ハムスター小説「虎八ライフ」 12月25日 「虎八のクリスマス」 クリスマスの朝、カール君は、自分の飼っているハムスターの虎八にも 何かプレゼントをしたいと思いました。 虎八は少し濃い毛色のジャンガリアンで、背中にきりりとした黒っぽい線が 縦に一本入っています。 虎八は、基本的に夜型なので、今はハムスター用のゲージの中にある プラスチックでできた自分の家の中で眠っています。 虎八の家の中は、ペット用のふかふかした綿花を沢山つめて温かそうです。 やっぱり靴下を下げてあげよう。 カール君は自分の靴下を脱ぐと、虎八のゲージの中に入れてあげました。 プレゼントは、近所のドラッグストアで売っている、ハムスター用の卵ボーロにしようと 思いました。 いつも百円ショップの餌ばかりあげていたからです。 カール君は、急いでドラッグストアに行って卵ボーロを買ってきました。 そして、ゲージに入れた自分の靴下の中に卵ボーロを入れようとしました。 すると、靴下の中にはいつのまにか虎八が入っていました。 まあるくなって眠っています。 ああ、君がいることが僕にとっての本当のクリスマスプレゼントだなぁ・・・ とカール君は思いました。 君と共に生きる日々を大切にしよう。 来年も君とクリスマスを一緒に過ごせる事ができますように・・・。 カール君は、 ちょっと涙ぐみながら、卵ボーロを靴下に3粒入れたのでした。 ・・・「虎八のクリスマス」、おしまい。 1月1日「虎八のお正月」 まったくよう、うちのカールってガキは、何考えてやがんのかね。 クリスマスにはテメェのはいた靴下を、俺の檻ん中ぁ入れやがるしよぅ。 ・・・ま、ついそれに入っちまう俺も俺だが、 こればっかりはハムスターの習性ってやつでどうにもならねェんよなぁ。 ついつい暗い所や狭い所へ行っちまいたくなるんだ。 でもよう、靴下ってのはないだろうがよ。 いくらなんでもよ、自分のはいた靴下をわざわざ脱いで入れなくったって いいんじゃねェの? だいたいよ、最初に入れた頃と今じゃ微妙に臭いがちがうんだぜ。 冬だからいいけどよ。 夏だったら耐えられないよな。 そのうえ、食いもんだって俺がここへ来てから、ずーっと おんなじ物ばっかくれやがる。 バカじゃねぇのか? 俺だって飽きるんだぞ。 テメェだって、毎日毎日三食同じ物ばっか喰ってみやがれってんだ。 てやんでえ! それでもな、 俺がおとなしくお前に飼われてやってんのは、 大人になってタマタマもでかくなったからだ。 お前の手にかみついたり、お前の手の上でうんこしなくなったりしたのは、 お前が言うように 「人間になれてきたんだね。」じゃなくて、俺が大人になったからだよっ! 俺は自分がガキの頃に比べりゃ倍以上はでかくなったけど、 おまえは最初見たときから、それほど変っちゃいねぇ。 お前は育ってねぇんだよ。 ずっとガキのままじゃねェかよ。ええ? あ、卵ボーロだ。 「あけましておめでとう、虎八。」だって?カールよぅ・・・・。 そんなご挨拶なんてどうでもいいから、この靴下どけてくれ。 ハムスターは鼻がいいんだぜ。迷惑だ。 ・・・・それに、これが置いてあったら・・・・ 俺、また入っちまうからよ・・・・。 「虎八のお正月」おわり。 3月31日「春の虎八」 カール君は、ジャンガリアンの虎八に何か買ってあげようと思いました。 バレンタインデーもホワイトデーもすっかり忘れていたのです。 クリスマスプレゼントに買った卵ボーロは、 味見をしてみたら人間用と同じくらいにおいしかったので、 10粒くらいは虎八にあげたのですが、 あとはカール君が自分で食べてしまったのです。 虎八が住んでいるゲージには、プラスチックの家と 餌入れと回し車がついています。 必要最低限度のものはそろっています。 でも、ほかに何か買ってあげたいのです。 近所のドラッグストアのハムスターグッズのコーナーの前で、 カール君は悩んでいました。 うーん・・・。 僕が見ていて楽しいおもちゃと、虎八が楽しく遊べそうなおもちゃと、 どっちにしようかなー。 予算は限られています。 カール君は、迷いに迷って「ハムスターボール」を買ってきました。 ハムスターボールとは直径15pくらいの透明な玉です。 虎八をこの中に入れたら、迷子にならずに部屋の中を駆け回ってくれそうです。 ハムスターボールにスタンドをつけると、 カール君の机の上で虎八がボールを回してくれそうです。 どっちかというとハムスターボールは、人間が見ていて楽しいほうのおもちゃかもしれません。 純粋に虎八が楽しめるものといえば、 やはり家に詰められるカラー綿花ではないでしょうか。 カール君は、家に帰ると さっそく虎八をハムスターボールの中に入れてみました。 「ふふふ・・・これで迷子にならずに放し飼い・・・」などといっています。 床においたクリアブルーのハムスターボールの中で虎八が動き回っています。 けれど、ハムスターボール自体は動きません。 「あれ・・・?虎八、そんなに非力だったけ?」 回し車の中でびゅんびゅん走っていたあの勢いはどこへいったんだろう・・・、 カール君は不思議に思いました。 毛足の長いラグマットが、カール君の部屋には敷いてありました。 硬い板張りの床の上の方が、ハムスターボールが動きやすいという事に カール君が気がつくまで、それから3日かかりました。 「虎八の春」おしまい。 4月5日 「虎八の散歩」 俺の名は虎八。種族はジャンガリアンだ。 背中にきりっと縦線の入った、粋でいなせなハムスターだ。 俺様に御飯をくれる係りの人間が、カールっていうアホガキだ。 こいつが俺に百円ショップで買ってきた御飯ばかりを喰わせたり、 自分のはいた靴下を俺の住んでいる籠の中に入れたりと、 ・・・ほんと、大バカ野郎でまいっちまう。 まあ、自分の手の上に乗せて、俺の頭や背中や顎の下なんか なでてくれるけどさ・・・。 この前はよ、ハムスターボールってのに俺をとじこめて、ラグマットの上において いかにも俺が力不足みたいに言ってやがんの。 バカだよなー、こいつほんとにガキだよな。 でも、俺はこいつと違って大人だから、 それくらいで怒ったりはしないんだな。ふふん。 お、カールの野郎、今日は女をつれて気がやったな。 ふーむ、この女はフランシスといって、カールとは仲良しらしい。 おまえさぁ、自分の部屋に人間の女をつれてくるんならよ、 俺にもジャンガリアンの彼女を紹介してくれたっていいんじゃないのかなぁ。 外いって彼女見つけてくれるの、俺にはお前しかいないんだけど・・・。 あ、こらこらっ!何の用だよ。 御飯じゃないなら、寝かせてくれよ。 つまむなって!! ちくしょう、また俺をハムスターボールに入れやがった。 ああ、フローリングの上を滑るように進む俺の勇姿をこの女にみせたいのか・・・。 ちっ・・・。しょうがないなぁ。 ま、協力してやるよ。 おい、どこへいくんだよ? 玄関出て外に出ちまったよ.いやだなぁ・・・。 ここんちの前って、ゆるいけど坂だったよな。 え、このアスファルトの上で手をはなすのか? イヤだよ俺、家へ帰るよ。 カラスや猫におそわれたらどうするんだよ。 くっ、あっ、俺そっちへ行きたいんじゃないんだ。 (ころ・・ころ) うわ、勝手に転がっていくぞ。 (ころころころ) ああぅ、もう足がついていかない。走れないよ。 (ころころころころ) だ−−っ!!俺様も大回転−−!!カールのクソバカー!! お前もこれやってみろっ!!! あーー―っ!!! (ころころころころころ・・・・・) 「虎八の散歩」おしまい。 7月1日 「電車にて」 8月26日「暑い虎八」 |