鉱 物 の 眠 り ― For returning,it is too late ― ZAZA9013 がれきの塔の最上階に近い大きな部屋で、ケフカは眠っていた。 壁も床も金属製で、多くはガストラ帝国城から流用した素材だった。 殺風景で不恰好で、圧迫感の強い内装だったが、作ったケフカ本人はまったく気にしていなかった。 壁の一面は広い窓で、荒涼とした大地が遠くまで見渡せた。 もう一面は大きな鏡になっていて、6枚の翼を持つ 美しい自分の姿をいつでも見ることができた。 部屋の家具は天蓋つきのベッドがひとつ。 この世界の支配者にふさわしい豪華なものだったが、部屋には不調和な感じだった。 懐かしい気配を感じて、ケフカは目を開けた。 ![]() 深い青色に金糸で星の刺繍がしてあるカーテンをあけると、 ぼんやりとした光をまとったセリスがいた。 暗い中で、セリスの髪や睫毛の一本一本までが不自然なほど はっきり見えた。 「…なんだ、セリスか。いったい何の御用ですか?苦情なら聞かないぞ。」 ケフカは少し驚きつつ、うつぶせに寝ていた体をおこした。 「苦情を言いにきたわけじゃない。気がついたらここにいた。」 「スティクスを渡りそこなったのか? おまえがここに来られるってことは、フィガロのバカ兄弟やティナなんかも来るのか?」 セリスの体はよく見ると半透明で、鏡に映っていない。 「わからない。死んでからは誰とも会っていないし、気配も感じない。」 「それは当然。全員僕がきっちり倒したもの。灰も残っていなかったよ。 タマシイだって消滅したかも。 …残念だったねセリス、あの世で仲間にあえなくてさ。」 ケフカはセリスの前に立ち、大きな翼を広げてみせた。 「それは覚悟していた。全力で戦って負けてしまったのだから…悔いはない。」 ケフカは窓のほうに向かって歩き出した。 セリスがふわふわとケフカについていく。 「他の連中もおまえみたいにものわかりが良ければいいのですがね。 雪男の幽霊が出たら、いくら僕ちんでもすごく驚くぞ。」 ケフカの言葉にセリスは悲しそうに笑った。 半透明とはいえ、美しさは生きている時と変わらない。 ![]() 「ケフカ、あなたは勝った。 もう誰もあなたに逆らえるものはいないし、世界のほとんどを焼きはらってしまった。」 「そうですね。」 「まだ、わずかに人は生き残っているけど…ほとんど死の世界。」 「なんですか、やっぱり苦情ですか?」 ケフカは窓の外を見た。地上に光はなく、星だけが輝いている。 「苦情じゃなくて、質問よ。 …ケフカ、あなたはこれで幸せなの?」 「なんだと?」 「ほとんど人間のいないこの世界で、神様になって満足?」 「…目標はほぼ達成したよ。あと少しで、地上の生き物は抹殺できる。 うるさい皇帝も面倒なレオ将軍も殺したし、三闘神の力は僕がもらった。 帝国は崩壊、他の国も同様。 バカな人間どもも、暇をみては殲滅してるし…でも弱すぎてつまらんね。」 「ケフカ、今ならまだ間に合うかもしれない。」 「何が?」 「もう遅いのかもしれないけれど…」 「だからなんなんだよ。わっかんない奴だなーっ!!」 ケフカは6枚の翼をばたばたさせた。 「このまま力を使い続けて、人間をすべて滅ぼしてしまったら、 あなただけしか残らない。死ぬまで一人ぼっちなの、わかる?」 「わかんないね。」 「ケフカ…三闘神ですら石化して永遠の眠りについたのは、闘いが長すぎたから。 あなたの場合は、無限の時間を孤独の中で生きなくてはならないのよ。」 「別に、それくらいどうってことありませんよ。 さっさと消えちまえ。」 「まって、私の話をきいて。」 セリスはケフカの肩をつかもうとした。が、その手はケフカの体を突き抜けてしまった。 「うるさいなー。モンスターも人間も全滅させずに、 定数を維持して管理しろと言いたいのですか?」 「そうじゃなくて…。 …私は戦いしか知らなかった。 でも、帝国を出て、沢山の人にあって沢山のことがあって、 本当に人を信じて、愛することができるようになった。短いけれど幸せだった。 人は変わることができるの。」 「ふーん。」 「誰もいない世界になったら…誰も愛することすらできないのよ。」 「…僕ちんが人を愛したことがないから、 永遠の孤独も恐れないと思っているのですね?セリスは。」 セリスは静かにうなずいた。 「わかってないな、私の事をちっとも全然なーんにもわかってない。」 「そう?昔から理解しがたい人だとは思っていたけれど。」 セリスの言葉にケフカは大きくため息をついた。 「僕が…好きでもない女を、わざわざ生かしておいて鎖でつなぐとでも思っていたのか? だから君を何度も捕獲して、誰の手にも触れないようにしておいたのに。 自由にしたいだの、戦争に行きたいだの、帝国から出たいだのと言って、 見張りをだましたり、レオ将軍の手を借りたりして、そのたび逃げた。 ………君が逃げてしまったあとの僕ちんの気持ちなんか、考えもしなかったでしょう?」 「そんな理由でことあるごとに私をとじこめていたの?…少しも気がつかなかった。ひたすら怖いだけだったな。」 「セリスがいないなら、帝国も世界も、私にとっては無意味な道化芝居にすぎません。 君が私だけは絶対に愛さないだろうと理解した時から、 私は死の世界の入り口にいましたよ。」 「ケフカの気持ちなんて全然わからなかった。怖いから嫌いだった。 好きなら、閉じ込めるんじゃなくて、もうすこし優しくしないと伝わらないよ。」 「ふんっ!幽霊の分際でえらそうに。僕ちんをあわれんで出てきたのか!?」 ケフカは呪文を唱え始めた。 セリスの姿がどんどん薄くなっていく。 「ケフカ……どうか…この世界で……幸せを見つけて………」 部屋の中が一瞬真っ白な光に覆われ、またもとの闇にもどった。 セリスの姿は消えていた。 「…今ごろ来たって遅いよ、セリスのバカ!死んじゃえ…いや、もう殺しちゃったんだ。」 ケフカはベッドにもどった。 「幸せなんかどこにも無いさ …もう二度と起きてなんかやるもんか…」 そして、ケフカは再び眠りについた。 閉じた瞼の下から涙が一すじ流れていた。 それは永遠の眠りのはじまり。 おわり |