金紗のベールとノクターン その4 ZAZA9013

 

 

ケフカと人造人間28号が帝国議会の会議予定表を見ながら予定を立てている頃・・・・

電球頭の給仕長と、油頭の内務局人事課課長が中級職員用の食堂でひそひそ話をしていた。

 

給仕長のガードナーは60歳をすぎており、ガストラ帝国成立直前から皇帝に仕えていた。

ケフカのことも、彼が人造魔道士となり、帝国の闇の部分を預かるようになってからは知ってはいた。

しかし、ケフカの切れ具合が進むのとシンクロして給仕長の髪も薄くなってきた。

いまでは、みごとなつるっぱげである。

給仕長は昼食を食べながら、怒っていた。

前から許してなどいないが、今度という今度は許せなかった。

ケフカのところへ昼食を持っていった新人が、いつまでたっても戻らないのだ。

 

「警備兵にも聞いたのですが、行った事は確かだと。」

と、給仕長がサラダをつつきながら怒る。

「ケフカ様はお昼は食べられた様子だったんですか?」

人事課長がスープを飲みつつ合いの手をいれる。

「ワゴンが廊下へ出してあったので、入ったのは確かです。」

「ふーむ。逃げてしまったという可能性は無いですしね。・・・では・・やはり。」

「人事課長がせっかく軍のほうから人材を回してくださったのに・・・・」

「いえ、戦死扱いと、行方不明扱いでは遺族補償金がちがいますからね・・・。

ケフカ様の場合は行方不明扱いにするしかありませんしね・・・。

なるべく、係累の少ない者を選んだのですが・・・・」

 

「そーゆう問題ではありませんよ!課長!」給仕長は皿が割れそうな勢いで魚にフォークをつきたてた。

「私だって、困っていますよ・・・。城内の職員を常に補充しなくてはならないし・・・。

特にケフカ様に関わる部署が慢性的に人手不足で休暇も出せない。」

「私は体が続く限り休暇なぞいりませんよ。・・・しかし、今度ばかりは休みたいですな」

 

「私だって・・・。そういえば、ケフカ様の新人の秘書官の評判はどうです?」

「しっかりしていて、優しそうな人だと、うちの若い子が言っていましたよ。

ケフカ様にはもったいない。かわいそうだと・・・・」

「名前が28号というのが傑作ですよ・・・ケフカ様の秘書官で行方不明になった者が

いままで27人いるんですよ。退職者はその4倍以上いますが・・・・」

「ほう、ケフカ様のセンスがわかるネーミングですな・・・
しかし、どうしたら
いいんでしょうな・・・まったく・・・」

「とりあえず、また募集するしかないでしょう。28号様が何日持つか・・・はあ。」

人事課長は大きなため息をついた。ここ何年か慢性的な胃痛に悩まされていた。

本当に休みたいのは自分であった。

ん・・・?

「ガードナー様。休みたいとおっしゃってましたね。」

「ええ。常に行方不明者が出る所に13回も自分の部下を

送らねばならないのですよ。あなたにこの気持ちがわかりますか!」

給仕長は本当に憤りを感じていたのだ。

 

「・・・逆を考えましょう。城内の人事体制を整えるまで、ケフカ様に休んでいただくのです。」

人事課長の発言に給仕長は一瞬あたりを見回した。・・・・・特に誰もいなかったのだが。

「ちょっと待って下さい・・・私はそこまで申してはおりませんよ。怒ってはいますが。」

「いやいや、永遠に休んでいただくという話ではありません。」

「課長の言う事だから、毒でも盛れとおっしゃるのかと・・・」

「それは・・・・よく思うことはありますが・・・、

いえね、ケフカ様って全然休暇を取ってないんですよ。」

「そういえば・・・そうですな・・・前線や、他国へ特使としていく以外は・・・。」

「年休も余ってますし、給料もあまり使ってらっしゃらないんですよ。」

「ほう、それは初耳でしたね。」

「それでですね・・・」

・・と、人事課長は即席のプランを給仕長に語り出した。

給仕長の表情が明るくなった。

そして、ガストラ帝国城内である計画が行われる事になったのだ。

発案者はたった1人であったが、賛同者は城内のほぼ全てであった。

 

「えーとですね、ケフカ様。3日の12時から2時までが高級官僚昼食会です。」

「皇帝陛下も来るやつだな。それは出席してあげましょう。」

「午後3時から5時までが追加軍事予算審議会です。」

「それは面倒だからいい。結果だけ紙に書いてもらおう。」

ケフカの執務室では、今週のスケジュールが決められていく。

「では4日は帝国議会では北部都市国家制圧後の経済効果の報告と関税の見直しと、
帝国法の適用についての委員会があります。」

「そんなの出ないぞ。」

 

 

5日の午後2時から、魔導研究所の魔導アーマー制作部主宰と帝国海軍共同で魔導機関搭載の
高速艇のお披露目があります。実射もするそうです。

これはツェン近郊の軍港、第4基地にて。皇帝陛下もご臨席するそうです。」

「行きたくないけど、たまに行ってやろうか。
第4基地へ行くなら
スカイアーマーか皇帝と一緒に軍用列車に朝から乗らなくてはいけませんね。」

「遠いんですか?」

「北の端ですからね、報告会はパス。お前は軍用列車の時間を聞いて

帝国軍司令部に予約してきなさい。・・・多分特別列車に乗ることになるでしょう。」

 

「はい、ではそちらの方の手配をします。6日は日曜では議会は休みですが。」

「でも、お前はとりあえず一周して書類を出しに行きなさい。」

「はい。あれ・・・日曜はお休みじゃないんですか?」

「月曜日までの書類があったら日曜日には書かなくてはならないでしょう。

読まなくても私のサインが必要な書類は多いのですよ。

皇帝陛下が腱鞘炎にならないように俺がサインしてやっているようなものだ。」

「はぁあああ・・・そうなんですか。」

「そうだよ。ああ面倒くさい。フン。」ケフカは嫌そうだった。

 

「では今日は僕はどうしたらいいんでしょう?」

「人事課へ行って自分の必要書類をもらってくるんだな。そのあとは、応接室と他の部屋の掃除。

洗濯物を籠に入れて廊下に出しておけば係りが持っていってくれるから。」

「はい。」

「俺が色々書き終わったら呼ぶから5時までにあちこちに届けに行ってくれ。

軍関係の書類は帝国軍のマークが入っているからわかるだろう?

それは司令部にな。他のは行く先々で聞けばおしえてくれるさ・・・・・・・。」

「はい、解りました。では・・・えーと・・・まず人事課へ行ってきます。」

「廊下は走るな。あと、階段も踊り場から踊り場まで飛び降りたりするなよ。

身分証があれば高速エレベーターを使えるぞ。」

「はい。わかりました。」

と、28号はケフカの部屋から出て行った。

 

よーく考えてみる。・・・・じゃあ、さっきの議会って僕が絶対お昼に間に合わない事を

前程に頼んだんだな・・・ケフカ様・・・。廊下を走らないで、外壁も走らないで

このお城の中を高速移動する手段を確保しておかないとダメだなあ・・・・。

普通に、回るだけで1時間以上かかっちゃうもんなあ・・・歩いていたら。

28号は普通のエレベーターに乗り4階にある内務局の人事課へと急いだ。

ケフカが前にいないと、特に28号に挨拶する者もいなかった。

ただ、気のせいかすれ違う職員や兵士の視線を痛いほど感じた。

 

コツコツと28号は人事課のドアをノックして入った。

「あのー28号ですけど・・・書類できあがっているでしょうか・・・?」

と、受付の黒髪のおかっぱ頭の女子職員に聞いてみる。

「あ、はい。できあがっておりますよ。」彼女の微笑みは何故か悲しそうであった。

「ありがとうございます。」

「こちらが通行証と身分証明書です。で、勤務規定がこれです。

保険の証明書と・・・年金の証明書です。

あと中級職員用の宿舎がありますがどうなさいますか?」

「は?違う所に住まないといけないんですか?」

「いえ・・・現在お住まいの所でもかまいませんが、住所記入欄が全部空白なので。

秘密という事であれば、こちらで適当に書き入れますが・・・。」

「ケフカ様の所にしておいてください。」

28号はそう会話しつつも他の職員の視線が気になった。

なんでそんなに僕を見るんだろう?外壁走って登ったのがばれたのかな・・。

「・・・・・はい。ではそうしておきます。」

女子職員は書類を大きめの封筒に入れて28号に渡した。

 

そのとき、さっきポテトチップスを食べてケフカに氷を落とされたクリマーという職員がポスター片手に入ってきた。

「じゃーん!皆さん注目―。
戦意向上委員会からのポスター
「東大陸いいところ!一度は見ようバレンの滝!」だって。」
なんだか知らないがクリマーは一人で盛り上がっている。

28号は聞いてみた。

「東大陸っていいんですか?」

「資源の宝庫、料理はおいしいし、国は弱い。早く帝国領土になって職員旅行で行ってみたいっ
・・・・っていう話ですよ。」

「へえ。そうなんですかあ」

「あ、これ、ここに貼るから28号さん手伝ってくれます?」

「いいですよ。すごくきれいな山と滝の写真ですねぇ。」

「クリマー・・・28号さんはお忙しくて大変なのよ。そんなの一人ではれるでしょ。」

と女子職員がクリマーに言う。

「僕はぁ、人の好意とタダ飯のチャンスは逃さない男なんだ」

クリマーはポスターを押さえて澄ましている。

背の高い28号が画鋲をさした。

「28号さん、君も大変だねぇー。ケフカの小姑と一緒だと。細かく文句ばかり言われてるんだろ?」

「こじゅうと?」28号は言われている意味がわからず、クリマーの顔を見た。

「クリマー!つまらないこと言わないの!」

と、受付の女子職員が少し怒った調子で言った。

 

「んー。いい感じ。押さえた僕がナイスガイだからぁ。」とクリマーは自分で自分を誉めていた。

そんなクリマーを女子職員は無視したおしていた。

「では、失礼します。」と、去ろうとする28号に、

「ちょっとまって・・・。おやつにこれどうぞ。」と受付の女子職員が小さめの包みをくれた。

「えっ、くれるんですか。どうもありがとうございます。」

28号は笑顔でお礼を言った。

「いいえ・・・どうぞ・・・。」

しかし、他の職員の視線が何故か痛かった。・・・悲しそうなのだ。

いや、むしろ哀れむというほうに近い表情だ。

なんでだろう・・と思いつつ、28号は人事課を出た。
帰りは身分証のおかげで高速エレベーターに
乗る事が出来た。これだとちょっとは早い。

 

「ケフカ様、ただ今もどりましたー。」

「うむ。」ケフカは執務室で書き物をしていた。

「あ、そういえばこれ・・頂き物です。」28号はもらった包みをケフカに渡した。

「なんだ?あけてみろ」

28号が開けるとそれはクッキーだった。

「お菓子なんぞもらってもちっとも嬉しくない。毒入ってないかお前先に食べろ。」

「えっ。食べていいんですか?」

28号はぽりぽりとクッキーを食べた。

「おいしいですよ」

「ふーん・・・。ま、しばらくしたら食べてやるからそこ置いとけ。」

「では、僕、掃除にとりかかります。」

「うむ。」

 

28号は掃除が好きだ。掃除をやっていて気がついたのだ。

床も壁も絨毯も生まれ変わる。

糊の利いたシーツを敷いたベッドはまるで新雪のようだし、きれいに磨いた洗面所の鏡は自分の姿だけではなく、
遠い過去や未来の時間すら映し出しそうだった。

埃が無くなると、ものの輪郭がはっきりとする。

美しい木目の机の輝きは、28号の心を和ませた。

洗濯物を籠に入れたところでケフカが呼んでいる声がした。

 

「ケフカ様。書類の配達ですか?」

「28号。腹は何とも無いのですか?頭痛がしたり気分が悪くなったりなどは?」

「いーえ。ぜんぜん。」

「では食べようかな・・・。」

「ケフカ様、毒消しの呪文はご存知でしょう?」

「知っているが、それがどうした。」

「毒を入れられるような覚えがあるんですか?」

「国内、国外を問わず山ほどな。人事課なんか特にだ。・・・万が一毒が入っていたら気分悪いだろう。」

「はあ・・・。そうなんですか。」

毒が入っていたら気分悪いというより、腹が痛くなるんじゃないのか・・・。

と28号は思った。

 

「お前は一兵士として戦ったでしょう。・・・たとえばフィロキノンの戦いで

お前に家族を殺されたものが帝国に侵入してお前を殺しに来たらどうします?」

「ああ・・・なるほど。でも、戦争だから仕方が無いです。

本当はとてもイヤですけど・・・僕は・・・戦うために作られたから・・・。

その人と戦って殺すでしょう・・・。」

「ま、そういう場合は実際に剣をもってかかってくるより、毒を盛ることも多いのですよ。

・・・じっさい、私も王族を毒殺したことがありますしね。

私は制圧した他の国々全ての国民に恨まれている事でしょうよ。

たとえば・・・お前の一番大切な人が殺されたらお前はどうします?」

「あ・・・。そうか。うーん・・・多分殺しても死なない感じがしますけど・・・きっと・・・また、泣きますね。」

「泣くだけで済むのか?殺した奴に悲しみと怒りをぶつけたいだろう?」

「・・・・そうですね、ウィームス少佐が死んでしまったとき、僕はただ悲しくて泣く事しかできませんでした。

その時、少佐の敵を討つとか復讐するって言っていた兵士の人がいました・・・・

殺し返す事ですね。・・・それで、少佐が生き返るわけではないのに・・・。」

「ほーらみろ。人間なんてそんなものだ。自分が人間じゃない事に感謝しろ、ろくなもんじゃない。」

「ケフカ様、偉い人だから狙われて大変ですね。」

 

28号の呑気発言にケフカが切れた。

「カーッ!ひとごとみたいに言うなっ!今ごろわかったって遅いわ!馬鹿者!」

「すいません。」

「あのな・・・私が撃たれる時はお前は楯の役目するんだぞ。

わかったか?だから、給料が良いんだ。」

「ええっ。じゃ、僕ものすごーく危ないポジションについちゃったんじゃないですか。」

ケフカは渋い顔でこたえる。

「だから重要な仕事だといったろう!間抜けめ。部下が能無しの役立たずでも私が優れているから何の事件も事故にもならんのだ。私を殺しに来た奴は何人もいたが、全部俺様が始末してきているんだ!まったく。

暗殺者が、ここまで来た事もあったんだぞ!消してやったがっ!」

「ああ・・・よく、納得しました。」

「解ればいいんだ。さっさとこれ持って行け行けっ!」

と、ケフカは28号に書類を渡した。

 

帝国軍作戦司令部、帝国議会、外務大臣、内務局、侍従長の所を回っていて28号は気がついた。
戦意向上委員会のポスターがどこへ行っても貼ってあるのだ。

ケフカ様のところにも貼っておいたほうがいいかなと思った28号は1枚もらってきた。

 

ついでに、帝国城の営繕室へ行き、更なる近道を探すため、帝国城の見取り図を見せてもらった。

多分、ケフカ様の秘書官という肩書きが効いたのだろう。

退役軍人の溜まり場のような、ジジイばかりの営繕室は、28号を快くむかえてくれた。

 

「しかしあんたも大変じゃのう・・・。」

営繕部の部長、針金のようなホーネットじいさんは見取り図の他にお茶と菓子と電気配線図など
関係ないものまで出してくれた。

「みんなそういいますね。」

「ぅえへへへ・・・。ケフカの小僧も偉くなったもんだ。

・・昔はもう少しまともだったんじゃが、の、モーレ」

丸い銀縁眼鏡のモーレじいさんは、インターホンを修理している。

電機係りらしい。

「わしぁ、あのままだと、ケフカが次期皇帝におさまると予想していたんだが、見事にはずれたな。

今では人望の無さでは帝国一・・・・・・・・・・・・・・ふぇっふぇっふぇっ・・・。」

 

「ケフカ様とご一緒に戦ったことがあるんですか?」

「まあの、」ホーネットじいさんは茶をずずっとすすった。

「ガストラ皇帝がこの大陸を統一しはじめたころは、ベクタも小さくて兵力も少なくってのう・・・

皇帝自らが兵を指揮してあっちの国こっちの国と行ったもんじゃ。

硬い城砦なんかがあると、皇帝とケフカとその護衛だけで夜、こっそり破壊しに行くんじゃ。の、モーレ」

「そうそう。それが、攻撃部隊が着いた頃は城の半分が消えていたりして・・・

ワシらみたいな2等兵はそりゃあたまげたもんだった。」

 

「へえ・・・ケフカ様ってその頃若かったんでしょう?恋人なんかいたりしたんでしょうか」

28号は聞いてみた。

「若いというよりは、ガキじゃったの。皇帝の言う事しか聞かん小生意気な小僧じゃった。の?モーレ」

「あれは本ばかり読んでいて、遊んだり、喋ったりはしとらんかったな。
まあの、大人に混じって一人だけ
特別扱いされとりゃあ、ああなるわな。」

モーレじいさんはインターホンの蓋のネジをドライバーでしめた。

 

「28号さん、近道は見つかったかの?」

ホーネットじいさんは鼻毛を抜きながら28号にきいた。

「ええ、まあ。・・・あの100キロ位運べる台車のタイヤと鉄板とネジ頂いてもかまいませんか?
あ、あと板と。
えーと、滑車とワイヤー。」

「ああ、ああ、何でももっていきな。ぅえへへへ。なんか作るんなら手伝ってやるぞ。暇じゃからのう。

の、モーレ。手伝ってやるじゃろ?」

と、ホーネットじいさんは抜いた鼻毛を吹き飛ばした。

「大体の大きさを教えてくれたら、なーんでもつくってやるぞ。ふぇっへっへっへっ・・・」

「ああ、ありがとうございます。では御願いします。お礼は何がいいでしょう?」

「お礼じゃとよ。モーレ。」

「ま、できるだけ長くつとめるんじゃの」

ふぅえへっへっへっへ・・・と、じじい2人は声を合わせて笑った。

 

じいさまというのは底が知れない存在だ・・・と思いながら28号はケフカのところへもどった。

予定した時間よりだいぶオーバーしてしまったが、ケフカは執務室にはいなかった。

自分の書斎で怪しげな石版をみて、何かペンを走らせている。

「ケフカ様。ただ今戻りました。」

「ふーん。」

「明日の高級官僚昼食会に出るのに何か用意することがありますか?」

「今日は特にない。明日朝食を控えめに食べるくらいだな。」

「はい、では夕食まで何するか自分で考えてもいいですか?」

「?、・・・・好きにしろ。」

 

28号は、戦意向上委員会のバレンの滝のポスターを執務室の壁に貼った。

そうして、営繕室へ向かうと今日の当直のモーレじいさんと、なにやら怪しげな物を作った。

板にドリルで穴を開けながら28号はモーレじいさんに聞いた。

「モーレさんは長生きだから物知りだと思いますが、恋愛ってどうすれば

うまくいんでしょうねぇ・・・」

「ふぇっへっへっへ・・・・。押して引くのが肝心じゃの。
わしとかみさんもな、若い頃は押したり引いたりしてたもんじゃ・・・

ま、結婚してからは、上になったり下になったりしたもんじゃのう・・・

ふぇっへっへっへっ・・・・・・・。」

モーレじいさんの話は、28号に深い感銘を与えたようだった。

 

時計を見ると8時近かった。28号は急いで戻り、夕食を注文した。

ケフカはまだ書斎で何かを書いていた。

「ケフカ様・・・仕事熱心ですね。」

「これは仕事ではない。自分のためだ。」

邪魔をするな、という文字が顔に書いてあるようだった。

「夕食が来たらお呼びします。」

「ああ。」

28号は執務室へ戻った。

 

そしてベランダの窓を開け、ベクタの夜景を眺めた。

 

どうやったら、ケフカ様は僕に心を開いてくれるんだろう。

それに、なんで人間が嫌いなんだろう?

人間は戦争で殺しあったりするけど、

基本的にはいい人ばかりじゃないか・・・。

なんとなく・・・あの様子では、僕を好きでご飯を食べさせてくれている・・・というよりは、
僕がケフカ様にとってしゃべる「人形」だから使ってくれている
ような気がする。

どうやったら、ケフカ様と愛し合えるんだろう・・・。

皆は嫌いみたいだけど、僕は好きなのに・・・。

うーん・・・。

 

ノックの音がした。

夕食は給仕長自らが運んできた。

「ああ!給仕長さんもこんな遅くまで働らいてらっしゃるんですかぁ」

と、笑顔で出迎える28号。

「調子はどうですか?28号様。」

「ええ、何だかあちこちで親切にして頂いて・・・ほんとにありがとうございます。」

「それはよろしかったですね。今日もお外でお食事でよろしいですか?」

「ええ、まだ5月ですが、大雨の時以外は外で食べるみたいですね。」

「ではただ今ご用意いたします。」

 

給仕長の手の一振りで、テーブルクロスはしわ一つなくテーブルの上をおおった。

燭台の赤いローソクに火を灯す。

小さな花かごがテーブルの真中に置かれる。

そして料理が並べられる。

28号は感心してみていた。

「いやー。すばらしい。動きに無駄がない。花と蝋燭も色がきれいだし・・
すごいですねぇ・・・・ほんとに偉い人の食事・・・ってかんじがしますね。」

「ケフカ様は実質的には皇帝の次に偉い方なのですよ。」

と、給仕長は料理を机の上に置いた。

「ケフカ様の側にいると、あまり、実感が湧きませんね。」

ほんとにそんな偉い人とは思えない。なんでかなあ・・・。

と28号は思っていた。

 

「そうなんですか。」

「ええ、面白い方ですよ。ユーモアのセンスもあるし」

28号の発言に電球頭の給仕長は一瞬困ったような顔をした。

「はあ・・・。あ、今日のデザートはドマ産の胡麻をつかった胡麻豆腐です。」

「へえーおいしそうですね。」

「ケフカ様のお口に合うかどうか・・・よろしければ後で教えてください」

「はい、わかりました。

えーと・・・給仕長さんはもう帰られたほうがよろしいのでは?

うん、僕はこのメニューで満足ですけど、ケフカ様は怒るかも知れませんから。」

あははははと28号は笑った。

「お心遣いありがとうございます。では、」と、給仕長は一礼し、部屋を出た。

 

28号はケフカを呼びに行った。

「ケフカ様―。夕食がもう来ましたよ。食べましょうよぅ!ケフカ様―」

書斎で怪しげな石版を前に書き物をしていたケフカは嫌そうに振り返った。

「ああ、おまえはそんなにお腹が空いているのですね。

しょうがない。食べてあげましょう。」
ケフカはバルコニーの方へやってきた。

 

「今日の夕食はおいしそうですよー」
「よだれをふけ。」

メインは・・・ペンネのアラビア―タだった。

「あああああっ!何だこれはっ!」ケフカが怒る。

「えっ、なんで?パスタ好きなんじゃなかったんですか?」

おろおろする28号。

「ソースと味付けは好きだ!しかし!このペンネが気に入らない、

空気を食べているみたいで損した気分だ。」
怒りながら食べている。

「ああ、これなら細いパスタにからめてもらってもいいですね。」

「うん、そうだな。」

28号の感覚では、スープもサラダもペンネも文句のつけ様の無いものだった。

この辛いソースが、食欲を増進する。・・・ライス大盛りで良かった。

おいしい。しあわせ。

 

ケフカもぶつぶつと文句をいいつつ全部食べた。

28号がコーヒーとデザートの胡麻豆腐を出した。

「ケフカ様、ドマ産のおいしい胡麻で作った胡麻豆腐です。」

「豆腐―――?美味いのか?」

「毒見します。」と、28号は先にスプーンですくって食べた。

「・・・・・おいしいですよ。あっさりしていて」

「ふーん。」
どれ、と、ケフカも一口食べた。

「どうです?」
「・・・・・・美味いな。気に入った。」

「コーヒーとでもなんとでも相性が良さそうですね。」

「どうせ、お前は何を食っても美味いんだろう・・・。」

とケフカが言い放つ。
実際、ここへ着てからというものそのとおりなのだ・・・。
まずい食べ物にあたったことがない。

 

「ええ・・・初めて食べるものばかりで、それが全部美味しくて困っちゃいます。
ええと、今のまた注文しておきますか?」

「胡麻豆腐か・・・3食食べたら飽きるから、1日1回でいいな。」

「ではそのようにしておきます。」

「ああ」

「この後はどうしたらいいんでしょう?ワゴン下げた後の僕の仕事は。」

「少し勉強して、風呂に入って寝るんだ。」

「勉強?僕が?」

「そうだ。明日の昼食会、お前自分もご馳走食べ放題だと思っているだろう?」

「えっ?・・・ちがうんですか?」

「一応、話した事を記録する係りがいるのだ。お前はそれ。字はかけるよな。」

「字はかけますけど・・・、食べられないなんて・・・・。」

「よだれ垂らして眺めていろ、ヒッヒッヒッヒ・・・・。

あとで中級職員用の食堂で食べるのだな。」

28号の泣きそうな顔を見てケフカは嬉しそうだった。

 
つづく

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2002年1月15日―2003年11月18日UP 、2004年10月26日ちょっと改稿