グッジョブ!レオ将軍 ZAZA9013 サマサの村では、幻獣と人間との和解が行われていた。 レオ将軍は、いままでのガストラ帝国の非道な行いを幻獣たちに謝罪し、 幻獣たちはそれを受け入れたのだった。 その場にいた―ロック、セリス、ティナ、リルム、ストラゴスたちも、これで人間と幻獣に 平和な未来が約束されると、安堵の吐息をもらした。 微妙な関係にあったロックとセリスも一気に進展しそうな気配だった。 「セリス・・・」ロックはセリスを見つめた。 「いいの、何も言わないで・・・」セリスは微笑んだ。 そんな二人を複雑な表情でティナが見ている。 「おあついね。」 「若さ、じゃのう。」リルムもストラゴスもほっとしていた。 これで、平和が訪れるのだ。 がきょん、ずしん、がきょん、ずしんと地響きを立て、 突如現われたのは魔導アーマーの一団だった。 その先頭でコクピットで仁王立ちになり、両手を腰に当てて高笑いしている男がいた。 頭上にサンバダンサーのような羽根飾りを立て、顔には奇怪なメイクを施している。 見間違いようもない・・・ガストラ帝国の魔導士、ケフカだった。 「終身刑になったんじゃなかったの・・・・?」 ティナは目の前にいるものが信じられなかった。 牢屋にぶち込まれていたケフカの姿を旅の前に見たばかりだというのに。 その上、今日のケフカはいつもの3倍は派手だった。 頭の羽根飾りも大きいし、指先にはとがった爪のような金属の飾り。 指を広げると傘の骨のように見える。 魔導アーマーの操縦どころか、フォークを持つのも困難そうだ。 遠目からも瞬きしているのがわかるぐらいの長いつけまつげ。 メイクの上から金粉を振りかけているのか、きらきらと光が眼を射る。 服の上からつけている宝石もいつもの3倍くらいの量で輝いていた。 「ひょっ、ひょっ、ひょっ、僕ちんの魔導アーマー隊の実力を見せてやるぞ!」 「ケフカ!何をする!」レオ将軍がケフカと魔導アーマー隊の間に立ちはだかった。 「今、言っただろ。魔導アーマー隊の実力を見せると。」 レオ将軍はすばやく魔導アーマーを見た。20機いる。そして、ガーディアンが2機。 自分の兵力は兵士30人足らず。 幻獣やリターナーのロック、ティナやセリスを戦わせるわけにはいかない。 老人と子供は問題外。もちろん、彼らはきっと戦おうとするだろうが・・・。 「ケフカ、魔導アーマー隊の実力を披露する前におまえに見せたいものがある。」 「ふーん、なんですか?僕ちんはこう見えても忙しいのですよ。」 見せたいものという言葉にケフカは興味を示した。 「手間は取らせない。ついでに退屈もさせない。」 「では、見てあげましょう。ちっ、しかたがないですね。」 圧倒的な戦力差があるので、ケフカは余裕のある返事だった。 時刻はすでに夕方だった。 レオ将軍の指示で、村の入り口側に生えている木にシーツでスクリーンが張られた。 船から、何かの機械が兵士たちによって運ばれた。 「スライド上映会ですか?」 ケフカは、魔導アーマーの上で金属の爪を外して顎の下で手を組んで退屈そうに見ている。 その両脇に魔導アーマー隊がいる。 彼らはケフカと違って、いつでも戦闘に入れる体制にあった。 「まあ、そういうことだ。」将軍はケフカに軽く返した。 ケフカから離れたレオ将軍にロックが駆け寄った。 「将軍、幻獣たちもケフカとなら戦っても良いと言っている。」 ロックは密かに戦う準備をしていた。 もちろん、他のメンバーたちもだった。 「この村で戦闘はしたくない。平和的な解決法を用意しているんだ。 見ろ、ケフカはガーディアンまで持ち込んでいる。 知っているだろうが、あれは首都防衛用の高級兵器だ。 この人数で破壊するのはほぼ不可能だ。 それに・・・ケフカの部下たちも帝国軍の兵士だ、 この期に及んで無駄な流血はお互いに避けたいはずだ。 ここは私を信じてくれないか?ロック。」 「わかった。」 ロックは皆にレオ将軍の話を伝えに行った。 「レオ将軍、準備が整いました。」将軍の部下がマイクを持って将軍の所へ来た。 「ケフカ、それに魔導アーマー隊の諸君、もう少し前へ出たほうがよく見えるぞ。」 「落とし穴でも掘ってあるんじゃないのだろうな?」 ケフカは少し疑い深かった。 「そんな事はしない。」 「そうか?じゃあ、全隊進め!」 スクリーンの4mほど前にレオ将軍一行が、そのすぐ背後にケフカと魔導アーマー隊が場所を取った。 幻獣たち、セリス、ロック、ティナ、リルム、ストラゴスの順番に座っている。 「何か凄く落ち着かないよ・・・。」リルムがストラゴスに言った。 「そうじゃのぅ・・・。」 それを聞きつけて、二つ離れたところに体育すわりしているセリスがリルムに耳打ちした。 「大丈夫、魔導アーマーは足元のすぐ前にいるものは、砲の死角になって撃てないから。」 「うん、わかった。」 「なるほど・・・。」ストラゴスもうなずいた。 ここまで近いと魔導アーマーが砲撃するよりも、こちらが剣で魔導アーマーのパイロットを 攻撃した方が早い。ケフカが魔法を使ってきてもこちらにはセリスがいる。 さっきのように全員が魔導アーマーの射程距離内に入っていた状態よりは、はるかに有利だ。 ただ、ガーディアンだけは魔導アーマー隊より少し距離をとって後ろの方にいる。 おそらく大きいからだろう。 「まだ始まんないのか?レオ将軍。何か見せるならポップコーンは出ないのか?」 「ポップコーンはない。準備はできた、もう始まる。」 「ふーん、相変わらず気が利かない男だな。まっ、しかたありませんね。 おい、おまえ!」 ケフカは部下の魔導アーマー兵を呼んだ。 「はっ。」 「僕ちんは、ポップコーンが食べたい。それと、ミルクティーにレモンが入ったのが 飲みたい。甘さは抑え目。ポップコーンにはとかしバターたっぷりと蜂蜜ね。」 「はい。少々お待ちください。」とはいったものの、そんなものこの村にあるのか!? 不安を抱えつつ、その兵士はサマサの村の家の戸を叩いた。 「あのーすいませんけど、紅茶とポップコーン分けていただきたいんですが・・・」 「帝国の兵隊さんね。」でてきたのは、痩せた40がらみのおばさんだった。 兵士はとりあえずポケットに入っていた3ギルをおばさんに渡した。 「紅茶はミルクとレモンを入れて、ポップコーンにはバターと蜂蜜をかけていただきたいんです。」 「あら、紅茶は今丁度入れた所なの。ポップコーンならすぐ作ってあげる。」 おばさんは竈の火を大きく起こすと、フライパンでポップコーンを作ってくれた。 草で編んだ入れ物に山盛りにして兵士に渡した。 「兵隊さん、ここはレモンは無いの。どうしましょう?お酢ならあるけど。」 「え?・・・(どうせ自分がのむわけじゃないしなぁ)、ちょっとだけ入れてください。」 「そうおぉ?変な好みねぇ・・・」 「すいません、ありがとうございます。」 ポップコーンにはバターと蜂蜜が大量にかかっていた。 熱い紅茶は素朴な形のカップから湯気をたてている。 兵士は、こぼさないように気をつけてケフカのところへ持っていった。 「ケフカ様。ポップコーンと紅茶です。」 「うむ、ごくろう。」ケフカはポップコーンをつまむと紅茶を一口飲んだ。 酢入りのミルクティー。多分、まずいはずだ。 何かいわれるとびくびくしていた兵士は、ケフカの普通な様子に安心した。 「おいしいな。余った分は皆でわけるといい。」 ケフカはポップコーンの入った皿を部下に回した。たまには良い人らしい。 スクリーンの下には、アンプが置かれ、お約束のキーンという音の後、レオ将軍の挨拶が始まった。 「レディースアンドジェントルマン!おとっつあんあんどおっかさん!」 「いよっ!べたべたー」リルムの合いの手が入る。 「おじいちゃんあんどお孫さん!今日の御代はいらないよっ! ガストラ帝国情報部のクールなエージェントが日々集めた極秘映像で構成した ホットなスライドをお送りしちゃおうじゃないかっ!」 「将軍、マイク持つと人格変わるのかしら?」と、ティナは隣のリルムに 微笑みかけた。リルムはニヤリと笑った。 「その名も『ケフカ様、栄光の軌跡』!」レオ将軍が叫ぶ。 「えーっ!?」前列からいっせいにブーイングが飛んだ。 「ほう?そりゃ、ぜひ見ておきたいものですね。 おまえたち、拍手しろ。拍手!」ケフカは上機嫌だった。 魔導アーマーの上からぱちぱちと兵士たちの拍手の音がした。 カシャ! ケフカの姿がスクリーンに映し出された。 いつもの緑のマントに青と黄色の羽根をつけている。 「これが現在のケフカ様の姿。」 とりあえずしました、という地味な拍手が魔導アーマー隊から起きた。 カシャ! また、ケフカの姿がスクリーンに映し出された 金でできたイヤリングと細いブレスレットをして、 レースで出来たブラウスと赤い半ズボンをはいている。 足元は赤いブーツ。それほど年齢不詳な感じではない。 お金持ちの貴族のお坊ちゃんという風体だ。 赤いマントに赤い羽根飾りを頭につけていて、 眼の周りは青と赤で彩られている。 顔は今ほど白塗りではなかった。 整っていて美しい。これが女優ならさぞかし人気があっただろう。 「これが12年前のケフカ様の姿。」 ぱらぱらと拍手が起きた。 「うーん、懐かしいな。」拍手をしながらケフカは呟いた。 「このころのケフカって、今ほど変じゃなかったのよ。」 ティナがリルムに説明し始めた。 「へぇー。あれみたら、12年前からでも、十分おかしかったんだねって思ったよ。」 「私は、これが普通の人だと思っていたから・・・」 「ティナ、大変だったんだね。」 「うーむ。こんな人が身近にいたんじゃ、さぞかし辛い生活だったとおもうゾイ。」 「それほど辛い事ってなかったようなきがするんだけど・・・。 改めて見ると変・・・かも。」 ため息をつくティナ。 「だいじょーぶだよ、ティナ。これからはイイ男選び放題の人生が待ってるんだから。」 「これこれ、リルム。ほんとにもう・・・口ばかり達者でいかんゾイ。」 カシャ! スライドがかわった。 「うわっ!」前列から声が上がった。 今度は金髪の可愛らしい女の子だ。満開の白いバラをバックに撮られた写真らしい。 腰まである金髪を緑色のリボンでたばね、薄い黄色のシフォンで作られた ドレスを着ている。布地のさらさらとした様子が画面から伝わってくる。 「これが12年前のセリス将軍!当時は6歳。いやーかわいいねっ!」 魔導アーマー隊から拍手と歓声が沸き起こった。ケフカのときよりあきらかに大きかった。 裏切り者とかなんとかいわれていても、セリス将軍の人気はやっぱりすごいのである。 うわっ!の主はセリスである。 「へぇー。セリス、こんなにかわいかったんだぁ。」 ロックは隣に座っているセリスに笑いながら言った。 「は、恥ずかしい。ロック、あんまり見ないで。な、何でここで私が出てくるの? すごく嫌な予感がする・・・。」 「どうして、みんな昔の写真って恥ずかしがるんだろうね。 俺は全然そんな風におもわないけどなぁ。この頃から綺麗だったんだ。」 と、さりげなくセリスの肩を抱こうとするロック。 「イヤなものはイヤなの!もぅー。」 動揺したセリスはロックの手をねじり上げた。 「いたたた・・・。痛いよセリス。」 カシャ! スライドはまた女の子を映した。 「あっ!」また前列から声が上がった。 今度は緑のクルクルとした巻き毛で赤いワンピースの水着を着ている。 子供用プールのそばにしゃがんでいる。プールにはアヒルが泳いでいる。 「これが12年前のティナ。夏のベクタで水遊びをしているところだ。」 またしても、魔導アーマー隊から拍手と歓声が沸きあがる。 「ティナちゃんかわいい!」 誰かがスクリーンに向かって叫ぶ。ケフカではない。 魔導アーマー兵の誰かだ。 リルムがティナに言った。 「ティナ、今叫んだ人の住所と名前聞いてきてあげようか?」 「え?えーっ!?」きょとんとするティナ。 「本気でつきあわなくても、貢ぐだけ貢がせたらポイしちゃえばイイんだよー。」 「リルム、そんな事いっちゃいかんゾイ。」 「リルム・・・。それは、ちょっとまって。」ティナは慌てた。 ティナには『本気でつきあわなくても』以前に、’つきあう’がよくわからない。 一緒にいることみたいだけれど、それで一体何をして何を話すのだろう? 特別な関係?セリスとロックのように? 楽しそうだけれど、自分より余分に明るくなったり暗くなったりしている。 それは意味のある事なんだと思う。 しかし、それを自分ができるかというと、かなり躊躇する。 後半の『貢つぐだけ貢がせたらポイ』に至っては、どんなことなのか見当もつかない。 「えへへへー」リルムは、正面に顔をむけた。 カシャ!スライドが変わった。 「うっ!?」ケフカは小さく叫んだ。 ケフカとセリスが映っている。 セリスは黄色い水着を着て、プールに立っている。 その横で、ケフカが片膝をついて真っ赤なバラを持っている。 「ケフカ様はセリス将軍が6歳の時、第一回目のプロポーズをしました。 これがそのときの証拠写真です。」 観客からどよんとざわめきが起きた。 「そ・・・そんなの覚えていない。」セリスは真っ赤になっている。 「貴族とか王族では小さな頃から結婚相手が決まってるっていうけど、 6歳は早いよなぁ?」ロックは全く気にしていない様子だ。 「ラブラブだね〜」とリルム。 「青田刈りというやつかのう・・・。」とストラゴス。 「ちなみに、そのときの言葉は『僕と一緒にお姫様になろうよ』でした。」 レオ将軍が説明した。 「思い出した。それ、私にも言ってた。」 ポンと手を打つティナ。 「・・・僕と一緒にってのが、理解不能だな。やっぱりケフカって変な奴。」 ロックはいつのまにか、ポップコーンを持っている。 魔導アーマー兵からこっそり奪ったのだろう。 「しかし、セリス将軍は『お姫様は私一人でいいの』と答えたために、 ケフカのプロポーズはそれからも四季折々の行事のように続けられたのです。」 「うっわーロリコンだぁ!!」リルムが叫ぶ。 「静かに見ないといけんゾイ。」 カシャ! 今度は特徴的な金属の内装の部屋だ。ガストラ帝国城の一室らしい。 広い窓のそばにぬいぐるみが散らばっている。遊んでいた最中のようだ。 椅子には若草色のワンピースを着て、髪を結い上げたセリスが座っている。 その横に小さな箱を持ったケフカがいる。 「これはセリス将軍が9歳の頃に、ケフカ様が婚約指輪を渡そうとしている時の写真です。」 「ケフカ様は、セリス将軍に25カラットのルビーの指輪を渡そうとしました。 しかし、セリスは『指輪なんか欲しくないもん』と一蹴したため、この企ても不発に終わりました。」 当時の記憶と共にショックも戻ってきたのか、ケフカは何も言葉を発しない。 魔導アーマー隊の兵士たちからは再びどよめきが起こった。 スライドのなかのセリスは、儚げで美しかったのだ。 「ぜんぜん覚えていない・・・。」セリスが呟く。 「とりあえず貰っておいて、後で質屋にでも出せばよかったのに・・・。」 「ロック・・・。」 セリスはロックの無神経な発言が気に触ったようだ。 「あ、いや、そんなもの貰えないよな。受け取ったら大変だ。 受け取らなくて正解、正解。」 「ティナはケフカから指輪もらったの?」リルムが尋ねた。 「たしか、あの頃セリスとおそろいの剣をもらったような・・・。 あ、そうだ!セリス、剣が欲しいって言ったんだ。」 それを聞いたストラゴスが何度もうなずく。 「うんうん、鋏とか包丁とか切れるものは、普通は結婚の贈り物にはしないからのぅ。」 「へー、そうなんだ。」 「まぁ、大抵はそうじゃゾイ。」 「さすがジジイ!物知りだね。亀の甲より年の功。」 カシャ! ケフカがティナとセリスにリボンのかかった箱を手渡している。 「セリス将軍とティナが11歳のバレンタインデー、二人にチョコレートを渡すケフカ様。 …なんと、ケフカ様はこの年からバレンタインデーの時期が近づくと、 ベクタにチョコの原料のカカオ豆が入らないようにしていたんですねぇー。」 「バレンタインデーは先手必勝のイベントなのだ。 だから、僕ちんが先にあげたのですよ。悪いか?」ケフカは小さく反論した。 カシャ! スライドが変わった。文書だ。字が細かくてわからないが、タイトルは 『ベクタに流入するカカオ豆の保存と在庫に関する法律』と書いてある。 「これが、そのときのカカオ豆の輸入に関する法律の書類。 誰も知らないが、原案はケフカ様。 ベクタに入るカカオ豆は年2回の限られた時期に行うと、下書きが書いてありますねぇー。 これは一体どういう意図のある法律だと思いますか?」 カシャ! 今度は事故現場のようだ。 線路の上で貨車が炎を上げていたり、転覆している。 「そして、これがカカオ豆を積んだ貨車が何者かによって爆破された証拠写真。 そうまでして、ベクタのチョコレート流通を阻止した理由とは、セリスとティナが自分以外の誰かに バレンタインデーにチョコを渡せないようにするためだったのでしたぁー!!」 「たしかに、僕ちんのしたことだが、それがどうしたというのだ。」 ケフカは、嫌そうに発言した。 魔導アーマー兵たちは騒ぎ出した。 「そうか、それでベクタじゃチョコレートが異常に高級品だったんだ。 よその町へ行けば安いのに・・・。すっげー、入手困難だよな。」 「たしかに正月すぎるとチョコレートって売ってないよな。」 「そうだよな〜、バレンタイン時期にチョコレート売っていたのって 10年位前の話だ。」 「・・・・・・それで、あの時期ベクタへ入る列車を爆撃したんだ!」 「えっ、おまえそんなことしたの?知らなかったな〜」 「反乱軍が爆弾を持って貨車に乗り込んでいる可能性があるから、 貨車を爆破しろと秘密命令を受けて、俺はスカイアーマーで・・・」 「マジ?」 「そんなくだらない理由で爆撃させていたのか!? たしかに毎年時期が同じだから妙だなと思ったんだ。」 「うるさいぞ、お前たち!命令に従うのが兵士の役割だろっ!」 ケフカが青筋を立てて言う。 「そのあと線路の補修とか誰がやると思ってるんだ!大変だろう!? しかも、その金、税金だし!」 「そうだそうだ!」 「自分の都合で皆に、毎年毎年余計な手間かけやがって。」 「そうだそうだ!」 「そんな法律まで作ってバカじゃないのか!?恥を知れ!」 「そうだそうだ!」 「お前たち、チョコレートぐらいもらえなくたっていいだろ!?」ケフカが反論する。 「爆撃してなかったら、俺だって誰かから貰えたかもしれないのに!」 魔導アーマー兵たちは険悪な雰囲気だ。 ロックがセリスに言った。 「へー、先にチョコレートを自分から渡してしまえば、貰えるか貰えないか どきどきしなくって済むもんな。頭使ってる。」 「ケフカのおかげで、2月14日はチョコレートを貰う日だと思っていたの。 女の子が渡す日って知ったのはかなり後になってからだったよ。」 「セリス、ホワイトデーにお返しはしたのか?」 「うん。」 「ええっ!?」 「だって、そういうものだと思っていたから・・・。」 「・・・・そ、そうか。」 ケフカとセリスの関係は自分が思っていたほど単純なものではないようだと、 ロックは今更ながら気がついたのだ。 「…そうだったの。どうりで…」ティナが小さく呟いた。 思い当たる事が幾つかあるのだろう。 「また、姑息な手段を使う男じゃのう・・・。 権力が私利私欲と結びつくと、変な事になるという見本のような話じゃゾイ」 「ふーん・・・。やるじゃん、ケフカ。」 リルムの感想にティナは苦笑いだ。 カシャ! またスライドが変わった。 今度はケフカの後姿だ。 メジャーを片手に部屋から出てくる所だ。 「ん?」セリスはハッとした。妙に見覚えのあるドア。 あれは、自分の部屋のドアだったような気がする。 「ケフカ様はセリス将軍とティナに30回を越えるプロポーズをしましたが、 その全てが失敗に終わりました。セリス将軍が13歳の頃は、 士官学校に入学したのでケフカの側を離れる事が多くなったのです。」 カシャ! スライドは青いドレスをまとったセリスを映し出した。 いや、セリスに良く似ているがやや表情が硬く、肌の光沢がピカピカしすぎている。 よく見ると、瞳は美しかったがどこか虚ろな感じだ。 首や肩の付け根に線のような陰が入っている。 ポーズは自然だったが、どこか違和感がある。 「で、ケフカ様は寝ているセリス将軍の部屋に侵入して全身のサイズを測り、 1/1フルスケールの球体関節人形セリス一号を制作したのであります。」 観衆全体から驚愕のどよめきが起きた。 幻獣も、好奇心に駆られて遠巻きに見ていたサマサの村人たちも、 一斉にケフカを見た。 「なんだよっ!皆!そんな目で僕ちんを見るな! ・・・セリス一号はなっ、関節がしっかりしていてバランスがいいから、支えなしでも立つんだぞ! 目だって特注のグラスアイだし、髪だってモヘアでふわふわしてていい質感なんだ! この傑作に何か文句があるのですか!?おまえたち!!」 ケフカの叫びは魔導アーマー兵たちの心は打たなかったようだ。 「ケフカ様・・・変態?」 「いや・・・、変態っつーか、むしろ屈折系?」 「そんなことしないであきらめたらって感じでしょうか。」 「そんな人だとは思っていませんでしたが・・・。」 「そこまでしていたとはねぇ・・・へぇー。」 「趣味だと思えば何ともないような、問題あるような・・・」 兵士たちの士気は明らかに下がっていた。 一方セリスは大変な事になっていた。 「えーっ!?えーっ!?えーっ!?知らなかった!知らなかった!!」 両の手のひらで額とこめかみを押さえている。 「セリス、落ち着いて。」 ロックの言葉も、今のセリスには耳に入らない。 セリスの顔は紅潮して肩が小刻みに震えている。 「どうして!?なんで!?いつのまにそんなことを!!」 「ね、セリス。落ち着こうよ。きっとレオ将軍には深い考えがあって・・・」 「これが落ち着けるわけないでしょ!あれ見てよ!全然私知らなかったのよっ!」 セリスは今にも剣を抜きそうな勢いだった。 「セリス・・・」 「黙れ!」セリスはロックの言葉をさえぎった。 怒りの矛先が自分に向くのが怖くなったロックは黙った。 セリスはスクリーンを焼け穴ができそうな勢いで睨みつけていた。 ロックはこんなセリスを見たのは初めてだった。 「すごくかわいい・・・」ティナは呟いた。 「ティナの人形はあるのかなー?」リルムが無邪気に聞いた。 「さあ・・・。あの頃から操りの輪がつけられていたから よく覚えていないの。」 「ふーん。でも、ティナもあれくらいかわいく作ったんじゃないかな?」 「うーん・・・。どうかな?私はケフカに“お人形さん”ってずっと呼ばれていたから。」 「へぇー」 「とても愛していたんじゃろうなというのはわかるけれど、 どうもワシには良くわからん趣味じゃゾイ。 そこまで嫌われたら潔く身を引くのが男というものじゃないか?」 「ジジイ!いいこというね」 リルムはストラゴスの白い髭を小さな手で引っ張った。 「イタタタ・・・リルム!やめんか・・・。」 カシャ! 今度は本物のセリスだ。晴れた空の下、鎧を着て剣を持っている。 自信に満ちた晴れやかな表情をしている。 「セリス将軍15歳。士官学校では大変優秀な成績を修めました。」 カシャ! いつもの派手な服に厚化粧のケフカが、重厚な執務用のデスクの横で、 型枠に白っぽい肌色の液体を流し込んでいる。 型枠からは金属のパーツが見えている。骨の部分になるのだろう。 机の上には棒のようなものが乗っている。 良く見るとそれが人の下肢の部分―ふくらはぎであることが判る。 「一方ケフカ様は このころは公務をさぼって1/1セリス7号を完成させました。」 「7号って・・・7体も作ったのか・・・」 魔導アーマーの兵士から、呆れたような呟きが聞こえた。 おそらく、その場にいたケフカ以外の全員の感想を代弁していただろう。 ケフカは嫌な顔をしながらも、目はスクリーンに釘付けになっている。 カシャ! スライドは美しいセリスの人形の上半身をスクリーンに映し出した。 淡い藤色のドレスを着ている。 さっきの1号に比べると表情もかなり自然で、微笑んでいた。 関節の線がなくなっている。 透明感のある白い肌や、みずみずしい唇のつやなどは、 すでに人形と言うより芸術品の域に到達している。 頬の自然な赤みや柔らかそうな耳たぶの出来などは、人造物とは思えない。 「これが、セリス7号。1号からはぐぐっと改造されています。」 レオ将軍の説明に、ケフカが魔導アーマーのコクピットから 立ち上がって叫んだ。 「ち、ちくしょー!卑怯だぞ! それ以上7号について言及するなら、お前を殺すぞ!レオ将軍!!」 ケフカは急に取り乱し始めた。 「きっぱり無視して続けます。」レオ将軍は言い放った。 「くそっ、お前らどけろ!じゃまだ!スライドの機械を壊すのだ! この位置からでは魔導レーザーが撃てない!」 ケフカの両脇の魔導アーマーは動かなかった。 どけろといわれたアーマー兵たちだが、ここは上官の命令よりも好奇心が勝った。 誰一人動かずに、スライドとレオ将軍を注視している。 「くーっ!!おまえたち〜っ。あとで全員左遷してやる。」 ケフカは呪文を唱え始めた。 レオ将軍の説明は続いた。 「セリス1号は全身34箇所可動の球体関節人形としてはほぼ完璧なできでした。 しかし、関節可動域の拡大、軽量化、機能性、質感の向上を目指してケフカ様は 改良を重ね、特殊素材を使用して7号を完成させたのであります!」 「機能性?」人形の機能性って何だ?ロックはすぐには思いつかなかった。 セリスはあいかわらず、スクリーンを睨みつけている。 カシャッ! 同じく1/1セリス7号の全身像だった。 ただし、裸だった。 魔導アーマー兵のほうから「おおーっ」と低い声が上がった。 「!」ロックは思わず、セリスを見た。 セリスは彫像になってしまったかのようだった。動かない。 「セリス7号にはケフカ様の手によって画期的な機能がつきました。 まず、張りと重量感のあるバストのために、皮膚の下に流動素材を注入しています。 それによってかつてない柔らかさが、実現しました。 そして、7号の体内には究極のホールが・・・」 カシャッ! 一瞬ピンク色の何かがスクリーンに映った。 しかしそれが何だかわかる前に「いぃやぁあああっ!!」と悲鳴が上がった。 それと同時に爆発音と衝撃波が観客を襲った。 「うわあ―っ!」ロックは爆風に5mほど飛ばされた。 ティナもストラゴスもリルムも幻獣たちも、 遠巻きに立ち見していた村人の何人もが吹き飛ばされ、倒れていた。 「セリス!大丈夫か!?」ロックはセリスを探した。 リルムとストラゴスは転がりやすかったのか、 かなり遠くまで吹き飛ばされていた。 「うひょー・・・びっくりした・・・。今の、魔導アーマー?」 リルムはあたりを見回した。 魔導アーマー兵たちも顔を覆っていたりきょろきょろしている。 何が起きたのか彼らも把握していない様子だ。 「リルム!大丈夫?」ティナは一瞬で全身傷だらけになってしまった。 吹き飛ばされた上に地面の上をごろごろと転がったのだ。 「うん。痛いところは無いよ。おい、ジジイしっかりしろ!傷は浅いぞ。」 「ワシも怪我は無い。上等なマントのお陰で助かったゾイ。」 2人はすぐに立ち上がった。 スライドの上映機はめちゃめちゃに破壊され、スクリーンはずたずたになり レオ将軍の姿が無かった。 「ななな、なんですか!?皆さん、今のは私ではありませんよ! まだ、呪文の最中ですし。」 当然のことながら、土煙がおさまると皆の視線はケフカに集中していた。 「お前たちはここで待機しろ。ガーナーとメイザー、左右に分かれてレオ将軍とセリスを探せ。 どっちでも見つけたら僕ちんに報告!僕ちんは真正面を進む。」 ケフカは、がっきょん、ずしん、がっきょん、ずしんと地響きを立てて魔導アーマーで前進した。 ロックはセリスを見つけた。 30mほど離れた草むらの中に彼女はいた。 「怪我はないか!セリス!」 セリスは泣いていた。 泣きながら土気色の顔のレオ将軍の手を握って謝っていた。 「ご・・・ごめんなさい、レオ将軍。ガマンできなくて・・・つい。」 レオ将軍は地面に仰向けに倒れている。 顔も腕も腫れ上がり、鎧も半分ほど消し飛んでボロボロになっている。 まるで何かの大爆発に巻き込まれた人のようだった。 「良いんだ。セリス、私が無神経すぎたな・・・・。 ケフカの兵士たちの士気を限界まで下げるのが目的だった。 戦闘をすることなくケフカに帰ってもらおうと思ったのだ。 君を傷つけるつもりはなかった。 人形だから大丈夫かと思ったのだ。」 「ちっちっ・・・女心がわかってないね、レオ将軍。」 いつの間にかレオ将軍のそばに来たリルムが人差し指を立てながら言った。 「うっ・・・・。全くその通りだった。」 レオ将軍は肩をすくめた。が、骨がどこか折れているらしい。 激痛に顔を歪ませた。 「これ、リルム。つっこんでいる場合じゃないゾイ!」 リルムはストラゴスに抱えられ、二人から2mほど離れた場所へ連れて行かれた。 「今はとにかくレオ将軍に回復魔法をかけるんじゃ!」 「わかったよ」二人は呪文を唱え始めた。 ティナもそれに加わった。 レオ将軍はごぼっと口から大量の血を吐いた。 ひゅーひゅーと妙な呼吸の音をさせ、額には大量の脂汗を浮かべて、 目の焦点が微妙に合っていない。 「・・・・・・・・(やばっ!!:汗)」 セリスは握ったレオ将軍の手が急速に冷たくなるのを感じた。 あわてて回復呪文を唱え始める。 目を閉じてレオ将軍が言った。 「・・・大丈夫、心配するな、セリス。その実力なら、必ずケフカを倒す事ができる。」 ロックは、セリスとレオ将軍の姿を後ろから見守っていた。 セリスにかけるうまい言葉が見つからなかった。 こういう時には何も言わずに抱きしめるのが良いのだろうけど・・・ それも何か違うような気がした。 とりあえず、自分も回復魔法に参加したほうが良いかなと思ったとき、 ケフカが5mくらいの距離まで近づいてきた。 全員が思いっきりケフカの魔導レーザーの射程に入っている。 ロックは身構えた。 「あーあーあー・・・。レオ将軍は僕ちんがブッ殺す予定でしたのに、 セリスがかわりにやってくれたのですね。 これは、あとで御礼を言わなくてはいけませんねぇ。」 ケフカは嬉しそうに笑った。 高い位置にいるケフカからはレオ将軍の姿が見えているようだ。 「将軍は死んじゃいないし、お前に殺させたりはしない。」 「そうですか?ここからでは瀕死に見えますが。 御存知でしょうけど、簡単な回復呪文は単純な外傷には効きますが、 ・・・・・内臓の損傷があったり、ああいう死にかけている方には、もっと高度な 呪文を使わないとひたすら苦しみが長引くだけですよ。 完治するのに思いのほか時間がかかるんです。 ま、その方が僕ちんとしては胸がスーッとしますけど。」 ケフカの発言はいつ聞いても悪意だらけでうんざりする。 聞いちゃいけない。話なんかするだけ無駄だとロックは思った。 「ケフカ、もう帰れ。そこに居たってセリスは渡さない。」 「ああ、セリスね。・・・・・・・お前が幾ら渡さないと言ったところで、 あの子は自分の事は自分で決めるでしょうよ。 だから、今すぐに私のところへ戻らなくても心配はしていないのです。」 まるで、セリスが確実にケフカのもとへ帰ってくるようなものいいだ。 「ケフカ、セリスの事はもうきっぱりあきらめろ。 めちゃくちゃ嫌われてるぞ。」 「え〜っ!?そりゃ・・・黙って全身の型を取ったのは 悪かったかもしれませんけど・・・・」 レオ将軍の手を握りながら、肩越しにセリスがちらっとケフカを見た。 「ん・・・。今日のところは、残念だが引き上げさせてもらうよ。 全隊戻れ!退却〜!」 轟音を響かせながら、あたふたとケフカはその場を去った。 よほど恐ろしいものを感じたのだろう。 闇の中で回復魔法の暖かい光がレオ将軍の体を包んだ。 「レオ将軍!しっかりして。レオ将軍!こんな事で死なないで!」 セリスの声が気まずい沈黙の中に響いていた。 レオ将軍は即死は免れたが、かなりの重傷ですぐにサマサを 出発することはできなかった。 ケフカの言った通り、回復に時間がかかったのだ。 後日、再編した魔導アーマー部隊と共にやってきたケフカは、 レオ将軍をあっさりと殺してしまった。 レオ将軍がケフカに負けた原因は、すでにセリスによって 致命傷を負わされていたからだという説があった。 左遷された生き残りの帝国兵だけがその事実を知っているのだが、 どうやらそれもセリスによって歴史の闇へと葬り去られたらしい。 後世の歴史家たちはその真偽について大いに頭を悩ます事となる。 おわり あとがき グッジョブなのか?レオ将軍・・・。 人形を作る人を非難したり笑いものにする意図は全くありません。 しかし、人形のジャンルによっては、白日の下に晒されると はっずかしい場合もあります。
|