金沙のベールとノクターン その2 ZAZA9013
おさらい ケフカ様がちょっとアレなので、お側の係りの人材がいなくなってしまった。 そこで人造人間28号をもらってきたのであるのだが、28号はなぜか ケフカ様に好意を抱いているようなのだ・・・・・・。
ケフカのお部屋にもどってきた28号は、はいってすぐのケフカの執務室を物色していた。 重厚な机の上にはペンとインクとまだ目を通していない書類。 広い窓の外は分厚い手すりのついたひろいベランダ。 そこからは、帝国首都ベクタが一望できた。 視界をさえぎるものは何も無い。 テーブルと椅子が2脚おいてある。日向ぼっこするにはいい環境だ。 再び28号は執務室に戻った。 ケフカの机の上にガラスのお皿が置いてあるのが目にとまった。 そこには、ピンク色の薔薇の匂いのするものがあった。 なんだろう・・・・これ?花の蕾を乾燥させたものだな。 どうしてこんなものが、きれいなお皿に乗ってわざわざ机の上にあるのだろう? 28号はそれを一つ手にとり、口に入れた。 においはいいけど・・・味はなんだか・・・おいしくないなあ。しゃりしゃりする。 えらいひとは,食べるものも違うってこういうことなんだな。 もう一つ口に入れたところで、着替えを終えたケフカがやってきた。 化粧はしていない。 なんとなく、28号はケフカの素顔を見て安心した。 素顔の方が怖くない・・・きれいだなあ・・・。などと思った時。 「28号・・・おいしいですか?それ・・・・。」ケフカが、3個目に手を伸ばす28号に困ったように言った。 「においはちょっときついし、味は今ひとつでした・・・・あの、食べちゃまずいものでしたか? おなかがすいたんで・・・・つい。」 「いや・・・喰えなくはないがな・・・・多分・・・。 ん?お腹が空いた?お前の動力源は魔導エネルギーじゃないのですか?」 「ケフカ様、マニュアル読んでください。普通に生活する分には 人間と同じくご飯食べるんです。」 「人間はな・・・・ポプリは食わんぞ。やっぱり人形だな。毛はえてないしな。」 ケフカはからからと笑った。 「あのー僕、ご飯は食べさせてもらえるんでしょうか?」 「ああ、食わせてやるよ。もう、お昼だしな。厨房に電話しろ、2人前頼め。」 「はい。」 28号はケフカの机の上の電話機のハンドルをぐるぐると回してから、ダイヤルした。 耐水性で、金属でできている野戦電話に較べれば、受話器が驚くほど軽かった。 仕事はしないと言い切ったケフカだが、暇なのか書類に目を通し始めた。 28号はすることがなく、ケフカの顔を見ていた。 ケフカの淡いブルーの瞳は、まるで意地悪光線を発射しているようだった。 眼窩は深く、鼻梁は細く高く、切れ長の目と絶妙な調和を見せている。 唇は薄く、その下は神経質そうな薄い顎だ。 首には細い筋がくっきりと浮かんでいて、28号と較べると華奢な鎖骨へと続いている。 ・・・・やっぱり、素顔の方がいいと思うんだけどなあ・・・・。 どうして、白く塗ってたんだろう?と28号が思った時ノックの音がした。 「はいっ」28号はさっと戸を開けた。 給仕係の若い女性がワゴンを押してお昼をもってきていた。 ほんのりとした薄化粧でも充分美しい彼女の名はエイリア。 ベクタ近郊の農村の出身で、年は18。 赤毛を頭の上にお団子にして乗せている。 背はケフカと同じくらい。大きな胸がエプロンをもりあげている。 腕も少し太めで、年の割には力強そうにみえる。 帝国城に勤務しているということで、その村の女では出世頭といってよかった。 しかし、ケフカ様当番でケフカ様に怒られたり怒鳴られたりしたら どうしよう・・・、首も困るけど魔法で殺されたらどうしよう・・・と、 今は緊張でガチガチになっていた。 「失礼します。お昼のお食事をお持ちしました。」 扉を開いてくれたのは顔色は悪いが、二十歳を少し過ぎたくらいの青年だった。 「ケフカ様―お昼はどこで食べるんですかー?」 「外。」ケフカは書類から目を離さずに、肩越しにベランダの方を指差した。 青年が、エイリアに言う。 「お手伝いしますよ。」「ありがとうございます。」 「お昼が食べられると思うとうれしくてうれしくって・・・。」 ニコニコしながら、エイリアがテーブルクロスをかけるのを手伝う。 「あなたは、ケフカ様の新しい秘書官の方ですか?」 「僕の所属はケフカ様です。書類運び用の人形で名前は28号です。」 ケフカ様っていままで27人も首にしてきたのかしら・・・。 人を番号で呼ぶなんて、と、エイリアは少し嫌な気持ちになった。 「あの・・・失礼ですけど、以前は軍にいらっしゃったのですか?」 28号の着ている服は一般兵がきる黒い長袖Tシャツに、 深い黄土色のズボンと軍用ブーツだった。 「はい、そうです。」 「大変ですね。」 セッティングをしつつエイリアは28号をすばやくチェックした。 背は高く、体格はやや細めの筋肉質。手足は長めで、指はやや細い。 髪は短く、いかにも軍人風。 顔色は悪いけれど、顔立ちは整っていて美しい。 エイリアはかっこいい人、と思った。 顔も身体も全体のバランスがいいのだ。 ケフカと同じような淡いブルーの瞳が、いたずらっぽく輝いている。 「うわー。おいしそう。今度からライス大盛りって言ったら、大盛りにしてもらえます?」 「ええ。電話でそういっていただければ。」 「やったー、今度からそうしようっ!」 無邪気に喜ぶ28号を見て、エイリアもついつられて笑ってしまった。 表情が生き生きとしている。 いままでにいなかったタイプの秘書官だ。 だって今まで来た人たちって、みんな顔に絶望って字が書いてあるような人ばっかりだったもの・・・。 この人なら、長持ちするかもしれない。エイリアはそう思った。 「ケフカ様、お昼のお食事の用意が出来ました。」 エイリアがケフカを呼びに行った。 ケフカはベランダまで来た。エイリアがケフカの為に椅子を引いた。 28号はすでに着席してフォークとナイフを握っている。 「ケフカ様、今日のお昼はポークチャップとライスとサラダと、牛のコンソメスープです。 いつものワインと、コーヒーはこちらに」 ワインとコーヒーサーバーはワゴンの上にあった。 「お食事が終ったらお呼びください。」 と、エイリアが立ち去ろうとした時、ケフカが突然切れた。 「うわ――っ!僕ちんはにんじんはきらいだっていってるのにっ! 厨房のいやがらせですかっ!今日の調理人は誰ですかっ!」 ポークチャップの付けあわせがゆでたいんげんとバターコーンと ・・・・にんじんだった。 「えっ・・・えーと」エイリアはいきなり怒鳴られてびっくりした。 確かこういう時はアルベルト様って言えって言われていたのを思い出したが。 声が出ない。 「にんじん、もうないですよー」 28号が笑顔で言った。 ケフカがポークチャップの皿を見ると、人参は無くなっていた。 28号が嬉しそうに口をもぐもぐさせている。 「おいしいですよ。にんじん。」 「こらっ28号っ!人のものを取るんじゃありませんっ!」 「だって嫌いなんでしょ?食べないんでしょ?」 「ああ、だいっ嫌いだよっ!だけどお前にやるとは言ってませんよっ! このバカ人形っ!」 ケフカの怒りの矛先が28号に向いているうちにエイリアはダッシュで その場を去った。「失礼しました―。」 「お前はちょっと躾が必要ですね。」と、ケフカはブリザドを唱えた。 「ぐっ・・・・」次の瞬間顔と上半身が氷付けになったのは・・・・ケフカだった。 「あ・・・すいません。きっと怒られるかなーとおもって、リフレクを唱えていました。」 ケフカは自分にファイアをかけた。氷は一瞬で蒸発し、服も乾いたが、前髪が焦げた。 「むぅ・・なかなかやりますね。さすが、人形。でも、これは困るでしょう。」 ケフカは28号にディスペルとスロウをかけた。 「ほとんどうごけませんね。これで。」 28号は「あ」の形に口をあけたまま、動きが止まっている。 正しくは非常に遅くなっているのだが。 ケフカは自分のライスの皿を取ると、28号の皿に半分くらい移した。 そして、28号のポークチャップをナイフとフォークで半分に切ると自分の皿に移した。 28号の表情が笑顔から、困り顔にゆっくりと変化していくのを見ながら食事を楽しんだ。 食後のコーヒーを飲み終えたケフカは28号の魔法を解いてやった。 「ああ――っ!ひどい!ライスが増えて肉がはんぶんだっ!」 「私が小食な事に感謝しろ。ライス大盛りで良かったな。」 「・・・・・・。」 「食べたらワゴンに乗せて廊下に出しとけ。俺は昼寝するから。」 「・・・・はい。」 あたらないよりはいい、食べられないよりはいい、確かにライスが大盛りで嬉しいけれど・・・ 肉、半分じゃなあ・・・・。 28号は皿をなめるようにきれいに食べて、コーヒーをもって手すりに腰掛けて、ベクタの街を眺めた。 街は広く、遠くまで続いていた。 あそこでは沢山の人間が自由に生活をしているんだろうな。 人間っていいなあ。28号の耳には街のざわめきが心地よく聞こえた。 それに、コーヒーもおいしい。 軍でお昼に支給されるコーヒーは苦くて渋くて酸っぱくて、アルミのカップに入っていた。 でも、ここのコーヒーは違う。 香りもまろやかで、味も調和が取れていておいしい苦味なのだ。 入れものも、白い陶器のカップだし。 やっぱり、偉い人は食べるものが違うってこういうことなんだなあ。 と、28号は思った。 28号は食器とテーブルクロスをワゴンに載せて廊下へ出した。 ちょうど、さっきの給仕係りの女の人が、廊下の遠くからやってきた。 「ごちそうさまでした。おいしかったですよー」 28号は嬉しそうにエイリアにお礼を言った。 「あ・・・、はい。どういたしまして。・・・さっきは、ケフカ様に怒られませんでした? ケフカ様はすぐ、お前なんか首だ―っておっしゃいますから。」 「あっはっはっ・・・魔法で焼きを入れられましたけど、お昼はちゃんと食べました。」 「ご無事でよかったですね。私はエイリアと申します。たまにしか、来ないと思いますけど どうかよろしくお願いします。」 噂ではケフカに魔法で焼きを入れられたものは、半死半生になる・・・ときいていたけれど。 28号にはそんな様子はなかった。 ケフカと一緒にいるだけで、大概のものは生気が無くなり、げんなりしてしまうという話も 聞いたことがある。 きっとこの人すごい人なんだわ。と、エイリアは思った。 「こちらこそよろしく、それじゃ、どうも。」と、28号はドアを閉めた。 28号はすることが無く、再び部屋の中を物色し始めた。 入ってすぐの執務室の次には廊下があって、そこには洗面所と トイレと広めの豪華なお風呂があった。 廊下の先には部屋が5つある。 一つは衣装が沢山かかっている、衣裳部屋。 中になにもなく使っていない部屋。 豪華なシャンデリアのついている応接間。ケフカが弾くのか、ピアノがおいてある。 壁一面が本棚になっていて、小さめの机に古文書らしきものがある書斎。 そして、ケフカが昼寝をしている天蓋つきベッドのある寝室。 寝室の飾り棚にはいくつもの人形が置いてあった。 寝ているケフカを見に行った。 ケフカの枕の両側には人形が寝ている。 赤毛と金髪の人形だ。ケフカが28号の気配にパチッと目を開けた。 「28号お前も昼寝したいのですか?」 「え?ええ。」 ケフカは服を着たままベッドに入っていた。 「じゃ、一緒に寝る人形を貸してあげまししょう。」 「うわー、貸してくれるんですかー」嬉しそうな28号。 「抱いて寝てもいいけどよだれはべたべたつけるなよ。」 「はいっ」 「で、こっちがフランちゃん、こっちがルタちゃん。どっちがいい?」 うーんと28号はしばらく考えてから答えた。 「アヒルちゃんがいい」「あれはお風呂用だからダメです。」 「えー・・・じゃ、ルタちゃんのほうを貸してください。」 「よし」と、ケフカはルタちゃん人形を28号に貸してやった。 28号はルタちゃん人形をだいて、どこで寝ようか・・・と考えていた。 ベランダ、寝袋、応接室のソファー、うーんどこがいいかな。 と、ケフカの寝室を出ようとしたとき、 「28号、待て!」ケフカの金属的な声がかかった。 「はい?アヒルちゃん貸してくれるんですか?」 28号はふりかえった。 「・・・・・それはダメだな。 なんかな、人形が人形を抱いて寝るというのもおかしいような気がしてな。」 「ははは、そう言われればそうですね。」 「ルタちゃんはおまえにはもったいない。代わりにコレで我慢しろ。」 と、ケフカは深緑色の物体を28号に渡した。 目が沢山ついていて、足も沢山ついている。 モンスターの精巧なぬいぐるみだ。 見ているだけで子供がひきつけをおこすような不気味な姿である。 「・・・・・・・これ・・・・。」 「うん、モルボルだ。いいできだろう。」 「・・・・・ありがとうございます。」 寝室から一歩踏み出した28号はくるりと振り返った。 「あのー・・・。ケフカ様―。」 「なんだ?」不機嫌丸出しな言い方だった。 「ケフカ様は、好きな人とか愛人とかいらっしゃるんですか?もしかして。」 「うるさい奴ですねぇ・・・。人間なんか大ッ嫌いですよ。 バカでアホでカスで無能で、文句が多くてその上嘘八百。 僕ちんが究極の力を手にしたら、地上なんかゼーンブ焼きつくしてあげますよ。」 「その時は、ぜひお手伝いさせて下さい。」 「ハッ!自由になりたいなどと言っている、人形がか? お前は、なんで手伝いたいのですか?それで、自由になれるとでも?」 「ケフカ様を好きだから、です。」 「好きってなんだ?なんで俺様の事が好きなんだ?」 「えー―?僕を出してくれたし、それはマニュアルX−4の28の項目を見てくだされば・・・。」 「私にあのぶあつい2冊を調べろと命令するのかっ!絶対読んでなんかやらん。」 「じゃ、愛が無くてもいいですから、とりあえずやりませんか?僕と。」 「何をやるんだ?」 「えーと・・・子孫ができない繁殖行動・・・。」 ケフカは28号が何を望んでいるのかやっと理解した様子だった。 「・・・・そうか、発情期に入っていたのか。男でも女でも何でもいいのか?」 「何でもいいわけじゃないんです。ケフカさまが良いんですけど・・・。」 「ふーん・・・・。」 「ふーんって・・・。」 「じゃあ、お前そっちの足元の方行ってな、自分で抜きなさい。僕ちんが見ていてあげますから。」 「え、見てくれるんですか。手伝ってくれたらもっと嬉しいんですけど。」 「さりげなく図々しいな。さっさとそっちへ行け。」 と、ケフカは自分の鏡台から美しいガラス細工の壜を持ってきて28号に渡した。 「もったいないが、俺様の乳液だ。手につけろ。」 「ケフカ様のにゅうえき?」 乳液はあでやかな花々の香りがした。 それを掌にとった28号の顔が赤い。 28号は目を閉じて右手で始めた。 「ああ・・・・ケフカ様・・・・・・・・あっ・・・・・・・」 「私の名前を呼ぶなっ!」ケフカは思わず28号にサイレスをかけた。 魔法のおかげで声は出せないが、28号の荒い息遣いだけが聞こえる。 整った顔の唇が少しだけ開いている。 相当気持ちの良さそうな表情だ。 なんだ・・・なんか凄いのかと思ったら案外普通の人間と変りませんね。 などとケフカが思った時、28号はフィニッシュを迎えた。 「だ―――っ!」と、叫んだのはケフカ。 近くで見ていたので、顔射されてしまったのだ。 透明で、無味無臭の粘液だった。 ケフカは「口に入った――!バカ!行く時は行くとか出るとか言え――っ!」 と、28号をののしりながら洗面所へ行った。 顔を洗っているらしい水音がする。 少ししてケフカが戻ってきた。 「くう――ッ。私にかけるなっ!」 28号は言い訳が沢山あるらしく口をパクパクさせている。 「ああ、サイレスかけたままでしたね。」 ケフカは28号にエスナをかけてサイレスをといてやった。 「すっきりしたのだから、あっち行って寝ろ」 「ケフカ様・・・質問が・・・」 「俺は昼寝がしたいのだっ。」 ケフカは自分のそばに来た28号にスリプルをかけた。 こてっと28号は床の上で眠ってしまった。 ケフカもやがてぐっすりと眠った。 そして夕闇がせまり、ベクタの街に明かりが灯る頃、28号は目が醒めた。 ベットから下がったケフカの右手が、自分の心臓の上あたりにあった。 何だか異常に気持ちが良かった。 下半身の方から来る気持ちよさじゃなく、ケフカの寝ている方向から、じーんと何かが伝わってくるのだ。 肩と胸から全身の細胞が共鳴しているようだ。 28号は始めての感覚にとまどった。 どうしてこんなに気持ちがいいんだろう・・・魔力が共鳴しているのかな。 僕よりもケフカ様の方が、圧倒的に魔力が上だから・・・ 僕の方に流れてきているのかな・・・・。 28号はケフカの髪に触れてみた。 肘まで、その感覚は伝わってきた。 指先全体の細胞が生まれ変わっていくような感じがした。 胸でこんなに気持ちがいいのなら・・・・。 他の部分にあててみたら・・・と、思った瞬間ケフカの目がぱちりと開いた。 「俺様の寝ている顔を見たな・・・・。」 「すいません、みてしまいましたっ。」 「俺様の許可なく見ないように。」 ケフカは起き上がった。 28号にでこピンをくらわせた。 「痛いですぅ・・・。ケフカ様。」 「あたりまえだ。痛くしたんだ。弱点の1つくらい押さえとかないとな。」 「質問なんですけどケフカ様。」「なんだ?」 「ケフカ様のにゅうえきって何の液ですか?」「顔にぬるんですよ。」 「それは、使用目的ですね。その・・・にゅうえきって、ケフカ様から出た液なんですか?」 30秒ほどケフカは眉間にしわを寄せて沈黙した。 「・・・・・お前は・・・、私の乳とか、ほかのどこかから出た液だと思った・・・。 なんて言うんじゃないんでしょうね・・・・・・・・・・」 「・・・・さっきは、一瞬そうかなと思って、妙に興奮しちゃったんですけど・・・ その・・・コワイ顔から判断するに、全然違うんですね?」 間の悪い沈黙がしばし続いた。 今まで28号のいた環境には、乳液も口紅もマスカラも存在しなかったであろう事は、 想像に難くない。 「は―――っ」ケフカは長いため息をついた。 そして、自分のこめかみのあたりと眉根のあたりを指でぐりぐりともんだ。 これは絶対に怒られると思った28号は、ケフカの次のアクションを待った。 おもむろにケフカは口を開いた。 「うーむ・・・。お前は教育しないとアホすぎて使えないというのがわかりましたよ。」 「あっ!じゃ、使ってくださるんですねっ。」 「ああ。しょうがない。代わりがいないからな。」 「8時まで俺は自分の仕事をする。おまえは、執務室の掃除をして8時になったら夕食を注文しろ。」 28号は掃除の道具を探した。 執務室に入ってすぐの作り付けの棚の中にバケツやら棒雑巾や、掃除機などがあった。 とりあえず、絨毯に掃除機をかけた。絨毯の隅の方も細いノズルを使ってきれいにした。 しかし、まだ30分ほど時間がある。 そうだ、絨毯の下を棒雑巾でざっと拭いてみよう。 28号はくるくると絨毯をケフカの机の所まで丸めた。 絨毯の下は大理石だった。 ・・・しかし、おそらく高熱による変色個所があった。それは人型をしていた。 28号は何でこんな所に人の焼け跡が?などとおもいつつ棒雑巾できれいにした。 絨毯を元に戻し、テーブルの上を拭き終わると、ちょうど8時だった。 28号は厨房に夕食を頼んだ。 掃除道具を廊下に干し、窓を開けたところで、 年配の給仕係りが、夕食をワゴンに乗せてやってきた。 「こんばんわー。」28号はにこにこして挨拶をした。 「こんばんは。あなたが、ケフカ様の新しい秘書官の方ですね。」 「そうです。28号といいます。どうぞよろしくお願いします。」 「ライス大盛りは28号様の方ですね?」 「はい。お手伝いしますよ。」 「いいえ、これは私の仕事ですから。どうか、お気をつかわずに。」 「あ、そうだ、食事どこで食べるか,ケフカ様に聞いてきます。」 書斎へ行くとケフカは古代文字らしき、あやしい石版を見ていた。 「ケフカ様―。夕食が来ました。どこで食べます?」 「雨が降っていなきゃ、外で。」 「はい、準備が出来たら、また来ます。」 28号は年配の給仕係りに、外で食べると伝えた。 その給仕係の手際のよさに28号は見とれた。 あっというまに、料理と、机の上に小さなランプと一輪ざしが置かれ, 今まで28号の見た中では一番高級そうな感じがしたのだ。 「私どもが、長居すると叱られてしまうので、あとはヨロシク御願いします。」 と、年配の給仕係りは去ろうとした。 おそらく、何度もケフカに首を言い渡されあまり顔を合わせたくないのであろう。 28号は、あ、さっきのそれか、と理解した。 「ははは・・・そうですね。絨毯めくったら人型の焼け跡がありましたしねー」 「・・・はは・・・・ははは・・・そうですか・・・。では、失礼いたします。」 と、給仕係りは逃げるように去っていった。 「ケフカ様―準備が整いましたよー」 「わかった。今行く。」 特にケフカの嫌いなものはなかったのか、文句をいわずにケフカは夕食を食べた。 「そこのワインが飲みたい。開けろ、28号」 28号は手でコルクの栓をポンと開けるとグラスに注いだ。 「そういう所を見ると、凄く役にたちそうなんですけどねぇ・・・。」 「は?」 「普通は、そこにあるワインオープナーを使うんですよ。 素手じゃ開かないから。」 「僕も飲んで良いですか?」 「・・・誤作動しない程度にな。」 「うれしいな・・・。」と、28号は自分のグラスにもワインを注いだ。 「さっきは、珍しいものを見せてくれてありがとう。」 ケフカは、グラスの中を見ながら言った。 「え?ああ・・・あれですか。ご希望ならいつでも。」 「・・・人造人間のオナニーなど見たのは世界で俺一人と思うと異常に得したような気がしてな。」 ケフカは金属的な声で笑った。 「あのー、ケフカ様。ケフカ様で二人目なんですが・・・。」 「なんだと?他にも見た奴がいるのか。Dr.リサンか?」 ケフカは損したといわんばかりの表情である。 「いえ・・・。ウイームス少佐です。」 「誰だ?そんな奴は知らんぞ。」 「もう、死にましたから。」 「ちょっとまて、もう少し詳しく話せ。」 「僕たちはルシュケ連隊に配属されました。一般兵に混ざって戦っていたんです。」 「どこでだ?」 「フィロキノンです。山賊王と呼ばれたフィロキノン王国。」 「ああ、妙に個人の武器弾薬が充実していた国でしたね」 「で、フィロキノン城砦陥落戦に参加していたんですが、 塹壕の中で、ある兵士が、とっとと終らせてかみさんと一発やりてぇって言ってたんですよ。」 「ふーん。お下品な。どこで、ウイームスが出てくるのです?」 「2週間で城砦は落ちたんですが、僕たちに直接命令を下すのはそこの司令官だったんです。 Dr.リサンの助手のウェーバーという人が3日に一回くらい、僕の所へ来てくれました。」 「ふーん。ウイームスを早く出しなさいよ。」 「僕は高級兵器扱いでしたので、ウイームス少佐の管理下に置かれました。 ・・・寝る時も同じテントでした。」 「なんだか、話が見えてきましたよ。」 「ウイームス少佐は、僕のマニュアルなんか全然見ませんでした。 一般的な人造人間の性質すら知らなかったと思います。 ・・・それで、一発やりてぇってどういうことですか?ってきいたら・・・」 「やりかたを教えてくれた、と?」 「いえ、手と口で2回抜かれて、それからはほとんど毎晩犯されていました。」 「・・・・・器物損壊罪だな。お前はどうだったんだ?いやだったのか?」 「うーん・・・。いや、とか、良いとか思う前に、初めてだったので。 こういう感覚が自分にもあったんだという感じで・・・。」 「よく、助手にばれなかったな。」 「服従器が故障しているなんて、その時は気がつかなかったんですよ。僕も、周りも。 ・・・いろんな兵士の人と会話して、人間の感情が解ってきたような感じでしたから。」 「ふーん。服従器の故障は何故解ったんだ?」 「ウイームス少佐が死んだ時に、僕が泣いちゃったから・・・・。」 Dr.リサンの報告と本人の言っていることが微妙にずれているが、 問題が大きくならないよう無難に纏めるのが、事故報告書だしな・・。 と、ケフカは思った。 「あー・・・なるほどねぇ・・・・。機械は泣きませんからね。 でもね、泣いたり、笑ったり、怒ったりしても、ついでに発情していても、お前は人間にはなれないのですよ。」 「それは、Dr.リサンにも言われました。」 「お前は、人形です。人形として生きなさい。そのほうが・・・多分幸せですよ。」 「人間ってそんなに不幸なんですか?」 「さあね。・・・・私は、人間なんか大っ嫌いですからね。私に気に入られたかったら、 自分が人の形をした兵器だということを忘れないでいることですね。」 「はい、ケフカ様。」 28号はケフカがどうして人間なんか大嫌いなのかが、知りたかった。 ケフカ様も人間のはず・・・なのに・・・。 その 3へとつづく
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