行商人哀歌 BY ZAZA9013 サウスフィガロに程近い町、シャルルヴィルに帝国軍は駐留していた。 帝国北方戦闘団パンヴィッツ騎兵中隊。 別に戦闘は激しくはなかった。シャルルヴィル市国は帝国にあっさりと降伏した。 王制を敷いていたわけではなく、市民議会の小国だったため、帝国の傘下に入った方が いろいろと有利だからだ。 都市国家どうしいちいち払う関税もいらなくなるし、物資の輸送も帝国のルートを使用できる。 ・・・と、考えた方が町を丸焼けにされ、皆殺しの目に会うよりは良い。 という、圧倒的な戦力差を見た上での議会の判断だった。 帝国軍の兵士も多くはこの成り行きに安堵していた。 戦わなくて良い。酒も飲めるし、町で遊べる。 不本意ではあるけれどシャルルヴィル市民は帝国兵に対して好意的であった。 ただこの展開に不満足なものが1人いた。 軍事顧問としてついてきた、帝国大魔道士ケフカである。 誰も死なないのか、つまんないのー。 などと、パンヴィッツ少将が降服を受理したときそんなことを言って顰蹙を買っていた。 ケフカは帝国軍内では行っちゃってる人として有名であった。 頭に羽飾りをつけ、濃い化粧をし、原色のけばけばしい衣装をまとい、鏡をずーっとみている。 寝る前には、自分の部屋で人形遊びをしている。 自軍の捕虜がいても、平気で攻撃を仕掛ける。 不必要な残虐行為を平気で行なう。 しかし、その強大な魔力は戦況が不利なときは、奇跡のように働く。 ・・・・小さな村や要塞などは、魔法で一瞬のうちに焼き尽くしてしまうのだ。 ケフカは退屈だった。 駐留軍の士官クラスは、この町で一番良いホテルを接収し、臨時に本部として使用していた。 ケフカにも、広くて眺めのいい部屋がわりあてられた。 はー、こんな田舎町へくるんじゃなかった。 はやく、ベクタへかえってティナちゃんと、遊びたい・・・。 化粧をし、着替えをするのにも飽きた。買い物にでもいこうか、羽飾りのついたマントをはおる。 と、窓から外を見ると、何か怪しいものが箱を背負ってゆくのがみえた。 モンスター?人より大きいが、スライムのようだ。 いや、スライムならば足はない。あれは一体・・・・なんだ。 ケフカは、部屋の階段を駆けおり、路上へと走り出た。 季節はずれの巨大な極楽鳥の出現に、町の人たちがおどろいて彼を見る。 日向ぼっこしていたじいさんの胸倉を捕まえ問いただす。 「い、今歩いっていったのは、何だ!?」 「はああああ?」じいさん、耳が遠いらしい。 「箱、箱背負って、丸っこい何かが通ったろう!」 「あーーー・・・。あれは、薬売りじゃよ。おまえさん、しらなかったのかい?」 「薬売り!?人間じゃなかったろう!あれ!」 「オルトロスの薬売りじゃよ。ときどき、町に来て薬を売って小金をためとるんじゃ・・・・。 なんでも、好きな女がいて、ただでは会えないとぼやいておったぞ。」 オルトロスとは、タコ型の大きめのモンスターである。喋る事もでき、知能も高い。 「おまえ!話したことがあるのですか?」 「最近よく、来るからのう・・・」 「どっちへ行った!」 「あっち・・・たぶん南区のほうへ行ったんじゃないかのう・・・。 あそこは貧乏所帯が多いから薬はうれるじゃろ」 ケフカはレンガの道を突っ走った。 のどかな昼下がりの風景にそぐわない、異粧の悪魔の疾走に子供たちは逃げ惑い、 店の前を掃除していたおばさんも思わず箒をとりおとす。 貧乏くさいちまちましたアパート街へと突入する。 とりあえず、てじかな一軒のドアをノックもせずにぶち開ける。 「おい、誰かいるか!薬売りがきたか!」 子供がでてきた。 「ひえーっ、モンスターだあ!」 「薬売りがこなかったか!オルトロスの薬売りだ!」 「こ、こなかったよ」 次の建物に入る。ドアを蹴り開ける。 「オルトロスの薬売りが来なかったか!」 「あ・・悪魔・・どうか命ばかりはおたすけをー。」 ばあさんだった。 「薬売りは来なかったかときいているんだ!」 「きましたよう」 「どっちへいった!」 「さあ・・・うちの隣へまず行くでしょうけど・・・その先は・・・」 隣の家にも行ったが、もうオルトロスはいなかった。 日ごろやりつけない肉体労働の連続に、ケフカは疲れ果てた。 貧乏くさいアパート街のはるかかなたの路上に、薬売りの丸っこい後姿が見えたようなきがした。 こうなったら。 ケフカは呪文を唱えた。 ブリザラ!巨大な氷柱が何本もレンガ道に突き刺さった。 町の人々がおどろいて集まり始めている。 あいつを囲むよう手加減したつもりだったが、はたして・・・。 ケフカは薬売りがつかまっているはずの位置まで、ようやくたどり着いた。 氷柱の輪の中に奴はいなかった。 野次馬に話を聞くと、背後に氷柱が現れた瞬間、オルトロスの薬売りは、 信じられないほどの速さで走り去ったとのことだった。 「ちっ・・・・。残念。やはり一人では無理なようですね。 暇を持て余している兵隊さんたちにお願いするしかありませんね。」 と、ケフカはつぶやいた。 ホテルまでもどると、ケフカはまっすぐにパンヴィッツ少将の元へ行った。 少将は帝国行政官と共に、市民議会の議長らに帝国行政のシステムを説明しているところだった。 重苦しい空気を破る乱入者は、少将にむかって。 「パンヴィッツ少将、少し、兵を借りる。街の中にモンスターがいるので捕まえたい、いいな!」 と、いいすててさっさといなくなった。 その場にいた全員が、今きたのがモンスターじゃないのか!とつっこみたかったが 我慢した。 「ケリー!ケリー軍曹!」 エレベーターホールの椅子で雑誌を読みつつタバコをふかしていたケリー軍曹は立ち上がった。 ケリー軍曹は30歳。ケーキ屋の5人兄弟の次男坊であった。 パンヴィッツ隊では、主に郵便物の配達や、指令書の配達なんかをやっていた。 しかし、ケフカが来てからは、彼のお守りを任されていた。 不穏な行動があれば逐一少将に報告するよう命令されている。 「はいっ!ケフカ様!どこへいってらしたんですか?急にいなくなると困ります。」 ケフカと付き合うようになってから、自分の茶色い髪に白髪が急に出てきたような気がするケリー軍曹である。 不穏な行動だらけなのだ。 書類をきちんと読んでいるかと思えば、ぷいとどこかへいなくなる。 静かにしているなと思えば、原色の渦巻く衣装をきて、濃い化粧をして、鏡をじっと見ている。 話が通じているかと思えば、怒り出す。 その上、寝る前にはベッドの上に人形を出して遊んでいる。 たまたま、化粧をしていない彼の顔を見ちゃったときは大変だった。 よくもみたなー僕チンの素顔をー・・・と詰め寄るケフカに殺されるかと思った。 でも、化粧をしない方が、どうみても女に好かれそうな感じのいい男なのだ。 ・・・しかも、自分と同じくらいの年齢のはずなのに・・・妙に若い。 わからない男だ・・・。 最近では、軍曹も人形遊びに参加するようになり、自分では理解度が上がったと思っていたが・・・。 まだまだ甘い。 「ケリー軍曹。街にモンスターがいる。オルトロスの薬屋だ。 兵士を集めて捕獲するように。絶対逃がしちゃだめだよ。」 「は?オルトロスの薬屋を捕獲するんですね。退治・・じゃなくて。」 「殺しちゃだめだ。」 初めて聞く、ケフカの殺すなという命令であった。 「は、了解しました。」 ケリー軍曹は命令を待機していた兵たちに伝えた。 各班ごとに網やロープなどを手に街へと散っていった。 しかし、兵たちの聞き込みは不発に終った。 街にいたモンスターの話を聞くと、帰ってくる返事は 頭に羽根をつけたものすごい格好の悪魔みたいのが走っていた。 というようなものばかりなのだ。 帝国軍兵士としてはケフカは見慣れているのであまり気にならないが、よそへ行くとこれほどまでにインパクトの強い奴だったのか・・・と認識を新たにしたのであった。 成果はそれだけ。 夕暮れと共に、モンスター捜索は打ち切られた。 ケリー軍曹は気が重かった。 捕獲できなかった事をケフカに報告したら・・・なんと言われるのやら・・・。 ケフカの部屋のドアをノックした。 ケフカはベッドの上で手に蜘蛛を乗せて遊んでいた。 「こいつ、落とすと糸を伸ばすんだ。で、手にまたもどってくる。ヨーヨーみたいだ。」 ケリー軍曹は捕獲できなかった旨を説明した。 「ああ、そう。あしたもがんばろうかー。街の封鎖は万全だから、奴はでていないはずさ。」 と、蜘蛛が気に入ったのか、謎の上機嫌である。 あんなのに頼って、戦争している帝国って・・・実は非常にやばい国なのか・・・。 ベクタ育ちのケリー軍曹はケフカのことを知れば知るほど、帝国が情けなくなる。 志願して、軍に入ったのに・・・。 この前なんか、子守唄歌ってとせがまれて・・・・歌っちゃったし・・・・。 あいつのそばにいると、なんだか自分も壊れてしまいそうな気がする。 「ティナちゃーんあそぼうよう」 「うん、ケフカちゃんあそぼう」 「こらー、ティナを勝手に連れて行くなー」 「あ、シド博士だにげろー」 などと人形遊びに付き合うこと1時間、ケリー軍曹が神経の限界に近づいたころ。 突然、ケフカが人形を置いて、話し出した。 「ケリー軍曹は恋をしたことはあるのか?」 「は?」 「僕はしたんだ。」 「はー・・。そうですか・・。」 くわしく聞いといたほうが、良いのだろうが・・・軍曹にはそんな気力が残っていなかった。 「うん。」と、いってケフカは笑っている。 軍曹はとりあえず、下がらせてもらった。 オルトロスの薬売りを捕らえなければ、どんな目に合わされるかわからない。 今日は早く休もう。 そのころ、シャルルヴィルのしけた居酒屋では・・・・・ 「ぷはーっ・・・」オルトロスが一杯飲んでいた。 「オルちゃん相変わらずいい飲みッぷりだねえ」おやじがつまみを出す。 巨大タコ型モンスターも常連になれば、店にいても気にならない。 なりににあわず、閉店まで居座ったときは店の片づけを手伝ったりしてくれる。 椅子をテーブルにあげながら、床を掃除しつつ、テーブルを拭く姿は人間よりよっぽど働き者だ。 「はあああ・・、置き薬屋のバイトも楽じゃないけんのう」 「ははは、楽な仕事なんてあったら、こっちが代わってほしいくらいだよ」 「今日なんかさ、歩いていたらいきなり氷がどどーんとふってくるし・・・」 「あれかい、帝国の秘密兵器かい?」 「そうかもしれんの・・・。わし、びっくりして足全部使って走った。」 オルトロスは8本ある足をうねうねさせた。 「そりゃア・・難儀だったね。」 「おやじ、もう1ッ杯」 「あいよ」 がらがらっと戸が開いて、店に現れたのは近所のおばちゃん。 「あらーオルちゃん。きてたのー」 「おう、久しぶりぃ」 「ちょっと大変よ。オルちゃん。」「ああ?」 「帝国兵がね。オルトロスの薬屋を探してたんだってさ。」 「何―っ!わ、わしは、悪い事はなんもしとらん。いや、ちょっとはしとるが・・・・・ 帝国につかまるような事はしとらんのにー。」 「気をつけてね。オルちゃん。早く仕事をおえて、次の街へ行った方がいいよ。」 「ああ、そうするわ。おしえてくれてありがとな。」 翌日、兵たちは朝からオルトロス捕獲のための作戦行動に出た。 地域ごとに別れ一軒一軒あたっていく方式である。 が、オルトロスはもっと朝早くから置き薬を回収し、ほぼシャルルヴィルを回りきっていた。 街の城壁にある東西南北の門は,帝国兵が見張っている。 通交証のない者は出入りができない。 「しかーし!我輩には8本の足がある!壁の一つも越えられなけりゃテュポーン先生に顔向けできませーん!」 などといいつつ、目立たないところを選んで登り始めた。 ・・いかんせん、目立たないところを登ったのだが、何しろ巨大タコ型モンスターである。 人間より一回り大きいのだ。城壁に上ったとき、門の上を見張っている兵士と目が合ってしまった。 「ぅやばっ!」 あっという間に帝国兵に取り囲まれてしまった。 「塩だ塩もってこい!」 「はーん・・・。塩漬けはかんべんしてー」 網にとらえられ、馬車に乗せられドナドナされてくオルトロス。 前代未聞の風景に子供たちがついていく。 「あーる晴れた、ひーるさがり、いーちばへつづーくみちー」 「それは子牛じゃ!」と、子供につっこむオルトロス。 オルトロスの元気も、帝国軍の本部のホテルにつくまでだった。 オルトロスは兵士たちにお神輿のように担がれ,最上階のスイートルームへと運ばれた。 一人の兵士がオルトロスに言った。 「あの人が、オマエに一体何の用があるのか見当もつかないが・・・・ 中にいるのはガストラ帝国大魔道士のケフカ様だ。くれぐれも失礼の無いようにしてほしい。 ・・・でないと、オマエも我々も、ホテルごと灰にされるぞ・・・。」 妙に緊迫した兵士のものいいに、オルトロスはハイハイとうなづくしかなかった。 オルトロスも帝国にすごいいかれた魔道士がいるというのは、噂で聞いていた。 同時に不安がこみ上げる。 ・・・・・・わし、帝国の不興をかうようなことしとらんけん・・・う、あれか?あれがばれたのか・・・? いや、そんなことくらいじゃ捕まえんよな・・・。人間ならか。わし、モンスターじゃからつかまるんか!? ん?それともあれか?ん?ん?・・・ どうやらたたけば埃の出る身体らしい。 「ケフカ様!無事オルトロスを無傷で捕獲いたしました!」 「ご苦労様。」 ケリー軍曹は敬礼すると、オルトロスを室内に運ぶのを手伝った。 「さがっていいよ。」「はっ!」 ケフカは満面の笑みを浮かべていた。 階段を下りつつ兵士たちは「あんなのどうするんだろう」 「食うのかな」「いやーわからんね。」などと話していた。 ケリー軍曹も思っていた。・・・どうするんだろ・・・あの大ダコ・・・。 網に入れられたままのオルトロスは初めてケフカと対面した。 白く顔を塗り、目の周りを赤く塗り、薄い唇も真っ赤に塗られている。 爪は長くとがっていて、手足は細そうだ。 それが、道化師のような衣装を着て羽根のついたマントをまとっている。 おまけに頭にも羽根がついている。・・・まるで、カーニバルだ。でもなんか、怖い。 オルトロスの網が一瞬で燃えてなくなった。 「うあちっ!」 「よくきましたね。まあ、一緒にお茶でも。」 彼が一歩歩くごとに服についている鈴の音がした。 「よくきたっちゅうか・・・わし、無理矢理連れてこられてきたけんのう・・・」 「そう。でも怪我はなかった?」「ない、けど・・・」 オルトロスはケフカの眼をみた。薄青いその瞳はオルトロスさえ不安に引きずり込むような輝きに満ちていた。 こりゃ、見ちゃいかん。 なるべく眼を合わせないようにして,オルトロスは案内されたテーブルについた。 「僕ちんのことは、知っているかな?」「ガストラ帝国の大魔道士、ケフカ様。」 「そう。」と、ケフカはオルトロスにティ―ポットから紅茶を注いだ。 ケフカは相変わらず、微笑みながらオルトロスを見つめていた。 沈黙に耐えらえなくなったのはオルトロスだった。 椅子から降りると、がばっとヒトデのようにひらたくなり土下座を始めた。 「ひーっ。すいませんすいません!サウスフィガロで帝国軍の船から燃料抜いて転売したのは私ですうー。私が悪うございました!どーかどうか命ばかりはお助けおううう・・・・!」 「そんな用事じゃないな」 「じゃ、あれですか!帝国軍のアルブルグの基地建設現場で、鉄骨ピンはねしてベクタの業者に転売したのはわたしですううー。でも、私一人じゃないんですー。共犯者がいたんです。私は鉄骨運んだだけですう・・・どうかお見逃しを―・・・」 「ちがうな・・」 「じゃ、ベクタの魔道工場建設のとき・・・」 「あー。そういう話じゃないんだよ。」「へ?」「オルトロス、きみ・・・私と結婚してくれ」「はああっ!?」 平たくなったオルトロスの色が見る見るうちに青っぽく変わる。 「急な話で驚いているかもしれないが、僕は君の後姿を見て恋に落ちた。」 「で・・・でも、わし・・」あまりの急展開にオルトロスは言葉を失う。 「僕と君ならお似合いだ。きみとぜひ結婚したい!」ケフカはきっぱりと言い切った。 「わし・・人間じゃないし・・・」 「1週間、猶予を上げる。その間,ここは自由に使っていい。お金もね。 僕のすべてを捧げたいほど、君は魅力的だ。」 すっぱり断ろうと思ったオルトロスだが、「お金もね」の一言にここにとどまる決意をした。 ケフカはケリー軍曹を呼んだ。向かいの空いている部屋をオルトロスに用意させた。 オルトロスは冴えない色をしている。ケリー軍曹は聞きたい気持ちが押さえられない。 「おい、大ダコ!ケフカになんていわれたんだ?」 「け・・・こん」「ああ?はっきり言え」「結婚してくれって言われたんじゃー!」 「なにー?」 「あんなのと結婚するのは、わし嫌じゃー!わしが好きなのはオペラ女優のマリアちゃんなんじゃー!」 「そりゃ・・・趣味はいいけど高嶺の花だな」 「助けてくれ!なんでもするからここから出してくれー」 ケリー軍曹は自分の頭上に輝いていた不幸の星が、オルトロスの頭上に移動したのを確信した。 「・・・即決で断らなくて良かったな。断っていたら、お前今ころ焼きダコになってたよ。」 「ううう・・・」オルトロスの目にきらりと光るものが。 「いいことを教えてやろう。ケフカの趣味はな、・・・・人形遊びだ」 「うわー――いやじゃいやじゃーそんなもんまでつきあわんといけんのんかー」オルトロスは泣き伏した。 ケリー軍曹はパンヴィッツ少将へ報告しに行った。 パンヴィッツ少将はケフカがいると戦略的には安心だが、戦闘がないときは早くどっかへ行ってもらいたかった。 「で、その結婚はオルトロスは何と?」「相当嫌がっていますね。」 「ま、静観しよう。ということはケフカは1週間はおとなしくしているという事だ。」 「そうですね。」「よろしい、持ち場へもどりたまえ。」 ケフカはオルトロスと夕食を食べていた。 なぜかオルトロスの足・・いや、手として使用している2本には金のブレスレットがはめられていた。 そして、頭には大ぶりのレースのリボンが巻かれている。・・・あまりにあわない。 ケフカに見つめられて困っている。 「わし・・・そんなにかわいらしいかのう?」 「世界一さ、他の人間にはわからない良さがある。頭から身体へかけてのこの曲線。 まさに天然の美だ。」 「あんま・・・あんたにほめられても、うれしくないのう・・・」 「僕では役不足かい?」 オルトロスはブリザラを思い出したようだった。 「いや・・そんなことは・・・」 「オルトロス、あとで遊ぼうね」 オルトロスは手(足・・・)がたくさんある。一度に何体もの人形を動かせるのでケフカは喜んでる様子だった。 ケリー軍曹はそんな2人の様子をみていた。 ケフカの寝る時間になり、オルトロスは2時間以上続いた人形遊びから解放された。 「あんた・・・これ毎晩なのか・・・わし、神経もたんわ・・・」 ケリーがドアを閉めるか閉めないかのうちに、どさっとベッドに倒れこむ音がした。 そんな調子で3日が過ぎた。 毎日届けられるプレゼントの山にオルトロスの部屋は埋め尽くされていった。 4日目になり、憔悴したオルトロスは、思わず自分のベランダから外に降りようと思った。 しかし、帝国兵が厳重な警備をしている。 はっ・・・。このシチュエーションはどこかでみたような・・・。 オルトロスは歌いだした。 「いとしいーあなたはーとおいーところーへーー♪」 と、地上をみると居酒屋のおやじが自転車で通りかかったところだった。 「あーおやっさ――ん!」オルトロスが手を振る。 「オルちゃーん!元気かーい!つかまったって聞いて毎日見にきてたんだよーー」 「おやじーわしをたすけてー――!」 「無理だ―――!」 どへっ。ほんとに見にきてただけかい! 兵士ににらまれて、おやじは行ってしまった。 そうだ、この建物にいるから逃げられないのだ・・・。 自分で脱出計画を練らなければ、このままではケフカと結婚する羽目になる。 5日目の夜、夕食後オルトロスはケフカと2人きりになった。 いつもの如く恐怖の人形遊びが始まる前に、ケフカに言った。 「あのー、ケフカさま、結婚の件なんじゃけど・・・・」「うん」 「その・・・結婚してもいいと思ったんじゃが・・・・」「本当かい!?」 っつーか、あんた断ったらワシ焼きダコにするじゃろ・・・・と、一瞬思ったがそれは置いておくオルトロス。 「結婚したら、ベクタへ住むんじゃろ?」 「ああ、君のために立派なお城を建ててあげるよ。」 「そしたら・・・わし、結婚前に最後にサウスフィガロの海が見たい。 わし、こう見えても一応海の物なんじゃ。」 「そうですか。わかりましたよ・・・明日でいいですか?結婚式はあさってになりますが。」 「そうしてくれると、わし、うれしい」 「結婚式・・・指輪が間に合わないんですよ。特注だから。」 「もう、この腕輪もらったから十分じゃ・・・」 「そうだ、結婚式が終ったら、君に皇帝の首を上げよう!世界を丸ごとプレゼントしてあげるよ!」 ナイスな思いつきに、きらきらと瞳を輝かせるケフカ。 「ひえーっ!じじいの生首なんかいらんいらんいらん!結婚式しただけで十分じゃあっ!」 「そう?欲しくないの?なーんだ、残念。」 オルトロスはききしにまさるケフカのいかれ度合いにダウン寸前であった。 皇帝の首も、こいつならやりかねん・・・というか、言ったら絶対やりそうなのだ。 オルトロスは身の回りの平和を愛するモンスターであった。 小金をためて、オペラ座でマリアちゃんの姿を見られればそれでいい。 帝国をどうするなど・・・世界をどうするなどオルトロスの守備範囲外である。 ケフカがバルコニーに立った。 ややしばらくして、遠くからドーン、ドーンと地鳴りのような音が響き渡る。 祝砲・・・・?いやいや、フィガロ王国突然の挙兵か?と、思ってレースのリボンを ひらひらさせながらバルコニーへ見に行くオルトロス。 ケフカの指先が燐光を発している。両手を前に突き出しなにやら呪文を唱えている。 両手の先には、遠く山脈がある。山の一つが火を吹いている。 「ちょっとちょっと・・・、あんた何してんのや?」 「結婚記念に、あの山を削ってオルトロス山にするんだ。」「え・・・・」 とがった山の輪郭がみるみるうちに削られてオルトロスのように丸っこくなっていく。 ノックの音がした。「ケフカ様?ケフカ様」オルトロスはすっとんでドアを開けた。 ケリー軍曹だった。「山が爆発しているが・・・・ケフカ様が何か・・・・」 「ケリーさんあいつ止めてくれ!今オルトロス山作ってるんじゃ!」 「・・・・止められん。」「は?」「俺はまだ死にたくない。少将に報告するだけだ。」 そんな・・・・こんな夜にどっかんどっかん安眠妨害じゃろ・・・・。 頼みの綱のケリー軍曹もすぐ消えてしまった。 オルトロス山はすぐにできあがった。街は急にさわがしくなり、人もでてきたようだが、じきおさまった。 ケフカは満足そうに、星明かりの下、少し燃えてるオルトロス山を眺めていた。 わし・・・前世でよっぽど悪い事したんかのう・・・・ぼーぜんとするオルトロス。 ケフカの魔力は、オルトロスの想像をはるかに越えていた。 「じゃ・・ねようか。」と、ケフカは衣装を脱ぎだした。 あーよかったよかった。今日は人形遊びはナシじゃあ・・・とオルトロスは帰りかけた。 「いっしょにねるんですようぅ!」ケフカはオルトロスに抱きついた。 「ひえぇー――っ!」オルトロスは・・・・・。 ――オルトロスは覚悟を完了した。もう、避けては通れない道なのだ。 マリアだったら良かったのに・・・・。 4本の足でケフカを絡めとリ、残りの足でケフカに愛撫をはじめた。 「タコ式だから本当は水中がいいんだけれど・・・・」 オルトロスは横になってケフカを持ちあげた。オルトロスの足の付けの根のほうから透明な粘液が出てきた。 「うーんこんなかんじかのう・・・?」粘液は淡く光っていた、やがてその光はケフカの全身を覆った。 4本の足は弓なりになったケフカの全身を捕らえ、絶え間なく動いている。 反り返ったケフカのに巻きつき、締めたり緩めたりしている。ケフカの化粧が粘液で落ちてゆく。 それは、タコの基準でも素顔の方が美しかった。眼を閉じて断続的に高い声をあげている。 「ほんとにわしでいいんかの・・?」ケフカはこくりとうなずく。 オルトロスは足先をケフカに侵入させた。せまい・・・。きつい・・。 「・・・・っ・・・・!」ケフカのオルトロスの足を握る手に一瞬力が入る。 ゆっくりと侵入させる。ケフカの細くしなやかな体が、桜色へとかわってゆく・・・。 侵入させた足を少し動かすと、ケフカは甘い、切なそうな声を上げ始めた。 大きな魚の断末魔の時のように、オルトロスの触手の中で脈打っている。 ケフカはオルトロスに手をのばした。 オルトロスはケフカの足をひらき、自分の生殖器のあるところへ位置を合わせた。 「タコでごめんっ!」と結合した。 ケフカの上ずった声が部屋に響き渡った。 ――――なんてことはなく!。 オルトロスはケフカを必死に振りほどいた。「わしは結婚するまでそーゆーことはせんのじゃ!」 「あ、そう。残念ですねー。」 ケフカはあっさりと引き下がった。 「あした、一緒に海にいこうね・・・」オルトロスはそれだけ言うのが精一杯だった。 「そうですね。」ケフカの透明な笑顔が・・・・ひたすらこわかった。 翌朝、いつものように濃い化粧し、原色の衣装を身につけ、羽根飾りのついたマントを羽織ったケフカと、 ゴージャスなリボンでドレスアップしたオルトロスは、小隊の護衛のもとサウスフィガロへと向かった。 ケフカは馬車の中でオルトロスの足にキスをしていた。 しょーがなくオルトロスは足の2,3本もケフカの身体に絡めていた。 いっそ首しめたろか・・・そのほうがよっぽど世のため人のため・・・などと思っていた。 「ああ、潮の香りがしてきましたよ。」「そうじゃのー、なつかしーのー」と、適当に話をあわせるオルトロス。 ケリー軍曹は、後続で馬にのりつつ、 サウスフィガロでどうか騒ぎはおこさないでね、ケフカ様・・・・。と、そればかりを祈っていた。 港へ着くと帝国兵たちは、そのへんにいた水夫や猟師たちを追い払った。 「防波堤の上まで行ってみたいんじゃが・・・いじゃろ?」 「僕ちんも行こう。」 と、見るものが見たらこの世の終わりのようなカップルは、沖へ突き出た防波堤の上を進んでいく。 10mほど離れてケリー軍曹もついていく。その他の兵は一応護衛のため港全体に散らばっている。 防波堤の一番端まですすんだオルトロスは、くるりとふりかえるとリボンを足でぶんっと外した。 「えへへへへへへへっ」笑っている。笑いで全身がゆれている。 「えへへっ、えへへへへっ」突然の哄笑に、ケフカは立ち止まった「・・・・・・・・・?」 「バーカバーカバーカ!誰がお前となんか結婚するもんかいっ! ここでさよならじゃけんねー!」 ぽいと腕輪をケフカに投げつけると海へどぶんと飛び込んだ。 あっという間にその姿は見えなくなった。 「・・・・・・・・・・・・!」腕輪はケフカの額にクリーンヒットした。 オルトロスが海中へと逃げたのを見たケリー軍曹は、どうしようかと数瞬迷ったのちいやいやながら ケフカのもとへと走っていった。 「ケフカ様!どうなされ・・・・あっ!?」 ・・・ケフカの額から血が一筋・・・・・。 のあー――っ!なんてことしてくれたんだオルトロス――!!! 「お前は焼きダコだぁー――っ!」 逆上したケフカは水中に向かってファイガを放った。高熱の火球が水中で弾けた。 ぼぼん!一瞬にして水蒸気の柱が立ち上がった。 ケフカとケリーは爆風に飛ばされた。ケリーは思いっきり港内のよどんだ水の中に落ちていったが、ケフカは魔法で立ち直った。レピテトでもといた位置よりはるか上から海中に向かってファイガを連発した。 「死ね死ね死ね死ね死ねっ!」 響きわたる轟音、たちの上る巨大な水煙の連発に、港付近の人々は戦艦から艦砲射撃でも受けているのかと逃げ回る。 オルトロスは全力で泳いで1発目のファイガはしのいだものの、 熱湯にゆでだこ寸前であった。ファイガの水中爆発の轟音でショックを受けてへろへろになっていた。 早くもっと深いところへ行かんと本当に死んじま・・・・。 思いっきり深いところを狙ったケフカのファイガ連打に、オルトロスは巻き上げられた。 沸騰する水と共に海面をこえ、空中へと投げ出される。 水煙の隙間から宙に浮いているケフカと一瞬目が合った。 オルトロスは大きな口であっかんべーをしながら、さらに沖へと飛ばされていった。 岸に上がったケリー軍曹はとりあえず魔法の連発が終るのを待ち、ケフカのもとへと走った。 ケフカは魔法をやめ、ただ沖の方をみつめている。 「・・・・・ケフカ様・・・・・・」「チッ!逃がした・・・・。つまらん!」 ケフカは花びらのように、音もなく着地した。 ケリー軍曹はケフカの傷の手当てをしようとしたが、断られた。 一言も口をきかずにホテルへ帰ったケフカは、まっすぐに自分の部屋のバルコニーに立ち、 魔法でオルトロス山を更地にした。 轟音で街が揺れた。もう誰にも止められない。 次はどうするつもりだ・・・ケリー軍曹は不幸の星が自分の頭上に舞い戻ってきたのを感じた。 「あの・・ケフカ様・・・」「出てけ!バカっ!」 ケリーはケフカに部屋から蹴りだされた。 部屋のドアに耳をつけると、ケフカは・・・・一晩中泣いていた。 本気で、好きだったのか・・・オルトロスを・・・・。 ケリー軍曹はなんともいえない気持ちになった。 「僕ちんはベクタに帰る!僕の仕事はないんだから、ここにはいない!」 翌日、パンヴィッツ少将にそう宣言して泣きはらした目のケフカはシャルルヴィルを去った。 人形や衣装など大量の荷物をまとめて。 パンヴィッツ隊は、全隊を挙げて喜びと共にそれを見送った。 その年、サウスフィガロ沿岸のウニ漁は不漁で、サウスフィガロ漁協から 帝国へ苦情の手紙がきたという。 おしまい。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき かっはー――ん。こんな話に付き合ってくれてありがとうございます。 タコ相手のえっちは書く人が書けばそうとうえろえろで濃厚なものができそうですが・・・・。 ま、これが限界でした。 |