブラシでこすった。

「俺様だっておまえから時々したたってくる水が冷たいのを我慢しているんだ。」

「ははは、すいませんねー。」28号はケフカの身体を洗い終わるとシャワーで流した。

ケフカは、再び浴槽に入るとあひるちゃんで遊んでいる。

寒いから・・・・・・早く上がってくれないかなあ。

と、28号が思ったときケフカがおもむろに口を開いた。

 

「お前はどこへ行っても通じる一級の阿呆です。」

28号は言われた意味がわからなかった。

「それって誉めてるんですか?」

「・・・・・・・それくらい、自分で考えろ。」

「?」

「まあ、いいさ。僕ちんを裏切るなよ。裏切ったら殺す。
この城の中でも力も無いくせに僕ちんを失脚させようという輩は山ほどいるんだ。

そういう奴がいたら、私がこの手で始末しますからね。おまえは、せいぜいニコニコして歩くがいい。」

「僕はケフカ様を裏切ったりしません。」

「・・・・・・裏切るほどの知恵がないからな。」

「あ、そうじゃないですよ。僕はケフカ様が好きなんです。」

「そう言って、寿命が延びると思ったら大間違いですよ。ふん。
のぼせるからもう上がります。
アヒルちゃんはきれいに洗うんだぞ」

「はいっ!」

 

全身から水をたらしている28号は、ケフカに身体を拭くのを断られた。

28号は素早くシャワーを済ませると、浴槽のお湯を抜きながら浴室の掃除を始めた。

浴槽を洗い、アヒルちゃんをきれいに磨くと、ケフカの黄金の洗面器の隣に置いた。

う、自分のバスタオルを持ってくるのを忘れた。

28号は、毛足の長い足拭きで全身をぬぐうとケフカのバスタオルと一緒に洗濯籠に放り込んだ。

あ、自分の着替えを取りにいかなきゃ、と、思い出してトランクの置いてある応接室へ行こうとした。
しかし、そこで再びケフカのバスローブを出し忘れた事を思い出した。

まずい・・・・・・・。

 

応接室のソファの上で裸で怒っているケフカの姿が目に浮かんだ。

なんて言ってあやまろう。・・・・・・・うう、もう何も思いつかない。

とりあえず28号は洗濯籠を持って廊下へ出しに行く事にした。

やっぱり、すいません以後気をつけます・・・かな?

執務室を通って、洗濯籠を廊下へ出した。

 

応接室へ戻ろうとして、ふと、執務室のベランダを見ると

バスローブを着たケフカが背を向けていた。

ワゴンがある。厨房になにか飲み物をたのんだのだろう。

・・・・・・・・・・裸じゃなくて良かったと、28号はちょっと安心した。

 

「28号。水撒きながら歩くな。」ケフカが声をかけた。

「裸で困ったんじゃないですか?」おそるおそる28号は返事をした。

「むぅ?なんだ。」

ケフカの睫が月光に光っている。

28号は素顔のケフカに一瞬みとれてしまった。

「ああ・・・いえ、そうじゃなくて・・・。」

「ビールを頼んだのだが、全部飲めん。残りをやる。」

28号はビールの壜を片手にベランダへと出た。

「ケフカ様、お月様が真上にでてますねぇ・・・・・・。」

「欲の深いガストラ皇帝も、月に進軍はできないだろうな。」

「はあ。」

「ここは笑う所だ。28号。」

「・・・・・・・・・・・・・高尚過ぎてわかりませんでした。」

「まあ、そんなところだろう」ケフカはグラスをワゴンにおいた。

「僕ちんは先に寝る。28号はそれ飲んだら片付けるんだぞ。」

「はい、ケフカ様。」

 

28号は、半分ほど残ったビールを一気に飲んだ。

ワゴンを廊下に出すと、寝室へと行った。

ケフカはお気に入りのフランちゃん人形を抱いてベッドに入っていた。

28号はケフカにお休みの挨拶をした。

 

ケフカが言った。

「お前は寝巻きはないのですか?」

「ないです。」

「あと、服も一般兵の制服着るのはやめなさい。

僕ちんの秘書は、廊下ですれ違うたいていの連中より偉い事になっているんです。

まるで、なり手がいなくて下っ端をこき使っているようにしか見えなくて私の評判が落ちてしまう。」

「えー・・・それはつまり、落ちるだけの評判がケフカ様にあるということと、

もっといい服を着ろ、ということですね。」

「そういう事。」

 

「他の服は無いです。人造人間用の戦闘服しか。」

「買うか作るかするように。明日の午後、お前に少し時間をあげましょう。

おやすみ。」

「ああっ、寝ないでケフカ様っ!」

「なんだ、時間をやるといっているじゃないか。」

「どこで服を買ったり作ったりするんですか?僕、支給品しか知らないんです。

話しか聞いたことが無いんです。買い物って・・・・」

「ち、これだから人形はぁ・・・・。人事課に頼んでおいてやる。ありがたく思え。ああ、もうっ!寝ろ寝ろっ!

・・・・・・・・・いや、俺様が寝るっ!」

と、ケフカは自分にスリプルの呪文をかけて眠ってしまった。

 

「あ―――・・・・ケフカ様。ずるい・・・。」

しかし、28号にはケフカをたたき起こすという暴挙に出る勇気はなかった。

そのかわり、ケフカの額にそっとキスをした。

あの、不思議なしびれるような甘い感覚が唇から28号に伝わってきた。

28号は、ソファーの上で平穏な眠りについた。

 

次の朝。28号はケフカにたたき起こされた。

「28号!起きろ!私の仕度をてつだえ!」

「う―――ん・・・・・。うわっ、こんな時間!」

「目覚ましの音が聞こえないようじゃ、秘書失格だな。」

「失格にしないでください。ああ、服着なきゃ。」

「裸で寝るから、毎朝ゼロからのスタートになるのだ。愚か者め!」

「ケフカ様!朝食は?」

「昼食会の1時間前に朝食を食べる者がいますか!」

「あああっ。僕、朝食抜きだぁー。」

「お前の食事の心配より、私の仕度を手伝え。・・・・2回も言わせるな。」

ケフカが鏡の前に座っている。28号は慌てて服を着た。

 

28号はケフカの長い髪を櫛で梳かし、飾りのついた紐で一つにまとめた。

「ケフカ様、どの羽根を頭につけましょうか?」

「赤いの。」

ケフカは顔を白く塗ると、細く眉を書き、目の周りに赤と黄色で模様を描きだした。

「うーん・・・。さっきとは別人。怖い顔―。」

「28号、お前、この顔に何か文句があるのですか?」

ケフカは冷たい一瞥を28号にくれた。

「文句はないです。」

「そうか。これは怖いではなく、美しいと表現しなくてはならないのですよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんですか?」

「ま、美の基準など所詮人造人間には理解できないものでしょうね。」

ケフカは高く笑った。

本当にそうなのかなあ・・・・・。と、28号は思った。

しかし、ケフカ様が言うならそうなんだろうけど・・・・。

 

衣裳部屋へ行き、ケフカは真紅の長衣を着て、金の刺繍の施された紫色のマントを羽織った。

再び鏡の前へ行き、大きなルビーのはまったブレスレットをした。

「きれいな石ですね。」28号は素直に感想を述べた。

「ガストラ皇帝からもらったのさ。石の底を覗くと帝国の紋章が浮き上がる。」

28号はルビーを見せてもらった。

「ほんとだあ・・・・。」

「うらやましいか?欲しいか?」

「ケフカ様。くれるんなら、アヒルちゃんのほうがいいです。」

「あれは、俺様のだ。絶対にやらん。」

「・・・・・・・・・・・・・・(けちっ!)」

28号のくやしそうな顔を見て、ケフカは笑顔を浮かべた。

「では行きましょうか。28号。書くものを持ちましたか?」

「はい。」

 

身分証が無いと通してもらえない40階のエレベーターホールは

最新技術をこれ見よがしに使っている帝国城内部とはまた一味違うたたずまいだった。

古い木材と石を組み合わせて、古城のような雰囲気にしている。

良くいえば重みのある、悪く言えば暗い感じだ。

「ケフカ様、ここはもう皇帝陛下エリアなんですか?」

「ああ、皇帝と煙は高い所が好きなのさ。」

「はあ。そうなんですか?」

「うーん・・・28号!ここは笑う所だったんですっ!俺様のセンスがわからなかったか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりませんでした。」

「チッ!これだから人形は・・・・・。まあいいです。こういうものも慣れでしょうから。」

「はい。」

 

2人が大きな扉の前に立つと扉は自動的に横に開いた。

「ここが、小食堂。おまえ、きちんと会議の内容を書きとめるのですよ」

「はい、がんばります。」

 

小食堂には、ガストラ皇帝を始め、外務大臣、内務大臣、将軍など軍関係の何人かと、シド博士も来ていた。
ケフカは堂々と遅刻の非礼をわびずに席についた。

28号は別に用意された小さなテーブルにペンとメモを持ち座った。

入り口の方には、何人かの給仕が前菜の用意をしている。

 

ガストラ皇帝がテーブルを2度こぶしで叩いた。

28号はびくっとしたが、他の誰にもそんな様子は無い。

話を始める前の合図なんだろうか?と28号は思った。

ケフカは話を聞く気が無いのか、頬杖をつき目を閉じている。

「シド博士、」皇帝が話し始めた。

「魔導機関搭載の高速艇の仕上がりはどうなっているのだ?」

「はい。擬装も終え、明日にでも試験航海を行う事が可能です。」

「ほう。それは早い。」

「普通の大砲をうつことも出来ますが、魔導ビームを搭載しております。

・・・・おそらく、いかなる大砲よりも正確に射撃をすることが可能です。」

「試験航海だが、明日行う事はできぬか?」

「では、そのように手配いたします。皇帝陛下。」

「うむ。」

28号は、メモに高速艇試験航海明日と書いた。

 

「内務大臣、膝の調子はどうかね?温かくなってきたから少しはよくなってきたのではないか?」
と、皇帝が語り出した。

「お心遣い痛み入ります。今日は天気も良いので足も軽々とはこびました。先週、孫が生まれまして・・・」

28号は、内務大臣孫誕生。と、メモに書いた・・・。

しかし、内務大臣と皇帝が孫の話から、親戚の話をしている間に、
外務大臣と、レオ将軍が北方情勢について語り出し、シド博士と、

軍の高官らしきジジイはなにやら機械の話をしている。

メンバーは偉いが、世間話のノリである。

がやがやしていて28号は、もう何を書いてよいのかわからなかった。

助けてっと、目でケフカに訴えようとしたのだが・・・。

 

ただ一人ケフカだけは話に加わらず、頬杖をついて目を閉じていた。

次々と運ばれてくる皿にも飲み物にも手をつけずに。

・・・・・・ずるい、ケフカ様。居眠りしている・・・・・。

28号はそう思った。

 

昼食会のテーブルの上には、色の違う2色のパン、スープ、きれいなサラダ、
たぶん鶏肉の蒸し焼きに人参とほうれん草で彩りをそえたもの。

よく分からないピンクの四角いのに3色のソースがかかって、クレソンがそえてあるもの。

こげ茶色のソースがかかっている牛肉に28号のしらない赤と黄色の野菜とマリネらしきものがのっかっているもの。

いろんなチーズの盛り合わせ・・・などがあった。

 

28号は自分の口からだらだら分泌されるよだれを飲み込みつづけていた。

ああっ、僕の食べた事の無いものばかりあそこにある。

お腹が空いた・・・たべたいよう・・・。

はーもうだめ。ああ、でも我慢しなきゃ。ああ、でもこの美味しそうな匂い。

食べた事ないけど、おいしそうってにおいでわかるんだよう。

あああ・・・食べたいよう。はあああ。

などと自分と戦っていた。

 

内務大臣がこっくりこっくりと居眠りを始めた。

つづいて、ガストラ皇帝も。

外務大臣も、突然居眠りを始めた。

シド博士も、他の全員も突然眠ってしまった。

給仕係りも立ったまま眠っていた。

小食堂は寝息だけが響いていた。

 

28号はすたすたとテーブルに行き、ガストラ皇帝の前にあるチーズの盛り合わせに手を伸ばした。

・・・・おいしい。

鶏肉、人参、サラダ・・。

順番に少しずつみんなの料理を食べていく。

シド博士のスープも飲んだ。

こんな美味しいものが食べられてしあわせだあ・・・。

28号はパクパクと食べ進んだ。

 

ケフカの前にある皿からゴマの入ったパンを取ろうとした時、

28号はフォークの柄でピシッと手を叩かれた。

 

「・・・・・・・・・・28号。全員にスリプルかけてつまみ喰いとはいい度胸ですね。」

ケフカの冷たい視線で28号は射すくめられた。

「うえっ・・・。ケフカ様、起きてらしたんですか?」

28号は全身に冷たい汗が流れるのを感じた。

どうしよう・・・・・失敗だ。怒られて、捨てられてしまう。やっぱり、これは反逆罪なのだろう。
でもでも・・・・。
28号は赤くなったり青くなったりしていた。絶体絶命である。

 

「俺様は最初から寝てなどいない!どうするんだ?」

「ケフカ様からは、一番被害の少ないパンを頂こうと思ったんですぅ・・・。」

「そうじゃないだろっ!全員眠ったら会議にならんだろうが。」

「お腹が空いてお腹が空いてもうどうしようもなかったんですぅ・・・・。

皆一度に喋るから何かいていいかわかんなくなっちゃったし・・・」

28号は半べそ状態だった。

「使えん奴だなー。

しかし、一番最初にガストラ皇帝のチーズを狙ったのは誉めてやるよ。ヒッヒッヒッ・・・・・」

なぜか、ケフカは笑顔だった。

しかし、白塗りの顔で笑われるほうが怒られるより見た目は怖い。

「えっ!怒らないんですか?」

「面白かったので、怒ってあげません。さっさと自分の席にもどれ。」

ケフカは28号を追い払った。

 

28号が自分の席につくと、ケフカはパチンと指を鳴らした。

全員が何ごともなかったかのように、また話の続きを始めていた。

恐るべしはケフカの魔力であった。

ケフカは上機嫌で給仕を呼ぶと28号にコーヒーを出してやるように言った。

そして、料理をゆっくりと食べ始めた。

28号はドキドキしながらコーヒーを飲んだ。

おそらくガストラ帝国最高のコーヒーであるはずなのに

味がわからなかった。

 

昼食会は皇帝の退室で終了した。

「ケフカ様、今日の会議の要点は高速艇の試験航海が明日ということと、
内務大臣孫誕生という事でよろしいでしょうか?」

と、28号は前を歩くケフカに尋ねた。

「孫誕生などいらんわ!どうでもいい。」

「はいっ。」

「もうあんな事するな。28号。今度やったら切り刻んでイカの餌にしてやるからな。」

「はい。」

「2回目は見てもつまらんからな・・・・・・・」

「は・・・?えーと、印刷室へ行ってまいります。」

「配ったらまっすぐ人事課へ行くといい。」

「はいっ。」

28号は大急ぎで印刷と配達を終え人事課へ向かった。

 

昨日クッキーをくれた受け付けの女の人に聞いてみる。

「あのー。僕の服の事なんですが・・・・」

「28号さん。私が一緒に行く事になっています。・・・・・・・ちょっと待ってて下さいね。今、仕度してきますから。」

口紅を塗りなおした彼女は、油頭の人事課長に一声かけると28号と共に人事課を後にした。

「28号さん。城を出るから身分証は外してもいいんですよ。」

「あっ・・・」

「きっと、ネームプレートで知ってると思うけど、私はマヤ・グリザレス。よろしくね。」

28号はクッキーの人、とだけ憶えていた。

「あ・・・。グリザレスさん。クッキー美味しかったです。・・・全然嬉しくないっていいながら、ケフカ様も食べましたよ。」

「あっはっはっ!いかにも言いそうな感じ。」マヤは明るく笑った。

「どこで服を買うんでしょうか・・・。お金は・・・。」


28号にとって、人生初のお買い物である。

それに、自分の足で帝国城から町へ出るのも初めてなのだ。
魔導研究所と戦地と帝国城しか知らない。

不安でいっぱいなのはしかたがない。

 



つづく