魔導注入                     ZAZA9013 

 

 

 

 

 

明るすぎる人工の白い光にケフカは目を細めた。

 

天井には沢山の照明器具がついていて、その中のいくつかが今ケフカに強い光を

あてたのだ。

 

 

ケフカは魔導研究所の実験室の中にいた。

ガラス越しに見える隣の部屋には、大きな試験管のような入れ物に捕らえられた

幻獣の姿がある。ほとんど動かない。

 

 

人ともモンスターともつかない生き物ー幻獣たちから魔法の力を吸い取って人間に移す、

これで人間にも簡単に魔法が使えるようになる。俺のような人造魔導士のできあがりだ。

 

失敗すればすぐ死んでしまうし、成功したのはまだ3人。

度重なる戦乱で血統が確認できる人間があまりにも少ないのも問題だ。

俺など誰が親なのか、兄弟はいるのかすらさっぱりわからない。

 

 

俺は髪の毛を頭の後ろで一つに結んで、顔だけが露出した黒いフードを被った。

まるでまぬけなあざらしだ。

布で顔半分をおおった研究員がフードの後ろに空いている穴から髪の毛の束を

引っ張り出している。

フードといってもぴったりと頭の形に合っているのでむしろマスクと呼んだほうが

いい形だ。防水の分厚いゴムのような素材でできている。

 

俺がこれから入る魔導注入槽に異物を入れないためだ。

耳にはさっき練り消しゴムのような耳栓を入れたので、研究員の声はほとんど聞こえない。

沢山の機械の低い振動音だけが伝わってくる。

 

研究員が俺の髪の毛に同じ素材の袋を被せた。

これで髪の毛が落ちる心配がなくなったわけだ。

 

片方の鼻の穴から栄養や水分を補給するためのチューブが出ている。

これはまだ勝手にスープを俺の胃に送る機械にはつなげられていないので、

顎の先でぶらぶらしている。

 

 

俺の体のほうはどうなっているかというと、足先から手首までぴったりとした厚い膜の

ようなスーツを着ている。全身タイツ姿に近い。素材は頭のマスクと同じだ。

手首から先は同じ素材で別誂えの手袋をつける。

全部防水で空気が通らないので着ると暑くなる。

関節を動かすたびに、スーツがピキピキとはじけるような音がしているはずだ。

 

魔導注入槽の中は、ピンク色に光るどろりとした液体が循環している。

比重の重い液体で、この中に入ると体が自然に浮き上がってくるのだ。

ぼこぼこと音がしている。深さは1m弱。

これがただのジャグジーだったらどんなに気楽だろう。

注入層に入るようになってからは、ジャグジーの音がすっかり嫌いになった。

 

手袋をはめた研究員の手に促されて、俺は自分の体から伸びたチューブを引きずりながら

魔導注入槽の中に入った。

ゴムのような素材のスーツの表面が、つやつやと光沢を帯びた。

無機質な物質が、突然命を持ったように見える。

 

俺は真っ黒なスーツの輝きを見ながら魔導注入槽の中に肩まで漬かった。

腰を曲げたり、足を動かすとなんとも嫌な感じに顔がひきつる。

不快感の原因は下半身のチューブだ。

 

 

スーツの骨盤の部分の前と後ろには穴が開いていて、

小便と糞が―俺が5日間もこの注入槽で眠っている間

勝手に排泄されるようになっている。

 

不思議な事に尿道に管が入れられると、俺の意思とは関係なくチューブに尿が流れ出す。

 

その瞬間にはいつも、このチューブをはずした後も垂れ流しになるんじゃないのかと

嫌な気持ちになる。

ちんぽだけむき出しにするのは勘弁してくれと俺が要求してから、

同じ素材のコンドームみたいのを被せてくれるようになった。

研究員たちにタダで見せるのは、癪だ。

 

問題は糞のチューブのほうだ。

排泄プラグと呼ばれているこの機械は、

抜けないように先端が花の蕾のような形になっている。

俺の体からすぐに抜けないよう根元が少し細くなっていて、定期的に

下剤かなんかを俺の腸に送り込んで、液体状になった糞を勝手に吸い出す。

 

今はただの異物感だけで済んでいるが、この機械が動いている時は微妙に

振動しているのだ。

そのおかげで時々誰かにカマを掘られる夢を見るときがある。

 

異物感で済んでいるという言い方では足りない、これは入れられると結構辛い。

普段の俺なら絶対断る大きさだ。改良されて毎回形は変わってきてはいるけど、

ケツの穴も緩くなりそうでかなり嫌だ。

慣れると気持ちが良くなるのかもしれない。

けれどそんな余裕はまだ俺にはない。

いつもこの状況をやりすごすだけで精一杯だ。

 

 

もう一つ嫌なのが、毛が抜けないようにとケツのまわりとちんぽの周りの毛を

毎回毎回剃られてしまう事だ。

ゴム膜のようなスーツを着る事になってから、全身剃られてなくても良くなった。

これだけぴったりとした服を着ているのだから、そんな心配はしなくてもよさそう

なものだが、異物が混入しないようにと言う事で仕方がないらしい。

 

毛が生えてくるときにどれだけちくちくするのか、研究員やシド博士に

抗議しても今の所はダメだった。

そのうち、こっそり一人ずつ誘拐して下半身をつるつるにしてから返してやろうと

思っている。過半数の人間がそれを味わえば待遇も多少は変わるかもしれない。

 

 

俺は差し出されたマウスピースを噛んだ。

唾液を吸い取る穴がいくつか開いている。

その上から呼吸用の鼻と口を覆うマスクをつける。

鼻から出ている栄養チューブもこのマスクを通すようになっている。

見た目はシンプルだが、慣れるまでは最悪だ。

 

頭のフードのおかげで首は苦しいし、あごも自然と閉じる方向に力が加わっている。

マウスピースというよりは口枷だ。

喋りすぎた道化師が罰を受けるとしたらこんな感じだろうと思う。

 

俺は異常無しとハンドシグナルを研究員に送った。

何しろ、この状態では喋る事もできない。

 

 

研究員が黒い練りゴムのような素材を俺の両方の眼窩にぐいと

おしつけた。睫も眉毛もこれでべったりと覆われる。

その上からさらに黒い目隠しをされる。

これでは眠るほかにすることなんかありゃしない。

 

俺はもう一度異常なしのハンドシグナルを送った。

本当は口もケツも首も限界だ。やってみればわかる。

あちこちが苦しい。

蛍光色に光っている魔導注入槽へ横たわる。

 

 

研究員もシド博士もこの光る液体には決して触らない。

普段からあまり近寄らないようにしている。

 

そんなものに漬けられていて本当に大丈夫なのかととても不安になる。

この液体は、肉体ではなく精神に作用する。

直接触れたり飲んだりするよりも、長時間そばにいるほうが影響を受けるらしい。

俺はまだ異常より、魔法が使えるプラスの効果が出ているけれど。

 

いったいこれを何年続けたら終わりがくるのか?

死ぬまでやるハメになったとしたら、どんなに金を貰っても引き合わない。

たとえそれが皇帝の次の位の権力だったとしてもだ。

 

 

重い液体に横たわると体が自然に浮いてくる。

スーツの背中の部分が厚くなっていて支えになっているのだ。

 

身じろぎすると生ぬるい液体が首のところからすーっと入ってきた。

思わず全身に鳥肌が立った。

 

目も耳も塞がれていると、どうしても全身の感覚に神経が行ってしまう。

全身を締め付けるスーツに身を包んでいると、もう一枚表皮ができたような・・・

感覚が倍になるような嫌な感じがする。余計な感覚だ。

わかりにくいだろうが、覆われているはずなのに皮を剥かれて剥き出しの肉を

曝しているような感じだ。

 

普段は気にしない肉体を強く意識してしまう。全身のおうとつが気になる。

背中や大腿部の後ろにも、感覚が存在していることに気づく。

 

ついでにいえば、排泄プラグのおかげで直腸の中にも感覚があり、排尿チューブの

おかげで尿路にも感覚があることが判る。

このあたりは入れてからずっと異物感を主張し続けている。

 

 

鼻と口を覆うマスクに少し乾いた空気が送られてきた。

眠くなるガスが入っているのだ。

寝ている間に全てが終ってしまえば楽だ。

この姿をセリスは何回か見ている。

彼女は俺のことをどう思っただろう?

 

魔導研究所が作った新種のモンスターにしか見えなかっただろうな。

チューブに繋がれた黒光りする人型模型だ。

こんな皮膚の生き物は幻獣にもいない。

 

 

そういえば、セリスもこれをやっているのだ。

彼女はまだ10歳にもなっていないから3〜4時間しか行っていない。

今の所は呼吸用のマスクをつけるだけで済んでいるけれど。

…このままだと、処女を失う前に肛門を機械に掘られる羽目になるんじゃないのか?

それって…どうなんだ?まずくないか。

シド博士の手腕が問われる事態だな。

 

普通の女の子なら拒否するだろうけれど、セリスはある意味純粋培養だ。

尊敬するガストラ皇帝のため、帝国のためなら何でもするだろうけれど…。

かわいそうだな。何日もこんなものに漬けられるのは。

止められるものなら何とかしてやりたいが…。

 

 

俺がなぜこんな事を進んで行っているかと言えば、多分全てが嫌だからだ。

自分自身の事も嫌いだし皇帝もシド博士も帝国も大嫌いだ。

 

何かを進んで愛そうなんて思ったことは一度も無い。

帝国も大嫌いだが、反乱軍の連中も大嫌いだ。

余計な仕事と死人を増やすだけだ。

この世界には愚か者しかいない。

 

いや、愚か者ばかりが生き残ってこの世界が成り立っているのだ。

だから世界中の人間なんで全部死んでしまえば良いと思っているし、

ついでに大陸もバラバラになって海の底へ沈んでしまえと心の底から願っている。

 

つまらないものの集合体がこの世界だ。

俺は全てを破壊するためなら何でもする。

多分そのために生まれたのだろう。

そうでもなければ、この際限なく湧いてくる憎しみの理由がわからない。

 

 

ただ、ほとんど洗脳されているけれど…セリスは、まだ子供で世界が良い所だと思っている。

帝国のために働く事が人々のためになると誤解している。

彼女の希望が、……はかない希望がまだ続いている間は、俺も世界をとっておいて

やろうと思う。どうせあと10年とは続かない。

 

 

きっと彼女だってこんな世界はいらないっていうだろうから。

 

 

数回の呼吸の後、俺は急激に眠りへと引きずり込まれた。

ありとあらゆるものを憎み、呪い、哀れみながら、意識を失っていった。

今度、目が覚めた時こそ、破壊の獣として生まれ変わってやる。

 

 

おわり

 

===============================

 

050821下書き完了 1117校正完了

 

 

 

言い訳

 

ウエット&メッシー系?(苦笑)

ケフカは歩いて沈んだだけ、ドラマ性に欠けるよなぁ。

あ、意識が落ちてるから、話も落ちがあるって解釈カモーン。

すいません、結構ダメダメです。


------------------------------------------------------------------------